帆羽くれあヤンデレ概念 作:あわわわ
なんとか続いた。
「やっはろー! 今日もきたよ! くれあ!」
「……あ、ロイくん! いらっしゃいませ!」
店内に足を踏み入れるや否や、くれあのきらめきスマイルが俺を真っ直ぐに穿った。
あらま可愛らしい笑顔。この笑顔、一生守りたいよね。もう一生ね。
「いらっしゃい、蓮堂くん」
「ちわっす! 店長!」
なんだかんだ俺のことを可愛がってくれている浅井さんにも、元気よく挨拶し、そのままいつもの固定席へと腰を下ろす。
さて、俺は今日も今日とてくれあに会いに……じゃなくて、くれあの健康チェックをしにきた。危ない危ない、目的を履き違えてはならないな。自分で言ってて超キモいけど。
「お客様、ご注文はお決まりですか? ……なんて、わざわざ訊くのもそろそろ野暮かしら?」
「まさか、野暮なんてことはないさ。でもまあいつも通り、おすすめのやつくださいな」
「ふふ、かしこまりました。私のオススメで、ね」
「もちろん!」
くれあが片目を瞑り、ウィンクを送ってくれた。やっべぇあざとい超可愛い。
いやはや、俺は毎日くれあの健康チェックしにきてます! なんて言おうものなら、即出禁喰らっても文句は言えんだろうに、こんな俺に対しても、彼女は分け隔てなく愛を振りまいてくれるのだ。これぞアガペーってやつだな。
「あ、そういえば」
「ん、どした?」
「ロイくん、今日はいつもより十一分ほど来るのが早いのね!」
くれあがふと思い立ったようにそんなことを言ってきた。……ほう、わかってしまうか。店長は「え? そうなのか?」みたいな顔をしているが、流石はくれあ。その洞察力は健在らしい。
まあ実はいつもより十五分ほど早く目覚めてしまったというだけなのだが、くれあにはそこまで分かるだろうか。ここは一つ、彼女のきらめきを試してみるとしよう。
「ふっふっふ。その通りさくれあ。さあ、どうしてだと思う?」
「うーん、そうだなあ」
くれあは、むむむっと考える仕草を見せる。これぞ「考えるくれあ」だ。うん、これが見れただけで儲けものだ。
早起きは三文の得って言うけど、これはもう五百両くらいの価値はあると思う。徳川埋蔵金と「考えるくれあ」なら、絶対後者のが価値がある。
「ははっ、流石のくれあでもそこまでは分からないか?」
「むむ、なんか納得いかない! 私だって、なんとなくの予想ならつくわ!」
「お、そうかい?」
なるほどそう簡単には諦めないか。やっぱそれでこそ帆羽くれあだよな。流石は元名探偵ってだけはある。
「それじゃ、君の推理を聞かせてくれたまえよ」
「ふふっ、推理だなんて大袈裟よ。まあ、多分だけど、ロイくんはいつも八時に家を出るでしょう? ロイくんの家から最寄りの桜町駅までは、大体九分。ちょうど八時九分にまことみらい駅行きの電車が出ているから、いつもはそれに乗っているはず。でも、今日は十一分早い。そこで、七時五十八分にも同じ電車が出ているのよね。つまりあなたはいつもより一本早い電車に乗ったんじゃないかしら? でも、ロイくんはあんまり朝が強くはないから、起きるのも結構ギリギリなんじゃないかなって思うの。だから意図的に早起きしたとか、早く家を出たとも思えないわ。だから、多分自然に目が覚めちゃって、気まぐれで家を早く出た、みたいな感じかしら?」
そう言ってくれあは、少し自信ありげに微笑む。しかし、
「…………。……うん?」
俺はそれを前にして、狐にでも摘まれたような気分になっていた。
「えっと、ロイくん? どうかした? あ、もしかして正解だったとか!」
「え、あ、うん。まあ正解っていうか、怖いほど完璧なんだけどさ」
…………あれれ、おかしいなあ。
あまりにも細かすぎやしないか? 俺がいつも家を出ている時間などはおろか、最寄り駅や自宅の位置すらもくれあには教えていないはずだぞ? 引越して以来、その辺は知人にもほとんど公表していないはずなんだが。
てか俺が朝弱いってことなんで知ってんの? 店長とか周囲の客からすんごい目で見られているんだけど。え、店長? 口パクでなんか言ってるぞ。えっと、『ヤッた、のか?』…………ヤってねぇよ。アイツ何言ってんの?
