帆羽くれあヤンデレ概念 作:あわわわ
そういやくれあの変身バンク超可愛いですね。特に「フローラルスピンッ」のところの表情が堪らんね。後ろで流れてるアコーディオンもオシャレでいいよね。
あと今回は訳あって二本立てだよ!
パティスリーチュチュからしばらく走って、もうあちらからは認識できないくらい離れた頃。
迂回に迂回を繰り返した俺は、やっとのことで、おそらく探偵たちが通ったであろう道に合流することができた。
のだが、
「いやあ、完全に見失っちゃったね!」
普通に見失ったわけである。ついでに迷子になった。あの子達もファントムも、一体どこに行っちゃったんだろうね。知らねぇよ。
「くっ、予定があるとか言っちゃった手前、もう戻ることもできないし、どうにか探しだす必要があるよなあ。ぶっちゃけもうあんまり興味とか無くなってきてるけどさ」
正直プリキュアとか探偵とかどうでもいいのだ。
くれあに関することでなければ、俺は割と飽きっぽい。
だってさあ、いくらあの子達がプリキュアとかキュアット探偵事務所のメンバーだったとして、わざわざ俺が気にする必要もなくない?
たとえ彼女らが脅威になるとしても、それをあのアイスっ娘るるかちゃんが見落とすわけないじゃん。
アイツに比べて何かもスペックで劣ってる俺が、こうして調査するメリットってあるのか知らん。それこそ次るるかに会ったときに『……ほう、流石はるるか。お前もあのプリキュアに気づいていたんだな。俺もすでに調査済みさ(キリッ)』ってできるくらいじゃない?
…………あれ、結構悪くないな。
よーし! あの探偵さんたちを探偵するぞー!
「そうと決まれば奥の手だ! 今日は渋らないぜ!」
いくら見失ったとはいえ、それで万策尽きるような俺じゃない。こっちにゃ奥の手があるんだぜ? ってことで、
「
そう唱えて見せれば、たちまち手鏡なのかルーペなのかよく分からん物体が、虚空から現れた。これぞプリキット! 魔法じみているね!
「ふっふっふ。俺にプリキットが使えないなんて誰が言ったよ」
うん、誰も言ってないね。そもそも誰が聞いてるでもないね。でも自己満足だ。俺は得意満面にそれを掲げてみせる。
──プリキットミラールーペ。
灰色を基調とした意匠。ルーペのレンズ部分にはカバーがついており、そのカバーの中央部分が鏡となっている。再三言うが、手鏡なのかルーペなのかはっきりしろよって感じの見た目だ。文字通り「ミラールーペ」だよ。悪くない響きだね。
「いやー、さすがは伝説だぁ。よく見れば見た目もカッコいいよね! くれあのやつは水色たったけど! 俺はあっちのが好きだなぁ、だってくれあの色だし!」
俺がそう言うと、灰色だったミラールーペは途端に水色へと変わった。
ふぅん、気がきくじゃん。さすがは伝説。略してサス伝だ。
「でもやっぱ被りはよくないよね。もうエクレールが復活することはないとしてもさ」
そう思念して、元の灰色へと戻す。こっちのが俺のキャラっぽい。
「やっぱコレだわ。灰色かっけぇ」
なーんか俺もよく知らないが、名探偵プリキュアの危機を救ってくれる伝説のプリキットらしい。古い本にそう書いてあった。
本来の使い方は浄化とかそういうのなんだって。川の水とかも浄化できんのかなーって試したけど無理だった。
いやあ、どうやら浄化はプリキュアの特権らしいのよ。つまり飲み水問題解決には至らなかったわけだ。だから俺にできるのはあくまで、それ以外の諸要素である。例えば足跡や指紋を可視化したりね。
──でも諸要素とはいえ、なんでプリキュアじゃないのに使えるの?
って、これを見たプリキュアや妖精ならこぞってそう聞くだろう。るるかもくれあもマシュタンもシュシュタンも、みーんな、初めて見た時はドン引きしてそう聞いてきた。
ま、そりゃちょっとした裏ワザだけどさ。みんなすげぇドン引きするんだよね。ひっでぇよ。流石に合法だぜ?
