~転生したら奈良シカマルの双子の兄でした~   作:ざいぜん

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第一話 奈良家の長男

木ノ葉隠れの里の朝は、穏やかだった。

 

朝露に濡れた森。

 

鹿の鳴き声。

 

風に揺れる木々。

 

その静けさの中で、奈良家には二人の男児の笑い声が響いていた

 

兄――奈良カゲマル

 

弟――奈良シカマル

 

同じ日に生まれ、同じ家で育ちながらも、二人の性格は幼い頃から少しずつ違い始めていた。

 

だが、それはまだ誰も気づかない、小さな違いに過ぎなかった。

 

 

 

 

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奈良家の朝は、静かだ。

 

少なくとも、本来ならそうである。

 

「カゲマル! シカマル! いつまで寝てるんだい!」

 

家の奥まで響くヨシノの声に、二つ並んだ布団が同時にわずかに揺れた。

 

先に目を開けたのは、兄のカゲマルだった。

 

まだ幼い顔立ちのまま、ぼんやりと天井を見上げる。

 

窓から差し込む朝日は柔らかく、障子越しに部屋を薄く照らしていた。

 

隣では、シカマルが布団を頭までかぶっている。

 

「……朝からうるせぇな」

 

布団の中から、幼い声とは思えないほど気怠げな呟きが漏れた。

 

カゲマルは横を向き、弟の丸まった布団を見つめる。

 

「起きた方がいいぞ」

 

「めんどくせぇ」

 

「母さん、あと三十秒で来る」

 

「なんで分かるんだよ」

 

「足音」

 

廊下の向こうから、規則的な足音が近づいてくる。

 

二十八。

 

二十九。

 

カゲマルが心の中で数えていると、勢いよく襖が開いた。

 

「起きな!」

 

「うわっ!」

 

ヨシノに布団を剥ぎ取られ、シカマルが情けない声を上げた。

 

カゲマルはその光景を見ながら、すでに静かに身体を起こしている。

 

「ほら、カゲマルはもう起きてるじゃないか」

 

「兄貴と比べんなよ……」

 

「同じ日に生まれたんだから、比べられて当然だろ」

 

「そういう問題じゃねぇだろ……」

 

シカマルはぶつぶつ言いながらも、渋々起き上がった。

 

そんな弟の様子を見て、カゲマルは小さく笑う。

 

この世界に生まれて、すでに五年が経っていた。

 

五年。

 

長いようで、短い。

 

赤ん坊だった頃は自由に動かせなかった身体も、今では問題なく走れる。

 

言葉も覚えた。

 

木ノ葉の里の地理も、奈良家の生活も、少しずつ理解できるようになった。

 

そして何より。

 

隣にいる少年が、確かに自分の弟なのだと実感するには十分な時間だった。

 

奈良シカマル。

 

原作では、面倒くさがりでありながら、二百を超える知能指数を持つ天才。

 

後に、火影を支える軍師となる男。

 

だが、今はまだただの五歳児だ。

 

朝起きることを嫌がり、野菜を残し、昼寝を邪魔されると機嫌を悪くする。

 

それでも、頭の回転の速さはすでに片鱗を見せていた。

 

カゲマルが一つ教えれば、シカマルは十を理解する。

 

反対に、シカマルが見落とした部分を、カゲマルが拾う。

 

双子として育った二人は、似ているようで、少し違った。

 

シカマルは答えに辿り着くのが早い。

 

カゲマルは答えに辿り着くまでの道筋を、多く見つける。

 

その違いに最初に気づいたのは、父であるシカクだった。

 

朝食を終えた後、二人は庭へ出された。

 

庭の中央には、木製の盤が置かれている。

 

盤の上には、白と黒の小さな駒。

 

将棋に似ているが、この世界独自の軍略盤だ。

 

歩兵、斥候、忍、隊長。

 

複数の駒を動かし、相手の本陣を落とす。

 

シカクは縁側に座り、二人を交互に見た。

 

「今日は二人でやってみろ」

 

「またこれかよ」

 

シカマルは露骨に嫌そうな顔をする。

 

「嫌ならやらなくてもいいぞ」

 

「じゃあやらねぇ」

 

「ただし、昼寝はなしだ」

 

「やる」

 

即答だった。

 

カゲマルは無言で黒い駒を取る。

 

シカマルは白。

 

先手はシカマルだった。

 

「始め」

 

シカクの声とともに、シカマルが駒を動かす。

 

迷いはない。

 

最短の手で中央を押さえ、相手の動きを制限する。

 

カゲマルもすぐに応じた。

 

正面からぶつからず、端の斥候を進める。

 

数手後。

 

シカマルが眉をひそめた。

 

「兄貴、それ囮だろ」

 

「どう思う?」

 

「そこに乗ったら、後ろの忍が動く」

 

「だったら乗らなければいい」

 

「でも無視したら、斥候が本陣に近づく」

 

「そうだな」

 

シカマルは頬杖をついた。

 

幼い顔に似合わないほど、盤面を見る目は鋭い。

 

数秒後、白い隊長駒が動いた。

 

