第一試験を終えた受験者たちは、第二試験官みたらしアンコに連れられ、木ノ葉の外れまで移動していた。
目の前には高い金網が続き、その向こうには鬱蒼とした森が広がっている。昼間だというのに木々の奥は薄暗く、遠くから獣とも鳥ともつかない鳴き声が聞こえてきた。
金網に掲げられた看板には、大きく文字が刻まれている。
第四十四演習場。
通称――死の森。
「……名前からして嫌なんだけど」
レンが金網の向こうを見ながら呟く。
「今さら?」
スズが返した。
「もうちょっとないのかよ。『ちょっと危ない森』とか」
「それで安心できる?」
「少しは」
「できないと思う」
二人のやり取りを聞きながら、カゲマルは森を見つめていた。
知っている場所だった。
正確には、見たことがある場所。
前世で画面越しに。
ここでナルトたちは大蛇丸と遭遇する。
サスケは呪印を刻まれ、その後の人生を大きく左右されることになる。
それを知っているだけに、金網の向こうにある暗がりが単なる試験会場には見えなかった。
「カゲマル」
隣から呼ばれる。
スズだった。
「何?」
「また難しい顔してる」
「……最近よく言われる」
「実際してるから」
レンも覗き込んでくる。
「そんなヤバそう?」
「死の森って名前だからね」
「俺と同じこと言ってるのに、なんか説得力違うな」
「日頃の差じゃない?」
「スズ、今日ちょっと俺に厳しくない?」
「今日も、でしょ」
レンが言葉に詰まった。
その時、前方からアンコの声が飛んでくる。
「そこ! 遠足じゃないんだから静かにしなさい!」
「はい!」
レンだけが大きな声で返事をした。
アンコがこちらを見る。
「元気なのがいるわね」
「すみません」
カゲマルが頭を下げる横で、スズが一歩離れた。
「なんで離れるんだよ」
「巻き込まれたくないから」
「同じ班だろ!」
今度は周囲の受験者からも小さな笑いが漏れた。
張り詰めていた空気がほんの少しだけ緩む。
アンコは腰に手を当てると、受験者たちを見渡した。
「ま、今のうちに笑っときなさい。中に入ったら、そんな余裕なくなるから」
声の調子は明るい。
だが、その内容は冗談ではなかった。
アンコが取り出したのは、二種類の巻物だった。
「これから第二の試験について説明するわ」
片方には「天」、もう片方には「地」の文字。
「この試験は簡単。三人一組で、この二種類の巻物を揃えて中央の塔まで来ること」
受験者たちが巻物を見る。
「最初に各班へ渡すのは、どちらか一つだけ。つまり、もう片方は――」
アンコが笑った。
「他の班から奪いなさい」
空気が変わった。
レンも表情を引き締める。
カゲマルは周囲を見た。
我愛羅たち砂の三姉弟。
第七班。
第八班。
第十班。
そして見覚えのない他里の下忍たち。
この中の誰かから、巻物を奪わなければならない。
逆に言えば、自分たちも狙われる。
「制限時間は百二十時間。五日間よ。その間の食料は自分たちで確保すること」
「五日!?」
ナルトの声が響いた。
アンコがそちらを見る。
「何? 一日で終わらせてもいいのよ」
「だったら一日で行ってやるってばよ!」
「ナルト、そういう問題じゃない!」
サクラの声が続く。
少し離れたところでシカマルが盛大にため息をついていた。
「めんどくせぇ……」
カゲマルと目が合う。
シカマルは口だけ動かした。
――兄貴。
続けて森を指し、嫌そうな顔をする。
何を言いたいのか大体分かった。
カゲマルは苦笑して小さく手を上げた。
「それと」
アンコの声で全員が前を向く。
「試験中に死んでも、こっちは責任取らないから」
今度は誰も笑わなかった。
アンコは平然と説明を続ける。
巻物は塔へ着くまで開けてはならないこと。
班員三人が揃って塔へ到達すること。
