~転生したら奈良シカマルの双子の兄でした~   作:ZAZAI

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第二十八話 次に備える

 

タズナの家に着いた頃には、空はすっかり夕暮れ色に染まっていた。

 

「ただいま」

 

玄関を開けたタズナの声に、奥から女性が姿を見せる。

 

「お父さん!」

 

タズナの娘、ツナミ。

 

彼女は父親の無事を確認してほっとした表情を浮かべ、その後ろに続く忍たちの人数を見て目を丸くした。

 

「……増えてない?」

 

「増援じゃ」

 

タズナが簡単に答える。

 

「木ノ葉から追加で来てもろうた」

 

ツナミの視線が、ゲンマ、カゲマル、レン、スズへ順番に移る。

 

「そうなんですね。どうぞ、狭いところですけど」

 

「お邪魔します」

 

カゲマルたちが頭を下げる横で、カカシがふらついた。

 

「カカシ先生!」

 

サクラが慌てて支える。

 

「大丈夫大丈夫」

 

「全然大丈夫に見えません!」

 

「ちょっとチャクラ使いすぎただけだから」

 

ゲンマが横からカカシの腕を取った。

 

「そのちょっとで倒れそうな奴が言うな」

 

「ゲンマ、扱い雑じゃない?」

 

「自分で歩けるだけありがたいと思え」

 

「増援ってもっと優しいものだと思ってたよ」

 

「期待する相手を間違えてる」

 

そんな二人を見て、レンがカゲマルへ小声で聞く。

 

「仲いいの?」

 

「多分」

 

「そう見える?」

 

スズが首を傾げる。

 

「仲悪かったら、もっと丁寧なんじゃない?」

 

「それはあるかも」

 

ゲンマが振り返った。

 

「聞こえてるぞ」

 

三人が黙った。

 

────────

 

カカシはすぐに横になることになった。

 

ツナミが用意した部屋で布団へ寝かされ、サクラが心配そうに傍へ座る。

 

ナルトはというと、

 

「ほんとに大丈夫なんだよな!?」

 

何度目か分からない確認をしていた。

 

「死なないよ」

 

カカシが布団の中から答える。

 

「たぶん」

 

「たぶん!?」

 

「冗談」

 

「紛らわしいってばよ!」

 

カゲマルはそのやり取りを眺めながら、少しだけ肩の力を抜いた。

 

原作通り、カカシは写輪眼の使用で消耗している。数日はまともに動けない。

 

そして、その間に再不斬も回復する。

 

時間があるようで、ない。

 

ゲンマが壁へ背を預けた。

 

「それで、詳しく聞かせろ」

 

空気が変わる。

 

カカシも軽い表情を消した。

 

タズナ、ナルト、サスケ、サクラ、第十一班。全員が集まる。

 

「まず鬼兄弟」

 

カカシが説明を始めた。

 

タズナを狙った二人の霧隠れの抜け忍。

 

Cランク任務では、本来想定されない相手。

 

その時点で、依頼内容に虚偽があることが確定した。

 

カカシはタズナを問い詰めた。

 

そして、波の国がガトーに支配されていること。

 

タズナが橋を完成させれば、国が経済的な自立へ近づくこと。

 

その橋を潰すため、ガトーが忍を雇ったこと。

 

全てを聞いた。

 

「それでも任務を続けた」

 

ゲンマが言う。

 

責める声ではない。確認だった。

 

「ああ」

 

カカシは頷く。

 

「依頼人の事情も聞いた。それに、一度ここまで関わった以上、放置するのもね」

 

ゲンマはタズナを見る。

 

「本来なら、依頼内容を偽った時点で契約違反だ」

 

タズナが視線を落とした。

 

「……すまん」

 

「謝る相手は俺じゃない」

 

ゲンマの視線が、第七班へ移る。特にナルトたちへ。

 

「こいつらだ」

 

タズナは少し黙った。

 

ナルトが口を開く。

 

「もういいってばよ」

 

「ナルト」

 

サクラが見る。

 

「だってここまで来たんだろ?」

 

