帆羽くれあヤンデレ概念 作:あわわ〜ぜ
はい。本小説のタイトルは「帆羽くれあヤンデレ概念」でごさいます。畢竟するに、今話がまさに本懐となります。数日間お付き合い頂きありがとうございました。ヤンデレによってロイくんが監禁されるので最終回となります!(大嘘)
修羅の場といってもそれは、単に戦火が広がり阿鼻叫喚がひしめくような、そんな地獄絵図ばかりを指し示すものではないと思う。
「あのぉ、くれあさん。話せばわかると思うんです」
俺は思うのさ。30年前のキューバ危機が話し合いで解決できたんだから、きっと大体の個人的争いなんかはそれで解決できるってね。
「うーん、そうかな? まあ一応、話は聞こうかな。うん、むしろ聞きたいな。すっごく、その口から聞かせてもらいたい。ちなみに今、私は悲しい」
──俺も、絶対くれあが悲しむようなことはしないから。
俺は自分が言ったことをはっきりと覚えている。とりあえずこの場で首を掻っ切りたい。いかんせん、刃物がない。
さて、くれあはあくまでも理性的だった。うん、そこはやっぱりすごい子だ。でもね、それって逆に恐ろしいよね。
とりあえず、これは誤解だ。くれあを悲しませた時点で俺が100悪いのは先刻承知だが、それはそうと、俺とるるかは本当にそんな関係じゃないのだ。誤解のあるまま自決するわけにもいかないだろう。
「な、なあ、るるか。ここは一つ、君からも口添えを」
「……私? どうして?」
るるかはなんだか、まるで他人事のような澄まし顔で聞き返してきた。いやどうしてってさ、君の友人のロイが死にそうなんですけど。ちょっと助けて欲しいんですけど。これが無理なら、俺はもう腹を切るしかない。でも、それは出来るだけ避けたい。
……くっ、こうなったら!
「今度いくらでもアイス奢るから! もういくらでも奢っちゃうから!」
俺は最終手段を使った。大丈夫、これは依頼だ。るるかは依頼には真面目に取り組んでくれるんだ。きっと、頼れる弁護人になってくれる。
「ふぅん、そう。まあ、それなら承知」
期待通り、彼女はすぐに頷いてくれた。やっぱり、彼女は優しい。
「……マジでありがと、ほんとに」
「ん」
るるかは頷いて、おもむろに俺の方へと歩いてきた。ああ、もしやぶん殴ってくれんのかな。そりゃありがてぇな。スターレインでも目潰しでも腹パンでも、なんでも潔く受けてやるさ。
そうして、
彼女は、一歩、二歩、三歩と、徐々に俺への距離を詰めてきて、そして──
「──…………は?」
頬にそっと、口付けをした。
…………………。
…………。
……え?
「え、えっ、……え、…………え?」
「それじゃ、くれあへの言い訳……頑張ってね」
聞いたこともないほどに蠱惑的な声。耳元で囁くように一言。引き留める間も、聞き返す間もなく、さっさと去っていった。
「……え。」
そうして、場には二人だけが残った。
くれあは彼女を、追いかけようとはしなかった。注目することすらもなかった。終始ずっと、俺の顔を、ひたすらに見つめていた。
「…………ロイ、くん」
「──っ」
彼女に呼ばれて、はっとして、息を呑む。彼女は怒るでも驚くでもなかった。なんだか、ただただ寂しそうだった。
うん、
「話せばわかる」というセリフで有名な某内閣総理大臣は、結局、不幸にも助からなかったと言う。つまるところ、あのセリフは幻想だ。話せばわかるなんて虚構だし、そもそも命を脅かされてる側が偉そうに言えることなんかじゃない。
でも、俺は違うんだろう。くれあは優しいから。きっと「問答無用」なんて言わない子だ。
言い訳はある。多分、弁解の余地もある。でもね、
こんなこと、いつまで続けるんだろうか。
見たか。今の、くれあの表情を。
仕方ないことでもさ。誤解でもさ。ありゃ、ないだろ?