「……えっと、くれあさん?」
「なにかしら。ふふ、ロイくんったら、まんまと当てられちゃって悔しいのかな? 私って探偵の才能とかあるのかも」
ほわほわ〜って雰囲気を醸し出して、くれあは元気にピースサイン。可愛い。めっちゃ可愛いけどさ、探偵の才能もまあ、そりゃあるんでしょうけどさ、
でも、それはそうとさ、
「どうして俺の家を知ってるんですかね?」
「……あっ」
指摘すれば、たちまち彼女を取り巻いていたほわ〜っとした空気が霧散した。
……あっ、じゃねぇよ。なんでそんな「盲点でした」みたいな顔してるんだよ。まあよくあったよな。一人で突っ走ってドジしちゃうの。
とはいえ俺はそんなくれあも大好きなわけだし、普段なら「可愛い」で済ませるさ。
でもさ、やっぱり今回はさ、
「ちょっと、くれあさん。今日はゆっくりお話しをしたいと思うんだ。主に俺のプライバシーについての方面で──」
「──ご、ごめんなさいっ。私、ケーキとってくるわね!」
「あ、逃げた」
すててててっと、厨房に向かって行ってしまった。
「……昔の、名残……ってわけでもないよなあ」
色々あったものだが、そんな断片的にほわほわ記憶が戻るものだろうか。否、そうでもないだろう。
せいぜい「きらめき」とやらは残っているらしいが、それによって住所など当てられるわけもない。仮にそうであるなら、それはもう「感覚」とか「きらめき」じゃなくて、単なる超能力だ。
いやはや超能力。とんでもねぇ。んなもん存在してたまるか。……っと思ったが、プリキュアの身体強化や変身のプロセスなどもイマイチ理解していない俺だったので、ちょっと不安になってきた。え、魔法の力でプライバシーまで侵害されるの? 嫌だってそんなの。
「お、おまたせしました。今日の私のオススメですっ!」
なんてことを考えているうちに、くれあがケーキを持ってきてくれた。……ま、とりあえずは保留でいいか。今の彼女に何を知られようが、別に困ることもない。
「おー、今日も一段と豪華だなあ。俺の財布もついに信頼されてきたらしい」
「もう。そういうこと言わないの。まあ厳しいようなら、私が出すよ? 毎日来てくれてるからね」
「まさか、文字通り財布には余裕があんのさ。これくらいどうってことない」
「ふーん。でもロイくんって私と同い年でしょ? こうして正式にパティシエなんてやってる私に言えたことでもないでしょうけど、よくそんなに余裕持てるよね」
「まあ、な。当てはあるんだ」
なんだか、今日のくれあは一段と踏み込んでくるな。最近は遠慮がちかと思っていたが、こうしてみると、逆に距離が近いようにも思える。ううん、この変化は名状し難いぞ。今度会った時、アイスっ娘にでも相談してみるか。
なんて、アイスっ娘といえば、今日のはお馴染みメニューがある。
新作のチーズケーキに、同じく新作の抹茶モンブラン、加えてアールグレイ紅茶。……それにアイスクリームだ。超お馴染みだ。図らずも、俺の舌に一番馴染んじゃってるスイーツだ。昔は、例の奴に巻き込まれてよく食べていた。
それに、
「おっ、チョコミントじゃないか。ふふ、るるかが喜びそうだな」
そう、チョコミント。奴の一番好きな味である。
ふとテンションが上がった俺は、気がついたらそんな声を漏らしていた。
「……るるか?」
くれあがその名を繰り返す。おお、久々に聞いた。
にしても、なんだかやけに俺の胸が高鳴った。緊張か、不安か、あるいは……期待か。
「もしかして、知っているのか?」
なんで問いかけたかも分からない。だが、なんだかそんな気分になった。もし仮に、ここで彼女が頷いたら、俺はどうするのだろうか。
「知らないなぁ、私は」
でも、彼女はすぐに首を振った。ま、そうだよな。
るるかのやつもここには多少訪れているようだが、どうやら名乗ってはいないらしい。俺のように、親しくするつもりもないのだろう。
「悪いな。るるかってのは、俺の友達……いや、旧友の名前だ。アイスが大の好物でね。少し思い出したのさ」
と、俺は軽く誤魔化すように言う。さて、こんなもんでいいだろう。多分一生、思い出すこともないだろうからな。
さーてやめやめ。辛気臭いのはもうなしだ。終始俺の中でのみ繰り広げられた感情の即興劇だけど、基本的に「あかるく元気」をモットーにしている俺は、内心でも斯く在れかり、って感じだ。
そうして、例によって目の前のスイーツを満喫しようと、フォークを手にした俺、なのだが、
しかし、
「ねぇ。それって、女の子?」
……うん?
