とても時間がかかってしまいました。
※この話から文章の添削にAIに使うことにしました。
AIの使用をよく思わない方もいると思いますが、ご了承下さい。
白の身体が、ゆっくりと傾いた。
カカシは雷切を解き、胸を貫いていた右腕を引き抜く。支えを失った白の身体が崩れ落ちる――その直前、再不斬の腕が動いた。
白の身体を押し退ける。
同時に首斬り包丁が振るわれ、カカシが大きく後ろへ跳んだ。白はそのまま橋の上へ倒れる。
「白!」
ナルトの声が響いた。
駆け寄ろうとするナルトを、再不斬は見ようともしない。その視線はカカシだけへ向いていた。
「……役には立った」
低い声だった。
ナルトの足が止まる。
「は?」
再不斬は首斬り包丁を構え直す。
「忍は道具だ。あいつは俺のために働き、俺のために死んだ。それだけのことだ」
「お前……」
ナルトの拳が震える。
カゲマルは何も言えなかった。
知っている言葉だった。
この後、何が起きるのかも知っている。けれど実際に白の身体を目の前にすると、記憶の中の物語とはまるで違った。
血の匂いがする。
白はもう動かない。
少し前まで、ナルトと話していた人間が死んでいる。
「カゲマル」
隣からスズの声。
「……大丈夫?」
カゲマルは一度だけ息を吐いた。
「うん」
大丈夫ではない。
それでも今は、それでいい。
ゲンマは白の亡骸を一瞥したあと、すぐに周囲へ視線を戻していた。表情から先ほどの感情は消えている。
「奈良」
「はい」
「前だけ見るな」
その一言で、カゲマルは気づいた。
白。
再不斬。
カカシ。
ナルト。
そこへ意識が集中していた。
自分たちの後ろにはタズナがいる。
「……はい」
カゲマルは向き直った。
レンもすぐにタズナの前へ立つ。スズは橋の入口側へ視線を巡らせていた。
ゲンマはそれ以上何も言わない。
それで十分だった。
一方、ナルトは違った。
「それだけって……なんだよ」
再不斬が僅かに顔を向ける。
「聞こえなかったか」
「聞こえたよ」
ナルトが白を見る。
「こいつ、お前のために戦ったんだぞ」
返事はない。
「お前を守るために死んだんだぞ!」
「だからどうした」
その言葉に、ナルトの顔が歪んだ。
「お前は……何とも思わねぇのかよ!」
「ナルト」
カカシが静かに呼ぶ。
だが、止めなかった。
ナルトは一歩前へ出る。
「白はお前のこと、本当に大切にしてたんだぞ!」
森で出会った時のことを思い出す。
薬草を摘んでいた白。
穏やかに笑っていた白。
大切な人を守る時、人は本当に強くなれる。
そう言った。
「自分の夢も、自分の命も、お前のために全部捨てて……それで!」
声が震える。
「お前は何とも思わねぇのかよ!」
再不斬は黙っている。
「本当にそれだけなのかよ!」
霧の中にナルトの声だけが響いた。
「だったら……だったら白があんまりじゃねぇか!」
カゲマルはナルトを見つめていた。
止める必要はない。
ここは。
自分が口を挟む場所ではない。
これはナルトが白と出会い、白の言葉を聞き、白と戦ったからこそ出てくる言葉だ。
未来を知っている自分には、決して代わることのできないものだった。
長い沈黙。
やがて再不斬が口を開いた。
「……ガキが」
声が。
僅かに掠れていた。
ナルトが顔を上げる。
「それ以上……何も言うな」
再不斬の頬を、一筋の雫が伝った。
霧の水滴ではない。
カゲマルの隣でレンが息を呑む。
スズも何も言わない。
再不斬は白の方を見なかった。
見られないのかもしれない。
「お前の言う通りだ」
静かな声。
「あいつは……俺には勿体ねぇくらい、優しすぎた」
