「それでは、始め!」
イルカの合図と同時に、四人が一斉に動き出した。
「行くぞ、ナルト!」
「おうってばよ!」
キバとナルトは一直線に駆け出す。
その勢いは、まるで嵐だった。
「兄貴。」
シカマルが小さく呟く。
「予定通り?」
『ああ。』
カゲマルは笑みを浮かべる。
『まずは走らせよう。』
「了解。」
二人は迎え撃つことなく後ろへ下がる。
「逃げるなー!」
ナルトが叫ぶ。
「追え!」
キバも勢いよく地面を蹴る。
その姿を見て、イルカが目を細めた。
(逃げている……いや。)
(誘っている。)
---
「兄貴!」
シカマルが横へ跳ぶ。
『右から来る。』
言葉通り、キバが大きく回り込みながら飛び込んできた。
「捕まえた!」
しかし。
キバの拳は空を切る。
「え?」
『今だ。』
カゲマルが一歩踏み込む。
肩を軽く押す。
「しまっ……!」
キバは勢いを殺せず、そのまま転がった。
「ナイス。」
シカマルが短く言う。
『まだ終わってない。』
---
「キバ!」
ナルトが飛び込む。
一直線。
迷いがない。
(やっぱり。)
カゲマルは苦笑する。
『シカマル。』
「うん。」
兄弟は同時に左右へ散る。
「どっちだ!?」
ナルトの視線が泳ぐ。
その一瞬。
シカマルが足を払う。
「うわっ!」
体勢が崩れたナルトを、カゲマルが支える。
ドサッ。
……ではなく。
ふわり。
「……あれ?」
ナルトは尻もちをついただけだった。
「痛くない?」
『試験だからね。』
『怪我をさせる必要はない。』
ナルトは少し悔しそうに唇を尖らせる。
「でも負けたってばよ。」
『またやろう。』
「次は勝つ!」
「俺も!」
立ち上がったキバが拳を握る。
その目に悔しさはあっても、嫌な感情はなかった。
---
「そこまで!」
イルカが手を上げる。
「勝者、奈良カゲマル・奈良シカマル!」
拍手が起こる。
「すげぇ……。」
「兄弟ってあんなに息合うのか。」
「あれ、作戦立ててたよな?」
教室は大きく盛り上がる。
その中で、サスケだけは静かに二人を見つめていた。
(違う。)
(仲がいいだけじゃない。)
(お互いに、次の動きを分かっている。)
初めてだった。
サスケが誰かを見て、「もっと知りたい」と思ったのは。
---
試合終了後。
イルカは四人を呼び止めた。
「みんな、よくやった。」
「特に奈良兄弟。」
「はい。」
『ありがとうございます。』
「二人とも強い。」
「だが、一番評価したのはそこじゃない。」
イルカは穏やかに笑う。
「お前たちは、一度も相手を傷つけようとしなかった。」
「試験は勝つことも大事だ。」
「でも、仲間を思いやる心は、それ以上に大事なんだ。」
カゲマルは少しだけ目を伏せる。
前世では、勝つことばかり考えていた時期もあった。
でも、この世界でシカクやアスマから教わった。
**忍は、誰かを倒すためだけに強くなるんじゃない。**
**守るために強くなる。**
その言葉が、胸に深く刻まれていた。
---
放課後。
校門を出ようとした時だった。
「奈良。」
後ろから声がする。
振り返ると、サスケが立っていた。
「……何?」
『どうした?』
サスケは真っ直ぐカゲマルを見つめる。
「次は、俺とやれ。」
一言だけ。
そう言い残して歩き去っていく。
シカマルが肩をすくめた。
「気に入られたな。」
『どうなんだろうね。』
「ライバルってやつじゃないか?」
カゲマルは夕日に照らされるサスケの背中を見つめ、小さく笑った。
『だったら、全力で応えないと失礼だな。』
そのやり取りを、少し離れた場所でアスマが見ていた。
「……どう成長するかねぇ」
誰にも聞こえないほど小さく呟く。
奈良カゲマル。
うちはサスケ。
二人の出会いは、やがて木ノ葉を支える新たな関係へと変わっていく。
しかし、この時の彼らはまだ知らない。
本当の試練は、アカデミーの外で待っていることを。