~転生したら奈良シカマルの双子の兄でした~   作:ZAZAI

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第十九話 下忍としての朝

第二十話 忍としての朝

 

翌朝。

 

カゲマルが目を覚ました時、最初に感じたのは肩の痛みだった。

 

「……いってぇ。」

 

布団の中で身体を起こそうとして、右肩に鈍い痛みが走る。

 

昨夜、ミズキの風魔手裏剣が掠めた場所だ。

 

幸い傷は浅かった。

 

医療班からも、数日安静にしていれば問題ないと言われている。

 

それでも、身体のあちこちに残る痛みまでは消えてくれない。

 

中忍との戦闘。

 

ほんの僅かな時間だった。

 

勝とうとすらしていなかった。

 

ただ時間を稼いだだけ。

 

それでも。

 

(……これか。)

 

カゲマルは自分の手を見る。

 

実戦。

 

アカデミーで行ってきた模擬戦とは、何もかもが違った。

 

相手の攻撃には、本気で自分を傷つける意思があった。

 

一度判断を間違えれば死ぬ。

 

昨日、自分は初めてその世界へ足を踏み入れた。

 

怖くなかったと言えば嘘になる。

 

いや。

 

正直に言えば――。

 

(めちゃくちゃ怖かったな。)

 

今になって、指先が僅かに震えた。

 

戦っている最中は考える余裕などなかった。

 

イルカを守る。

 

ナルトが術を覚えるまで時間を稼ぐ。

 

それだけに集中していたから動けただけだ。

 

終わってしまえば、自分がどれだけ危険なことをしていたのか嫌でも分かる。

 

「兄貴。」

 

声に顔を上げる。

 

襖にもたれかかるようにして、シカマルが立っていた。

 

「起きてたのか。」

 

「今起きた。」

 

シカマルは部屋へ入ってくると、兄の肩へ巻かれた包帯を見る。

 

眉間に皺が寄った。

 

「……馬鹿だろ。」

 

「朝一番にそれ?」

 

「父ちゃんから家にいろって言われてた奴が、一人で中忍相手に時間稼ぎして怪我して帰ってきたんだぞ。」

 

「反論できない。」

 

「だろ。」

 

シカマルは大きくため息を吐き、そのまま隣へ腰を下ろす。

 

少しの沈黙。

 

「でも。」

 

シカマルは前を向いたまま言った。

 

「無事でよかった。」

 

小さな声だった。

 

カゲマルは一瞬だけ目を丸くする。

 

「心配してくれた?」

 

「してねぇ。」

 

「今、無事でよかったって。」

 

「うるせぇ。」

 

シカマルは露骨に顔を背ける。

 

その耳が僅かに赤い。

 

カゲマルは笑った。

 

「ありがとな。」

 

「……めんどくせぇ兄貴。」

 

そう言いながらも、シカマルは部屋を出ていかなかった。

 

しばらく二人で黙って座っていた。

 

双子だからといって、すべてを言葉にする必要はない。

 

そんな時間だった。

 

 

朝食の席。

 

予想通り。

 

ヨシノの雷が落ちた。

 

「カゲマル!!」

 

「はい。」

 

「返事だけはいいわね!」

 

目の前で仁王立ちする母に、カゲマルは正座していた。

 

昨夜。

 

負傷した息子が忍たちに付き添われて帰宅。

 

その時点でヨシノの顔は引き攣っていた。

 

シカクから事情を聞いた後も怒りは収まらず、怪我人だからという理由だけで説教が翌朝に延期されていたのだ。

 

「下忍になったばかりで何してるの!」

 

「まだ正式には班も決まってないけど。」

 

「そこじゃない!」

 

「はい。」

 

台所の隅で、シカマルが味噌汁を飲みながら目を逸らしている。

 

助ける気はないらしい。

 

「いい!? 忍者になったからって、命を粗末にしていいわけじゃないんだからね!」

 

ヨシノの声が少し震える。

 

そのことに気付き、カゲマルから笑みが消えた。

 