カゲマルの斥候を取りに行く。

 

その瞬間、カゲマルは中央の忍を進めた。

 

「ほらな」

 

シカマルが不満そうに言う。

 

「やっぱり囮じゃねぇか」

 

「でも取らないわけにもいかなかった」

 

「めんどくせぇ手を使うなよ」

 

「勝ちたいからな」

 

「兄貴は性格悪いな」

 

「お前に言われたくない」

 

二人のやり取りを聞きながら、シカクは目を細めた。

 

シカマルは盤面を読み切る力が高い。

 

相手の狙いを察知し、最も効率のいい手を選ぶ。

 

一方で、カゲマルは相手に選択を迫る。

 

どちらを選んでも損をする状況を作り、少しずつ逃げ道を奪っていく。

 

天才の質が違う。

 

それは、奈良一族の長として見ても興味深いものだった。

 

盤上の戦いは、三十分ほど続いた。

 

最後は、シカマルの本陣へ黒の忍が入り込んだ。

 

「俺の勝ち」

 

カゲマルが静かに告げる。

 

シカマルは盤面を見下ろしたまま動かない。

 

「……いつからだ」

 

「何が?」

 

「いつから詰んでた」

 

「十手くらい前」

 

シカマルは盤面をもう一度見直す。

 

やがて、深くため息をついた。

 

「十五手前だろ」

 

カゲマルの眉がわずかに動いた。

 

「気づいてたのか」

 

「今気づいた」

 

「なら俺の方が早かった」

 

「でも兄貴は、俺が気づく手を読み違えた」

 

「……確かに」

 

二人はしばらく見つめ合う。

 

そして同時に、盤へ視線を戻した。

 

「もう一回」

 

シカマルが言った。

 

「昼寝は?」

 

「勝ってからする」

 

カゲマルは少し驚いた後、口元を緩めた。

 

「いいぞ」

 

その様子を見ていたシカクは、小さく息を吐く。

 

兄弟仲が悪いわけではない。

 

むしろ、非常に良い。

 

しかし

 

良いからこそ、気になることもあった。

 

シカマルはカゲマルを信頼している。

 

カゲマルもシカマルを大切にしている。

 

ただ、カゲマルの方には時折、妙な距離がある。

 

まるで弟を見ているのではなく。

 

これから先、何が起きるのかを知っている者の目で見ている。

 

五歳の子どもがする目ではない。

 

「カゲマル」

 

不意に呼ばれ、カゲマルは振り返った。

 

「何?」

 

「お前はシカマルをどう思ってる」

 

突然の問いだった。

 

シカマルも盤面から顔を上げる。

 

「なんだよ、それ」

 

「いいから答えろ」

 

カゲマルは少し考えた。

 

答えそのものは簡単だった。

 

天才。

 

未来の軍師。

 

木ノ葉を背負う男。

 

第四次忍界大戦を生き抜き、七代目火影を支える者。

 

だが、それを口にすることはできない。

 

だから、最も素直な言葉を選んだ。

 

「大事な弟だよ」

 

シカマルは気まずそうに視線を逸らした。

 

シカクはさらに尋ねる。

 

「守りたいか?」

 

「うん」

 

「何があっても?」

 

「うん」

 

迷いのない返事だった。

 

シカクはしばらく息子の顔を見つめる。

 

そして、少しだけ厳しい声で言った。

 

「なら覚えておけ」

 

「守ることと、道を決めてやることは違う」

 

カゲマルの表情が固まった。

 

「相手を大事に思うほど、先回りしたくなる」

 

「失敗しないように」

 

「傷つかないように」

 

「危険な場所へ行かないように」

 

シカクは盤上の駒を一つ摘まんだ。

 

「だが、何もかも先に動かしてやれば、そいつは自分で考えなくなる」

 

駒を盤上へ戻す。

 

小さな音が響いた。

 

「お前は頭がいい」

 

「だが、頭がいい奴ほど、他人の人生まで自分の盤面に乗せようとする」

 

「それだけは気をつけろ」

 

カゲマルは何も言えなかった。

 

シカクの言葉は、胸の奥へ深く刺さった。

 

原作を知っている。

 

未来を知っている。

 

誰が傷つき。

 

誰が死に。

 

どこで何が起きるのか。

 

完全ではなくとも、多くを知っている。

 

ならば変えればいい。

 

そう思っていた。

 

ナルトを孤独にしない。

 

サスケを復讐へ走らせない。

 

ヒナタを傷つけない。

 

アスマを死なせない。

 

自来也を死なせない。

 

ネジも。

 

イタチも。

 

できる限り全員を救いたい。

 

そのためなら、自分が先回りして動けばいい。

 

だが、それは本当に正しいのか。

 

未来を知っているという理由だけで。

 

他人の選択を奪っていいのか。

 

「兄貴?」

 

シカマルの声で、カゲマルは我に返った。

 

「どうしたんだよ」

 

「いや」

 

「親父の話なんか真面目に聞かなくていいぞ」

 

「お前も聞け」

 

シカクが即座に言う。

 

「めんどくせぇ」

 

シカマルは再び盤へ向き直った。

 

