帆羽くれあヤンデレ概念 作:あわわぜ
ネタバレにならない範囲だったら、感想欄でちょっとした質問とかには答えます。
「……行き止まり、ね。うーん、やらかしたなぁ。こりゃ応戦せざるを得ないかね」
ひたすら逃亡を続けていた白るるかは、とうとう行き止まりに追い詰められていた。あんなとみくるはやや疲労を感じつつも、目だけは絶対に彼女から離さない。
「……っ、もう、逃さない!」
「写真は返してもらう!」
「まあまあ、そう焦らないでよ。どうせ、もう逃げられはしないんだからさ」
追い詰められてなお、白るるかの表情には未だ余裕が浮かんでいる。
あんなはそれを見て、もどかしく感じた。
「もー! なにそれ! なんか凄い余裕な感じ! はなまるモヤっとする! この前までは、ぎこちない感じでアルカナシャドウのモノマネしてたクセに!」
「ぐっ」
白るるかの余裕が揺らいだ。なんだか中学時代の黒歴史でも掘り返されたような気まずい表情で、一歩後ずさる。
「そうだそうだ! アルカナシャドウのセリフすら曖昧だったクセに!」
「……そ、それは……なんていうか、その」
白るるかの目がどんどん泳ぎ始める。なんか、もうダメそうな感じだった。やはり彼女が威厳というものを誇示することは不可能らしい。
そして、おまけに、
「そうよ。なにが『……ファサ』よ。やるならもっと上手くやることね」
「……な、なんで君まで同調すんのさ。一応、今は仲間でしょ。普通に傷つくんだけど? すごく傷つくんだけど? こっちだって頑張って演技してたんだけど?」
「下手よ」
「ひっどい! そんな直球に言わなくてもいいじゃんか!」
るるか本人にまでジト目を向けられて、白るるかはついに悲しそうな表情で抗議を始めた。
そんな光景を見て、
「……なんか、」
「はなまるゴチャゴチャだね……」
みくるとあんなは、どこか筆舌に尽くし難い居心地の悪さを覚えた。
さもありなん。それもそうだ。なにせ、目の前で繰り広げられているのは、森亜るるかと森亜るるかの言い合いである。
片方は感情豊かにわーわーと声を上げ、もう片方はそれを適当に受け流す。
その光景は、あまりにもカオスだった。
しかし、それも長くは続かない。彼らも決して遊びにきた訳ではないのだ。
「……もういい。早く終わらせましょ。私も加勢する」
「はいはい。わーったよー」
二人の雰囲気が、即座に変わる。戦闘体制に移行したようだ。まずは、るるかがティアアルカナロッドに手を添える。
「──オープン……ティアアルカナロッド」
そう唱えれば、彼女の身体は眩い光に包まれる。収まった末、そこには金髪の少女が立っていた。どことなくミステリアスな雰囲気を纏う──本当のアルカナシャドウである。
「アルカナシャドウ……!」
「私たちも行くよっ!」
続いて、あんなとみくるも一歩前に出る。覚悟の念をその目に携えて、二人並んだ。
「「──オープン! ジュエルキュアウォッチ!」」
瓜二つのジュエルキュアウォッチを掲げ、空気を煌びやかに変質させる。やがて、二人はプリキュアへと変身した。
「──私の答え、見せてあげるっ!」
こうして、三人のプリキュアがその場に現れる。その一方で、白るるかはと言えば、
「はえー、みんなプリキュアだね。ほんと羨ましい限りだよ」
へらへらしながら、割と本気で羨望の眼差しを向けていた。だが、その目だけは決して笑っていない。そして、
「ま、いいさ。……それじゃあ、こっちはこっちでやらせてもらうから──」
──『
「っ、これは……!」
「ファントムの……?」
彼女が指を鳴らせば、瞬く間に結界が広がる。それは紛うことなき怪盗団ファントムの使う、周囲からの認識を阻害し、環境被害をなくすための
「これだけじゃないよ。ふふっ、さあ、嘘よ覆っちゃえ! ハンニンダー!」
彼女の呼びかけに応えて、例の写真が形を変える。その大きさは次第に増していき、あっという間に人間のサイズを凌駕した。
『ハンニダッ……!』
「うんうん、上手く行ったね。悪くない出来かな」
ハンニンダー。ファントムのみが生み出せるソレを、白るるかはあっさりと出現させた。そのハンニンダーは、パティスリーチュチュの服を着た、そんな様相だった。