ナルトは鼻の下を擦る。

 

「だったら最後までやる」

 

サスケも否定しない。

 

サクラは少し複雑そうだったが、

 

「……私も」

 

そう言った。

 

ゲンマは三人をしばらく見ていた。

 

「そうか」

 

それ以上は何も言わない。

 

カゲマルは少しだけ安心した。

 

ここも変わらない。

 

ナルトたちは、自分で選んでいる。

 

────────

 

「次」

 

ゲンマが続ける。

 

「桃地再不斬」

 

部屋の空気が重くなる。

 

レンの表情も引き締まり、スズも黙っている。

 

「どんな相手なんですか?」

 

レンが尋ねた。

 

カカシが答える。

 

「元・霧隠れの暗部。無音殺人術の達人」

 

「無音殺人術……」

 

「霧の中で視界を奪って、気配だけで急所を狙う」

 

スズの眉が僅かに動いた。

 

ゲンマがそれに気付く。

 

「水無瀬」

 

「はい」

 

「相性がいいと思ったか?」

 

少しの沈黙。

 

「……少し」

 

正直に答える。

 

「耳が使えるなら、霧の中でも相手の位置を――」

 

「甘い」

 

即答だった。

 

スズが口を閉じる。

 

ゲンマは淡々と続ける。

 

「お前が普段拾ってる音と、命を狙ってくる忍が消す音は別物だ」

 

「……はい」

 

「それに相手は上忍級。音を出さない方法くらい知ってる」

 

スズは悔しそうにはしなかった。

 

ただ、真剣に聞いている。

 

「でも」

 

ゲンマが続けた。

 

「耳を使うなって意味じゃない」

 

スズが顔を上げる。

 

「音だけに答えを求めるな。呼吸、地面、空気、仲間の位置。全部使え」

 

「はい」

 

カゲマルはその言葉を聞きながら思う。

 

また同じだ。

 

一つの能力へ頼りすぎるな。

 

スズには耳。

 

自分には影。

 

レンなら、身体能力か。

 

三人とも、違う形で同じところを見られている。

 

────────

 

「先生」

 

サスケがカカシを見る。

 

「再不斬が生きてるなら、また来るんだろ」

 

「ああ」

 

「いつ」

 

「すぐには来ない」

 

カカシは自分の胸元を軽く叩いた。

 

「俺がこれだからね」

 

「どういう意味だ?」

 

「向こうも無傷じゃないってこと」

 

ナルトが身を乗り出す。

 

「じゃあ、あいつも寝込んでるのか?」

 

「おそらく」

 

カカシが言う。

 

「俺と同じくらいか、それ以上」

 

カゲマルは知っている。

 

その通り。

 

再不斬は数日、まともに動けない。

 

白に世話をされ、回復してから再び現れる。

 

その猶予を、カカシは修行へ使う。

 

原作では木登り。

 

チャクラコントロールの基礎。

 

ナルトとサスケが競い、大きく成長する。

 

(ここは変えたくない)

 

カゲマルは思った。

 

自分が知っているからといって、先に答えを教える必要はない。

 

むしろ、この時間はあの二人に必要だ。

 

カカシが布団の中で片手を上げる。

 

「というわけで」

 

ナルトが嫌そうな顔をする。

 

「何だよ、その言い方」

 

「明日から修行」

 

「修行?」

 

ナルトの目が輝く。

 

「新しい術か!?」

 

「違う」

 

「えぇ!?」

 

「基礎」

 

「基礎ぉ?」

 

一気にしぼむ。

 

レンが思わず笑った。

 

「分かる」

 

ナルトが振り返る。

 

「何がだってばよ」

 

「新しい技って言われた方がテンション上がるだろ」

 

「だよな!」

 

「朝倉」

 

ゲンマの声。

 

「はい」

 

「お前もやるぞ」

 

「え?」

 

「他人事みたいな顔すんな」

 

レンの笑顔が消えた。

 

「俺も!?」

 

「第十一班も全員」

 

今度はスズが尋ねる。

 