彼女なら許してくれる? いやいや、そもそも最初から俺に許しなんぞないわけだ。もう既に、いつかマシュタンの言った「取り返しのつかない」ところまで来ちゃってんだからさ。
ああ、
突然だが、俺はくれあが好きだ。愛している。らいくじゃなくて、らぶだ。くれあのためなら死んでもいい。くれあを悲しませるくらいなら、こっちから死ぬ。でも、俺が死んだらきっと、彼女は悲しむだろう。
でも、やっぱりさ、こういう些細な悲しみを与えてしまうのも、なんだかもう嫌だろう。本当なら少しも悲しませたくはない。誤解を抱かせたくもない。そんなことになるくらいなら、やっぱりきっぱり死んだほうがマシじゃあないか。俺なら、ちまちました悲しみのがよほど辛い。突然訪れる永遠の別れは、大きな悲しみを呼ぶけれど、時間が経てばなんとか立ち直れる。これは本当の本当に、本当だ。
ってことでさ、
「ごめん俺、死ぬわ」
それは顕現して間も無く……否、顕現するよりも先に、一気に距離を詰めてきたくれあによって、俺の手が払われた。
「っ、くれあ、お前」
「それがなんなのか、私には分からないけどさ。多分ダメなやつだって、わかる」
彼女は毅然とした様子で言った。
……へえ、なにさ。やっぱお前のきらめきは侮れないのな。でも、
「悪いが、もう無理なんだ」
俺は走り出した。
さあ、死のう!
見る前に飛べ! プランAは失敗! ならばプランBだ! ここから一番効率悪く苦しんで死ねる場所はどこだ! もう俺はダメだ! 生きてるのも厭わしい! 死んでやる!
俺はパティスリーチュチュとは逆方向にひたすら進む。彼女はパティシエ服でビニール袋を持っていた。きっと買い出しなのだろう。仕事中なら、彼女も追いかけては来れないはずだ。
しかし、
「逃がさないっ!」
「は⁉︎」
めっちゃダッシュで追いかけてきた。なんで⁉︎ あの真面目なくれあが、仕事を放棄してまで追いかけてくるだとお⁉︎
「なんで追いかけてくんだよ! 仕事中だろ⁉︎」
「そんなことどうでもいい! 今のあなたを放っておけるわけないでしょ!」
「別に死ぬとか冗談だし!」
「嘘だっ! さっきのあなた、ほんとに死のうとしてた! ……絶対、絶対逃さないんだから!」
くれあは全くスピードも落とさずに追ってくる。くそっ! 一応は一般人だろ? なんでそんな動き慣れてんだよ。足速いなオイ! こいつが速く動いてると嫌なこと思い出すんだよ!
内心で悪態をつく俺だが、しかしこちらも雑魚ではない。商店街を抜けて入り組んだ裏路地に入ると、〝奥の手〟を使って大きなゴミ箱の影に身を隠した。
へへっ、これなら流石のアイツもわかるまい!