「……嘘、プリキュアの技だけじゃなくて、ファントムのやつもまで使えるの……?」
「このひと本当に何者!?」
「はははっ、君たちってば良いリアクションしてくれるじゃん。嬉しいものだね!」
白るるかは変身こそしなかったが、ハンニンダーの後方に立ち、その手に灰色のティアアルカナロッドを召喚した。後方から援護射撃をする気は満々だった。
「……アンサー、どうしよう、これ」
「弱気になっちゃダメ! 頑張るよミスティック!」
敵の戦力は絶望的なまでに強大だった。まずはハンニンダー、ゴウエモンを圧倒して見せた白るるか、そして……本物のキュアアルカナシャドウ。勝ち目があるかと言えば、……経験則、無い。
「さて、何気に初戦だね。君たちとは一度戦ってみたいと思ってたんだ」
「御託はいらない。さあ、行くわよ。名探偵さん」
ハンニンダーとアルカナシャドウが、一歩踏み出した。
⚡︎──⚡︎
「……ロイくん、ロイくんっ」
人気のない住宅街を、息を切らしながら走っている少女──くれあ。写真を奪い逃げ去った怪盗と、それを追いかけて行った探偵。つまるところ、パティスリーチュチュに残されたのは彼女だけだった。
「はぁっ、ふぅ……っ、どこよ。どこに行ったの……!」
当然、あんなたちのペースについていくことはできない。一般人のくれあには、何もかも限界があるのだ。早々に見失うのも、なんら不思議なことではなかった。
全力で走り続けて、肺が苦しい。やはり無力な自分が、心底腹立たしい。
でも、ダメだ。ここで諦めるのは、ダメだった。だって、
「ロイくんっ、どうして」
黙って店で待っているなんて無理な話だ。くれあは、察してしまった。悟ってしまった。気づいてしまったのだ。捕まえたいわけではない──ただ、話がしたい。見てみぬふりなど、もはやできなかった。
「どっちなの……っ。いいえ、こっち、だわ」
だから、ひたすら直感に従ってつき進む。
そして十分ほど走り続けただろうか。ついに、その直感は功を成した。
「なに、あれ……」
足を止めたくれあは見た。その光景を。
住宅街の開けた広場。そこで繰り広げられる、現実離れした戦闘を。
そこには、華やかな衣装を身に纏った二人がいた。さながら正義の味方のよう。でも彼女たちはボロボロで、膝を付いている。傷を負いながらも、それでも必死に応戦している。
その相手は……パティスリーチュチュの制服を着た──怪物。
「……ぁっ」
無意識にも、短い悲鳴が漏れた。背筋が凍る。足が動かない。
恐怖を感じるのは当たり前だった。一般人があんなのを目にして、正気でいられるはずがない。……でも、なんとか取り乱すことだけは避けられた。
落ち着くよう自身に言い聞かせる。でも、
まず、そもそも目の前の状況を飲み込めない。映画か何かの撮影──なわけがない。カメラもないし、スタッフもいない。それに、倒れた木や崩れた塀。あの損傷は本物だ。撮影のセットなんかじゃない。
落ち着きはしても、理解はできないのだ。
そして、
「──あ、ロイ、くん」
見つけた。怪物の後方。神妙な面持ちで戦闘を見守る白い服の少女。見た目は、森亜るるかだ。でも、あれは偽物。そしてその正体にも、くれあは気づいていた。細かい洞察より悟ってしまったものだ。仕草のクセ、話し方の特徴、視線の動かし方、そして──目。一見すれば道化っぽく振る舞おうとして、その目の奥には優しさと覚悟がある。それは、くれあの知る彼のものだった。
「……さて、るるか。そろそろ終わりでいいんじゃない? あんまりこの子たちを痛めつけるのも嫌だしさ。もう追ってこれないだろうから、さっさと逃げちゃおうよ」
「甘いわね。……まあ、いい。私たちの目的は彼女たちを倒すことじゃない。それじゃあ、行きましょうか」
「っ、まだ……まだだよ。まだ、戦える……!」
「写真は……っ、絶対に返してもらう!」
くれあが立ちすくんでいる間にも、戦局は一方的に傾いてゆく。二人は抵抗を見せるが、るるかのプリキュアを見る目は冷たかった。そんな足掻きは歯牙にもかけず、踵を返そうとする。