「よーし、んじゃお願いしますよルーペさんっと」
そう言って蓋の部分をパカっと開けば、それは瞬く間にルーペとなった。ミラールーペってね、悪くない響きだ。
そして俺は、それを目に近づけると、
「鏡よ鏡、俺にプリキュアの位置を教えたまえー!」
まったくもって意味のない詠唱を口にした。ドン引き要因その一だ。どこに引く要素あるの? って聞いたら、みーんな「その詠唱に」って言うのさ。
まあ俺の流儀ってやつだ。プリキュアは色々カッコいい詠唱とかするけど、俺にはそういうの必要ないんだもん。なんなら「オープン」とか「プリキットミラールーペ」とかも言う必要はない。だから形だけ、ね。
「なるほどぉこっちにいるのね。いやあ便利便利」
次々に浮かび上がってくる彼女たちの足跡を辿れば、俺は次第によく知る公園に辿りついた。しかし、遠目から見た感じ中には誰もいない。
「ま、見かけに騙されるのは三流さ。自らの五感による情報でさえ、捜査中は鵜呑みにしちゃいけないのよ」
一人達観したように呟くと、俺は息を潜め、足音を消し、ゆっくりと公園に足を踏み入れる。すると──
『ハンニンダー!!!』
「くっ、アンサーそっち行ったよ!」
「わかってる! 私がこのまま引きつけるから、ミスティックは後ろから援護して!」
まさにちょうど、ペンの形をした大きな怪物と、二人の変身した少女が肉弾戦を繰り広げていた。
一人は桃色でもう一人は紫色。おそらくはあの二人が例の探偵──あんなとみくるだろう。んで、後ろに控えているのはさっきと同じ格好のジェットか。
「ハハハッ! 少しはやるようだね、ベイビーたち」
そして怪盗団ファントム。あの見るからに怪盗って感じの男がそれだろう。多分名前はニジーだな。ギャルっぽくないからアゲセーヌじゃない。気前が良さそうでもないからゴウエモンでもない。るるか情報によれば、消去法でニジーだ。
「っ、ニジー! エリザさんのペンを返して!」
「ハッ、嫌だね! こちらもこの程度じゃ終わらないよ! さあ、ハンニンダー!」
『──ハ ン ニ ン ダッ!』
「──……ふふっ、可愛いなオイ」
あれがハンニンダー。これもまた、るるかから情報は貰っている。思ったより可愛い。躾けてペットにしたら多少の役には立ちそうか? ……ま、あれはエリザちゃんのだから手は出さないけどさ。
「……それに、あの子の気持ちを踏み躙るような真似は流石に看過できないよねー」
そもそもの話だ。俺は今回の事件、あまり良い印象は抱いていない。
自分のファンであると、サインが欲しいのだと、そう言われた時の気持ちはどのようであろうか。彼女は「初めて」だと言っていた。プロ作家としてデビューして、初めてだ。
とりわけ彼女と仲の良い俺は、その受賞が決まった時の喜びを知っている。こちらまで嬉しくなってしまうほどに、彼女は笑顔だった。
だから、きっとサインなんて求められたら、
「……ま、だからと言って、俺がどうこうすることじゃないけどな。なにせ──」
「嘘をつかれたエリザさんは悲しんでいる!」
「人を悲しませる嘘なんて許さない! だから、」
「「──私たちが嘘を終わらせる!!」」
なにせ、ここにはプリキュアがいる。それも二人。どうやら若干ピンチに陥っていたようだけど、そこはやはりプリキュア。そう易々と負けたりはしないだろう。
かくして、間も無くその嘘は暴かれる。
「「これが私たちのっ! アンサーだッッ!」」
「ハっ、ハ ン ニ ン゛ッ、 ダァァァ〜〜〜……ァ……」
二人の必殺技らしき膨大なエネルギーがハンニンダーへと命中し、その怪物は実に情けない声をあげて、浄化されていった。やがてそこから生じたマコトジュエルは、やはりと言うべきか妖精だったそのポーチに、吸収されていったのである。
「……はあ、まあいいさ。次の勝負でまた会おう」
ニジーが去ったことにより、すぐにフィールドも解除される。
つまりは、
