夜の森に、冷たい風が吹き抜ける。
カゲマルはクナイを構えたまま、ミズキとの間合いを測っていた。
一歩。
また一歩。
不用意には踏み込まない。
相手は中忍。
正面から勝てる相手ではない。
「ふん。」
ミズキが鼻で笑う。
「随分と落ち着いてるじゃないか。」
次の瞬間、地面を蹴った。
速い。
アカデミー生とは比べものにならない速度だった。
「っ!」
カゲマルは身体をひねり、紙一重で苦無をかわす。
その勢いのまま距離を取る。
ガギィン!
クナイ同士がぶつかり、火花が散る。
腕に重い衝撃が走る。
(重い……!)
力でも経験でも敵わない。
それでも、退くわけにはいかなかった。
(あと少し。)
(あと少しだけ、時間を――。)
ミズキの蹴りが腹部をかすめる。
勢いを殺しきれず、カゲマルは地面を転がった。
「カゲマル!」
ナルトが叫ぶ。
「来るな!」
すぐに立ち上がり、カゲマルはイルカの方へ視線を向ける。
イルカは地面に膝をつき、肩から血を流していた。
それでもナルトを見て、弱々しく笑う。
「……ナルト。」
「お前は……それを持って逃げろ。」
「え……?」
「俺のことはいい……お前は、忍者になれ。」
ナルトの手が震える。
「先生……なんで……」
イルカはゆっくりと首を振る。
「お前は……落ちこぼれなんかじゃない。」
「俺の……大切な教え子だ。」
その言葉に、ナルトの目が揺れた。
(……先生。
俺を……認めてくれた。)
その間にも、カゲマルは必死に時間を稼いでいた。
ミズキの攻撃を受け流し、かわし、間合いを切る。
だが、限界は近い。
肩で息をし、額から汗が流れ落ちる。
「終わりだ。」
ミズキが巨大な手裏剣を構えた。
「まずはお前から始末してやる!」
風を切る音が響く。
巨大な刃が一直線に飛んでくる。
避けきれない。
そう判断した瞬間だった。
足元の影が、ふっと揺れた。
まるで風とは違う何かに引かれるように。
影がわずかに伸び、手裏剣の軌道をほんの僅かだけ逸らす。
ザシュッ――!
刃は肩をかすめ、木の幹へ突き刺さった。
「……今のは。」
ミズキが目を細める。
カゲマル自身も息を呑んだ。
(影が……?)
だが考える暇はない。
ミズキは再び武器を構えていた。
「運が良かったな。次は外さねぇ。」
その時だった。
「もう、やめろってばよ。」
静かな声が森に響く。
ミズキが振り返る。
そこにはナルトが立っていた。
先ほどまでの怯えた表情はない。
真っ直ぐ前を見据える青い瞳。
その背には、揺るぎない覚悟が宿っていた。
「イルカ先生が認めてくれた。」
「俺は……落ちこぼれなんかじゃねぇ!」
ナルトは巻物を強く握りしめる。
「俺は、忍者になるんだってばよ!!」
ドンッ――!!
白煙が森一帯を包み込んだ。
「なっ!?」
煙が晴れる。
そこにいたのは、一人のナルトではなかった。
十人。
百人。
さらに、その奥にも。
木々を埋め尽くすほどのナルト。
無数の影分身が、森を覆い尽くしていた。
「な……なんだ、これは……!」
ミズキの顔から余裕が消える。
影分身たちが一斉に笑う。
「行くぞぉぉぉぉ!!」
地面が震える。
何百という足音が一斉に響き渡る。
「うわぁぁぁぁ!!」
拳。
蹴り。
頭突き。
容赦のない連撃がミズキへ降り注ぐ。
「ぎゃあぁぁぁぁ!!」
最後の一撃で、ミズキの身体は大きく吹き飛び、そのまま木へ激突した。
静寂が戻る。
影分身が次々と煙になって消えていく。
その中心で、ナルトだけが肩で息をしていた。
イルカはゆっくりと立ち上がる。
そして、額当てを手にナルトの前へ歩み寄った。
「ナルト。」
「……先生。」
イルカは優しく微笑む。
「卒業、おめでとう。」
そう言って、自分の額当てを外し、ナルトの額へ結び直した。
その手は震えていた。
傷の痛みではない。
嬉しさからだった。
ナルトは何も言えない。
ただ、目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「……ありがとう。」
その一言だけだった。
少し離れた場所で、その光景を見つめるカゲマルは静かに笑った。
(これでいい。)
(これが、ナルトの最初の一歩だ。)
その時、遠くから複数の気配が近づいてくる。
暗部。
そして木ノ葉の忍たちだった。
シカクの報告を受け、火影が手を回していたのだ。
駆けつけた忍たちは、倒れたミズキを素早く拘束する。
「終わったか……。」
カゲマルは夜空を見上げ、小さく息を吐いた。
忍としての道は、今日始まったばかり。
そして、この夜を境に。
木ノ葉の運命は、静かに新たな一歩を踏み出すのだった。
班分けについて。カゲマルがどの班にするか迷ってます。皆さんの意見をお聞かせください
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