~転生したら奈良シカマルの双子の兄でした~   作:ZAZAI

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第二十五話 予定になかった知らせ

 

波の国。

 

その名前を聞いてから、どうにも落ち着かない。

 

「カゲマル」

 

「……」

 

「カゲマル」

 

「……ん?」

 

顔を上げると、スズが呆れたようにこちらを見ていた。

 

「三回呼んだ」

 

「あ、ごめん」

 

「珍しいな」

 

隣からレンが覗き込んでくる。

 

「考え事?」

 

「ちょっとね」

 

「昨日からそんな感じじゃね?」

 

カゲマルは曖昧に笑った。

 

「そう?」

 

「そう」

 

スズが即答する。

 

誤魔化せていないらしい。

 

朝。

 

第十一班は里の西側にある倉庫街へ来ていた。

 

今日の任務は、商店組合が管理する資材倉庫の整理。

 

壊れた木箱を運び出し、中身を確認して、使えるものと廃棄するものを仕分ける。

 

いつものDランク任務だ。

 

レンはすでに大きな木箱を一つ抱えている。

 

「それで?」

 

「何が?」

 

「昨日、火影様のところにいた奴ら」

 

カゲマルの手が僅かに止まった。

 

「第七班?」

 

「そう、それ」

 

レンが木箱を地面へ置く。

 

「ナルトって奴、友達なんだろ?」

 

「うん」

 

「心配なの?」

 

何気ない問いだった。

 

カゲマルは手元の木箱へ視線を落とす。

 

(心配……か)

 

間違ってはいない。

 

昨日見た、酒瓶を手にした老人。

 

タズナ。

 

彼が第七班の前に現れた以上、この先に何が待っているのかカゲマルは知っている。

 

表向きは、橋造りの達人を波の国まで送り届けるCランク任務。

 

だがタズナは依頼時に事情を隠しており、その道中では霧隠れの抜け忍――鬼兄弟が襲ってくる。

 

その先に待つのは、桃地再不斬。

 

昨日出発したのなら、すでに襲撃を受けている可能性もある。

 

「……カゲマル?」

 

レンの声で意識が戻る。

 

「いや」

 

カゲマルは箱を持ち上げた。

 

「大丈夫だよ。カカシ先生がいるから」

 

それは自分自身へ言い聞かせる言葉でもあった。

 

はたけカカシは木ノ葉でも屈指の上忍。

 

原作でも、第七班は波の国の任務を乗り越えた。

 

未来を知っているからといって、何もかも先回りして介入する必要はない。

 

何より、ナルトたちには自分たちで経験し、掴まなければならないものがある。

 

「先生」

 

スズの声がした。

 

倉庫の入口で木箱へ腰掛けていたゲンマが顔を上げる。

 

「何だ」

 

「これ」

 

スズが古びた帳簿を手にしていた。

 

「依頼書だと、ここの箱は全部廃棄って書いてあります。でも中身はまだ使えそうです」

 

ゲンマが一瞥する。

 

「依頼人に確認」

 

「やっぱり」

 

「勝手に捨てるなよ」

 

「分かってます」

 

そのやり取りを聞いて、カゲマルも目の前の仕事へ意識を戻した。

 

今は、自分たちの任務がある。

 

「俺、依頼人呼んでくる」

 

「じゃあ俺これ運んどく!」

 

レンが別の箱を持ち上げる。

 

カゲマルはその箱を見る。

 

「それは?」

 

「廃棄!」

 

「確認した?」

 

「……」

 

レンの動きが止まった。

 

スズが無言で見つめる。

 

「……今します」

 

「成長した」

 

「その言い方やめろ!」

 

カゲマルは思わず笑った。

 

────────

 

昼前。

 

任務は順調に進んでいた。

 

最初の頃なら、レンは片っ端から箱を運び、スズは一人で確認作業へ没頭し、カゲマルは二人へ細かく指示を出していただろう。

 

今は違う。

 

「レン、そっち終わった?」

 

「ああ! 次どこ?」

 

「こっち手伝って」

 

「了解」

 

スズの一言でレンが動く。

 

カゲマルは離れた場所で帳簿と箱の番号を照らし合わせながら、必要な時だけ二人と情報を共有する。

 

簡単な仕事とはいえ、三人で動くことには随分慣れてきた。

 

ゲンマは少し離れた場所から、その様子を黙って眺めていた。

 

特にカゲマル。

 

今日は妙に上の空ではあるものの、以前のように何でも自分で決めようとはしなくなった。

 

任せる。

 

必要なら聞く。

 

仲間の判断を待つ。

 

少しずつではあるが、変化している。

 

「先生!」

 