「これでキュアっと解決、ってことだな。よーし、とっとと逃げよー」
まあ、今日は良いものを見せてもらった。くれあとの時間を削ってまで見る意義があったかといえばそうでもないが、エリザちゃんの一件もあるからスカッとしたな。
それに、あれならまだ大丈夫だろう。今の二人は、まだプリキュアとして未熟な状態。多分るるかには手も足も出ない。だから、わざわざ俺が危惧することでもない。
そうして満足感に浸った俺は、彼女らに見つからないうちにさっさと退散したのである。
⚡︎──⚡︎
それは、とある日の午後だった。いつもとなんら変わりのない、何気ない日々の中の、そんなありふれた午後だ。
「ローイたんっ!」
「──わわわっ……っと、おー、どうしたよ。今日は一段と元気だなぁ」
ふと、ソファーに座っていたロイの胸に、水色の小さな妖精が元気よく飛び込んだ。くれあのオトモ妖精──シュシュタンだ。
「ったく、シュシュタンよぉ。お前は今日も今日とてモッチモチで可愛いなぁ!」
「そうでシュ? ロイたんもふわふわであったかいでシュ!」
「そうかそうか! 俺ってあったかいか! はははっ」
ほんわかとした空気を醸し出してじゃれ合う一人と一匹。
それは、もう見慣れた光景だった。ロイはいつもそのピンク色のソファーを独占し、そんな彼の元にシュシュタンが甘えにくる。シュシュタンもシュシュタンで、彼のことを「ロイたん」と呼び、非常に慕っているようにも思えて──
「いやぁシュシュタン可愛すぎ。もう一生撫でてられるんですけど。あ、そうだ、いいこと思いついた! なあシュシュタン! 俺たちこのまま結婚し「嫌でシュ」…………はい?」
…………。
ロイは、随分とすっとんきょうな声を上げた。
「シュシュタン。あの「嫌でシュ」……そう、か? い、いやあ、冗談ではあったけど、こうも速攻で拒絶されると流石に俺が傷つくというか」
「ロイたん、なにいってるんでシュ? 傷つくのはくれあの方でシュ。ロイたんと結婚するのはシュシュタンじゃなくてくれあでシュ。だから早く告れでシュ。これ以上くれあを待たせるなでシュ。この
「えっ……とう、へん?」
──否。慕っているとは、少し異なるのかもしれない。どちらかといえば「もどかしくて催促しにきている」と言うのがいいのかも。
「いやちょ、ひどくね? てかなんでいきなり拒絶するのさ! さっきまであんなに甘えてきたくせに!」
「それはそれ、これはこれでシュ。シュシュタンはロイたんのことが嫌いじゃないでシュ。だけど、くれあのことを悩ませるロイたんは嫌いでシュ。わかったなら早く結婚するでシュ。くれあと」
「……お前なに言ってんの?」
正確には、ここまでが〝見慣れた光景〟だ。
シュシュタンは基本誰にでも懐っこいが、ロイにだけはどうしてか態度がキツい。見ての通り嫌っているわけでもないのだが、とりわけシュシュタンの主──くれあを巡っての話になると、この関係は荒れる。
「ったくよぉ、随分な物言いだなぁ。そもそも唐変木なんて、よくそんな言葉知ってるもんだよ」
「シュシュタンは知識の妖精でシュ! なんでも知ってるでシュ!」
「嫌だよそんな知識の妖精。……てゆーか! シュシュタンは知っていてもそんな酷いこと言わないもん! 今のお前は解釈違いだ! とっとと帰れ!」
「嫌でシュ。そもそも、シュシュタンだって普段はそんなこと言わないでシュ。ロイたんがくれあを悩ませるのが悪いでシュ。早く結婚するでシュ。最近のくれあといったら、口を開けばロイくんロイくん。マシュタンも良い加減うんざりしてたでシュ。ね? マシュタン?」
「そうよそうよ! このアタシが何度も何度も占ってあげているのに、一向に行動を起こさないのはなんなのかしら? あなたが動きさえすれば上手くいくって、もう二十回は言っていると思うのだけれど?」
シュシュタンに呼ばれると、そばで様子を伺っていたマシュタンはすぐに返事をし、並んでロイに文句を言い出した。
