転生したら奈良シカマルの双子の兄でした   作:ZAZAI

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第四十四話 第一の試験

 

扉を開けた瞬間、教室の空気が肌にまとわりついた。

 

広い室内にはすでに大勢の下忍が集まっており、木ノ葉だけでなく砂、雨、草、滝と様々な額当てが見える。話し声は絶えないのに妙な緊張感があり、誰かが入ってくるたびにいくつもの視線が向けられていた。

 

レンが小さく息を吐く。

 

「さっきの廊下よりすげぇな」

 

「見すぎ」

 

スズに言われ、慌てて正面へ向き直る。

 

カゲマルも教室を見渡した。

 

見覚えのある顔は多い。

 

砂隠れの三姉弟――テマリ、カンクロウ、そして我愛羅。

 

我愛羅は壁際に立ち、周囲の喧騒など存在しないかのように腕を組んでいる。額に刻まれた「愛」の文字を見た瞬間、カゲマルの背筋にわずかな緊張が走った。

 

知識として知っているのと、実際に同じ場所にいるのではまるで違う。

 

あれが、人柱力。

 

今のナルトとは違い、我愛羅はすでに多くの人間を殺している。

 

視線を向けすぎないよう、カゲマルはすぐに目を逸らした。

 

「カゲマル!」

 

聞き慣れた声がして、ナルトがこちらへ手を振っている。近くにはサスケとサクラだけでなく、シカマル、いの、チョウジ、それにヒナタたち第八班も集まっていた。

 

「兄貴」

 

シカマルが片手を上げる。

 

「ちゃんと来たな」

 

「シカマルもね」

 

「もう帰りてぇけど」

 

「まだ始まってないよ」

 

「だからだよ。始まったら帰りづらいだろ」

 

いつも通りすぎて、逆に安心する。

 

「カゲマル、その二人があんたの班?」

 

いのがレンとスズを見る。

 

「うん。朝倉レンと水無瀬スズ」

 

「よろしく!」

 

レンが元気よく頭を下げ、スズも軽く会釈する。

 

「よろしく」

 

いのは二人を見比べたあと、カゲマルへ顔を寄せた。

 

「へえ。ちゃんとやってるのね」

 

「どういう意味?」

 

「シカマルと一緒じゃないから、あんたが全部やってんのかと思ってた」

 

「俺を何だと思ってるの?」

 

「世話焼き」

 

即答だった。

 

否定しようとして、波の国でゲンマから何度も言われたことを思い出す。

 

「……最近は直してる」

 

「自覚あったんだ」

 

横でシカマルが笑った。

 

そこへナルトが割り込んでくる。

 

「なあカゲマル! あいつら見たか?」

 

声が大きい。

 

「誰?」

 

「あの砂の奴ら!」

 

ナルトが指を向けそうになったので、カゲマルは慌てて腕を下げさせた。

 

「指差さない」

 

「なんでだよ?」

 

「目立つから」

 

「もう目立ってるわよ!」

 

サクラがナルトの頭を叩く。

 

「痛ぇ!」

 

レンがその様子を見て呟いた。

 

「やっぱ俺、あいつと似てないと思う」

 

スズが首を傾げる。

 

「そう?」

 

「そうだよ!」

 

「声の大きさは同じくらい」

 

「そこだけだろ!」

 

また声が大きくなり、スズが無言でレンを見る。

 

「……ごめん」

 

カゲマルが笑っていると、少し離れた場所から男が近づいてきた。

 

眼鏡をかけた銀髪の青年。

 

薬師カブト。

 

姿を確認した瞬間、カゲマルの笑みがわずかに消えた。

 

「君たち、もう少し静かにした方がいいよ」

 

穏やかな声だった。

 

ナルトが振り返る。

 

「誰だってばよ?」

 

「薬師カブト。君たちより先輩かな」

 

カブトは周囲へ目を向ける。

 

「ここには他里から来た連中も多い。試験前でみんな気が立ってるから、あまり騒ぐと目をつけられるよ」

 

