転生したら奈良シカマルの双子の兄でした   作:ZAZAI

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第四十六話 死の森

 

第一試験を終えた受験者たちは、第二試験官みたらしアンコに連れられ、木ノ葉の外れまで移動していた。

 

目の前には高い金網が続き、その向こうには鬱蒼とした森が広がっている。昼間だというのに木々の奥は薄暗く、遠くから獣とも鳥ともつかない鳴き声が聞こえてきた。

 

金網に掲げられた看板には、大きく文字が刻まれている。

 

第四十四演習場。

 

通称――死の森。

 

「……名前からして嫌なんだけど」

 

レンが金網の向こうを見ながら呟く。

 

「今さら?」

 

スズが返した。

 

「もうちょっとないのかよ。『ちょっと危ない森』とか」

 

「それで安心できる?」

 

「少しは」

 

「できないと思う」

 

二人のやり取りを聞きながら、カゲマルは森を見つめていた。

 

知っている場所だった。

 

正確には、見たことがある場所。

 

前世で画面越しに。

 

ここでナルトたちは大蛇丸と遭遇する。

 

サスケは呪印を刻まれ、その後の人生を大きく左右されることになる。

 

それを知っているだけに、金網の向こうにある暗がりが単なる試験会場には見えなかった。

 

「カゲマル」

 

隣から呼ばれる。

 

スズだった。

 

「何?」

 

「また難しい顔してる」

 

「……最近よく言われる」

 

「実際してるから」

 

レンも覗き込んでくる。

 

「そんなヤバそう?」

 

「死の森って名前だからね」

 

「俺と同じこと言ってるのに、なんか説得力違うな」

 

「日頃の差じゃない?」

 

「スズ、今日ちょっと俺に厳しくない?」

 

「今日も、でしょ」

 

レンが言葉に詰まった。

 

その時、前方からアンコの声が飛んでくる。

 

「そこ! 遠足じゃないんだから静かにしなさい!」

 

「はい!」

 

レンだけが大きな声で返事をした。

 

アンコがこちらを見る。

 

「元気なのがいるわね」

 

「すみません」

 

カゲマルが頭を下げる横で、スズが一歩離れた。

 

「なんで離れるんだよ」

 

「巻き込まれたくないから」

 

「同じ班だろ!」

 

今度は周囲の受験者からも小さな笑いが漏れた。

 

張り詰めていた空気がほんの少しだけ緩む。

 

アンコは腰に手を当てると、受験者たちを見渡した。

 

「ま、今のうちに笑っときなさい。中に入ったら、そんな余裕なくなるから」

 

声の調子は明るい。

 

だが、その内容は冗談ではなかった。

 

アンコが取り出したのは、二種類の巻物だった。

 

「これから第二の試験について説明するわ」

 

片方には「天」、もう片方には「地」の文字。

 

「この試験は簡単。三人一組で、この二種類の巻物を揃えて中央の塔まで来ること」

 

受験者たちが巻物を見る。

 

「最初に各班へ渡すのは、どちらか一つだけ。つまり、もう片方は――」

 

アンコが笑った。

 

「他の班から奪いなさい」

 

空気が変わった。

 

レンも表情を引き締める。

 

カゲマルは周囲を見た。

 

我愛羅たち砂の三姉弟。

 

第七班。

 

第八班。

 

第十班。

 

そして見覚えのない他里の下忍たち。

 

この中の誰かから、巻物を奪わなければならない。

 

逆に言えば、自分たちも狙われる。

 

「制限時間は百二十時間。五日間よ。その間の食料は自分たちで確保すること」

 

「五日!?」

 

ナルトの声が響いた。

 

アンコがそちらを見る。

 

「何? 一日で終わらせてもいいのよ」

 

「だったら一日で行ってやるってばよ!」

 

「ナルト、そういう問題じゃない!」

 

サクラの声が続く。

 

少し離れたところでシカマルが盛大にため息をついていた。

 

「めんどくせぇ……」

 

カゲマルと目が合う。

 

シカマルは口だけ動かした。

 

――兄貴。

 

