「卒業試験まで、一か月。」
イルカは教壇に立ち、生徒たちをゆっくりと見回した。
教室には、いつもの賑やかさはない。
「この一か月は、アカデミー生活の集大成になる。」
「知識も、術も、体術も、今まで学んできたすべてを見せてもらう。」
その言葉に、生徒たちの表情が引き締まる。
「分からないことがあれば、遠慮なく聞け。」
「俺たち教師は、そのためにいる。」
教室に「はい!」という元気な返事が響いた。
だが、一人だけ。
ナルトは机に肘をつき、窓の外をぼんやりと眺めていた。
その横顔を見て、カゲマルは静かに目を細める。
(やっぱり気にしてるか……。)
卒業試験。
ナルトにとって、それはただの試験ではない。
“忍者になれるかどうか”を決める、大きな壁だった。
────────
放課後。
グラウンドでは、多くの生徒が自主練習をしていた。
「もう一回!」
キバが手裏剣を投げる。
「まだ甘い!」
離れた場所では、サスケが黙々と印を結び、変化の術を繰り返していた。
誰よりも正確に。
誰よりも美しく。
その姿は、努力そのものだった。
「兄貴。」
シカマルが木陰へ腰を下ろす。
「やらないのか?」
カゲマルはサスケたちへ視線を向けたまま答える。
「少し休憩。」
「珍しい。」
「見てるだけでも勉強になるからね。」
シカマルは兄の視線を追う。
サスケ。
ヒナタ。
キバ。
チョウジ。
誰もが、自分の課題と向き合っていた。
「兄貴ってさ。」
シカマルがぽつりと呟く。
「人を見るの、好きだよな。」
カゲマルは少し笑う。
「相手を知れば、戦い方も分かる。」
「でも、それだけじゃない。」
シカマルは首を傾げた。
「みんな頑張ってるのを見ると、自分も頑張ろうって思える。」
その言葉に、シカマルは少しだけ照れくさそうに頭を掻いた。
「兄貴らしい。」
────────
その日の帰り道。
夕焼けに染まる演習場で、一人黙々と変化の術を繰り返す少年がいた。
ナルトだった。
「変化!」
白煙が上がる。
だが、変化は途中で崩れ、元の姿へ戻ってしまう。
「くそっ……!」
悔しそうに地面を叩く。
何度挑戦しても、思うようにいかない。
その様子を、カゲマルは木陰から静かに見ていた。
声を掛けようとして、足を止める。
(今は……。)
(励ますより、最後までやらせよう。)
ナルトは立ち上がる。
額から流れる汗を腕で拭い、もう一度印を結ぶ。
「変化!」
失敗。
「変化!」
失敗。
「変化ぁ!」
何度倒れても、立ち上がる。
その姿を見て、カゲマルは自然と笑みを浮かべていた。
「見てたのかってばよ。」
突然、ナルトが振り返る。
どうやら気付かれていたらしい。
カゲマルは苦笑しながら姿を見せる。
「邪魔するつもりはなかったんだけど。」
「気にすんな!」
ナルトは笑った。
だが、その笑顔の奥にある焦りは隠せていない。
「……なあ。」
少しだけ間を置いて、ナルトが口を開く。
「俺さ。」
「本当に卒業できると思うか?」
夕焼けの中で、その言葉だけが静かに響く。
カゲマルはすぐには答えなかった。
前世の記憶が頭をよぎる。
卒業試験。
失敗。
水木。
禁術の巻物。
影分身の術。
すべて知っている未来だ。
だからこそ、軽々しく「大丈夫」とは言えなかった。
ナルトは真っ直ぐカゲマルを見つめている。
答えを待っていた。
カゲマルはゆっくり息を吸い、穏やかに笑う。
「卒業できるかは分からない。」
ナルトの肩が少しだけ落ちる。
「でも。」
カゲマルは続けた。
「諦めない奴が、一番強い。」
「……。」
「俺は、お前が諦めるところを見たことがない。」
「だから、最後まで信じろ。」
ナルトは黙って聞いていた。
やがて、小さく笑う。
「へへっ。」
「ありがとな。」
その笑顔は、さっきまでよりずっと自然だった。
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数日後。
卒業試験前、最後の授業。
イルカは教室の前へ立つ。
「いよいよ明日が卒業試験だ。」
教室に緊張が走る。
「今までやってきたことを信じろ。」
「それだけでいい。」
誰も言葉を発さない。
静かな空気の中、それぞれが胸に想いを抱いていた。
サスケは静かに目を閉じる。
ヒナタは拳を握る。
シカマルは珍しく居眠りをしていない。
ナルトは唇を強く結んでいた。
そしてカゲマルは、窓の外を見つめる。
(いよいよか。)
運命が動き始める日。
知っている未来。
そして、まだ知らない未来。
その境界線が、すぐ目の前まで来ていた。