だが、
「……いやだから頼んでないっての。……それに、そもそも俺はっ、確かにくれあのことは…………好きだけど、さ。別に、そういうんじゃないし」
ロイは顔を赤くしながらも、それを否定する。しかしその声は徐々に小さく、自信をなくしていき…………要するに、真実は明白だった。
「嘘でシュ」
シュシュタンは真顔で否定した。
「う、嘘じゃない! くれあは俺の大切な友人だし! ……あっ、でも別にっ、そういう魅力が全くないとか、そういうわけでもなくて!」
「あ、そういうのはもういいでシュ。最初の頃は初々しくて良かったでシュけど、でも最近はただただ
「そうよそうよ! アナタ達は早く幸せになればいいのよ! だって、占いにはこうも出ているわ。『いつまでもぐだぐだしていると、取り返しのつかないことになる』ってね。この日常だっていつ壊れてしまうかわからないんだから」
「……いや壊れるってさ。流石に大袈裟なんじゃねーの?」
やけに積極的なおとも妖精二匹に、ロイは疲れたようにため息をつく。
「ため息をつきたいのはこっちでシュ…………。……ああ、もう分かったでシュ。ロイたんがそこまで奥手なら、こっちにも考えがあるでシュ。実は、シュシュタンはくれあについて耳寄りの情報を持ってるでシュ。それをもう言っちゃうでシュ。実はくれはでシュね、毎晩、ロイたんには内緒で、自分の部屋にロイたんの「だめぇえええええ!」──くれあ⁉︎ 違うでシュ! シュシュタンは別に、くれあが夜な夜な」
「もう黙ってよ! シュシュタン!」
「シュ゛ッ!?」
「……あっ」
「……あらら」
シュシュタンはくれあに強く掴まれて、そのままロイから引き剥がされた。その際すごい鳴き声をあげていたので、ロイとマシュタンは同情の眼差しを向ける。
……どうやら、シュシュタンの暴露大会もこれにて終幕みたいだ。なにせ、当の本人くれあがやってきてしまった。
とはいえ、くれあもくれあだ。さっきからずっと気づいていたにもかかわらず、ただドアの隙間から様子を窺うばかりで、一向にシュシュタンを止めようとはしなかったのだから。
むしろ、シュシュタンとマシュタンのロイに対する催促を、しめたとばかりに見つめていた。ところがシュシュタンが一線を超えようとしたので、慌てて止めに入ったわけだ。少し面白い光景だった。
「もう、シュシュタンったら! ……ロイくんごめんね? シュシュタンってほら、いろいろ知識が豊富だから、よく妄想とか言いふらしちゃったりするの」
「……妄想じゃないでシュ。全部真実で「シュシュタン?」……はいでシュ。全部シュシュタンの妄想でシュ。ごめんなさいでシュ」
「マシュタンも、そうよね?」
「え、ええ、そうね」
「──ってことだから! ね? ロイくん! 私、全然そういうのじゃないからね! ロイくんのことは大切な友達だと思ってるから!」
こうしてくれあは、言論統制をもってしてなんとか保身に成功した。ここまで必死のくれあは随分と珍しい。だが、自身の尊厳が掛かっていたとなれば、まあ、納得のいく必死さだった。
しかし結果的にそれは、あまり良い結果をもたらさなかったようで、
「…………ああ、うん。……そ、そうだよな。やっぱりくれあは、そういうんじゃないよな。っと、ごめんな! ……俺、それくらい分かってたんだ、うん。だから……ごめん」
「……ぁ」
次にくれあを襲ったのは、ロイの予想外にもしゅんとした様子だった。彼の気持ちを鑑みれば、これもまた頷ける反応だった。あれほど必死に否定されては、流石に辛いと思う。というかこれは辛い。ロイにとっても、くれあにとっても。
「──っ⁉︎ ち、ちがうのロイくん! 別にそういうのじゃないとは言ったけど、全くそういうのじゃないってわけでもなくってね! えっと、私はっ、ロイくんとそういうのでも全然よくって! ただ、ロイくんはどうなのかなって思っちゃうの……って、そうじゃなくて〜〜〜っ!」
