運命の織り手とアルゴー   作:兼永一真

1 / 1
プロローグ
リブート


雲一つない晴天の下、俺は自作ハンモックに揺られている。

 

海沿いで眺めが良いからとハンモックを設置してみたがなかなかいい。一仕事終えた体に吹く潮風の心地よさについ意識を落としそうになる。

 

が、見知らぬ人間が近づいてきていることを感じ、意識を引き戻す。足音の間隔からして多分女だな

 

「ーー何の用かな?レディ」

 

「コガミと申します。少々よろしいでしょうか」

 

凛とした声に顔を軽く上げ、相手を見る。

 

肩にかけた長めの編み込みに白い布地に金の装飾の付いたチャイナドレス。黒のフェイスベールに顔の下半分が覆われてて表情はよく分からんが、まぁ悪い人間ではなさそうだ

 

夜鳥安楽(やとりあらく)だ」

 

俺と接触してきたってことはある程度、少なくとも名前ぐらいは知ってるだろうが、取り敢えずの自己紹介だ

 

「あなたにお話を聞きたく参りました」

 

「何の話だ?」

 

「タイムズへと寄稿したあの記事の事ですよ」

 

「あの記事がどうした?」

 

確かに1か月前に寄港したが経験に基づいたものだからそんな変な内容でもないと思うんだがな

 

「記事の内容云々ではなく、共同執筆者の井東誠二氏についてです。」

 

「あぁ、あいつ。最近会ってないがどうかしたのか」

 

居酒屋で意気投合して、共同で執筆したんだよな。中々気の合う男だった。最近連絡取れてないがその関係か?

 

「失踪しました。恐らくは死亡したと考えられています」

 

「は?」

 

ーー曰く、巷で頻発している失踪事件。に巻き込まれたらしい。

 

「裏には黒き夜闇の子らという組織が関わっています。彼らについては多くの事が謎に包まれていますが、彼らが創世記における暗黒世界の回帰を目的としていることが判明しています」

 

 

この世界の宗教は大きく3つに分かれる。ディーテ教、ヘレ教、ターナー教。その違いは各宗教における創世記の記述である。

 

太古の昔、光と闇との戦いが激化する中、外より来たアセムという者が暗黒世界と人間世界とを分かち、長きにわたる戦いに終止符を打った。

それを祝した宴の際、「最も美しき女神へ」と書かれた黄金が会場に投げ入れられた。

そこにいた三人の女神ーー力の女神、知恵の女神、美の女神ーーはそれを自らに相応しいものとして要求し、その審判をアセムが担うことになった

 

力の女神は地上最高の権力、知恵の女神は戦の勝利、美の女神はもっとも美しい女性、をそれぞれ約束した。

結果、アセムは美の女神を選んだ。

 

ーーというのがディーテ教のものである。ヘレ教では力の女神が、ターナー教では知恵の女神が選ばれたことになっている。

 

故にヘレ教の領域ではかなりの権威主義だし、ターナー教の領域では能力主義である。かと言えば今俺の居るディーテ教の領域はルッキズムという訳でもない。宗教事情は複雑怪奇だ

 

 

「創世記の内容をあてにしてんのか?訳わかんねぇな」

 

「それについては同意します。ですが、宗教とはそういったものでしょう?」

 

「まぁそうだな。この世界でそれを言うのはどうかと思うが」

 

実際この世界の人口の9割超は3つの宗教のどれかには入信している。何しろどっかには入信していないと面倒なわけで、俺みたいな変わり者くらいしか無宗教の人間はいない。

比較的無宗教に寛容なディーテ教の領域内でもそこそこめんどくさいし、ほかの領域で無宗教やってるやつの気が知れん

 

「まぁ協力くらいはしてやるよ」

 

「感謝します」

 

 

 

俺の住んでいる海沿いの一軒家から少し離れた住宅街。一階にコンビニのある下駄箱マンションの前の歩道。ここが最後に補足された場所らしい

 