続けて森を指し、嫌そうな顔をする。

 

何を言いたいのか大体分かった。

 

カゲマルは苦笑して小さく手を上げた。

 

「それと」

 

アンコの声で全員が前を向く。

 

「試験中に死んでも、こっちは責任取らないから」

 

今度は誰も笑わなかった。

 

アンコは平然と説明を続ける。

 

巻物は塔へ着くまで開けてはならないこと。

 

班員三人が揃って塔へ到達すること。

 

途中で棄権しても、試験終了までは再挑戦できないこと。

 

そして最後に配られたのが、同意書だった。

 

レンが紙を眺める。

 

「……本当に死ぬって書いてある」

 

「だから死の森なんじゃない?」

 

「スズ、そういう納得の仕方やめようぜ」

 

カゲマルも署名欄を見る。

 

死亡しても責任を問わない。

 

十二歳が署名する書類としてどうなんだろう、と前世の感覚が一瞬だけ顔を出した。

 

この世界では、それが忍になるということなのだろう。

 

カゲマルは名前を書いた。

 

奈良カゲマル。

 

レンも続き、最後にスズが署名する。

 

三枚を重ねたところで、レンが二人を見る。

 

「絶対三人で出ような」

 

カゲマルは少し目を瞬いた。

 

「森から?」

 

「他に何があるんだよ」

 

「いや、急に真面目だったから」

 

「俺だって真面目な時あるわ!」

 

スズが同意書を持ち上げる。

 

「死亡同意書に名前書いた直後くらいはね」

 

「そういうこと!」

 

レンは一度息を吐いてから、今度は少し声を落とした。

 

「……マジでな」

 

カゲマルは頷いた。

 

「うん」

 

「もちろん」

 

スズも答えた。

 

それ以上の約束はしなかった。

 

 

 

-----------------------------------

 

巻物の配布は、他班に種類が知られないよう個別に行われた。

 

第十一班が受け取ったのは――地の書。

 

レンが巻物を見る。

 

「じゃあ天の書を取ればいいんだな」

 

「そうなるね」

 

カゲマルは地の書を忍具袋へ入れようとして、手を止めた。

 

「俺が持つより、スズが持ってて」

 

「私?」

 

「多分、一番狙われにくい」

 

レンが自分を指す。

 

「俺は?」

 

「真っ先に突っ込む可能性がある」

 

「否定できないのが悔しい」

 

「カゲマルは?」

 

スズが聞く。

 

「影を使うなら、動きを見られやすい。俺が持ってると思われる可能性もあるし」

 

スズは少し考えてから巻物を受け取った。

 

「分かった」

 

「ただし、襲われた時に巻物を守ることを最優先にはしないで」

 

「どういうこと?」

 

「取られたら取り返せる。でも怪我したら、その分動けなくなる」

 

レンが笑う。

 

「じゃあ取られたら俺が取り返す」

 

「そこは三人で、でしょ」

 

「分かってるって」

 

開始地点は班ごとに分けられていた。

 

第十一班が案内されたのは二十一番ゲート。

 

巨大な金属扉の向こうに、木々が密集している。

 

ここから先はゲンマがいない。

 

波の国では、どれだけ任せられていても最後にはゲンマがいた。本当に危険なら止めてくれる大人がいた。

 

今回は違う。

 

三人だけだ。

 

カゲマルはそれを考え、すぐに隣を見る。

 

レンは軽く屈伸している。

 

スズは森の奥へ耳を向けていた。

 

自分だけではない。

 

それで十分だった。

 

係員が時計を見る。

 

「まもなく開始する」

 

各ゲートの前で受験者が身構える。

 

遠く離れたどこかに第七班もいる。

 

カゲマルは一瞬だけ、その方角を探したくなった。

 

やめる。

 

まだ何も起きていない。

 

最初から第七班を追えば、第十一班の試験ではなくなる。

 

「三十秒」

 

スズが小さく息を吐いた。

 

「入ったら、最初は走る?」

 

「うん。ゲート付近に留まる理由はない」

 

カゲマルが答える。

 

「他の班も同じこと考えるだろ」

 