「何をするんですか」

 

カカシが笑う。

 

「木登り」

 

沈黙。

 

ナルトとレンが、ほぼ同時に声を上げる。

 

「木登り?」

 

カカシが頷いた。

 

「手を使わずに」

 

ナルトの顔が変わる。

 

レンも、少し面白そうに笑った。

 

「それならできそう」

 

ゲンマが言う。

 

「その言葉、覚えとく」

 

レンの笑顔が消えた。

 

「……難しいんですか?」

 

「明日分かる」

 

────────

 

夕食の時間。

 

人数が増えたせいで、食卓はかなり窮屈だった。

 

ツナミが申し訳なさそうにする。

 

「ごめんなさい。こんなに人数増えると思ってなくて」

 

「全然!」

 

ナルトはすでに椀を持っている。

 

「飯があるだけ最高だってばよ!」

 

「お前は遠慮しろ」

 

サクラに頭を叩かれる。

 

「いてっ!」

 

カゲマルはその光景に笑いながら、レンとスズの間へ座った。

 

「狭い」

 

スズが言う。

 

「仕方ないだろ」

 

レンが返す。

 

「レンが広い」

 

「俺のせい!?」

 

「肩幅」

 

「褒めてる?」

 

「邪魔って言ってる」

 

「褒めてない!」

 

少し離れたところで、ゲンマが無言でご飯を食べている。

 

カゲマルが聞く。

 

「先生、兵糧丸じゃないんですね」

 

「飯があるなら飯食う」

 

「昨日、腹に入れば同じって」

 

「昨日は昨日」

 

レンが身を乗り出す。

 

「先生、人生損してなかった!」

 

「うるさい」

 

そんなやり取りの最中、扉が開いた。

 

少年が立っている。

 

黒い髪。

 

帽子。

 

まだ幼い顔。

 

だが、その表情は暗い。

 

「イナリ」

 

ツナミが呼ぶ。

 

カゲマルはその少年を見た瞬間、分かった。

 

(来た)

 

タズナの孫、イナリ。

 

原作では父代わりだったカイザをガトーに殺され、希望を失っている。

 

ナルトと衝突し、そしてナルトに影響を受ける。

 

イナリは忍たちを見回す。

 

「……また忍?」

 

ツナミが困った顔をする。

 

「おじいちゃんを守ってくれる人たちよ」

 

イナリは鼻で笑った。

 

「どうせ無理だよ」

 

食卓の空気が止まった。

 

ナルトが眉を寄せる。

 

「何だって?」

 

「ガトーには勝てない」

 

「イナリ」

 

ツナミが窘める。

 

だが少年は止まらない。

 

「橋だって完成しないよ。そんなことしたら、また殺される」

 

ナルトの箸が止まる。

 

「お前――」

 

「ナルト」

 

カカシの声が布団の部屋から聞こえた。

 

止めるような声音。

 

ナルトが口を閉じる。

 

イナリは、そのまま自分の席へ座った。

 

レンがカゲマルへ顔を寄せる。

 

「何かあったのか?」

 

カゲマルは答えなかった。

 

知っている。

 

でも、今ここで話すことではない。

 

スズはイナリを少しだけ考えるような目で見ていた。

 

食卓には、先ほどまでとは違う空気が残った。

 

────────

 

夜。

 

カゲマルは家の外へ出た。

 

海から吹く風が少し冷たい。

 

空を見上げる。

 

木ノ葉とは違う場所。

 

だが、空そのものは同じだ。

 

見える景色が違うだけ。

 

「寝ないの?」

 

声に振り返る。

 

スズだった。

 

「スズこそ」

 

「水」

 

手にした器を見せる。

 

「そっか」

 

スズが隣へ来る。

 

しばらく、何も話さない。

 

「……あの子」

 

「イナリ?」

 

「うん」

 

スズが家を見る。

 

「怖いんだと思う」

 

カゲマルは少し驚いた。

 

「そう思う?」

 

「だって、本当に何も期待してないなら、あんな言い方しない」

 