そして五秒ほど息を潜めていると、一つの駆けるような足音が通り過ぎていく。やったぜ。出し抜いた。俺の勝ちだ。これで苦しんで死ねる。
そうして俺は、ふんふんと鼻歌を歌いながら路地裏を抜けようとして、
「ねぇ」
「……⁉︎」
後ろから腕をぎゅっと掴まれた。もう離さんと言わんばかりに、そのまま背中に抱きつかれた。途端に彼女の温もりが伝わってきた。でも、こいつは通りすぎたはずで、
「……くれあ、お前どうして」
「私のきらめきが言っていたの。ロイくんは、あっちにはいないって」
彼女は曇りなきまなこで言った。それは確かに、曇りなきまなこではあったけど、でも、
「はは、なんだよお前、ぜーんぜんきらめきの目、してないじゃねーか」
彼女は、目に涙を浮かめていた。余計、死にたくなる。
ああ、ホントにさ、
マジでこれで記憶ないとか、ホントにどういう了見だよ? 運動神経もきらめきも健在なのにさ。俺のために泣けるのにさ。どうしてだよ。ちくしょうめ。最悪のクソみたいな世界だ。なんでくれあなのさ。別に他のやつでも良いだろ。本当なら俺だってさ、こんな馬鹿な真似、しないで済んだのにさ、
なんて、今更何を考えても無駄だろう。ここまで見据えての、るるかの行動なんだろうな。やっぱりあいつは味方じゃない。所詮は協力者の範疇だ。
「……わかったよ。観念する」
「うん。じゃあ少し、お店で話そっか」
俺が体の力を抜くと、くれあは優しく微笑んだ。
それは、いつもの笑顔だった。別に冷たくなんてない。別に曇ってなんていない。別に嬉しそうでもない。別に楽しそうでもない。全部大好きな彼女の笑顔の中でも、ことさらに俺が好きな、普通の笑顔だった。
本当に、俺は彼女のことが大好き過ぎて、どうしようもないんだと思う。
⚡︎──⚡︎
「正直、お店に閉じ込めちゃいたい」
「……え? 今なんて?」
「……あっ、声にでちゃってた。──な、なんでもないよ! ロイくん。とりあえずお話ししよっか!」
くれあは誤魔化すように両手を振った。ここはパティスリーチュチュ、だが、もはやそこに客は一人もいなかった。店長が閉店にしたのだ。
要するに、
おはなしならパティスリーチュチュ! 予約受付中! ってね。
さて、こうしてあの後連行された俺は、案の定の二者面談をさせられていたわけである。
……てか、今すっげぇ不穏なこと聞こえた気がしたんですけ、気のせいですかね? 気のせいじゃないね。流石の俺もわかるよ。鈍感系でも難聴系でもないしね。俺は至って普通さ。
てか、何気に客のいないパティスリーチュチュは初めてかも。何だか新世界だね。
俺が慣れないように店内をきょろきょろ見渡していると、くれあから一つ目の質問が飛んできた。
「それで、どうして死のうとしたのかな」
……おお、いきなりデカいの投げてくんね。容赦ねぇや。でも答えは一つ。
「俺がくれあを悲しませたからです!」
「嘘だ」
「嘘じゃありません」
「ううん、絶対に嘘……とは言わないけれど、それだけじゃないでしょ」
「それだけですよ」
「嘘だよね?」
くどい! 流石のくれあもしつこいよ! まあしつこくても可愛いから良いけど!
でもね、本当に嘘じゃないんだよ? 俺、くれあに辛い想いさせたり迷惑かけたりするくらいなら自分で死ぬもん! 今回だってそうさ!