レンが呼んだ。

 

「これ終わったら昼ですか?」

 

「終わったらな」

 

「よっしゃ!」

 

「あと十二箱」

 

「……昼遠くないですか?」

 

「近づけろ」

 

「鬼!」

 

ゲンマが小さく笑う。

 

その時だった。

 

屋根の上で、微かな音がした。

 

ゲンマの表情が変わる。

 

ほぼ同時に、カゲマルも誰かの気配に気付いた。

 

次の瞬間。

 

一人の木ノ葉忍が倉庫の屋根へ降り立つ。

 

額当てからして中忍。

 

かなり急いできたのか、呼吸が僅かに乱れていた。

 

「不知火ゲンマさん」

 

ゲンマが立ち上がる。

 

先ほどまでの気の抜けた雰囲気が消えた。

 

「何だ」

 

「火影様から召集です」

 

「今?」

 

「はい」

 

中忍は一度、第十一班の三人を見る。

 

「班員も全員」

 

空気が変わった。

 

レンが箱を下ろし、スズも顔を上げる。

 

カゲマルの胸に嫌な予感が走った。

 

Dランク任務の途中で、担当上忍だけでなく下忍三人まで呼び戻す。

 

普通ではない。

 

「内容は?」

 

ゲンマが尋ねる。

 

中忍は僅かに迷った。

 

「ここでは」

 

それ以上、ゲンマは聞かなかった。

 

「分かった」

 

三人へ視線を向ける。

 

「作業止めろ」

 

「任務は?」

 

スズが尋ねる。

 

「別班へ引き継ぐ」

 

「そんな急ぎなんですか?」

 

レンの問いにも、ゲンマは答えない。

 

「火影邸へ戻るぞ」

 

その声音に、冗談は一切なかった。

 

────────

 

道中。

 

四人は屋根から屋根へ飛び移りながら、火影邸を目指した。

 

普段より明らかに速い。

 

レンもさすがに口数が少なかった。

 

「なあ」

 

走りながら、レンが小声で尋ねる。

 

「何だと思う?」

 

「分からない」

 

そう答えながらも、カゲマルの頭には一つの可能性が浮かんでいた。

 

(波の国……?)

 

第七班が昨日里を出たのなら、鬼兄弟との遭遇はすでに起きていてもおかしくない。

 

カカシが任務内容と実際の危険度の食い違いを把握し、木ノ葉へ報告した。

 

それならば、この召集にも説明がつく。

 

原作ではそのまま護衛を続けた。

 

だが、この世界まで完全に同じとは限らない。

 

カゲマルが転生した時点で、本来存在しなかった出来事や人間関係は少しずつ増えている。

 

第十一班も、その一つだ。

 

前を走るゲンマの背中を見つめる。

 

(もし本当に波の国なら……)

 

自分たちが。

 

第七班のいる場所へ向かうことになるかもしれない。

 

胸が大きく鳴った。

 

────────

 

火影執務室。

 

「第十一班、到着しました」

 

ゲンマの声と共に扉が開く。

 

室内には三代目火影と数人の中忍。

 

そして机の上には、地図が広げられていた。

 

火の国の東。

 

海を隔てた小国。

 

それを見た瞬間。

 

カゲマルの予感は確信へ変わった。

 

(……波の国)

 

「来たか」

 

ヒルゼンの表情に、昨日のような穏やかな笑みはない。

 

「まずは任務途中に呼び戻したことを詫びよう」

 

「構いません」

 

ゲンマが答える。

 

「状況は?」

 

ヒルゼンは一枚の書状を手に取った。

 

「今朝、はたけカカシから伝令が届いた」

 

その名前に、レンとスズが僅かに反応する。

 

「昨日、第七班が護衛対象と共に波の国へ向かう途中、襲撃を受けた」

 

レンの眉が寄った。

 

「襲撃?」

 

「敵は二名。霧隠れの抜け忍――通称、鬼兄弟」

 

やはり。

 

カゲマルは黙ったまま続きを待つ。

 

「第七班は?」

 

スズが尋ねた。

 

「全員無事じゃ」

 

その言葉に、室内の空気が僅かに緩む。

 

カゲマルも無意識に息を吐いた。

 

「ただし、問題はそこではない」

 

ヒルゼンの声が低くなる。

 

ゲンマが目を細めた。

 

「Cランク任務に忍が出てきた」

 

「そうじゃ。依頼内容に虚偽がある可能性が高い」

 

Cランクは、基本的に忍同士の戦闘を想定していない。

 

そこへ明確な殺意を持った抜け忍が現れた。

 

任務の危険度が、申告された内容と合っていない。

 

「カカシは?」

 