レンが言う。

 

「だから先に離れる。スズ、周りお願い」

 

「分かった」

 

「レンは前」

 

「任せろ」

 

「ただし――」

 

「突っ込みすぎるな、だろ?」

 

先に言われた。

 

カゲマルが笑う。

 

「覚えてるじゃん」

 

「何回言われたと思ってんだよ」

 

扉が開く。

 

「開始!」

 

三人は同時に飛び出した。

 

 

 

-----------------------------------

 

森へ入った瞬間、外とは空気が変わった。

 

巨大な木々が日光を遮り、湿った土と植物の匂いが濃くなる。

 

レンが先頭。

 

少し後ろをカゲマル。

 

スズが中央寄りを走りながら周囲の音を拾う。

 

最初の数分は速度を優先した。

 

ゲートから距離を取り、他班との遭遇を避ける。

 

やがてスズが声を落とす。

 

「右、少し遠くに三人」

 

レンが速度を緩める。

 

「こっち来てる?」

 

「今は違う。向こうも移動してる」

 

「じゃあ避けよう」

 

カゲマルが進路を左へ変える。

 

レンが意外そうに見る。

 

「戦わないのか?」

 

「相手の巻物が何か分からないのに?」

 

「ああ……そっか」

 

「地の書だったら戦う意味ないよ」

 

スズが付け足す。

 

「なるほど」

 

「本当に分かってる?」

 

「分かってるって!」

 

三人は戦闘を避けて進んだ。

 

中央の塔へ一直線に向かうわけではない。まず他班の動きを把握し、自分たちが必要とする天の書を持つ班を探す。

 

問題は、相手の巻物が外から分からないことだった。

 

「どうやって天か地か見分ける?」

 

休憩のため太い枝へ降りたレンが聞く。

 

カゲマルは水を一口飲む。

 

「普通なら見せないよね」

 

「じゃあ片っ端から倒す?」

 

「効率悪い」

 

スズが即答する。

 

「じゃあどうするんだよ」

 

カゲマルも考える。

 

他班を倒して確認する。

 

取引する。

 

相手が巻物を出す瞬間を狙う。

 

方法はいくつかあるが、どれも確実ではない。

 

その時、スズが顔を上げた。

 

「静かに」

 

二人が黙る。

 

スズは目を閉じた。

 

数秒。

 

「三人。左前」

 

「距離は?」

 

「近い。さっきの班じゃない」

 

レンが立ち上がろうとする。

 

カゲマルが腕を掴んだ。

 

「待って」

 

「まだ何もしてないだろ」

 

「立とうとした」

 

「立つくらいいいだろ」

 

「来る」

 

スズの一言で二人の表情が変わった。

 

「真っ直ぐこっち」

 

カゲマルは枝から下を見る。

 

姿はまだない。

 

「気づかれてる?」

 

「多分」

 

「なら隠れる」

 

三人はすぐに散った。

 

 

 

 

--------------------------------------

 

数十秒後。

 

三人の下忍が現れた。

 

額当ては雨。

 

木々の間を慎重に進んでいる。

 

「この辺だ」

 

一人が言った。

 

「足跡が消えてる」

 

別の一人が地面を見る。

 

追跡されていた。

 

カゲマルは木の陰から観察する。

 

相手も三人。

 

一人は大柄。

 

一人は細身。

 

もう一人は小柄な女。

 

実力は分からない。

 

巻物も見えない。

 

ここで戦う必要があるか。

 

そう考えた直後だった。

 

「出てこい」

 

大柄な男が声を上げた。

 

「いるのは分かってる」

 

返事はしない。

 

男が懐へ手を入れる。

 

「出てこないなら――」

 

投げた。

 

起爆札付きのクナイ。

 

カゲマルの目が見開く。

 

「散れ!」

 

爆発。

 

枝が砕ける。

 

レンが別の木へ跳び、スズも反対側へ離れる。

 

カゲマルは地面へ降りた。

 

「やっぱりいたな」

 

雨隠れの三人が構える。

 

レンが木の上から叫ぶ。

 

