朝早くから、アカデミーには普段とは違う緊張感が漂っていた。
校門をくぐる生徒たちの表情は、誰もが硬い。
笑顔で話す者もいれば、静かに呼吸を整える者もいる。
卒業試験。
それは、アカデミー生活最後の試練だった。
「おはよう、兄貴。」
シカマルは眠そうに欠伸をしながら歩いてくる。
「珍しく寝坊しなかったな。」
カゲマルが笑うと、シカマルは肩をすくめた。
「今日くらいはな。」
「試験で遅刻したら母ちゃんに殺される。」
「それは間違いない。」
兄弟は顔を見合わせ、小さく笑った。
その様子を見ていたチョウジも、安心したように息を吐く。
「二人が普段通りだと、少し落ち着くね。」
「緊張してるのか?」
「……少しだけ。」
「大丈夫。」
カゲマルは穏やかに微笑む。
「チョウジはちゃんと努力してきた。」
「自信を持っていい。」
チョウジは照れくさそうに頭を掻いた。
「ありがとう。」
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教室へ入ると、いつもより静かだった。
ナルトも騒いでいない。
机に座り、自分の手をじっと見つめている。
その姿に、カゲマルは胸が締め付けられた。
(……始まる。)
知っている未来。
止めたい未来。
それでも。
(まだ動く時じゃない。)
運命を変えるためではない。
ナルト自身が乗り越えるべき壁だからだ。
「それでは、卒業試験を始める。」
イルカの声が響く。
「内容は変化の術。」
教室がざわつく。
やはり、今年も変化の術だった。
「名前を呼ばれた者から別室へ来い。」
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試験は順調に進んでいった。
「秋道チョウジ。」
「合格。」
「犬塚キバ。」
「合格。」
「日向ヒナタ。」
「合格。」
喜ぶ者。
安堵する者。
教室へ戻ってきた生徒たちの額には、木ノ葉の額当てが輝いていた。
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「奈良シカマル。」
シカマルは面倒そうに立ち上がる。
「行ってくる。」
「いつも通りで。」
「それが一番難しい。」
苦笑しながら部屋へ入っていく。
数分後。
「合格。」
イルカの声が聞こえた。
戻ってきたシカマルは、新しい額当てを指先でくるくる回す。
「終わった。」
「おめでとう。」
「兄貴もすぐだ。」
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「奈良カゲマル。」
名前を呼ばれ、カゲマルは静かに立ち上がった。
部屋にはイルカと水木がいる。
「緊張しているか?」
イルカが優しく尋ねる。
「少しだけ。」
「それくらいが丁度いい。」
カゲマルは頷き、静かに印を結ぶ。
「変化。」
白い煙が部屋を包む。
煙が晴れると、そこにはイルカ本人と見分けがつかないほど精巧な変化が立っていた。
ミズキが思わず目を細める。
「……見事ですね。」
イルカも笑顔で頷いた。
「合格だ。」
その言葉と同時に、額当てが手渡される。
金属の冷たい感触が掌に伝わる。
(やっと……。)
前世では叶わなかった夢。
忍としての第一歩。
カゲマルは額当てを見つめ、小さく息を吐いた。
「ありがとうございます。」
イルカは優しく微笑む。
「これからが本当の始まりだ。」
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教室へ戻ると、シカマルが席へ肘をついて待っていた。
「兄貴」
「合格。」
そう言って額当てを見せると、シカマルは満足そうに笑う。
「知ってた。」
「信用されてるな。」
「兄貴が落ちる姿、想像できない。」
その言葉に、二人は笑い合った。
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やがて。
教室の扉が静かに開く。
ナルトだった。
誰も声を掛けない。
額当ては、ない。
うつむいたまま、自分の席へ歩いていく。
教室の空気が凍りついた。
イルカは苦しそうな表情で告げる。
「……ナルトは、不合格だ。」
その一言だけだった。
ナルトは何も言わない。
椅子へ座ることもなく、教室を飛び出していく。
バタン!
勢いよく扉が閉まる音だけが響いた。
カゲマルは無意識に立ち上がる。
追いかけたい。
励ましたい。
そんな思いが胸をよぎる。
しかし、その時。
「奈良。」
イルカが静かに首を横へ振った。
「……。」
カゲマルは拳を握り締める。
イルカの表情を見れば分かった。
一番苦しいのは、イルカ自身なのだ。
再び席へ座る。
だが、心は落ち着かなかった。
窓の外へ目を向ける。
遠く、小さく見えるブランコ。
そこへ向かって歩いていく金色の髪が見えた。
(ナルト……。)
夕日が、校庭を赤く染めていく。
その長い影は、一人ぼっちだった。
そして、その影を遠くから見つめる者がもう一人。
廊下の奥。
誰にも気付かれない場所で、ミズキが静かに笑みを浮かべていた。
「……頃合いか。」
その小さな呟きは、誰の耳にも届かない。
運命の歯車は、静かに回り始めていた。