途中で棄権しても、試験終了までは再挑戦できないこと。
そして最後に配られたのが、同意書だった。
レンが紙を眺める。
「……本当に死ぬって書いてある」
「だから死の森なんじゃない?」
「スズ、そういう納得の仕方やめようぜ」
カゲマルも署名欄を見る。
死亡しても責任を問わない。
十二歳が署名する書類としてどうなんだろう、と前世の感覚が一瞬だけ顔を出した。
この世界では、それが忍になるということなのだろう。
カゲマルは名前を書いた。
奈良カゲマル。
レンも続き、最後にスズが署名する。
三枚を重ねたところで、レンが二人を見る。
「絶対三人で出ような」
カゲマルは少し目を瞬いた。
「森から?」
「他に何があるんだよ」
「いや、急に真面目だったから」
「俺だって真面目な時あるわ!」
スズが同意書を持ち上げる。
「死亡同意書に名前書いた直後くらいはね」
「そういうこと!」
レンは一度息を吐いてから、今度は少し声を落とした。
「……マジでな」
カゲマルは頷いた。
「うん」
「もちろん」
スズも答えた。
それ以上の約束はしなかった。
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巻物の配布は、他班に種類が知られないよう個別に行われた。
第十一班が受け取ったのは――地の書。
レンが巻物を見る。
「じゃあ天の書を取ればいいんだな」
「そうなるね」
カゲマルは地の書を忍具袋へ入れようとして、手を止めた。
「俺が持つより、スズが持ってて」
「私?」
「多分、一番狙われにくい」
レンが自分を指す。
「俺は?」
「真っ先に突っ込む可能性がある」
「否定できないのが悔しい」
「カゲマルは?」
スズが聞く。
「影を使うなら、動きを見られやすい。俺が持ってると思われる可能性もあるし」
スズは少し考えてから巻物を受け取った。
「分かった」
「ただし、襲われた時に巻物を守ることを最優先にはしないで」
「どういうこと?」
「取られたら取り返せる。でも怪我したら、その分動けなくなる」
レンが笑う。
「じゃあ取られたら俺が取り返す」
「そこは三人で、でしょ」
「分かってるって」
開始地点は班ごとに分けられていた。
第十一班が案内されたのは二十一番ゲート。
巨大な金属扉の向こうに、木々が密集している。
ここから先はゲンマがいない。
波の国では、どれだけ任せられていても最後にはゲンマがいた。本当に危険なら止めてくれる大人がいた。
今回は違う。
三人だけだ。
カゲマルはそれを考え、すぐに隣を見る。
レンは軽く屈伸している。
スズは森の奥へ耳を向けていた。
自分だけではない。
それで十分だった。
係員が時計を見る。
「まもなく開始する」
各ゲートの前で受験者が身構える。
遠く離れたどこかに第七班もいる。
カゲマルは一瞬だけ、その方角を探したくなった。
やめる。
まだ何も起きていない。
最初から第七班を追えば、第十一班の試験ではなくなる。
「三十秒」
スズが小さく息を吐いた。
「入ったら、最初は走る?」
「うん。ゲート付近に留まる理由はない」
カゲマルが答える。
「他の班も同じこと考えるだろ」
レンが言う。
「だから先に離れる。スズ、周りお願い」
「分かった」
「レンは前」
「任せろ」
「ただし――」
「突っ込みすぎるな、だろ?」
先に言われた。
カゲマルが笑う。
「覚えてるじゃん」
「何回言われたと思ってんだよ」
扉が開く。
「開始!」
三人は同時に飛び出した。
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森へ入った瞬間、外とは空気が変わった。
巨大な木々が日光を遮り、湿った土と植物の匂いが濃くなる。
レンが先頭。