「あそこの監視カメラにこの道を走り去る様子が映っていました。ですがそれ以外の姿は確認されていません」

 

「なるほど」

 

生憎、ここのコンビニは24時間営業じゃないらしく、深夜2時という時間も相まって目撃者は0。

何で走ってたのかは分からないが少なくとも散歩ではないことは確かだ。なにしろあいつは運動嫌いでビール腹だったからな。俺は、まぁ普通だ。少なくとも腹筋くらいは割れてる

 

何か感じないかと感覚を研ぎ澄ましてみるが、何も感じない。こういう場所だとなんかは感じるんだけどな

 

「そういや気になってたことがあるんだがいいか」

 

「答えられる範囲でなら」

 

「分かった。それじゃ、あんた何者?」

 

「探偵です」

 

想定していた回答の一つではある。ここら辺の警察がいくら着崩した制服をしてるからってそんな恰好で警察を名乗っていたらはっ倒してた

 

ーーにしたって疑問はある。あいつには妻子がいなかったはずだ。それにあいつは一人っ子だと言ってたし、親との仲は最悪と言っていい。なら、だれが依頼したんだ?

 

「依頼人ってだれだ?」

 

「ーー詳しくはお話しできませんが、彼に金を貸していた者から、とだけ」

 

答える気は無しと、まぁいい。初対面で名乗んなかった時点で多分、探偵じゃないだろうし、そうなると必然的に諸々もただの嘘だろうからな。

 

「ん?」

 

なんかを感じた。周囲を見渡すが俺たち以外は誰もいない

 

「どうかしましたか?」

 

「なぁ、そこのマンションの住人は調べたか?」

 

「えぇ、ですが怪しい人物は1人も」

 

一応、見上げるが何も見えない。見えないほどの上空に居る存在はさすがに感知できない。なら、下か

 

「あの監視カメラってどこまで映る?」

 

「あそこの角までです」

 

「なら、その奥か」

 

走り出し、角を曲がったところに見ると、当たり前にマンホールがある

 

手首の糸疣(いといぼ)から発射した糸をマンホールの蓋貼り付けて引っ張り、取り外す

 

「下水管に何か心当たりが?」

 

追いついてきたコガミがそう問いかけてくる。確証は無い、ほぼ勘だ。でも、俺は自分の勘を何より信じている

 

 

 

臭いはまぁまぁ酷い、しかも懐中電灯持ってねぇし。仕方なくスマホのライトをつける

 

「なかなかな匂いですね。それで、ここに手がかりが?」

 

「さぁな。あくまで勘だから」

 

言った瞬間に何かが聞こえた。これは..............足音?

 

「何か見つけましたか?」

「ここら辺に俺たち以外の誰かがいる」

 

曲がり角を右に曲がったところで誰かが居た。すぐさま糸を発射し、拘束する

 

「彼は?」

 

「知らん。だが、ただの作業員じゃなさそうだ」

 

長い黒ローブに身を包み、フードで顔の上半分がすっぽりと覆われている。個性ってものをとことん排除したなんとも不気味な格好だ

 

そいつにコガミが近づき、首元をめくると変なアクセサリーが現れる。

 

「これは、彼らの特徴の一つです。この首飾り、そしてこの首飾りを模したタトゥーが彼らの体には彫られています」

 

そう言って左の袖をめくると確かにタトゥーが彫り込まれていた。しかし、なんか見覚えがあるな

 

「首飾りを見せてもらっても?」

 

「えぇ、構いませんが」

 

首飾りを受け取り、それを凝視する。

 

円形のフレームの内側にアーモンド形の紅いガラスがはめられている。

そしてフレームの外側に紅い羽根?が4枚付いている

 

ーーやっぱ、見覚えがあるなこれ

 

「なにか、見覚えが?」

 

「あぁ、いや、なんだろうな..............そうだ!あれだ。妹のベッドに上から吊るされてたドリームキャッチャー?ベッドメリー?とにかくそんな感じの奴に似てる」

 

「妹さん、いたんですね」

 

「あぁ、まぁね」

 

別にわざわざ語ることもないだろうし、特に話す気もない。ただ、その微妙な雰囲気を察したのかそれ以上は何も言ってこなかった

 

「あいつって尋問とかしなくていいのか?」

 

磔にされてる信者を指さしてそう聞く。

 

「吐かないので無駄です」

 

「そうか。じゃ、ここで始末しておくか」

 

 

 

周辺の壁を叩きながら音の反響を確かめる。奥に空間があれば.......