なんて、色々と支離滅裂なことを言い出すくれあ。全ては虚しく、意味をなしてなかった。ちょっとかわいそう。
「も、もう、さっきから見てないであなたも助けてよー! るるかー!」
そして、とうとう言い訳も思いつかなくなったのか、くれあは縋るようにその名前を呼んだ。そうして、泣き言をこぼしながらもこちらへと這い寄ってきて────って、
…………ん、私か。
るるか。そう、私がるるかだった。
場の雰囲気を客観視していると、ともすれば、どうも自分がその輪の中にいることも忘れてしまいがちだ。
でも……るるか、ね。なんだか、やけに懐かしい気が、しなくも、ないような。
「おい、るるか? お前大丈夫か? ぼーっとしちゃってさ」
ロイが心配そうな様子で私を見つめる。いや、彼だけじゃない。マシュタンもシュシュタンも、それにくれあも。みんな私に注目していた。
「……別に、ぼーっとしてたわけじゃないわ。ただ、こんなのもう見慣れた光景。わさわざ私が口を挟むまでもないと思ったのだけれど」
「あー! るるかっていっつもそうなんだから。私たち親友なのに、こういうときは助けてもくれない! ……え、もしかして親友だと思ってたのは私だけだった、とか……⁉︎」
なんて、そんなことを言いだして勝手にショックを受けるくれあ。そんな彼女を見ていると、こちらも思わず頬か緩んでしまう。
「ふふっ、違う。私だってくれあのことは親友だと思ってる。でも親友だからこそ……あなたに早く幸せになってほしい気持ちは、あるのかもね?」
「っ、る、るるかまでそんなこと言うのね! もういいわ。こっちにも考えがあるんだから!」
くれあは、さながらさっきのシュシュタンみたいなことを声高に告げる。そして勢いよく立ち上がると、そのままこちらまで歩いてきて──
「え、わ、」
突然に抱きしめてきた。体が、ぎゅっと拘束される。身動きがとれない。身動きが、取れない? ……あれ、私、抱きしめられて?
「ふふふっ、あなたがいつも澄まし顔で達観してるからよ。こうでもしなきゃ私の苦労を分かってくれないんだもの!」
「っ、ちょっとくれあ、近い……! いいから離して」
「離さないよ! 今日という今日は分からせてあげるんだから。シュシュタンとマシュタンも協力して!」
「分かったでシュ!」
「え、シュシュタン……⁉︎ ま、マシュタン! 協力しちゃ、だめ」
「……どうしようかしら、まったく。まあ、いいわ。今日は少しくらいふざけてもいいでしょ!」
「え、マシュタンまで」
くれあに加えて、シュシュタンとマシュタンまでもがくっついてくる。とうとうくすぐったくなってきた。……ああでも、まだ最後の希望が、
「ロ、ロイ……助けて」
「え、俺⁉︎」
俺もなにも、あなたしかいない。うん、でも、ロイなら大丈夫だ。彼はなんだかんだ公平な判断を下してくれて──
「えー、どうしよ。んじゃ、俺も抱きしめたほうがいい?」
「なんでそうなるのよ」
彼は、遠慮気味にそんなことを言った。否、遠慮気味とは言ったが、この様子のロイは普通にやる。むしろ、なんだか楽しそうだ。
まったく、くれあに対してはめっきり照れるクセに、私に対しては問題ないらしい。……しくじった。普段からもう少し照れさせておけば、こうはならなかった。
「ロイくん! やっちゃって!」
「やるでシュ!」
「やりなさい!」
「よっし、任された」
「えっ、ロイ、本当に? 私にも少しくらい照れる甲斐性とかは、」
「ないっ!」
「…………。……そう。もう好きにして」
私は、もはや諦めた。こうなればもう、しばらく私はくれあたちの抱き枕になる外ないのだろう。あつい。くるしい。うっとうしい。
──あれ、でも、
なんだろう。やっぱりどこか懐かしいような。そんな温かさがあった。
ああ、そうだ。“当時は”まるで面倒くささしか感じなかったが、今思えばこれも、なんだかとても温かくなって──