少し後ろをカゲマル。
スズが中央寄りを走りながら周囲の音を拾う。
最初の数分は速度を優先した。
ゲートから距離を取り、他班との遭遇を避ける。
やがてスズが声を落とす。
「右、少し遠くに三人」
レンが速度を緩める。
「こっち来てる?」
「今は違う。向こうも移動してる」
「じゃあ避けよう」
カゲマルが進路を左へ変える。
レンが意外そうに見る。
「戦わないのか?」
「相手の巻物が何か分からないのに?」
「ああ……そっか」
「地の書だったら戦う意味ないよ」
スズが付け足す。
「なるほど」
「本当に分かってる?」
「分かってるって!」
三人は戦闘を避けて進んだ。
中央の塔へ一直線に向かうわけではない。まず他班の動きを把握し、自分たちが必要とする天の書を持つ班を探す。
問題は、相手の巻物が外から分からないことだった。
「どうやって天か地か見分ける?」
休憩のため太い枝へ降りたレンが聞く。
カゲマルは水を一口飲む。
「普通なら見せないよね」
「じゃあ片っ端から倒す?」
「効率悪い」
スズが即答する。
「じゃあどうするんだよ」
カゲマルも考える。
他班を倒して確認する。
取引する。
相手が巻物を出す瞬間を狙う。
方法はいくつかあるが、どれも確実ではない。
その時、スズが顔を上げた。
「静かに」
二人が黙る。
スズは目を閉じた。
数秒。
「三人。左前」
「距離は?」
「近い。さっきの班じゃない」
レンが立ち上がろうとする。
カゲマルが腕を掴んだ。
「待って」
「まだ何もしてないだろ」
「立とうとした」
「立つくらいいいだろ」
「来る」
スズの一言で二人の表情が変わった。
「真っ直ぐこっち」
カゲマルは枝から下を見る。
姿はまだない。
「気づかれてる?」
「多分」
「なら隠れる」
三人はすぐに散った。
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数十秒後。
三人の下忍が現れた。
額当ては雨。
木々の間を慎重に進んでいる。
「この辺だ」
一人が言った。
「足跡が消えてる」
別の一人が地面を見る。
追跡されていた。
カゲマルは木の陰から観察する。
相手も三人。
一人は大柄。
一人は細身。
もう一人は小柄な女。
実力は分からない。
巻物も見えない。
ここで戦う必要があるか。
そう考えた直後だった。
「出てこい」
大柄な男が声を上げた。
「いるのは分かってる」
返事はしない。
男が懐へ手を入れる。
「出てこないなら――」
投げた。
起爆札付きのクナイ。
カゲマルの目が見開く。
「散れ!」
爆発。
枝が砕ける。
レンが別の木へ跳び、スズも反対側へ離れる。
カゲマルは地面へ降りた。
「やっぱりいたな」
雨隠れの三人が構える。
レンが木の上から叫ぶ。
「いきなり爆発させるか普通!?」
「ここ死の森だぞ」
「それ便利な言葉だな!」
カゲマルは相手の足元を見る。
三人ともこちらを警戒している。
逃げることはできる。
だが、すでに位置を知られている。
追跡されれば余計に消耗する。
それなら――。
「レン」
「おう」
「前、お願い」
返事と同時にレンが飛び出した。
大柄な男とぶつかる。
拳と腕が衝突する。
「っ!」
レンの身体が僅かに押された。
相手の方が力は強い。
だがレンは無理に押し返さず、すぐ身体を捻って横へ抜ける。
追わない。
波の国で覚えたことだった。
大柄な男がレンへ向き直った瞬間、細身の男が印を結ぶ。
「水遁――」
「左!」
スズの声。
レンが迷わず跳ぶ。
水の塊が直前までいた場所を叩いた。
「チッ」
細身の男が舌打ちする。
その足元へ、影が伸びていた。
「影真似の術」
男の身体が止まる。
「なっ――」
カゲマルが右腕を上げる。
男の右腕も上がり、術の印が崩れた。