いつもの気怠げな顔。

 

その姿を見て、カゲマルは少しだけ肩の力を抜いた。

 

「シカマル」

 

「なんだよ」

 

「俺が勝手に決めようとしたら、止めてくれ」

 

「何を?」

 

「いろいろ」

 

「意味分かんねぇ」

 

「それでいい」

 

シカマルは怪訝そうな顔をした後、黒い駒を一つ取った。

 

「兄貴が変なことし始めたら、母ちゃん呼ぶ」

 

「それはやめろ」

 

「一番効くだろ」

 

「否定できないな…」

 

その日の午後。

 

二人は奈良家の裏手にある森へ向かった。

 

奈良一族が管理する森には、多くの鹿が生息している。

 

薬草も豊富で、里の医療を支える重要な土地でもあった。

 

もちろん、幼い二人だけで奥へ入ることは禁止されている。

 

「ここから先は行くなって言われたぞ」

 

カゲマルが立て札を指さす。

 

「行かねぇよ」

 

シカマルは近くの木陰へ座り込んだ。

 

「俺は昼寝するだけだ」

 

「ここまで来た意味あるか?」

 

「家だと母ちゃんに起こされる」

 

「なるほど」

 

非常に合理的だった。

 

カゲマルも隣へ腰を下ろす。

 

木漏れ日が降り注ぎ、草の匂いが鼻をくすぐる。

 

少し離れたところでは、鹿が静かに草を食んでいた。

 

穏やかだ。

 

これから数年後、この里が九尾による傷跡を抱えていることも。

 

うちは一族に暗い影が落ちていることも。

 

今この瞬間だけは、遠い出来事のように感じられた。

 

「兄貴」

 

目を閉じたまま、シカマルが声をかける。

 

「何?」

 

「たまに、変な顔してるよな」

 

カゲマルの心臓がわずかに跳ねた。

 

「どんな顔だ」

 

「すげぇ遠く見てるみてぇな顔」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

シカマルは片目だけ開けた。

 

「何見てんだ?」

 

カゲマルは空を見上げた。

 

青い空。

 

白い雲。

 

風に揺れる葉。

 

未来。

 

そう答えそうになり、飲み込む。

 

「雲かな」

 

「俺も見てるけど、そんな顔にはならねぇぞ」

 

「お前は何も考えずに見てるからだろ」

 

「考えながら雲見る方が変だろ」

 

「確かに」

 

シカマルはまた目を閉じた。

 

やがて、静かな寝息が聞こえてくる。

 

カゲマルは隣で眠る弟を見つめた。

 

まだ幼い。

 

何も知らない。

 

自分が将来、仲間の死を背負うことも。

 

里の軍師になることも。

 

戦争で無数の命を預かることも。

 

カゲマルはそっと手を伸ばした。

 

シカマルの額に落ちていた葉を取る。

 

その時だった。

 

地面に落ちた二人の影が、わずかに揺れた。

 

風のせいではない。

 

カゲマルは息を止める。

 

自分は動いていない。

 

シカマルも眠っている。

 

だが、カゲマルの影だけが、ゆっくりと伸びていた。

 

細く。

 

黒く。

 

まるで手のように。

 

伸びた影は、シカマルの影へ触れる寸前で止まった。

 

「……またか」

 

カゲマルは小さく呟く。

 

これまでにも何度かあった。

 

感情が強く動いた時。

 

守りたいと思った時。

 

怒った時。

 

影が、自分の意思とは関係なく動く。

 

奈良一族の秘術は、印を結び、チャクラを練り、影を操作する。

 

だが、今のカゲマルは何もしていない。

 

そもそも、まだ正式に術を教わってすらいない。

 

それでも影は動く。

 

まるで、カゲマルの感情を読み取っているかのように。

 

「戻れ」

 

小声で命じる。

 

影は反応しない。

 

「戻れって」

 

今度は少し強く言う。

 

すると影は、惜しむようにわずかに震えた後、ゆっくり元の形へ戻った。

 

カゲマルは自分の手のひらを見る。

 

異常。

 

それは理解していた。

 

この力が原作に存在しないことも。

 

奈良一族の通常の影秘術ではないことも。

 

「お前は、何なんだ」

 

足元の影に問いかける。

 

当然、答えはない。

 

しかし。

 

森の奥。

 

大きな木の陰から、その様子を見ている者がいた。

 

奈良シカク。

 

彼は木の幹へ背を預けたまま、目を細めていた。

 

偶然ではない。

 

見間違いでもない。

 

確かに影が動いた。

 

術を教えていない子どもが。

 

印も結ばず。

 

チャクラを練った気配すらなく。

 

「……あり得ねぇな」

 

シカクは小さく呟く。

 

奈良一族の影秘術は、決して単純な術ではない。

 

影へチャクラを流し、自身の影を伸ばし、対象と接続する。

 

繊細な制御と集中力が必要だ。

 

幼児が偶然使えるようなものではない。

 

何より。

 

あの影は、カゲマルが動かしたようには見えなかった。

 

自ら動いた。

 

その表現が最も近い。

 

「……」

 

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