カゲマルは少し笑った。

 

「スズって結構、人見てるよね」

 

「耳だけじゃない」

 

「先生に言われたから?」

 

「前から」

 

少しだけ不満そう。

 

「ごめん」

 

「別に」

 

その時、戸が開いた。

 

レン。

 

「いた」

 

「何?」

 

「いや、二人いないから」

 

スズが見る。

 

「探しに来たの?」

 

「一応」

 

「心配?」

 

「一応!」

 

「二回言った」

 

「うるさいな!」

 

カゲマルは二人を見て、ふと思う。

 

原作にはいなかった二人。

 

自分と同じ、この物語の外側にいた存在。

 

でも今は、確かにここにいる。

 

そして明日から、第七班と一緒に修行をする。

 

原作ではなかった時間。

 

知らない出来事。

 

それが少しずつ増えていく。

 

以前なら不安の方が大きかったかもしれない。

 

今は違う。

 

分からないなら見ればいい。

 

考えればいい。

 

仲間と判断すればいい。

 

「戻ろう」

 

カゲマルが言う。

 

「明日、早いだろうし」

 

レンが伸びをする。

 

「木登りくらい余裕だろ」

 

スズが見る。

 

「先生にその台詞覚えられてるよ」

 

「……忘れてくれてないかな」

 

「無理だと思う」

 

三人が家へ戻る。

 

────────

 

翌朝。

 

森の中。

 

カカシはまだ動けない。

 

そのため、第七班と第十一班、六人の下忍を前に立っているのはゲンマだった。

 

「先生」

 

レンが辺りを見回す。

 

「カカシ先生は?」

 

「寝てる」

 

「本当に?」

 

「動けない」

 

ナルトが腕を組む。

 

「カカシ先生が教えるんじゃないのか?」

 

「内容は聞いてる」

 

ゲンマは一本の木を指した。

 

「やることは簡単だ。足の裏にチャクラを集中させろ」

 

全員の視線が集まる。

 

ナルトは何を言っているのか分かっていない顔。

 

レンも似た顔。

 

サスケとサクラは黙って聞き、スズもカゲマルも集中している。

 

「そのまま木を登れ」

 

ナルトが木を見る。

 

そしてゲンマを見る。

 

「それだけ?」

 

「ああ」

 

レンがナルトを見る。

 

ナルトもレンを見る。

 

ほぼ同時に二人が笑った。

 

「余裕じゃん!」

 

「だよな!」

 

サクラとスズが、ほぼ同時にため息をつく。

 

カゲマルは思わず笑った。

 

知っている。

 

この修行が、そんなに簡単じゃないことを。

 

ゲンマが一本ずつ苦無を投げる。

 

六本が地面へ突き刺さった。

 

「自分が到達したところに印を付けろ」

 

カゲマルは一本を拾った。

 

「一番上まで行ったら?」

 

サスケが聞く。

 

ゲンマが千本を動かす。

 

「別の修行を考える」

 

サスケの目が少し鋭くなる。

 

ナルトも負けじと苦無を握った。

 

レンまで燃えている。

 

「よし!」

 

「行くってばよ!」

 

二人が同時に木へ走る。

 

「待って」

 

スズが言う。

 

遅かった。

 

レンは三歩目で足を滑らせる。

 

「うおっ!?」

 

少し離れた木では、ナルトも同じように落ちた。

 

「うわぁぁぁ!」

 

ドン、とほぼ同時に地面へ落ちる。

 

静寂。

 

スズが言う。

 

「似てる」

 

サクラが頷く。

 

「似てるわね」

 

レンが顔を上げる。

 

「誰と!?」

 

ナルトも叫ぶ。

 

「誰とだってばよ!?」

 

今度はカゲマルも笑った。

 

ゲンマが言う。

 

「まずは足元から考えろ」

 

六人の修行が始まった。

 

カゲマルは自分の前にある木を見上げる。

 

影ではない。

 

前世の知識でもない。

 

ただ、忍として必要な基礎。

 

足元へ静かにチャクラを集めた。

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