「(……あれは、間違いなくロイくん。木の側に隠れてるのはジェットさんね。……ということは、あそこで戦っているのは──)」
姿は全然違う。でもくれあには分かった。あれは、あんなとみくるだ。そしてるるかだ。髪色も髪型も目の色も、なにもかも違う。けど、分かる。
だからこそ、やることは一つだ。
「(踏み出すの。声を上げるの。無力でも、大丈夫。私ならやれる。うん。ここで勇気を出さないと、きっと後悔するもの)」
心を決めた。そして、
「──待って!」
声を張って、広場に足を踏み入れた。その場にいた全員の視線が、一斉にくれあへと突き刺さった。その反応はそれぞれだった。
「……え、くれあさん?」
「うそでしょ。どうして、フィールドに」
まずあんなとみくるが、目を丸くした。そこには驚愕と困惑。でもそれだけじゃなかった。それ以上に、危機感と焦り、そして心配が滲んでいる。
「どうして待っててくれなかったんですか!」
「危険ですっ、くれあさん! 早く逃げてください!」
かなり逼迫しているのか、二人はもはや叱責と言っても過言ではない声のトーンで、くれあに危険を知らせる。だが、くれあは動じなかった。
「あんなちゃんに、みくるちゃんなのよね。大丈夫。逃げない。私は逃げないわ。……それに、あなたたち」
あんなたちから視線を逸らしたくれあ。今度はるるかと白いるるかを見据える。
「……あら、来たのね。フィールドに入れるなんて」
るるかはわざとらしく、白るるかに視線を向ける。なにかを指示するように。
対して白るるかは、すぐにその目配せに頷いた。
「──あちゃ〜。入ってきちゃったか。君はパティスリーの子だよね。まあ、大した〝記憶〟もないまま、私が即席で再現した結界だし。なにかしらの穴があったのかも。ごめんね、るるか!」
白るるかは気楽な様子で言った。突然の闖入者に驚くわけでも、かといって一般人を入れてしまった失態を悔いるでもない。まるで、〝あんな達に言い聞かせるように〟やや声を大きくして言った。──まあ実際のところ、その結界は完璧だったのだ。一般人が入ることなど普通はあり得ない。だが、くれあが入れた理由を、るるかたち二人と、そして上空から様子を伺うマシュタンだけは知っていた。
「それで、どうしてここが分かったの?」
るるかが、さして感情も露わにせず問いかける。
くれあもまた、毅然と答えた。
「根拠は、ないわ。ただ、ここにあなたたちがいると思ったの。それこそ……私の心に浮かんだ直感。──私の、きらめきに従ったのよ」
「きらめき、ね。でも、それが正しい判断だとは限らないのよ」
るるかは一瞬だけ表情を曇らせて、そして諌めるように言い放った。ティアアルカナロッドを、くれあの首に優しく添える。しかし、彼女の態度は変わらなかった。
「それでも私は、私のきらめきを信じるわ」
「……そう。なにを言っても無駄なようね」
諦めたように、アルカナロッドを下ろした。
その光景を無言で見つめていた白るるかが、今度は訝しげに言う。
「それで、君さ。ただ探偵さんを助けに来た……ってわけじゃなさそうだね。どうして介入してきたの?」
「……」
白るるかに聞かれて、くれあは口をつぐむ。答えが浮かばないとか、そういうのではなさそうだった。この瞬間はハンニンダーが攻撃をやめ、あんなたちもこちらに注目している。ここで、みんなの前で暴いてしまってもいいのだろうかと、くれあは思う。──でも、迷ってる暇なんてなかった。
「……ねえ」
やがて、ゆっくりと口を開いた。白るるかの目をまっすぐに見て向き直る。やはり、くれあはその目を知っていた。だから、ここで言う。ここで聞く。ここで暴く。多分、知らないふりをすることはできないから。
「ロイくん、だよね」
「「「……え?」」」
覚悟を決めてその名を口にすると、場が静まり返った。……否、元々ほとんど静かだったが、加えて空気も凍ったのだ。静寂ここに極まれり。とりわけあんなとみくる、そして白るるかの動揺は著しいものだった。三人の口から、どうしようもなく間抜けな声がこぼれた。
「……ふぅん」
ただるるかだけが、感心したように傍観している。