原作と同じだ。

 

そう思った直後、カゲマルは自分を戒める。

 

同じに見えるだけで、同じとは限らない。

 

「何回目なんだ?」

 

シカマルが聞く。

 

「今年で七回目」

 

「七回!?」

 

ナルトの声がさらに大きくなる。

 

カブトが苦笑した。

 

「だから静かにって言ったんだけどな」

 

「七回も受けてんのに中忍になってねぇのか?」

 

「ナルト!」

 

サクラが止めるが、カブトは気にした様子もない。

 

「まあね。試験はそれだけ難しいってことさ」

 

そう言いながら懐へ手を入れ、カードの束を取り出した。

 

「せっかくだから、少し情報を教えてあげるよ」

 

「情報?」

 

「忍識札。俺が四年間かけて集めた情報をチャクラで記録してある」

 

床へ一枚置き、指を当てる。チャクラが流れると何もなかった札に文字や図が浮かび上がった。

 

レンが目を輝かせた。

 

「すげぇ!」

 

スズはカードよりカブトを見ている。

 

「四年間、ずっと?」

 

「そうだよ」

 

「よく集めましたね」

 

「情報は忍の武器だからね」

 

その言葉にカゲマルは少しだけ警戒を強めた。

 

目の前にいる男が大蛇丸の部下だと知っている。

 

だが証拠はない。

 

今ここで騒いだところで誰も信じないし、むしろこちらが不自然になるだけだ。

 

「知りたい相手はいる?」

 

カブトが尋ねる。

 

サスケがすぐに答えた。

 

「いる」

 

カゲマルはその先を知っている。

 

「砂の我愛羅。それと、ロック・リー」

 

カブトがカードを探し始めた。

 

その横でレンがカゲマルへ小声で聞く。

 

「有名なの?」

 

「リーはさっき会ったでしょ」

 

「あの告白した人?」

 

「そこじゃない」

 

スズが呆れる。

 

カブトはまずリーの情報を見せ、続いて我愛羅の札へチャクラを流した。

 

任務経験。

 

砂隠れ。

 

そして、任務で一度も傷を負ったことがないという情報。

 

「一度も?」

 

レンの声が低くなる。

 

「そういう記録になってる」

 

カブトが答える。

 

先ほどまで軽かったレンの表情が変わった。怖がっているというより、自分との差を測ろうとしている顔だった。

 

カゲマルは我愛羅を見ない。

 

今の自分たちがまともに戦って勝てる相手ではない。

 

少なくとも、現時点では。

 

「他には?」

 

カブトが尋ねると、ナルトが勢いよく手を上げた。

 

「じゃあ俺!」

 

「自分の情報聞いてどうするのよ!」

 

サクラが突っ込む。

 

「気になるだろ!」

 

「自分のことくらい自分で知ってなさい!」

 

騒ぎが戻りかけた、その時だった。

 

教室の空気が変わった。

 

音の里の三人が動く。

 

カゲマルは反射的にそちらへ目を向けた。

 

ザク、ドス、キン。

 

その額当てを見た瞬間、今度は別の意味で胸がざわつく。

 

音隠れ。

 

隣にいたスズも三人を見ていた。

 

「変な額当て」

 

小さな声だった。

 

カゲマルは答えなかった。

 

この三人との遭遇が、後にスズの進む道にも影響するかもしれない。

 

だが、それはスズ自身が見つけるものだ。

 

自分から答えを渡すつもりはなかった。

 

ドスたちがカブトへ襲いかかる。

 

周囲の受験者がざわめいた。

 

カブトは避けたように見えたが、次の瞬間には眼鏡にひびが入り、その場に膝をつく。

 

「え?」

 

レンが眉を寄せた。

 

「今、避けたよな?」

 

「避けてた」

 

スズの表情が変わる。

 

カブトが吐いた。

 

周囲がさらにざわつく。

 

スズだけはカブトではなく、ドスの腕を見ていた。

 

「……何、今の」

 

「分かる?」

 

カゲマルが聞く。

 