「…………ああ、そういうこと」
薄暗く、静まり返った部屋。一切の音もしない、夜の静寂。
朝でもないのに、よもや目が覚めるとは。カーテンの隙間から外を眺めようものの、依然として月がきらめいていた。
布団に顔を埋めようにも、あまり匂いはしない。それはそうだ。お風呂に入って、ここで寝て、朝になれば去る。その繰り返しなのだから。昔のような生活感はもはや存在せず、ただ寝るためだけに存在しているような小部屋、と言ってもいい。
とても、冷たい。
「……るる、か?」
ふと、そんな声が耳に入る。今となっては、唯一頼れる…………いや、違う。唯一、心から仲間だと思える存在だ。
「マシュタン」
「珍しいわね。こんな時間にどうしたの、大丈夫──って、あらっ」
「マシュタン」
なんだか無性に抱きしめたい気分になった。いつも抱きしめてはいるけれど、今は、無性に。
「ふふ、もう、るるかったら。怖い夢でも見たの?」
私が甘えようとも、マシュタンは笑顔で受け入れてくれる。こうして、心配してくれる。……ああ、でも、一つ訂正が必要だ。
「ぜんぜん怖い夢じゃないわ。むしろ、とても懐かしい夢を見たの」
そう、なんて懐かしい夢。在りし日の温もりはもうないけれど、このような形で再び懐かしめるのならば、あるいは──
「ふぅん。でもそれが、“怖い夢”じゃないの?」
──あるいは、なんなんだろう。
やはり、マシュタンは鋭い。伊達に占いの妖精をやってないと思う。
これは、素晴らしく懐かしい夢じゃない。
どちらかといえば、恐ろしく懐かしい夢だ。
「……うん。そうかも。そういう意味では、あるいは怖い夢かもしれない」
だって、そうだ。私はあの頃の幸せな日々が好きで、だけど、今の私の計画が成功してしまった暁には、その幸せな日々は絶対に戻ってこなくなる。
もう決別はしたつもりでいたけれど、やっぱり私も人間らしかった。でも、思えばおかしくもない話だ。私はずっと怖かったのかもしれない。
あれから彼女と会うのを恐れて、あの洋菓子店への訪問を控えめにした。代わりに彼を通わせて、様子を確認させたりもしていたのだ。彼はそれを幸せだと言っていたけれど、でも、きっと何も感じないわけじゃない。
──ああダメだ。考えれば考えるほど、より一層に考えてしまう。これは、ダメなやつだ。
「もう、ねる」
「そう、おやすみ。あと明日、ロイに会いに行きましょうか」
ふと、マシュタンがそんなことを告げた。
「……別にいい。私にはマシュタンがいればそれで十分」
「嘘よ。ロイに会いたいのは言わずもがな。本当はあなた、あの頃のくれあにも会いたいのでしょう?」
「そんなわけないでしょ」
思わず、強く否定する。私にそんな無責任なことを考える権利はない。
「ないったら、ないから」
「……そう。まあ良いわ。ロイにはもう連絡しといたから、明日の昼ごろね」
「えっ、マシュタン? どうして勝手にっ、というか、今は深夜で」
「もう返信きたわよ。全然大丈夫だって。ほら、せっかくなんだから久しぶりに話せばいいじゃない。あの頃のあなたを覚えている、貴重な友達なんだから」
そう言って、マシュタンは携帯の画面を見せてくる。
そこには、
『全然おっけーだよ。俺も久々にるるかと遊びたかったから!』
本当に、彼は私に対しては、なにも変わっていない。随分軽い言葉を使ってくるものだ。メール越しでも伝わる相変わらずの元気さだった。なんだか、途端に心が軽くなった気がした。
「……わかった。決まっちゃったものは、仕方がないわね」
「ふふ、そうね! 決まっちゃったものは、ね」
心なしか嬉しそうにするマシュタンを、私は再び抱きしめるのだった。
本編のストーリー進めてると、どうしても全話にはくれあを登場させられないのよ。だからそういう回は、こうして過去編なり番外編なり挟んで、そこでイチャつかせることにしました。我が社は「一話一くれあ」をモットーに執筆しております。