ナルトの拳から力が抜けていく。
その時だった。
「いやぁ、感動的だねぇ」
場違いな声が響いた。
全員の視線が橋の入口へ向く。
霧の向こうから、小柄な男が姿を現す。
高価そうな服。丸い眼鏡。
そして、その後ろ。
数十人。
刀、槍、棍棒。
武器を手にした男たちが橋を埋めるように並んでいた。
タズナの顔が強張る。
「ガトー……!」
ガトーは笑った。
「ずいぶん派手にやってくれたじゃないか、再不斬」
再不斬の目が細くなる。
「てめぇ……」
「もう君に払う金はないよ」
ガトーが肩をすくめる。
「君もそこの白いのも、ここで死んでもらう。そうすれば報酬を払う必要もないからねぇ」
再不斬の殺気が変わった。
「……なるほどな」
カカシが苦無を構える。
ゲンマも千本を指に挟んだ。
「面倒なのが増えたな」
いつもの、少し気の抜けた声。
けれど視線は鋭い。
レンが男たちの数を見て顔を引きつらせる。
「先生。あれ、何人います?」
「数えたいなら勝手にしろ」
「いや、やめときます」
スズが小さく言う。
「三十以上」
「数えたの!?」
「見れば分かる」
「お前、こういう時だけ怖いな」
「朝倉」
ゲンマの声。
レンの表情が引き締まる。
「はい」
「タズナから離れるな」
「はい!」
ゲンマはカゲマルとスズにも視線を送る。
言葉は必要なかった。
三人がタズナの周囲へつく。
カゲマルは男たちを見ながら考える。
数は多い。
だが。
先ほど自分たちが戦った連中と同じなら、忍ではない。
こちらにはカカシとゲンマがいる。
第七班もいる。
戦力だけを考えれば――
「奈良」
「はい」
「また顔がうるさい」
カゲマルは一瞬黙った。
「……そんなに分かりやすいですか?」
「かなりな」
こんな状況なのに、レンが少し吹き出した。
スズも口元を僅かに緩める。
ゲンマは前を向いたまま言った。
「数えるのはいい。勝手に答えまで出すな」
カゲマルは男たちを見る。
その向こう。
まだ何があるか分からない。
「はい」
ガトーが再不斬を指差した。
「何してる! さっさと殺せ!」
男たちが前へ出る。
だが。
再不斬は動かなかった。
「おい、再不斬?」
「カカシ」
突然呼ばれ、カカシが目を細める。
「何?」
再不斬が首斬り包丁を見る。
先ほどまでの戦闘で傷ついた身体。
カカシとの戦いで両腕にも深い傷を負っている。
まともに武器を振るうのも難しい。
それでも。
「苦無、一本貸せ」
カカシは数秒、再不斬を見た。
そして。
苦無を投げる。
再不斬は口で柄を受け止めた。
レンが目を見開く。
「……マジかよ」
ゲンマが小さく息を吐く。
「見るなとは言わんが、真似はすんなよ」
「しませんよ!」
再不斬が歩き出す。
一歩。
また一歩。
ガトーの男たちへ。
「な、何してる!」
ガトーの笑みが消える。
再不斬は答えない。
口に苦無を咥えたまま。
ただ。
進む。
「殺せ! そいつを殺せ!」
男たちが一斉に襲いかかった。
再不斬の身体へ刃が刺さる。
それでも止まらない。
一人。
倒す。
さらに一人。
肩を斬られる。
腹を刺される。
それでも。
進む。
「なんだよ……あいつ」
レンの声が震える。
カゲマルは答えなかった。
怖い。
強いからではない。
もう。
自分がどうなっても構わない人間の歩き方だった。
ゲンマの表情が消えている。
カゲマルはその横顔を見る。
ほんの一瞬。
ミズキの時にも。
白が死んだ時にも感じたもの。
自分が危険へ飛び込んだ時、ゲンマが向ける視線とも少し似ていた。
「……先生」
「なんだ」
「いえ」
今は聞かない。
ゲンマも追及しなかった。
再不斬は進む。
何人に斬られても。
