四十話と四十一話を続けて投稿するので、
お手数ですが、読みやすさの有無を教えていただけたら嬉しいです。
木ノ葉隠れの門が見えた時、レンが誰よりも先に声を上げた。
「帰ってきたー!」
数日ぶりに見る巨大な門を前に両腕を広げ、そのまま走り出そうとしたレンの襟首をゲンマが掴む。
「まだ任務中だ」
「ぐえっ」
「帰還報告までが任務。勝手に帰るな」
「分かってますよ! ちょっと感動しただけです!」
「なら静かに感動しろ」
「難しくないですか!?」
スズが横を通り過ぎる。
「レンには無理だと思う」
「スズまで!」
カゲマルは二人のやり取りを聞きながら、久しぶりに見る木ノ葉の景色へ目を向けた。里を出てからそれほど長い時間が経ったわけではないのに、門の向こうに広がる見慣れた町並みが妙に懐かしく感じられる。
行き交う人々の声、店から漂う料理の匂い、屋根の上を走る忍の姿。波の国へ向かう前なら何も思わなかった光景なのに、今はその一つ一つが自分たちの帰る場所なのだと実感できた。
「変な感じ」
カゲマルが呟くと、スズがこちらを見る。
「何が?」
「そんなに長く離れてないのに、久しぶりに帰ってきた気がする」
「あ、それ分かる!」
レンがすぐに食いついた。
「俺なんか昨日から家の飯のこと考えてた!」
「昨日だけ?」
「一昨日も」
「ずっとじゃん」
「外で食う飯も悪くないけどさ、やっぱ家だろ!」
その言葉に、カゲマルは自然と奈良家の食卓を思い浮かべた。母のヨシノが作る夕食、父のシカク、そしてシカマル。
出発した日の朝、弟に言われた言葉も覚えている。
――兄貴、無茶すんなよ。
「カゲマル?」
レンに呼ばれて顔を上げる。
「何笑ってんの?」
「別に。早く帰りたいなって」
「だろ!?」
「奈良」
前を歩くゲンマが振り返らずに呼ぶ。
「はい」
「朝倉に同調すると面倒になるぞ」
「先生!?」
カゲマルとスズが笑った。
門をくぐると、第七班とはそこで一度別れることになった。サスケは歩ける程度には回復しているものの、傷が治ったわけではないため、そのまま病院で診察を受けるらしい。
「じゃあな、カゲマル!」
ナルトが手を上げる。
「うん。またね」
「今度手合わせしようぜ!」
「怪我治してからにしなよ」
「俺は怪我してねぇってばよ!」
「サスケの方」
「あ」
隣でサスケが眉を寄せた。
「なんで俺がこいつと手合わせする話になってる」
「違うぞ! 俺とカゲマルだ!」
「どうでもいい」
「なんだと!」
サクラが深いため息をつく。
「サスケ君、行こ。ナルトは放っておいていいから」
「サクラちゃん!?」
カカシが目を細めて笑う。
「元気だねぇ」
「カカシ先生が言います?」
カゲマルが返すと、カカシは何も聞こえなかったように歩き出した。
第七班を見送ったあと、第十一班は火影邸へ向かった。
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帰還報告は主にゲンマが行った。
依頼内容の虚偽、鬼兄弟との遭遇、桃地再不斬と白、ガトーの介入、タズナの護衛継続、そして橋の完成。三代目火影・猿飛ヒルゼンは途中で口を挟まず、最後まで静かに聞いていた。
「ご苦労だった」
報告が終わると、ヒルゼンはまず三人の下忍を見る。
「初めての里外任務としては、随分と大変なものになってしまったの」
「本当にですよ」
レンが答えた瞬間、スズが横から肘を入れた。
「痛っ」
「火影様」
「別に構わんよ」
ヒルゼンは笑っている。レンは一度咳払いしてから姿勢を正した。
「……貴重な経験になりました」
「急に取り繕った」
スズの声は小さかったが、しっかり聞こえた。
「水無瀬ぇ……」
「静かにしろ」
ゲンマに言われ、二人が揃って口を閉じる。
ヒルゼンの視線がカゲマルへ向いた。
「カゲマルはどうじゃった?」
少し考える。以前なら無難な答えを選んでいたかもしれない。
「怖かったです」
ヒルゼンの眉が僅かに上がる。
「そうか」
「はい。でも、怖いと思っていいんだって分かりました」
横にいるゲンマを見る。ゲンマはいつも通り千本を咥えているだけだった。
「それと、知っていることと実際に経験することは全然違うんだなって」
こちらは別の意味も含んでいるが、ヒルゼンにそれが伝わることはない。
「良いことを学んだの」
老人はそれだけ言って、穏やかに笑った。
任務完了の手続きが終わり、火影邸を出たところでゲンマが三人を振り返る。
「今日は解散」
レンの顔が輝く。
「よっしゃ!」
「明日の朝八時、第三演習場」
輝きが消えた。
