書いておきながら違和感が。
お手数ですが、修正が必要そうなら教えください。
頬に冷たい感触が触れた。
「……ん」
ナルトが薄く目を開ける。
最初に見えたのは、木々の隙間から差し込む朝の光だった。
鳥の声。
葉を揺らす風。
それから、自分の顔を覗き込んでいる人影。
「気がつきましたか?」
柔らかな声だった。
ナルトは何度か瞬きをする。
長い黒髪。
白い肌。
穏やかな顔。
自分とそう変わらない年頃に見える。
「……誰だ?」
「よかった。なかなか起きないから心配しました」
その人物は微笑んだ。
ナルトは身体を起こし、辺りを見る。
昨日と同じ森。
木登りの修行を続けていたはずだった。
「俺……寝てた?」
「はい。ぐっすりと」
「マジかよ!」
勢いよく立ち上がろうとして、身体がふらつく。
「うおっ」
「無理をしない方がいいですよ」
「だ、大丈夫だってばよ!」
ナルトは慌てて踏ん張った。
ここで倒れたら格好悪い。
目の前の少女――少なくともナルトにはそう見えていた――は、小さく笑う。
その手には籠があった。中には見慣れない草や葉が入っている。
「何してんだ?」
「薬草を集めています」
「薬草?」
「はい。大切な人のために」
ナルトが首を傾げる。
「病気なのか?」
「少し怪我をしていて」
白はそう答え、近くに生えていた草へ手を伸ばした。
ナルトは何となくその姿を眺める。
知らない相手。
ただ、それほど警戒する気にはならなかった。
「お前、この辺に住んでんの?」
「そうですね。この辺りには詳しいです」
「へぇ」
ナルトもしゃがみ込む。
白が採っている草を見るが、どれも同じ雑草にしか見えない。
「これ全部薬になるのか?」
「全部ではありません」
「じゃあどうやって見分けんだ?」
「葉の形や匂い、茎の色を見るんです」
「……分かんねぇ」
「慣れれば分かりますよ」
白が微笑む。
その表情を見て、ナルトはふと昨日のことを思い出した。
木登り。
サスケ。
レン。
カゲマル。
スズ。
サクラは最初から成功して、自分だけが最後まで残った。
「……俺も早く強くなんねぇとな」
白の手が止まる。
「強く?」
「俺、忍者なんだ」
「そうなんですか」
「見えねぇ?」
「少しだけ」
「少しだけ!?」
ナルトが額当てを指差す。
「ほら! 木ノ葉の忍だってばよ!」
「本当ですね」
「今気づいたのかよ!」
白はくすりと笑った。
ナルトは少し不満そうだったが、すぐに胸を張る。
「俺はいつか火影になるんだ!」
「火影?」
「木ノ葉で一番すげぇ忍者だ!」
白はナルトを見る。
冗談を言っている顔ではない。
本気だ。
「だから、こんな修行くらいできねぇとダメなんだ」
ナルトは自分が登っていた木を見上げる。
昨日、何度挑戦したか覚えていない。
落ちて。
登って。
また落ちた。
それでも頂上には届かなかった。
白はそんなナルトを静かに見ていた。
「あなたには、大切な人がいますか?」
「え?」
突然の問いだった。
「大切な人」
ナルトは黙る。
頭に浮かぶ。
イルカ。
三代目のじいちゃん。
サクラちゃん。
サスケ。
カカシ先生。
そして。
昔から自分を普通に扱ってくれた、面倒くさそうな顔をした双子。
シカマル。
その隣で、いつも少しだけ周りを見ているカゲマル。
気がつけば。
一人ではなかった。
昔よりずっと。
「……いる」
ナルトは答えた。
白が微笑む。
「人は、大切な何かを守りたいと思った時、本当に強くなれるんです」
ナルトは白を見る。
その言葉は、不思議と耳に残った。
「お前も?」
「はい」
白は迷わず答えた。
「僕にも、大切な人がいます」
穏やかな笑顔。
だが。
その奥に何があるのか。
今のナルトには分からない。
「そっか」
ナルトは立ち上がる。
今度はふらつかなかった。
「じゃあ俺、修行戻る!」
「もう少し休んだ方がいいのでは?」
「寝たから大丈夫だってばよ!」
数歩走って。
止まる。
振り返った。
「ありがとな!」
白は笑って答えた。
「頑張ってください」
「おう!」
ナルトが森の中へ消えていく。
その背中を。
白はしばらく見ていた。
やがて薬草の籠へ視線を落とす。
「……大切な人、か」
小さな呟きは。
誰にも聞かれなかった。
────────
同じ頃。
タズナの家。
「ナルトがいない?」
朝食の席で、カゲマルはサクラを見た。
「昨日、結局戻ってこなかったみたい」
「はぁ!?」
レンが椀を持ったまま声を上げる。
「森で寝たのか!?」
「多分ね」
サクラがため息をつく。
「カカシ先生は『死んではないでしょ』って」
「軽くない?」
レンが言う。
隣でゲンマが味噌汁を飲む。
「気配は確認してる」
「先生、知ってたんですか?」
「ああ」
「じゃあ連れて帰ればよかったじゃないですか!」