「いきなり爆発させるか普通!?」

 

「ここ死の森だぞ」

 

「それ便利な言葉だな!」

 

カゲマルは相手の足元を見る。

 

三人ともこちらを警戒している。

 

逃げることはできる。

 

だが、すでに位置を知られている。

 

追跡されれば余計に消耗する。

 

それなら――。

 

「レン」

 

「おう」

 

「前、お願い」

 

返事と同時にレンが飛び出した。

 

大柄な男とぶつかる。

 

拳と腕が衝突する。

 

「っ!」

 

レンの身体が僅かに押された。

 

相手の方が力は強い。

 

だがレンは無理に押し返さず、すぐ身体を捻って横へ抜ける。

 

追わない。

 

波の国で覚えたことだった。

 

大柄な男がレンへ向き直った瞬間、細身の男が印を結ぶ。

 

「水遁――」

 

「左!」

 

スズの声。

 

レンが迷わず跳ぶ。

 

水の塊が直前までいた場所を叩いた。

 

「チッ」

 

細身の男が舌打ちする。

 

その足元へ、影が伸びていた。

 

「影真似の術」

 

男の身体が止まる。

 

「なっ――」

 

カゲマルが右腕を上げる。

 

男の右腕も上がり、術の印が崩れた。

 

大柄な男がカゲマルへ向かおうとする。

 

だがレンが前へ入った。

 

「お前の相手は俺!」

 

今度は真正面から力比べをしない。

 

拳をかわし、懐へ潜る。

 

腹へ一発。

 

浅い。

 

それでも相手の姿勢が崩れる。

 

「スズ!」

 

カゲマルが呼ぶ。

 

返事はない。

 

必要もなかった。

 

小柄な女がクナイを投げようとした瞬間、その手元へ別のクナイが飛ぶ。

 

金属音。

 

軌道が逸れる。

 

スズはすでに位置を変えていた。

 

「どこ――」

 

女が周囲を見る。

 

その一瞬をレンが見逃さない。

 

大柄な男の膝裏を蹴り、すぐ離れる。

 

倒し切ろうとしない。

 

三人の動きを崩す。

 

カゲマルは影真似を解除した。

 

長く一人を拘束し続ければ、自分も動けない。

 

解放された細身の男が印を結び直そうとする。

 

「遅い!」

 

レンが踏み込む。

 

今度は顔面へ拳を入れた。

 

男が吹き飛ぶ。

 

「お前……!」

 

大柄な男がレンへ向かう。

 

その時。

 

「右」

 

スズの声。

 

レンは理由も聞かず身体を沈めた。

 

頭上をクナイが通る。

 

投げたのはスズ。

 

狙いはレンではない。

 

後ろの木。

 

クナイが張られていた細い糸を切った。

 

次の瞬間、雨隠れの三人の頭上から枝が落ちてくる。

 

「なっ!?」

 

三人が散る。

 

カゲマルは理解した。

 

さっきの爆発で折れかけていた枝だ。

 

スズは最初から気づいていた。

 

「レン!」

 

「おう!」

 

今度はカゲマルが指示するより早かった。

 

枝を避けた大柄な男の着地点へレンが入る。

 

拳。

 

男が防ぐ。

 

レンはそれを読んでいた。

 

足払い。

 

巨体が崩れる。

 

カゲマルの影がそこへ届く。

 

「捕まえた」

 

大柄な男の動きが止まった。

 

細身の男はまだ起き上がれていない。

 

残る女がクナイを構える。

 

スズも構えた。

 

互いに動かない。

 

カゲマルが口を開く。

 

「巻物を見せて」

 

「……は?」

 

「俺たちは地の書を持ってる。そっちも地なら、これ以上戦う意味ない」

 

レンが振り返りかける。

 

「それ言っていいのか?」

 

「今はね」

 

女は黙った。

 

「嘘かもしれない」

 

「そうだね」

 

カゲマルは否定しない。

 

「だから確認したい」

 

「こっちが天だったら?」

 

「奪う」

 

「正直だな」

 

「そっちも同じでしょ」

 

沈黙。

 