怒っているだけではない。

 

怖かったのだ。

 

息子が帰ってこない可能性を。

 

それを理解した瞬間、胸の奥が痛んだ。

 

「……ごめんなさい。」

 

今度は、真面目に頭を下げる。

 

ヨシノはしばらく黙っていた。

 

やがて、大きく息を吐く。

 

「分かればいいのよ。」

 

そして、カゲマルの頭を軽く叩いた。

 

「でも。」

 

ヨシノの手が、そのまま髪を撫でる。

 

「無事で帰ってきてくれて、よかった。」

 

「……うん。」

 

その光景を、シカクは新聞越しに眺めていた。

 

新聞を畳む。

 

「カゲマル。」

 

「はい。」

 

「昨日の判断については、あとで話す。」

 

その声はいつも通りだった。

 

だからこそ怖い。

 

カゲマルの頬が引き攣る。

 

「……それ、怒ってる?」

 

「どうだろうな。」

 

「父さん。」

 

「飯食え。」

 

シカマルが横でぼそりと呟く。

 

「兄貴、終わったな。」

 

「他人事みたいに。」

 

「実際、他人事だし。」

 

「忍具袋渡した共犯者だろ。」

 

シカマルの箸が止まった。

 

「……それは黙っとけ。」

 

「母さん。」

 

「兄貴。」

 

「嘘嘘。」

 

久しぶりに、奈良家の朝にいつもの空気が戻った。

 

 

その日の午後。

 

カゲマルとシカマルは、忍者登録書の作成のために役所へ向かっていた。

 

正式な忍としての登録手続き。

 

額当てを受け取ったとはいえ、それはまだ「下忍としての第一歩」に過ぎない。

 

「面倒くせぇな……これ。」

 

シカマルが書類を眺めながらぼやく。

 

「一回書けば終わりだろ。」

 

「その一回が面倒なんだよ。」

 

カゲマルは苦笑しながら、自分の名前を記入していく。

 

奈良カゲマル。

 

その文字を見て、少しだけ実感が湧いた。

 

(本当に、忍になったんだな。)

 

窓の外では、里の子供たちが走り回っている。

 

その中に、金髪の小さな影が見えた気がした。

 

(……今頃、ナルトは木ノ葉丸と会ってる頃か。)

 

原作の流れを思い出す。

 

火影の孫・木ノ葉丸との出会い。

 

あの騒がしくて、どこか似た者同士の衝突。

 

(あいつ、また変なこと教えてるんだろうな。)

 

カゲマルは小さく笑った。

 

ナルトは、ああいう出会いを重ねて強くなっていく。

 

自分が介入しすぎる必要はない。

 

そう思いながらも、どこか胸の奥が温かかった。

 

「終わったぞ。」

 

シカマルの声で我に返る。

 

「早いな。」

 

「さっさと帰るぞ。」

 

「はいはい。」

 

二人は書類を提出し、夕暮れの里を並んで歩く。

 

影が長く伸びていく。

 

「なぁ兄貴。」

 

「ん?」

 

「これから、ずっとこんな感じか?」

 

「どんな感じだよ。」

 

「任務とか、班とか。」

 

カゲマルは少しだけ考える。

 

「さあな。」

 

「でも、悪くはないだろ。」

 

シカマルは鼻を鳴らした。

 

「面倒が増えるだけだ。」

 

「それでも?」

 

「……まぁ。」

 

少し間を置いて。

 

「退屈はしなさそうだな。」

 

カゲマルは笑った。

 

「それで十分だろ。」

 

 

次の日

 

カゲマルとシカマルはアカデミーへ向かっていた。

 

額には、木ノ葉の印が刻まれた額当て。

 

昨日までなら、それを身につけるだけで少し気恥ずかしかったかもしれない。

 

だが今は、不思議な重みを感じる。

 

「似合ってる?」

 

カゲマルが尋ねる。

 

「普通。」

 

「弟なんだから、もうちょっと褒めろよ。」

 

「めんどくせぇ。」

 