「本人がやるって言って残ったんだろ」
「それで森で寝るまでやらせるんですか?」
「限界覚えるのも修行だ」
レンは納得していない顔をした。
「先生って時々すごい忍者っぽいこと言いますね」
「時々?」
ゲンマの目が細くなる。
「毎日です」
訂正が早かった。
スズが淡々と朝食を食べながら言う。
「でも、ナルトなら起きたらまた木登りしてそう」
「ありそう」
カゲマルも頷いた。
心配していないわけではない。
だが。
知っている。
この頃。
ナルトは白と出会う。
原作でも印象深かった場面。
大切な人を守る時、人は本当に強くなれる。
白の言葉は、この先のナルトに大きく残る。
(今頃、会ってるのかな)
そう考えたところで。
「兄貴じゃないんだから、余計なこと考えなくていいだろ」
頭の中にシカマルの声が浮かんだ。
実際に言われたわけではない。
でも、言いそうだった。
カゲマルは少し笑う。
「何?」
スズが気づく。
「いや、弟ならこう言うだろうなって」
「弟?」
「双子の弟」
レンが食いついた。
「そういやカゲマル、双子なんだよな」
「うん」
「似てんの?」
カゲマルは少し考える。
顔立ちは似ている。
髪型も奈良一族らしい。
性格は――。
「似てるところもあるかな」
「どっちが強い?」
「さあ」
「戦ったことないの?」
「あるよ」
「どっちが勝った?」
「覚えてない」
「絶対覚えてるだろ!」
カゲマルが笑う。
「秘密」
レンが不満そうに唸った。
スズが聞く。
「仲いい?」
「うん」
そこだけは即答だった。
スズは少しだけ目を細める。
「即答」
「そこは迷わないから」
「ふーん」
何となく。
さっき考えていた言葉と繋がる。
大切な人。
自分なら。
誰が浮かぶだろう。
父。
母。
シカマル。
チョウジやいの。
アスマ。
ナルト。
そして今は。
目の前で朝食を食べている二人も。
少しずつ。
そこへ入ってきているのかもしれない。
「カゲマル」
レンが呼ぶ。
「ん?」
「その漬物食わないならくれ」
「……今ちょっといいこと考えてたのに」
「漬物の方が大事だろ」
「何でだよ」
「食べ物粗末にするなって親に教わらなかった?」
「食べるよ」
「じゃあいい」
スズが小さく笑った。
────────
朝食の後。
タズナは橋へ向かう準備を始めていた。
カカシはまだ完全には回復していない。
昨日よりは顔色がいいが、戦闘できる状態には程遠い。
「今日も修行?」
レンが尋ねる。
ゲンマは首を横に振った。
「午前はな」
「午前は?」
「任務を忘れるな」
空気が少し変わる。
ゲンマはタズナを見る。
「俺はタズナさんと橋へ行く」
カゲマルが顔を上げる。
「護衛ですか」
「ああ。再不斬がすぐ動けない可能性が高いとはいえ、確定じゃない」
それは当然だった。
相手が負傷しているという推測だけで、依頼人を無防備にはできない。
「第十一班も一緒ですか?」
「いや」
ゲンマの答えに、レンが意外そうな顔をする。
「違うんですか?」
「お前らはここに残れ」
「ここ?」
「家の護衛だ」
三人が黙る。
ゲンマは続ける。
「ガトーが雇ってるのは再不斬だけとは限らない。忍じゃなくても、手下はいる」
カゲマルは原作を思い出す。
ガトーの部下。
そして。
ツナミとイナリ。
最終的には、ここも安全ではない。
「カカシが動けない以上、戦力を一か所に固める必要はない。俺がタズナさんについて橋へ行く。第七班はカカシの指示に従え。第十一班は午前中、この家と周辺を警戒」
レンの表情が引き締まる。
昨日までの修行とは違う。
正式な護衛任務。
「敵が来たら?」
レンが聞く。
「相手次第だ」
「相手次第?」
「一般のごろつきなら追い払え。忍なら戦う前に知らせろ」
「どうやって?」
ゲンマが小さな筒を投げる。
カゲマルが受け取った。
信号弾。
「赤なら敵襲。上げたら俺が戻る」
「橋から間に合いますか?」
スズが聞く。
「間に合わせる」
迷いのない返答。
スズは頷いた。
ゲンマは三人を見る。
「勘違いするなよ。戦うことが任務じゃない」
昨日までより少し低い声。
「守ることが任務だ」
カゲマルは信号弾を握る。
「はい」
レンとスズも続いた。
「はい!」
「分かりました」
ゲンマはタズナと家を出ていく。
三人はその背中を見送った。
少しして。
レンが口を開く。
「……護衛か」
「緊張する?」
カゲマルが聞く。
「ちょっと」
素直だった。
「草むしりとか犬とは違うし」
「犬も大変だったけどね」
スズが言う。
「大型犬な」
「縄離したのレンだけど」
「もう言うなよ!」
カゲマルは笑った。
だが。
胸の奥には。
小さな緊張がある。
知っている。
この家が。
後に襲われることを。
ただし。
それは今ではない。
――本当に?