 

「ーーどうかされました?」

 

「見つけた。多分、この先に空間がある。ぶち抜くから下がってろ」

 

「なら、私がやります」

 

は?と思ったのも束の間、グリーンの光を手から放ち壁が吹き飛ぶ。予想通り奥には空間があった

 

「この音だ、すぐに来るぞ」

 

「えぇ、ですから手早く始末しましょう。戦闘は?」

 

「出来る。じゃあ行くぞ」

 

奥の空間は下水道と同じような無機質な打ちっ放しコンクリート、って雰囲気じゃない。少なくとも最低限の居住性を感じる。

 

「そうら、おいでなすったぞ!」

 

コガミはどこからともなく矛を取り出す。矛の刃は金色で、それ以外は木製って感じだ

 

「そんな長物で大丈夫か?」

 

「大丈夫です。問題ありません」

 

コガミは襲い掛かってきた信者共を矛で突くようにして倒している。確かにそうすれば長物のリーチを生かしたままこんな閉所でも扱える。

 

「はぁ、嫌になるね全く」

 

振り下ろされたバットを躱し、足を払って転倒させて糸で地面に拘束する。次いで跳びかかってきた奴を殴り飛ばし、拘束。敵の一人に糸を引っ付けて振り回し、10人くらいをまとめてノックアウトする

 

「これで片付いたな」

 

「あなた、ギフテッドだったんですか?」

 

「ーーそうだ」

 

ギフテッド、神様からの贈り物(ギフト)を持った者。まぁ俺みたいな特殊能力を持った奴らの事だ

ちなみにこれを神からの祝福だとか言って祝われた者、セレブレットと呼ばれることもあるが俺はその呼び方が嫌いだ。こんな力は人によっては呪いになりうる。

 

ーー結局、着払いで送られてきたドライカブトムシだろうが手編みのマフラーだろうが贈り物は贈り物だ。だから俺はギフテッドと呼ぶことにしている

 

 

廊下の奥には両開きの扉がある。何かがあるとすればこの奥だろうな

 

「今更だが援軍とかいないのか?」

 

「彼らの逃げ足の速さから考えるのならこのまま突入するのが合理的です」

 

「OK。じゃ突っ込むぞ」

 

ドアを蹴破り、突入する。

 

中は本当に儀式場って感じだ。吐きそうなほどの血と肉に硫黄の匂い、床に書かれた何らかの儀式陣。どっかで見たような雰囲気だ

 

「ここまで来るとはどんなネズミかと思えば、たった2匹」

 

どっから現れた?黒い服に、紅い肩当てに紅い被り笠。紅い隈取の入った黒い仮面。武器は黒い刀に目のような模様の入った盾..............訳の分からない格好だ

 

「あなたがここのリーダーですか」

 

「答える義務があるのか?」

 

奴はそう吐き捨てる。この発言からして味方ってことは無いな

 

「そりゃそうだ」

 

その言葉と同時に糸を発射するが躱される。すかさずコガミが突きを放つが盾で受け止められる

 

「随分と腕が経つわね」

 

刀でのカウンターを柄の先で受け止め弾き飛ばす。

 

「でも、二対一だろ」

 

「違う。二対二だ」

 

突如、何かが背後から跳びかかってきた。振り下ろされた刀を()()()()()()()()()()()()で弾く

 

「お前は.......」

 

「井東、誠二!?彼がなぜ?」

 

格好が明らかに違うし、何より首飾りをかけてる。それじゃあ、まるで

 