「休みじゃないんですか!?」
「なんで休みだと思った」
「長期任務から帰ってきたんですよ!? 休養とか!」
ゲンマは少し考える素振りを見せた。
「必要か?」
「必要です!」
「じゃあ朝八時半」
「三十分だけ!?」
スズが肩を震わせている。笑っているらしい。
「八時半でお願いします」
カゲマルも笑いながら答える。
「カゲマル!? お前、もっと戦えよ!」
「じゃ、八時に戻すか」
ゲンマが言った瞬間、レンが姿勢を正した。
「八時半でお願いします!」
「決まりだな」
どう考えても遊ばれている。
ゲンマはそのまま片手を上げた。
「今日は帰って寝ろ。傷が痛むなら病院行け」
「はい」
三人の声が重なる。
少し歩いたところでレンが振り返った。
「先生!」
ゲンマが足を止める。
「何だ」
レンは一瞬だけ迷い、それから笑った。
「ありがとうございました!」
スズも小さく頭を下げる。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
カゲマルも続く。
ゲンマは三人を見たあと、口元の千本を僅かに動かした。
「任務だからな」
それだけ答え、今度こそ歩いていく。
「もうちょっと何かないのかな」
レンがその背中を見ながら呟く。
「ゲンマ先生だし」
「まあ、そうだけど」
三人は交差点で別れた。レンは真っ直ぐ家へ帰り、スズも家族への報告があるらしい。
一人になったカゲマルは、奈良家へ続く歩き慣れた道を進んでいった。
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やがて自宅が見えてくる。
戸を開ける前にほんの少し緊張したが、理由は自分でも分からなかった。任務から帰ってきただけなのに、何かを報告しなければならないような気がする。
「ただいま」
戸を開けると、すぐに奥から足音が聞こえた。
「カゲマル!」
ヨシノはカゲマルのところまで来るなり、頭から足元まで一気に確認する。
「怪我は?」
「大丈夫」
「本当に?」
「ちょっと擦り傷があるくらい」
「見せなさい」
「母さん、帰ってきて最初がそれ?」
「当たり前でしょ!」
腕を掴まれ、その場で袖を捲られる。すでに処置された傷を確認して、ようやくヨシノの表情が少し緩んだ。
「……おかえり」
「うん。ただいま」
奥からもう一人出てくる。
「遅かったな、兄貴」
シカマルだ。いつもの気怠そうな顔を見て、カゲマルは少し笑う。
「ただいま」
「おう」
それだけなのに、妙に安心した。
「父さんは?」
「庭」
「帰ってきたの知ってる?」
「多分な」
「迎えには来ないんだ」
「親父だし」
納得した。
荷物を置いて庭へ出ると、シカクは縁側に座って将棋盤を眺めていた。
「ただいま」
「おう」
駒を一つ動かしてから、シカクはカゲマルを見る。頭から足まで一通り確認する視線はヨシノほど露骨ではないが、見ているところは同じだった。
「生きて帰ったな」
「うん」
「なら上出来だ」
カゲマルは父の隣へ座り、しばらく二人で庭を見る。
先に口を開いたのはシカクだった。
「どうだった」
あまりにも広い質問に、カゲマルは少し考える。
「色々あったよ」
「だろうな」
「怖かった。人が死んだし、俺も人と戦った。忍じゃなかったけど、武器を持った相手だった」
シカクの表情は変わらない。
「手は震えたか」
カゲマルは思い返す。
「戦ってる時は大丈夫だった。でも、終わった後に少し」
「それでいい」
「いいの?」
「最初から何とも思わねぇ方が、俺は心配する」
ゲンマと似たことを言うので、カゲマルは少し笑った。
「先生にも同じこと言われた」
「不知火か」
「うん」
「なら、悪くねぇ先生だな」
珍しく素直な評価だった。
「本人に言ってあげたら?」
「面倒くせぇ」
「シカマルと同じこと言ってる」
「誰の息子だと思ってる」
家の中から声が飛ぶ。
「聞こえてんぞ、兄貴!」
カゲマルが笑い、シカクも口元を少し緩めた。
ここへ帰ってきたのだと、ようやく実感する。
そこでカゲマルは、ゲンマに言われていたことを思い出した。
「父さん」
「ん?」
「聞きたいことがある」
声の調子が変わったことにシカクが気づく。
「影のことか」
カゲマルは目を瞬いた。
「なんで分かったの?」
「お前がその顔する時は、大体術の話だ」
「俺、そんなに顔に出る?」
「昔からな」
ゲンマにも言われた。本気で直した方がいいのかもしれない。
「任務中に変なことがあった」
カゲマルは初めての実戦で起きたことを説明した。