カゲマルは一瞬、思考を止めた。
原作では。
そうだった。
でも。
今はゲンマがいる。
第十一班がいる。
再不斬の生存にも早く気づいた。
なら。
他の出来事まで同じ時期に起きる保証はない。
父の言葉が蘇る。
頭の中で答えを作りすぎるな。
現場で見たものを信じろ。
カゲマルは息を吐く。
「スズ」
「何?」
「周囲の音、確認してもらえる?」
スズはすぐに頷いた。
目を閉じる。
風。
木々。
遠くの波。
家の中を歩くツナミ。
外で何かをしているイナリ。
道を通る人間。
しばらくして。
目を開けた。
「今のところ変な音はない」
「分かった」
「レン」
「おう」
「家の裏側見てきて。俺は正面と周辺を見る」
レンが一歩踏み出し。
止まる。
「一人で行っていいのか?」
カゲマルも一瞬止まった。
以前なら。
普通に行かせていたかもしれない。
でも。
第十一班が最初に教わったこと。
三人で戦うということ。
「見える範囲まで」
カゲマルが言う。
「何かあったらすぐ呼んで」
「了解」
レンが走っていく。
スズがカゲマルを見る。
「今、一人で全部やろうとした?」
「……ちょっとだけ」
「先生に言う」
「やめて」
「じゃあ次から気をつけて」
「はい」
立場が逆な気がする。
だが。
悪くない。
カゲマルは周囲を見る。
大切な人を守る時。
人は本当に強くなれる。
おそらく今。
森のどこかで。
ナルトがその言葉を聞いている。
カゲマルはまだ知らないふりをして。
目の前にいる仲間と。
守るべき家へ意識を向けた。
────────
昼前。
「ただいまだってばよ!」
遠くからでも分かる声が聞こえた。
スズが顔を上げる。
「来た」
レンが聞く。
「誰?」
「聞かなくても分かるでしょ」
数秒後。
森の方からナルトが走ってくる。
服には土。
髪には葉。
だが。
妙に元気だった。
「お前、どこ行ってたんだよ!」
レンが言う。
「修行!」
「森で寝てただろ!」
「ちょっと休憩しただけだってばよ!」
「一晩!?」
「細かいこと気にすんな!」
レンがゲンマの口調を真似る。
「細かくねぇ!」
ナルトは笑いながら家へ入ろうとする。
その途中。
カゲマルの横で止まった。
「カゲマル」
「ん?」
ナルトは少しだけ考えるような顔をした。
「大切な奴っているか?」
唐突だった。
でも。
カゲマルには。
その質問がどこから来たのか分かっていた。
少し考える。
答えはいくつも浮かぶ。
「いるよ」
「やっぱそうか」
ナルトが笑う。
「俺もいる」
「うん」
「何だよ。誰か聞かねぇの?」
「聞かなくてもいいかな」
「なんで?」
カゲマルは少し笑った。
「ナルトの顔見れば分かるから」
「何だそれ」
「いい意味で」
ナルトは納得していないようだった。
それでも。
どこか嬉しそうに。
「じゃあ修行行ってくる!」
また走り出す。
「飯は!?」
ツナミが家の中から叫ぶ。
ナルトが急停止した。
「食う!」
方向転換。
全速力で家へ入る。
レンが呆然と見る。
「……何なんだ、あいつ」
スズが答える。
「元気」
「それは分かる」
カゲマルは笑った。
森の向こうへ視線を向ける。
白。
今はまだ。
敵として会っていない。
ナルトも。
あの優しい少年が。
再不斬のために命を懸ける忍だとは知らない。
そして。
カゲマルは知っている。
この先。
二人はもう一度出会う。
今度は。
敵として。
その時。
自分はどこにいるのか。
原作通りなら。
第十一班は存在しない。
答えはない。
だからこそ。
今は決めつけない。
カゲマルは視線を戻した。
家の中から。
ナルトとレンが昼飯を取り合う声が聞こえてくる。
スズがため息をついた。
「護衛中なんだけど」
「平和ってことで」
「油断は駄目」
「分かってる」
カゲマルは笑いながらも。
周囲への意識だけは切らなかった。
再不斬が動き出すまで
残された時間は決して長くない。