大柄な男が影に縛られたまま舌打ちする。

 

「見せるな」

 

女の目が動いた。

 

一瞬だけ。

 

腰の忍具袋へ。

 

カゲマルはそれを見逃さなかった。

 

「そこ?」

 

女の顔が変わる。

 

しまった、という顔。

 

レンが笑う。

 

「分かりやすっ」

 

「レン」

 

「悪い」

 

女は諦めたように息を吐くと、忍具袋から巻物を取り出した。

 

地。

 

カゲマルは影真似を解いた。

 

「行こう」

 

レンが驚く。

 

「いいの?」

 

「同じ巻物なら必要ない」

 

雨隠れの三人も動かない。

 

大柄な男は不満そうだったが、細身の男が腕を掴んだ。

 

「やめろ。こっちも消耗するだけだ」

 

互いに距離を取る。

 

第十一班はその場を離れた。

 

 

--------------------------------

 

十分ほど移動してから、レンが口を開いた。

 

「結局、巻物増えてないな」

 

「でも怪我もしてない」

 

スズが答える。

 

「それはそうだけど」

 

「それに」

 

カゲマルは後ろを見る。

 

追ってくる気配はない。

 

「一つ分かった」

 

「何が?」

 

「相手も同じこと考えてる。巻物が違うって分かれば戦う。同じなら、無理して戦わない班もいる」

 

レンが少し考える。

 

「じゃあ天の書持ってるって言ってる奴探せばいい?」

 

「そんな親切な人いると思う?」

 

「いないな」

 

即答だった。

 

スズが足を止める。

 

二人も止まった。

 

「どうした?」

 

「……誰かいる」

 

レンが構える。

 

カゲマルも周囲を見る。

 

「何人?」

 

スズは答えない。

 

目を閉じ、耳を澄ませている。

 

「三人……だと思う」

 

「近い?」

 

「近づいてる」

 

少し間が空く。

 

「速い」

 

カゲマルは忍具袋へ手を伸ばした。

 

先ほどの雨隠れとは違う。

 

スズの表情が硬い。

 

「こっちに気づいてる?」

 

「分からない。でも――」

 

スズが目を開ける。

 

「一人、足音がほとんどしない」

 

レンの顔から笑みが消えた。

 

カゲマルも息を潜める。

 

木々の奥。

 

何も見えない。

 

鳥の声。

 

葉が擦れる音。

 

その中に、僅かな気配だけがある。

 

「隠れる」

 

カゲマルが短く言う。

 

三人が同時に動いた。

 

今度は指示を待つ必要もなかった。

 

レンは右。

 

スズは後方。

 

カゲマルは木の上へ。

 

それぞれが別の位置から同じ場所を見る。

 

やがて三人の忍が現れた。

 

草隠れ。

 

カゲマルは僅かに目を細める。

 

その中にいる一人を見た瞬間、背中を冷たいものが走った。

 

長い黒髪。

 

笠を深く被った忍。

 

顔は知らない。

 

少なくとも、この姿には覚えがない。

 

けれど。

 

三人が通り過ぎていく。

 

カゲマルは動けなかった。

 

何かがおかしい。

 

理由を説明できない。

 

ただ、あの一人だけが他の二人と違う。

 

隠している。

 

そんな感じがした。

 

草隠れの三人は、第十一班に気づいた様子もなく森の奥へ消えていった。

 

しばらくしてレンが姿を現す。

 

「……行った?」

 

スズも木の陰から出てくる。

 

「多分」

 

カゲマルは草隠れが消えた方向を見続けていた。

 

「カゲマル?」

 

レンに呼ばれる。

 

「あの人たち、追わない方がいい」

 

「巻物持ってるかもしれないぞ」

 

「それでも」

 

カゲマルは即答した。

 

レンが黙る。

 

スズが尋ねた。

 

「何か気づいた?」

 

どう答える。

 

大蛇丸かもしれない。

 

そう言えるはずがない。

 

そもそも確証もない。

 

「……分からない」

 

カゲマルは正直に答えた。

 

「でも、嫌な感じがする」

 