背後から襲われ、気づくのが遅れたこと。刀が振り下ろされる直前、印を結んでいないのに影が伸び、意識して影真似を使ったわけでもないのに相手を止めたこと。
話している間、シカクは一度も口を挟まなかった。
説明が終わっても返事がない。
「……父さん?」
シカクが見ていたのは将棋盤ではなく、その下――夕方の日差しで伸びたカゲマルの影だった。
「もう一回やってみろ」
「え?」
「今のを再現しろ」
「でもゲンマ先生に、一人で試すなって」
「一人じゃねぇだろ」
シカクが自分を指す。
確かに。
「分かった」
カゲマルは立ち上がり、影真似の印を結ぼうとしたところで止められた。
「印はいらん」
「使わないの?」
「お前が言ったんだろ。印を結んでなかったって」
シカクも立ち上がり、庭に二人の影が伸びる。
「術を使おうとするな」
「じゃあどうすれば?」
「知らん」
「え?」
「俺も見たことねぇんだから、答えなんか持ってるわけねぇだろ」
カゲマルは苦笑した。これもゲンマと似ていて、分からないことを分かったふりしない。
「ただ、昔から気にはなってた」
カゲマルの表情が変わる。
「お前の影は、妙にチャクラを拾う」
「チャクラを?」
「ああ。普通、奈良の影は術として操作して初めて意味を持つ。影そのものに何かあるわけじゃねぇ」
シカクはカゲマルの影を指した。
「だがお前は違う。昔から感情が大きく動いた時、影が揺れたり伸びたりすることがあった」
幼い頃からシカクは見ていたのだ。
「影が勝手に動いてるわけじゃねぇ。お前が動かしてる」
「俺が?」
「多分な。ただし、頭で命令してるんじゃねぇ。もっと前だ」
「前?」
「危ない、守りたい、止めたい――そう思った瞬間、お前のチャクラが先に影へ流れてる可能性がある」
カゲマルは自分の影を見る。
あの時、背後から刀が迫った。怖かったし、死にたくないと思った。その瞬間に影が伸びている。
「……無意識に?」
「今のところは、そう考えるのが一番自然だな」
シカクがしゃがみ、影の境目へ指を置く。
「奈良の秘伝忍術は影を媒介にする。だが、その根っこにあるのは影そのものじゃねぇ」
「チャクラ?」
「それもある」
シカクは立ち上がり、カゲマルを見る。
「陰遁だ」
風が庭を抜ける。
カゲマルにとっては知っている言葉だったが、父の口から聞くのは初めてだった。
「奈良の術と陰遁は、切り離して考えられるもんじゃねぇ。特にお前はな」
「俺は……普通より陰遁が強い?」
「適性が高い、って言った方が近いか。どこまで高いのかは俺にも分からん。比較できる奴がいねぇからな」
「父さんより?」
「調子乗んな」
即答だった。
カゲマルが笑う。
「まだ何も言ってないじゃん」
「顔に書いてあった」
「やっぱり直そうかな……」
「そっちの方が先かもな」
二人で笑うが、シカクの目はカゲマルの影から離れていなかった。
「しばらく俺が見る」
「修行?」
「観察だ。修行するかどうかは、それから決める」
「すぐ練習しちゃ駄目?」
「駄目だ」
「即答」
「自分でも分かってねぇ力を面白がって弄るな。制御できるかも分からん」
ゲンマとほとんど同じことを言われ、カゲマルは肩を落とす。
「大人って、こういう時だけ意見合うよね」
「生き残ってる大人は大体似たこと言う」
その言葉に、カゲマルは白と再不斬を思い出した。
シカクはそれに気づいたのかもしれない。何も聞かず、カゲマルの頭へ手を置く。
「今日はもうやめだ。飯食って寝ろ」
「子供扱い?」
「十二歳は子供だ」
「忍なのに?」
「忍でも俺の息子だ」
カゲマルはすぐには返事をせず、少しだけ笑った。
「……ただいま、父さん」
シカクは頭から手を離す。
「おう。おかえり」
家の中からヨシノの声が響いた。
「二人とも! ご飯できたわよ!」
続いてシカマルの声も聞こえる。
「兄貴、早くしろよ。母ちゃん機嫌悪くなるぞ」
「今行く!」
カゲマルはシカクと一緒に家へ向かう。夕暮れの庭には二人の影が長く伸びていた。
一度だけ振り返って自分の影を見る。
今は何の変哲もない、普通の影だった。
その奥に何があるのかは、まだ誰も知らない。
文章の読みやすさ
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以前より読みやすい
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以前より読みづらい
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変わらない