「……まあ、それはとりあえずいいよ。今なにを聞いても、無駄な気がするから」
くれあはやや寂しそうな声で言う。
うんうん、ごめんね。これ以上は口を割らないよ。万が一思い出しちゃったらいけないからね。でもそういう寂しい顔見てると俺も死にたくなるな。やっぱさっき死んどきゃ良かったかな。……なあんて、嘘ぴょん。今の俺にもう死ぬ気はない。これはマジだ。さっき死のうとしてたやつが何を言うんだって話だけど、マジのマジだ。なにせ、
「それはそうと、くれあさん。この手、そろそろ離してほしいんです」
そう、手だ。俺が死ぬのを諦めた理由。この手だ。柔らかくて温かい。もう離さないって感じだ。俺ももう離れない。離れないから、そろそろ手は離してほしい。一人こっちを覗き見してる店長の手前、流石に恥ずかしいよ。……てかあの人なにしてんだ。
まあ、いっか。店長ならいっか。
なんか超嬉しいことに、くれあと俺は、今手を繋いでいるのだ。わざわざ四人席で隣合いながら、片手をね。いわゆる恋人繋ぎってやつだ。くれあと恋人とか夢のようだけどね。
「……えっと、嫌……だった、かな?」
くれあは緊張を紛らわすように唇を湿らせると、僅かに顔を赤くして、流し目だけで聞き返してきた。
「いや、マジで別に嫌なんてことは全然毛頭も寸毫もないんだけどさてかむしろめっちゃ幸せだし逆にある意味で死にたいというか俺のような塵芥がこんな良い思いをしてしまって良いのかと天壌無窮の自己嫌悪に苛まれつつあ────はっ!」
俺は目を覚ました。危ない、危ない。とてつもなく可愛い生き物を前にして理性がなくなるところだったぜ。
でも、嫌ではない。絶対に。
「……別に、本当に嫌とかじゃないからね。でもさ、ほら、いきなりじゃん? ちょっと理由が知りたいといいますか」
「っ、あ、そうだよね。理由だよね! うん。えっとね、……私、ずっとあなたのモノになれたら良いなって思っているのだけれど、それが無理そうだから、もうあなたを私のモノにするしかないのかなぁって考えちゃって…………るのは冗談で、ただロイくんの手を握ってたい気分なの全然変な意味はなくて本当の本当にそれだけよ?」
「うん、そっかぁ。嬉しいよ。俺も、ただくれあの手を握ってたい気分だな」
「……え、そ、そうかな! えへへっ、ロイくんも嬉しいんだね、そうよね、私もすごく嬉しい。手とか、ずっと握ってたい気分なの」
どこか不安そうにしていたくれあは、たちまちほわっと柔らかな笑顔で頷く。
……わお。これ、まじ可愛い。なにそれ。俺もう身も心もくれあのモノなんですけど。やっぱもうお家とかお店に閉じ込められてもいいかも。くれあに監禁されるなら本望だよ。
もはや幸せを超えた幸せの境地にいた。このままずっと、こうしていたい。そんな夢心地に身を委ねる俺だったが、
「でもね、それはそうと、」
「……うん?」
突然くれあが仕切り直すようなことを言い出したので、俺は彼女を見る。
すると、
「ロイくんとるるかさんのこと、まだ聞かせてもらってないよね?」
「あ」
今度こそ、まるでアイスのように冷たい笑顔を浮かべたくれあが、さっきより一層強く、俺の手をぎゅっと握っていた。
完全に、忘れて、いました。
そういえば俺は罪人だったんだ。くれあがあまりに良くしてくれるから忘れかけてた。絶対忘れちゃダメなのに。やっぱ俺死刑だろ。
「ねえ、今また物騒なこと考えたよね」
「考えてないよ?」
「嘘。私のきらめきが「わかったわかったから。そうですよ考えてましたよ」……やっと素直になってくれたわね」
まったく敵わん。もう俺は弁解とかしないぞ。
「……まあ、一つだけ。ほんの一つだけ確認させてほしいの」
「え、一つだけ?」
しかしながら、くれあは想像以上に平静で、真剣に口を開いた。
「うん、一つだけ。これだけ、知りたい。……ロイくんとるるかさんは、別に恋人同士というわけじゃないのよね?」
と、そんなことを聞いてきた。そんなの、言うまでもない。
「そりゃそうだ。本当に一度もそんなことはなかった。さっきの件を言い逃れしようなんて思わないけど、確かに恋人じゃあない」
「……そっか。じゃあ、今回の件は不問にします」
くれあは少し安心したような微笑を浮かべて、そういった。あまりに、あっけなかった。本当にそれだけでいいのだろうか。
と、俺が考えていると、
「ただし、」
くれあはまた俺の正面に向き直って、はっきりとした声色で続けて、
「来週末、私とデートをしてもらいます!」
そんなご褒美みたいなことを言い出したのである。
なんかまだ普通に続きます。罷り間違ってロイくんが生き延びてしまったからです。
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