「分からない。でも、殴ってない」

 

スズは耳へ手を当てる。

 

「変な音がした」

 

その声には恐怖より興味が混じっていた。

 

カゲマルはそれ以上聞かなかった。

 

まだ種でいい。

 

今は、それだけで十分だった。

 

騒ぎが大きくなり始めた瞬間、教室前方から白煙が上がった。

 

「待たせたな」

 

煙が晴れる。

 

黒いコートに頭巾、顔にはいくつもの傷。

 

森乃イビキ。

 

その背後には大勢の試験官が並んでいた。

 

「中忍選抜第一の試験、試験官の森乃イビキだ」

 

教室が静まり返る。

 

イビキは受験者たちを睨みつけ、音の三人へ視線を向けた。

 

「試験前に勝手なことしてんじゃねぇぞ。死にてぇのか?」

 

圧のある声だった。

 

レンが小さく呟く。

 

「怖……」

 

「聞こえるよ」

 

スズが囁く。

 

「聞こえねぇように言った」

 

「私に聞こえてる」

 

「お前は耳いいだろ」

 

二人の小声を聞きながら、カゲマルはイビキを見る。

 

第一試験。

 

ここからだ。

 

 

 

---------------------------------------------

 

席は班ごとに離された。

 

カゲマルの席からレンもスズも遠い。シカマルやナルトたちも別々で、周囲には知らない下忍ばかりが座っている。

 

机の上には答案用紙。

 

前方にはイビキ。

 

説明が始まった。

 

十問の筆記試験。

 

最初の九問は一点ずつで、十点満点からの減点方式。カンニングが発覚すれば二点減点され、合計五回の不正が見つかった時点で失格となる。さらに班員の一人が零点を取れば、その班全員が失格。

 

説明を聞きながら、カゲマルは答案用紙を見る。

 

問題は難しい。

 

下忍が普通に解くことを前提にしていない。

 

この試験の本当の目的は、情報収集能力を見ること。

 

それを知っている。

 

だからこそ、困った。

 

知っている答えを使ってしまえば簡単だが、それでは自分の試験にならない。

 

カゲマルは一問目を読む。

 

暗号化された文章。

 

二問目。

 

複雑な弾道計算。

 

三問目まで見たところで、鉛筆を置きそうになった。

 

難しい。

 

普通に難しい。

 

思わず口元が緩む。

 

前世で原作を読んでいた時は、カンニング試験だと分かれば終わりだった。実際にこの席へ座ってみると、何をどう盗むかまで自分で考えなければならない。

 

試験官たちは教室のあちこちから受験者を監視している。

 

露骨に横を見れば減点。

 

下手な忍術も同じ。

 

影真似ならどうする。

 

床には机や椅子の影がいくつも伸びている。自分の影を繋げれば、誰かの動きを真似して答案を書くことはできるかもしれない。

 

だが、目立つ。

 

奈良一族の術を知る試験官もいるだろう。

 

カゲマルは一度だけ周囲を見る。

 

斜め前に座る木ノ葉の下忍。

 

手が止まっていない。

 

候補は見つけた。

 

問題は、どう読むか。

 

カゲマルは鉛筆を持ち直した。

 

未来を知っているからといって、試験官が答えまで教えてくれるわけではない。

 

少しだけ可笑しかった。

 

そして、楽しくもある。

 

自分で考えるしかない。

 

波の国から帰って、何度も言われてきたことだった。

 

カゲマルは視線を答案用紙へ戻し、静かに周囲の気配を探り始めた。

 

少し離れた席では、レンが問題用紙を前に完全に固まっていた。

 

そのさらに向こうで、スズが目を閉じる。

 

教室の中には鉛筆が紙を擦る音が満ちている。

 

一つ、二つ、十、二十。

 

スズの耳が、その音を拾い始めた。

 

第十一班の初めての中忍選抜試験。

 

最初の課題は、敵を倒すことではない。

 

必要な情報を、どう手に入れるか。

 

三人それぞれの戦いが始まった。

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