レンとスズが顔を見合わせる。

 

以前なら、根拠を聞かれたかもしれない。

 

だがレンはすぐに頷いた。

 

「じゃあやめよう」

 

「いいの?」

 

「カゲマルがそこまで言うなら」

 

スズも草隠れが消えた方向へ耳を向ける。

 

「私も賛成。あの一人だけ、音が変だった」

 

「音?」

 

「静かすぎた。足音だけじゃない。呼吸もほとんど乱れてなかった」

 

レンが顔をしかめる。

 

「なんだそれ。気持ち悪いな」

 

三人は反対方向へ進み始めた。

 

カゲマルは一度だけ振り返った。

 

もし、あれが大蛇丸なら。

 

もう第七班を探している。

 

追うべきか。

 

警告するべきか。

 

頭の中にいくつもの選択肢が浮かぶ。

 

その時、前を進んでいたレンが振り返った。

 

「カゲマル、置いてくぞ」

 

「あ、ごめん」

 

カゲマルは二人を追った。

 

まだだ。

 

確証もないまま動けば、第十一班まで危険に晒す。

 

まず自分たちの試験を進める。

 

そう決めた。

 

 

 

-----------------------------------

 

日が傾き始める頃、第十一班は小さな水場を見つけていた。

 

長時間の移動を避けるため、今日はこの周辺で休むことにする。

 

火は焚かない。

 

目立つからだ。

 

レンが木にもたれながら携帯食を齧る。

 

「初日で天の書欲しかったな」

 

「まだ初日終わってないよ」

 

スズが返す。

 

「今から探す?」

 

「暗くなってから?」

 

「やめとく」

 

判断が早い。

 

カゲマルは木の根元に座り、地図を見る。

 

中央の塔までの距離。

 

現在地。

 

今日遭遇した班。

 

雨隠れ。

 

そして草隠れ。

 

記憶では、大蛇丸は草隠れの忍に成り代わって試験へ入り込んでいた。

 

先ほどの三人。

 

その可能性は高い。

 

だが、問題はそこからだった。

 

知っている。

 

この先、第七班が大蛇丸に襲われる。

 

サスケは呪印を受ける。

 

ナルトも危険な目に遭う。

 

知っているなら止めるべきなのか。

 

けれど、どうやって。

 

第七班の現在地すら分からない。

 

大蛇丸を探して第十一班を連れ回す?

 

あり得ない。

 

レンとスズは、自分の未来知識のために命を懸ける駒ではない。

 

カゲマルは地図を畳んだ。

 

「まだ考えてる?」

 

スズだった。

 

「ちょっとね」

 

「さっきの草隠れ?」

 

カゲマルは一瞬迷い、頷く。

 

「うん」

 

レンも身体を起こす。

 

「やっぱなんかあった?」

 

「確証はない」

 

「それは聞いた」

 

レンは携帯食を飲み込む。

 

「じゃあ、確証ができたら教えて」

 

カゲマルは顔を上げた。

 

「理由も分からないのに?」

 

「分からないからだろ」

 

レンは当然のように言った。

 

「三人で考えるんじゃなかったのか?」

 

言葉に詰まる。

 

スズが少し笑った。

 

「レンがまともなこと言った」

 

「お前今日それ二回目だぞ」

 

「記念日かも」

 

「喧嘩売ってる?」

 

二人のやり取りを聞きながら、カゲマルは肩の力を抜いた。

 

「分かった」

 

全部は話せない。

 

前世のことまで説明するつもりはない。

 

それでも、何か起きた時に自分だけで決めない。

 

そのくらいはできる。

 

「何か分かったら話す」

 

「おう」

 

「うん」

 

森の夜は早い。

 

木々の隙間から見える空が少しずつ暗くなっていく。

 

遠くで獣の鳴き声がした。

 

スズが顔を上げる。

 

「……待って」

 

レンとカゲマルが同時に反応する。

 

「どうした?」

 

スズは耳を澄ませた。

 

「今……」

 

森の奥。

 

かなり遠い。

 

何かが弾けるような音がした。

 

鳥たちが一斉に飛び立つ。

 