「ロイさん……? あの偽アルカナシャドウが?」
「え、でも、そんなこと」
あんなとみくるの視線が、くれあと白るるかを行き来する。
「い、いやぁ、君、とつぜん何を言い出すのさ。ロイって誰のことかな?」
「誤魔化さないでよ、ロイくん。分かってるから。私のきらめきが言ってるの。あなたはロイくんだってね」
白るるかが焦った様子で誤魔化すも、もはやくれあは確信したような言い草だった。疑いもなく「ロイを見る目」だった。
「なにさ、きらめきって! そんなの根拠にもならないじゃん! 俺……じゃなくて私は、蓮堂ロイじゃない!」
「……蓮堂ロイ。あら、『ロイって誰のこと?』って言ったのに、彼の苗字は知ってるんだ」
「……あ」
「それに、今『俺』って言おうとしたわよね」
「……う」
ボロが出た。それも盛大に。あんなとみくるは既視感を覚えた。偽アルカナシャドウが初めて現れたときも、こうだった。ゴウエモンに詰められて速攻で陥落したのだ。彼女──いや彼は、どうやら隠し事がすこぶる苦手らしかった。
「ねえ、ロイくん。別にね、私は怒ってるわけじゃないんだよ? でもさ、なんの事情も説明せずに、店長の写真──チュチュのものを盗むのは、違うと思うんだ」
「……いや、あの、これには事情があって」
「事情があっても、だよ?」
「ひえ」
くれあは一歩二歩と距離を詰める。白るるかも一歩二歩と後ずさる。もはや白るるかは、くれあの「ロイくん」呼びを否定しなかった。
「──じゃあ、もし別人っていうならさ。蓮堂ロイくんのこと、チュチュ出禁にしちゃおうかしら」
「え?」
くれあがそう言った瞬間、白るるかの作り込まれた雰囲気がパッと霧散した。姿は依然として変わらないが、明らかに演技が消え失せた。
「ちょ、くれあ!? 待って待って! そりゃないだろ! 出禁とかないだろ! 勘弁してよ俺死んじゃう!」
話し方が、いつものそれに戻っていた。
「……あ、ロイさんだ」
「……るるかさんの声なのに」
あんなとみくるは唖然としていた。それは、まあここ最近で見慣れたロイとくれあの掛け合いそのものだった。
「ロイくん……逃げないでよ」
「に、逃げてないけどさ、でも、もうやめて。分かったからさ。近い! さっきから顔近いの! ちょっと一旦ストップしよ? ね?」
くれあが歩み寄り、ぐんと顔を近づけた。すると、ロイは頬を紅潮させて焦った──無論るるかの姿で。……姿が美しい少女なだけに、さながら恋する乙女のようになっていた。
「……ロイ。私の姿で変な顔しないで。ほら、もう元の姿に戻ってもいいでしょ。どうせ見破られたんだから」
当然、るるかは黙っていなかった。自分の顔でそんな顔するなと言いたい。尊厳がアレである。口頭での注意どころか、早々にティアアルカナロッドをロイの顔面に向けた。くれあの首には優しく添えただけなのに、こっちは既にアルカナスターレインの発射準備をしている。
「ちょ、るるかまで物騒!? くっ、あーもう。なんでこうなるのさ。…………解除」
こうしてとうとう観念したらしいロイは、合図と共に光に包まれる。すぐに仮初の姿は消失し、いつもの見慣れた少年が現れた。手にはプリキットグロスが握られている。
「はい、これでいいか?」
「うん、いつものロイくんね」
「……はいはい、そうですね」
ロイは疲れたように、ため息を吐いた。
⚡︎──⚡︎
「それにしても、俺の正体を見破るとは流石くれあだな。感心したぜ」
『ハ ン ハ ン ッハ ン 〜♪』
ロイはハンニンダーの巨体に寄りかかりながら、感心したように言った。
わいわいきゃっきゃと、はちゃめちゃ愉快な空気で全てが終われば良かったものだが、そうもいかないのが現実だ。
正体を完全に明かしたロイは、決してこれ以上焦ることはなかった。かといって降伏するような素振りも見せなかった。
「……ロイくんは、どうして──」
「悪いけど、話すことはできない」
ロイはきっぱりと言い切った。だが、きっぱりと言い切った割に、そこには一目瞭然の申し訳なさが滲んでいた。
「そう、なのね」