シカマルは額当てを首に巻いていた。

 

いかにも本人らしい。

 

道を歩く途中、何人かの里人がこちらを見る。

 

その視線は昨日までとは少し違っていた。

 

アカデミーの生徒ではない。

 

木ノ葉の忍。

 

まだ最下級とはいえ、正式な忍者になったのだ。

 

ふと。

 

前方から聞き慣れた大声が響いた。

 

「カゲマルー! シカマルー!」

 

振り向く必要もなかった。

 

金髪の少年が全速力でこちらへ走ってくる。

 

「見ろってばよ!」

 

ナルトは二人の前で勢いよく止まり、自分の額を指差した。

 

そこには。

 

イルカから譲り受けた額当てがあった。

 

「へへっ!」

 

これでもかというほど誇らしげな笑顔。

 

カゲマルも自然と頬を緩める。

 

「似合ってるじゃん。」

 

「だろ!?」

 

「昨日から何回見せてんだよ。」

 

シカマルが呆れたように言う。

 

「いいだろ! やっと手に入れたんだぞ!」

 

ナルトは額当てを撫でる。

 

本当に大切な宝物を扱うように。

 

昨日まで。

 

他の生徒たちが持っている額当てを、ナルトは遠くから眺めていた。

 

それを今、自分自身が身につけている。

 

その意味を考えれば、このはしゃぎようも当然だった。

 

「イルカ先生は?」

 

カゲマルが尋ねる。

 

「病院!」

 

「お前は?」

 

「もう平気だってばよ!」

 

どう見ても寝不足だった。

 

目の下には薄く隈がある。

 

それでも、表情はこれまで見たことがないほど晴れやかだ。

 

「そういえば。」

 

ナルトがカゲマルの肩を見る。

 

「怪我、大丈夫なのか?」

 

「このくらいなら。」

 

「……。」

 

ナルトの顔が曇る。

 

「昨日さ。」

 

珍しく、小さな声だった。

 

「俺のために戦ってくれたんだろ?」

 

「違うよ。」

 

カゲマルは即答した。

 

「え?」

 

「俺が守りたかったから動いただけ。」

 

ナルトが瞬きをする。

 

カゲマルは肩をすくめた。

 

「それに、最後にミズキを倒したのはお前だろ。」

 

「……まあな!」

 

一瞬で胸を張る。

 

立ち直りが早い。

 

「俺の影分身、すげぇだろ!」

 

「すごかった。」

 

「だろ!?」

 

「調子に乗るなよ。」

 

シカマルが横から釘を刺す。

 

「なんだよシカマル!」

 

二人が言い合い始める。

 

その横で、カゲマルは自分の足元へ視線を落とした。

 

陽射しを受けて伸びる影。

 

昨日。

 

確かに動いた。

 

自分の意識とは無関係に。

 

いや。

 

(無関係……なのか?)

 

あの瞬間。

 

自分は強く願っていた。

 

守りたい。

 

まだ倒れるわけにはいかない。

 

その感情に、影が応えたように見えた。

 

幼い頃から何度かあった現象。

 

感情が強く揺れた時だけ、影が不自然な動きを見せる。

 

(陰遁……。)

 

父も以前、自分の影を見て何かを感じ取っていた。

 

だが。

 

まだ答えは出ない。

 

考え込んでいると、シカマルに肩を小突かれた。

 

「兄貴。」

 

「ん?」

 

「置いてくぞ。」

 

いつの間にか二人は先へ進んでいた。

 

「ああ。」

 

カゲマルは足元から目を離す。

 

今はまだいい。

 

焦る必要はない。

 

自分は、ようやく下忍になったばかりなのだから。

 

 

教室へ入る。

 

そこには、すでに見慣れた顔が揃っていた。

 

キバは赤丸を頭に乗せながら何かを自慢している。

 

チョウジは菓子を食べている。

 

ヒナタは静かに席へ座り。

 

サクラとイノは相変わらずサスケの近くで火花を散らしていた。

 

そしてサスケは。

 