信者共(あいつら)じゃねぇか」

 

「その者は我らによって聖別されたのだ。俗世の欲を払い、我らの同志となった」

 

「同志、ねぇ。操られてるようにしか見えないけど」

 

実際コイツの動きは感染者を増やそうと襲いかかってくるゾンビ、もしくは侵入者へと嚙みつきにかかる番犬、そんな感じに見える。理性ある人間の動きではないな

 

「彼らに操られたのならもう助かりません。速やかな終了を」

 

「俺一応一般人なんだよ?無茶言うね」

 

振り回される刀をガキンガキンと肢で弾きながらそう呟く。助かる見込みがないってだけで知り合いを殺せる一般人が居てたまるか

 

「ま、俺はできちゃうんだけどね」

 

左上の肢で刀を弾き飛ばす。操られた忠犬と言えど、そこに僅かな間が生まれる。

 

ーーそこを逃す俺じゃない

 

畳みかけ、のどを肢で貫く。鈍い感触と生暖かさを感じ、引き抜くと、スプラッタ映画の比じゃないレベルで血が噴き出る

 

ーー結局、()()()()()()()()()()

 

「つけはチャラにしといてやるよ。じゃあな」

 

その場に倒れ込んだ死体にそう呟く

 

 

 

コガミは開けたここでは矛の振り方を変え、薙ぎ払いを織り交ぜる。それを、盾で受け止め、隙を伺い、刀によった攻撃を加えるが、有効打にはならない

 

「これ良い盾だな。貰ってもいいか?」

 

「手癖の悪い蜘蛛だ」

 

糸で盾を絡めとり、そのまま奪った。素材は.......何だ?結構軽いし丈夫だし良い素材だ

 

「このまま畳みかけますよ」

 

矛の動きがさらに苛烈になっていく。奴は盾を失った不利を覆せず、リーチの長いコガミ相手に防戦一方になっている。

 

「だからさ、俺のこと忘れてない?」

 

足を糸で絡めとり、引っ張って転倒させる。すぐさま頭部へと矛が振り下ろされるが刀で受け止められる

 

「じゃあね」

 

糸を発射して刀を絡めとる。刀を奪われた奴は矛を受け止めきれず、真っ直ぐに振り下ろされた矛によって、首が切断された。

 

 

 

 

 

「あいつの家族にはどう説明すんだ?」

 

「元々行方不明だったんですから見つかったが死んでいた。で、終わりでしょう。元々家族仲もよくなかったようですし」

 

同じようなことが何回かあったのか、ドライな考えだ。この一か月起こった行方不明事件の犠牲者の死体が部屋で見つかったらしい。もっともあいつを除けば見るも無残な姿だったらしいが

 

「一つ提案があります。あなたには私たちの仲間になっていただきたい」

 

「何をしろと?」

 

「金の林檎のエピソードは知っていますね?」

 

「あぁ。そりゃもちろん」

 

戦勝を祝う宴で金の林檎を巡って三女神があーだこーだして.......

 

「あの金の林檎とは比喩です。元は4つの黄金の武器であったと考えられています」

 

「黄金の武器?」

 

「えぇ。炎の太刀(ほのおのたち)稲妻の鎖鎌(いなずまのくさりがま)氷の弓(こおりのゆみ)大地の鎚(だいちのつち)。世界中に散らばったそれらを私と共に捜索していただきたい」

 

いつか、占い師の婆さんにいわれた占いを思い出した。

 

 

「あなたの運命に暗雲が立ち込めている」

 

「なら、どうすりゃいい?」

 

心当たりがないわけじゃないし、よく当たると評判の占い師だ。遊び半分で聞いてみた

 

「探すべきものを探せば、暗き過去と未来に終止符を打てる」

 

探すべきものとは何なのか。そう聞いても、いつか分かる時が来る、それまでは知るべきでないと言われ、教えてもらえなかった。

 

その探すべきものが黄金の武器なんだとしたらーー

 

「いいよ。やってやる」

 

ーー答えは一つだ

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。