止まらない。
そして。
ついにガトーの前へ辿り着いた。
「ひっ……!」
ガトーが後ずさる。
「く、来るな!」
再不斬の目だけが。
笑った。
「地獄で……白に詫びろ」
苦無が閃いた。
ガトーの悲鳴が橋に響く。
その身体が橋の端から落ちていった。
静寂。
再不斬はその場に立っている。
血まみれで。
もう。
限界だった。
「……白」
小さな声。
再不斬の身体が傾く。
雪が。
降り始めた。
季節外れの。
白い雪。
再不斬は空を見る。
「カカシ……」
「何?」
「俺を……あいつのところへ」
カカシは何も言わなかった。
再不斬の身体を支え。
白の隣へ運ぶ。
横たえる。
再不斬は白の顔を見る。
初めて。
真正面から。
震える手を伸ばす。
頬に触れる。
「……すまなかったな」
ナルトが唇を噛む。
サクラは俯いた。
タズナも。
レンも。
スズも。
誰も言葉を発さない。
カゲマルは雪を見上げる。
知っていた。
この結末を。
それでも。
胸が苦しかった。
物語の登場人物ではない。
白も。
再不斬も。
ここで生きていた。
そして。
死んだ。
「……行けるなら」
再不斬が掠れた声で言う。
「お前と……同じところへ……」
それが最後だった。
再不斬の目が閉じる。
雪だけが。
静かに降り続ける。
しばらく。
誰も動かなかった。
やがて。
金属の音。
橋の向こう。
ガトーを失った男たちが、それでも武器を握っている。
「ガトーは死んだ!」
誰かが叫ぶ。
「もう関係ねぇ! この町ごと奪っちまえ!」
空気が再び変わる。
カカシが立ち上がる。
ゲンマも前へ出る。
ナルトが振り返った。
「まだやんのかよ……」
怒り。
疲労。
悲しみ。
全部が混じった声。
カゲマルも苦無を握る。
レンが拳を構え、スズも隣へ並んだ。
今度こそ。
戦うしかない。
そう思った時。
「待てぇぇぇぇ!!」
遠くから声が響いた。
男たちが振り返る。
霧の向こう。
橋の反対側から。
大勢の人影。
鍬。
棒。
包丁。
漁具。
武器と呼べるかも分からないものを手に。
波の国の人々が立っていた。
その先頭。
「ナルト兄ちゃん!」
イナリ。
ナルトの目が見開かれる。
「イナリ……!」
その後ろには。
もう。
怯えて家に閉じこもっていた人々はいなかった。
自分たちの国を。
自分たちの手で守るために。
立ち上がった人々がいた。
カゲマルは静かに息を吐いた。
ここも。
変わっていない。
いや。
違う。
原作を知っているからそう思うのではない。
ナルトが。
この国で。
自分の言葉と行動で変えたものだ。
だから。
自分が手を出す必要なんてなかった。
「……すごいな」
カゲマルが呟く。
隣のレンが頷く。
「ああ」
スズは人々を見ながら言った。
「これなら、向こうも簡単には来ない」
実際。
ガトーの男たちが怯み始めている。
ガトーは死んだ。
金を払う人間もいない。
そのうえ。
木ノ葉の忍が二班。
そして。
国の人間たち。
「割に合わねぇ!」
誰かが叫んだ。
一人が逃げる。
二人。
三人。
崩れるのは早かった。
男たちは次々と橋から逃げていく。
誰も追わなかった。
追う必要がない。
ゲンマが口元へ千本を戻す。
「終わりだな」
レンがその場へ座り込んだ。
「……疲れたぁ」
スズが見る。
「さっきまで立ってただけでしょ」
「精神的に!」
「それは分かる」
珍しく。
スズが同意した。
カゲマルも笑った。
小さく。
本当に。
小さくだけ。
そして。
白と再不斬を見る。
笑みが消える。
終わった。
波の国での戦いが。
ようやく。
終わった。
雪はまだ。
静かに降り続けていた。