騒がしい教室の中、一人窓際で頬杖をついている。

 

カゲマルとシカマルが入った瞬間。

 

その黒い瞳がこちらへ向いた。

 

一瞬だけ。

 

カゲマルの肩の包帯へ視線が落ちる。

 

「……怪我したのか。」

 

珍しく、サスケの方から声を掛けてきた。

 

「ちょっとね。」

 

「何があった。」

 

「色々。」

 

カゲマルが笑って誤魔化す。

 

サスケは少しだけ眉を寄せた。

 

だが、それ以上は聞いてこなかった。

 

「そうか。」

 

それだけ言って視線を窓の外へ戻す。

 

けれど。

 

ほんの一瞬だけ。

 

その目に何かが宿ったのを、カゲマルは見逃さなかった。

 

興味。

 

あるいは。

 

競争心。

 

(……負けず嫌いだな。)

 

思わず笑いそうになる。

 

やがて。

 

ガラッ。

 

教室の扉が開いた。

 

イルカが入ってくる。

 

肩には包帯が巻かれていた。

 

「イルカ先生!」

 

真っ先にナルトが立ち上がる。

 

「もう大丈夫なのかってばよ!?」

 

「お前がそれを言うのか。」

 

イルカは苦笑した。

 

その視線が、一瞬だけカゲマルへ向く。

 

二人とも怪我人。

 

視線が合い、何となく苦笑し合った。

 

イルカは教壇へ立つ。

 

そして。

 

かつて自分が教えていた生徒たちを見渡した。

 

全員の額や腕、首。

 

それぞれの場所に、木ノ葉の額当てがある。

 

教師として。

 

これ以上に嬉しい光景はないのだろう。

 

イルカの表情が柔らかくなる。

 

「改めて。」

 

教室が静かになる。

 

「卒業、おめでとう。」

 

誰も騒がなかった。

 

それぞれが、その言葉を噛み締めている。

 

「今日からお前たちは、アカデミーの生徒じゃない。」

 

イルカの声が教室へ響く。

 

「木ノ葉隠れの里に所属する、一人の忍だ。」

 

カゲマルは額当てへ触れる。

 

「ただし。」

 

イルカが少しだけ意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「下忍になったからといって、すぐ好き勝手に任務へ行けるわけじゃない。」

 

教室がざわつく。

 

ナルトが真っ先に手を挙げる。

 

「じゃあ何すんだってばよ!」

 

「これからお前たちは三人一組の班に分かれる。」

 

その瞬間。

 

教室の空気が変わった。

 

「三人一組?」

 

「誰と?」

 

「サスケ君と一緒がいい!」

 

「私も!」

 

「おいおい……。」

 

一気に騒がしくなる。

 

カゲマルの隣で、シカマルが深いため息をついた。

 

「始まった。」

 

「だね。」

 

三人一組。

 

担当上忍。

 

第七班。

 

第八班。

 

第十班。

 

知っている名前が、次々と頭に浮かぶ。

 

そして。

 

カゲマルは静かに目を細めた。

 

原作には存在しなかった、自分。

 

奈良カゲマル。

 

自分がここにいる以上。

 

人数も。

 

班の構成も。

 

担当する上忍も。

 

同じままであるはずがない。

 

(ここからだ。)

 

これまでの未来は、まだ大きく変わってはいなかった。

 

けれど。

 

ここから先。

 

自分の存在そのものが、未来へ影響を与え始める。

 

イルカが名簿を手に取った。

 

「静かにしろ。」

 

ざわめきが少しずつ収まっていく。

 

「それじゃあ――」

 

イルカの指が、名簿の一番上へ触れる。

 

カゲマルは無意識に息を止めた。

 

「これから、班分けを発表する。」

 

忍としての最初の仲間。

 

そして。

 

最初の師。

 

新しい物語が、始まろうとしていた。

 




忍者登録書の登録部分を入れるように修正しました。

班分けについて。カゲマルがどの班にするか迷ってます。皆さんの意見をお聞かせください

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