続いて、地面を僅かに震わせる衝撃。

 

レンが立ち上がる。

 

「何だ?」

 

カゲマルも立っていた。

 

方角を見る。

 

距離は分からない。

 

ただ、嫌な予感がした。

 

草隠れの三人が向かった方向と、完全に同じかどうかも分からない。

 

それでも胸の奥がざわつく。

 

スズが低く言った。

 

「戦闘だと思う。かなり大きい」

 

カゲマルは答えなかった。

 

森の向こうを見つめる。

 

始まったのかもしれない。

 

自分が知っている、あの戦いが。

 

隣でレンが聞く。

 

「どうする?」

 

以前なら、カゲマルはすぐに答えを出そうとしただろう。

 

けれど今は違った。

 

スズを見る。

 

レンを見る。

 

そして、もう一度遠くの森を見る。

 

「……まず状況を確認しよう」

 

二人が頷く。

 

知っているからといって、決めつけない。

 

怖いからといって、目を逸らさない。

 

第十一班は三人で立ち上がった。

 

死の森の最初の夜は、まだ始まったばかりだった。

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BLEACHの世界に転生したけど何故かステータス画面があるんだが(作者:最強主人公2)(原作:BLEACH)

気づいたら『BLEACH』の世界に転生していた主人公。▼しかも、目を開けると何故かステータス画面が表示されていた!▼「ステータスがざこすぎる!」▼原作知識とステータスを頼りに、斬魄刀も持っていない状態から少しずつ強くなっていく。▼果たして朔は、この世界でどこまで強くなれるのか。▼これは、そんな少年の成長物語。


総合評価:707/評価:6.85/連載:17話/更新日時:2026年10月26日(月) 21:36 小説情報

ダンゾウの息子、志村ソウマ(作者:へたれん)(原作:NARUTO)

▼・書き始めた理由▼原作においてあまりにもやらかしすぎているせいで二次創作でも大抵敵キャラにされているけど、ダンゾウにだってヒルゼンと夢を語り合った時期があったんだから闇堕ちする前に救ってしまえ!▼ダンゾウが正しく扉間リスペクトすればダンゾウ起因の悲劇回避できるよなと思い、周りにオリキャラを追加してみた話▼・あらすじ▼扉間から火影を託された三代目火影猿飛ヒル…


総合評価:926/評価:8.29/連載:43話/更新日時:2026年10月27日(火) 20:39 小説情報

四番隊の一般隊士、実は卍解持ちの激強死神でした(作者:獅子論)(原作:BLEACH)

ほんの思い付きでとりあえず書いてみたものです。▼皆さんの目に少しでも面白いと思ってくれたら幸いです。


総合評価:917/評価:5.12/短編:54話/更新日時:2026年10月13日(火) 01:01 小説情報

日向ヒカゲ忍法帖(作者:鍋川太一)(原作:NARUTO)

 NARUTOの世界に転生した、男の物語。木の葉の名門に生まれた彼の運命やいかに?▼ 作者の独自解釈がてんこ盛りです。主人公はいろんな事に疑問を抱いている。苦手な方は戻って下さいな。▼ NARUTOを読んでいないと分かりづらいと思います▼ 続かないかも知れないし続くかもしれない。


総合評価:3675/評価:7.64/連載:67話/更新日時:2026年10月26日(月) 19:00 小説情報

BLEACH ―斬界の御厨子―(作者:tunagi)(原作:BLEACH)

黒崎一護には、昔から付き合いのある一人の少年がいた。▼その名は――御門朔夜。▼普段は浦原商店で気ままに暮らし、店番を頼まれては嫌がり、四楓院夜一とは軽口を叩き合う。▼一見すれば、少し変わった普通の少年。▼しかし、その正体は――死神だった。▼朔夜を鍛え上げたのは、元十二番隊隊長・浦原喜助と、元二番隊隊長にして瞬神の異名を持つ四楓院夜一。▼二人による常識外れの修…


総合評価:574/評価:6.19/連載:79話/更新日時:2026年10月27日(火) 12:47 小説情報


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