くれあもそれに気づいた。だからこれ以上の言及は避けた……というよりできなかった。正直なところ、ロイの行動に明確な悪意がないことを確認できただけでも、十分だった。そもそも、これ以上なにを聞けばいいかなんてわからなかったのだ。なにせ彼の目には覚悟があった。なんとなく、今の彼に何を言っても、響くような言葉はないと悟った。
「ロイさん」
くれあが引いたのをきっかけに、あんなが前に出た。彼女も、初めは状況を飲み込むのに時間がかかっていたが、今は落ち着いている。
「ロイさんは、本当にファントムの仲間じゃないんですね?」
「ああ、そうだな。るるかと個人的な協力関係を結んでいるってだけだ」
「じゃあ、今後もるるかさんと一緒に盗みを働くことは?」
「たぶん、ないだろうな。契約上、今回の一回きりだ」
ロイがるるかに目を向けると、彼女もこくりと頷いた。こうして、空気がわずかに緩んだ。プリキュア二人が目下警戒を解いたのだ。
「……良かったぁ」
固唾を飲んで見守っていたみくるが、安堵したように息を吐く。あんなも同じような反応だった。今後、ファントムの力もプリキュアの力も使えるロイが──偽アルカナシャドウが、自分たちの敵に回ることなど考えたくなかったのだ。そして何より、くれあの想い人である彼とは、極力戦いたくはなかった。
「さて、そろそろ行きましょう。ロイ」
タイミングを見計らって、るるかが声をかけた。
「ん? ああ、そうだな。でもいいのかよ、写真は」
「一般人がいる以上、戦闘を続けるわけにはいかないでしょ。……それに、きっとまだ手はあるはず。焦るのが一番よくない」
るるかは人形のフリをするマシュタンを腕に抱いて、今度こそ踵を返した。
確かに、くれあを戦闘に巻き込むことだけは、ロイもるるかも本望ではなかった。だって、万が一傷付けてしまえば本末転倒なんだから。こうなってしまえば、もうどうしようもないのだ。
「ん、そうだな」
ゆえに、ロイもるるかに続いて歩き出した。
しかし、
「ただ、くれあ。一つだけ言っておこう」
ロイは思い立ったように振り返る。黙って自分の背中を見送るくれあに、どうしても居た堪れなくなったようだった。少し気まずそうに苦笑して、補足した。
「──今回の襲撃、成功しようが失敗しようが、俺には得たものがあった。……もう少しなんだ。ずっと待たせたりはしないって、言ったろ」
「っ、ロイくん……」
くれあはその発言の意図をすぐに悟った。つまりロイは、この前の宣言通り、くれあに応えるために何かを成そうとしていて、今回の行動はその一環であったと。
「ってことでハンニンダーくん」
『ハン……?』
ロイは最後に、側で大人しくしていたハンニンダーに向き合う。その怪物は体育座りをして、実に暇そうに、地面に絵を描いていた。しかしロイはそれを一瞥すると、潔いほどの笑顔で告げた。
「悪い。散ってくれ」
『ハン!?』
「いやそんな顔しないでよ。元はといえば、君は写真から生まれた存在なんだから。うん。大丈夫大丈夫」
『ハンハンハ ン ハ ン っ〜!』……ファサ
「おい今『……ファサ』ってやったな! ふざけんな! 俺を馬鹿にしてんのか!」
『ハンハンっ』
「わかったわかった。今度会ったときアイス奢ればいいんだろ? わかったからさ。今日のところはひとまず散ってよ。ね?」
『……ハ ン 』
生みの親に「散れ」と言われて、ハンニンダーはしょんぼりした。ロイは気にしなかった。
あんなとみくるはまたもや唖然とした。ロイの術で生まれたからだろうか。なんか普通にコミュニケーションを取っている。
だが、やはりロイは気にしない。
「ということだから、またね探偵さん! ハンニンダーの浄化は君たちの十八番だろ? あとは任せたよ。俺は別に君たちと敵対したいわけじゃないんだ。またパティスリーチュチュで会おうじゃん!」
「え、ええ!?」
「ちょっとロイさん!?」
ロイは元気よく言って、るるかと共にその場を去って行った。
ちなみに、ロイは後日何事もなかったようにパティスリーを訪れ、あんなやみくる、そしてくれあと、何事もなかったように接したのだった。
はよ完結後のイチャイチャが書きたい定期