いつの間にか、彼女はパティシエ服のまま俺の向かいに座っていた。なにかを察したらしい店長の浅井さんが、颯爽と彼女の分のケーキを運んできた。
「女の子なのかしら?」
にこりと微笑むくれあだが、なんか怖い。
あれれぇ、くれあちゃんの様子がおかしいぞー。
なんとはなしに他の客に目を向けるが、彼らはなぜか速攻で俺から目を逸らした。なら店長は……って、あらら、あの人も厨房に逃げちゃった。
「ロイくん。るるかさんって、女の子なのかな?」
「え、まあ、うん。女の子だけど。あ! もしかして思い出したとか──」
「思い出すも何も、私はそもそも知らないよ」
「……あ、そう、だよな」
なんか悲しい気持ちにもなるが。でも、それ以上に、
「それはそうとロイくんは、そのるるかさんって子と、どういう関係なのかな?」
「いやだから、旧友だって」
「そう。ほんとに旧友なの? 今はもう関わってないの? 今もまだ友達じゃないの? どうなのかな?」
「そ、それは、」
店内に冷たい空気が流れる。心なしかその発生源は、目の前の青髪の少女であるような気がして。というか間違いねぇなこれ。やっべぇ雰囲気だ。既視感だ。最近はこんな感じの修羅場がやけに多い。
「お、俺はね? 別に、なんといいますか、くれあが大好きといいますか」
「それは知ってるよ」
「……あ、そうですよね。知ってますよね」
じゃあなんで怒ってるのさ! わかんない。くれあのことが段々わかんなくなってくるよぉ! これじゃあ「俺がくれあのことを一番わかってる」ムーブもできなくなっちゃう!
「うん、知ってる。ロイくんが私を〝大好き〟だってことは、知っているの。だって昨日も言ってくれたものね、「大好き」「愛してる」って。うん、だから知っているのよ? でもね、その〝大好き〟ってさ、」
「その、大好きって?」
「ロイくんとるるかさんが恋人同士である可能性を否定できる材料にはならないのよね」
「っ、はあ⁉︎ ちょ、お前いきなり論理が飛躍しすぎだって!」
俺の強い否定も意味をなさず、周りの人たちからの視線がどんどん冷ややかなものになっていく。あんまりだ。
「ねえ、ロイくん?」
「な、なにさ! 俺は本当の本当にあいつとそんな関係じゃないからな!」
俺は断じて認めない! というかアイツの恋人とか自称したら普通に殺されると思うし。そんなの嫌だよ! アルカナスターレイン、あれ絶対当たったら痛いもん!
俺はもう逃げ出したくなっていた。
このままでは主に三方面から誤解が生じる。るるか、くれあ、そしてここにいる客と店長だ。正直一番危ないのは最初のやつなんだよ。
「(〜〜〜っ! どうする蓮堂ロイ! この状況をどう切り抜ける!!)」
自問。俺は俺に問いかける。が、んなこと訊いてる時点で詰みである。
そうしてとうとう俺が居た堪れなくなってきていた、その時──
「「こんにちはー!」」
「……?」
「あら! いらっしゃい!」
ドアの開く音と共に、そんな元気な声が二つ、耳に入った。
その時には、くれあの冷ややかな雰囲気は消えていた。見れば、そこには明るめの茶髪と、濃いめの茶髪の少女。推定するに中学生くらいの女の子が二人、パティスリーチュチュにやってきていた。