「依頼人から事情を聞いた上で、現地判断で護衛を続行しておる」

 

そこはカゲマルの知る流れと同じだった。

 

「ただし、敵が忍を雇っている以上、さらなる戦力が投入される可能性がある。そこでカカシから、念のため増援を一班寄越してほしいと要請が来た」

 

レンとスズが地図を見る。

 

カゲマルには、なぜ自分たちが呼ばれたのか分かった。

 

ヒルゼンがゲンマへ視線を向ける。

 

「不知火ゲンマ」

 

「はい」

 

「第十一班に、第七班の増援を命じる」

 

一瞬。

 

室内が静まり返った。

 

「……俺たちが?」

 

レンが思わず口にする。

 

「そうじゃ」

 

だがヒルゼンの表情は変わらない。

 

「ただし、勘違いするな。これはこれまでのDランクとは違う。任務中に忍との交戦が発生する可能性がある」

 

レンの拳が僅かに握られた。

 

スズも表情こそ変えないが、先ほどまでより呼吸が浅い。

 

「本来なら、経験の浅い下忍班を増援へ回す案件ではない。じゃが現在、すぐに動かせる上忍班には限りがある」

 

上忍不足。

 

ゲンマが第十一班の担当になった理由と同じだ。

 

里には常に多くの任務があり、実力のある忍が都合よく待機しているわけではない。

 

「ゲンマ」

 

「はい」

 

「現地での判断はお前に任せる。危険度が想定以上なら、下忍三名を交戦させる必要はない」

 

「分かってます」

 

ゲンマは即答した。

 

「こいつらを戦わせるために行くわけじゃない」

 

レンが何か言いたそうな顔をしたが、今回は黙っていた。

 

「第七班と合流して状況を確認。必要なら護衛人数を増やし、波の国まで送り届ける。それで?」

 

「うむ。任務はCランク相当として扱う。だが情報がさらに違っていた場合は――」

 

「撤退判断はこちらで」

 

「頼む」

 

短いやり取り。

 

しかし。

 

普段の軽い調子とは違うゲンマを見て、カゲマルは改めて理解する。

 

これは。

 

本当の任務だ。

 

「出発は?」

 

「準備が整い次第」

 

「了解」

 

ゲンマが三人へ振り返った。

 

「聞いたな」

 

レン。

 

スズ。

 

そしてカゲマル。

 

「一時間後、東門。必要な忍具を揃えろ」

 

いつもの気だるげな先生ではない。

 

一人の忍としての、不知火ゲンマの目だった。

 

「はい」

 

レンが答える。

 

「はい」

 

スズも続く。

 

「……はい」

 

カゲマルも頷いた。

 

波の国。

 

鬼兄弟。

 

その先にいる桃地再不斬。

 

原作では存在しなかった第十一班が、そこへ増援として向かう。

 

知っている物語から、少しずつ道が外れ始めている。

 

(でも)

 

カゲマルは拳を握った。

 

未来を知っているからといって、自分がすべてを解決できるわけではない。

 

ナルトたちが自分で経験し、掴むべきものまで奪うつもりもない。

 

ただ。

 

もし自分の知る未来より悪い方向へ進むのなら。

 

その時は――。

 

「……カゲマル」

 

隣からスズに呼ばれ、顔を上げる。

 

「何?」

 

「怖い顔してる」

 

「え?」

 

レンもこちらを見た。

 

「緊張してんの?」

 

少し迷ったあと。

 

カゲマルは苦笑する。

 

「まあ、少しは」

 

「俺も」

 

意外な答えに、カゲマルが瞬きをする。

 

「そうなの?」

 

「当たり前だろ。初めて忍と戦うかもしれねぇんだぞ」

 

レンはそう言ってから、拳を差し出した。

 

「でも、三人いるし」

 

スズが付け加える。

 

「先生もいる」

 

「それもそうだな!」

 

「戦力としては先生が一番」

 

「現実的すぎない!?」

 

いつものやり取りに、カゲマルの肩から僅かに力が抜ける。

 

差し出されたレンの拳へ、自分の拳を軽く合わせた。

 

スズはそんな二人を見て、ほんの少しだけ口元を緩める。

 

「行こう」

 

カゲマルは言った。

 

「波の国へ」

 

一時間後。

 

第十一班は初めて、里の外へ向かう。

 

これまでのDランクとは違う。

 

忍との交戦すらあり得る、初めての実戦任務。

 

そしてカゲマルにとっては。

 

知っているはずの物語が、知らない未来へ変わり始める最初の一歩でもあった。

 

班分けについて。カゲマルがどの班にするか迷ってます。皆さんの意見をお聞かせください

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