大柄な男がカゲマルへ向かおうとする。
だがレンが前へ入った。
「お前の相手は俺!」
今度は真正面から力比べをしない。
拳をかわし、懐へ潜る。
腹へ一発。
浅い。
それでも相手の姿勢が崩れる。
「スズ!」
カゲマルが呼ぶ。
返事はない。
必要もなかった。
小柄な女がクナイを投げようとした瞬間、その手元へ別のクナイが飛ぶ。
金属音。
軌道が逸れる。
スズはすでに位置を変えていた。
「どこ――」
女が周囲を見る。
その一瞬をレンが見逃さない。
大柄な男の膝裏を蹴り、すぐ離れる。
倒し切ろうとしない。
三人の動きを崩す。
カゲマルは影真似を解除した。
長く一人を拘束し続ければ、自分も動けない。
解放された細身の男が印を結び直そうとする。
「遅い!」
レンが踏み込む。
今度は顔面へ拳を入れた。
男が吹き飛ぶ。
「お前……!」
大柄な男がレンへ向かう。
その時。
「右」
スズの声。
レンは理由も聞かず身体を沈めた。
頭上をクナイが通る。
投げたのはスズ。
狙いはレンではない。
後ろの木。
クナイが張られていた細い糸を切った。
次の瞬間、雨隠れの三人の頭上から枝が落ちてくる。
「なっ!?」
三人が散る。
カゲマルは理解した。
さっきの爆発で折れかけていた枝だ。
スズは最初から気づいていた。
「レン!」
「おう!」
今度はカゲマルが指示するより早かった。
枝を避けた大柄な男の着地点へレンが入る。
拳。
男が防ぐ。
レンはそれを読んでいた。
足払い。
巨体が崩れる。
カゲマルの影がそこへ届く。
「捕まえた」
大柄な男の動きが止まった。
細身の男はまだ起き上がれていない。
残る女がクナイを構える。
スズも構えた。
互いに動かない。
カゲマルが口を開く。
「巻物を見せて」
「……は?」
「俺たちは地の書を持ってる。そっちも地なら、これ以上戦う意味ない」
レンが振り返りかける。
「それ言っていいのか?」
「今はね」
女は黙った。
「嘘かもしれない」
「そうだね」
カゲマルは否定しない。
「だから確認したい」
「こっちが天だったら?」
「奪う」
「正直だな」
「そっちも同じでしょ」
沈黙。
大柄な男が影に縛られたまま舌打ちする。
「見せるな」
女の目が動いた。
一瞬だけ。
腰の忍具袋へ。
カゲマルはそれを見逃さなかった。
「そこ?」
女の顔が変わる。
しまった、という顔。
レンが笑う。
「分かりやすっ」
「レン」
「悪い」
女は諦めたように息を吐くと、忍具袋から巻物を取り出した。
地。
カゲマルは影真似を解いた。
「行こう」
レンが驚く。
「いいの?」
「同じ巻物なら必要ない」
雨隠れの三人も動かない。
大柄な男は不満そうだったが、細身の男が腕を掴んだ。
「やめろ。こっちも消耗するだけだ」
互いに距離を取る。
第十一班はその場を離れた。
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十分ほど移動してから、レンが口を開いた。
「結局、巻物増えてないな」
「でも怪我もしてない」
スズが答える。
「それはそうだけど」
「それに」
カゲマルは後ろを見る。
追ってくる気配はない。
「一つ分かった」
「何が?」
「相手も同じこと考えてる。巻物が違うって分かれば戦う。同じなら、無理して戦わない班もいる」
レンが少し考える。
「じゃあ天の書持ってるって言ってる奴探せばいい?」
「そんな親切な人いると思う?」
「いないな」
即答だった。
スズが足を止める。
二人も止まった。
「どうした?」
「……誰かいる」
レンが構える。
カゲマルも周囲を見る。
「何人?」
スズは答えない。
目を閉じ、耳を澄ませている。
「三人……だと思う」
「近い?」
「近づいてる」
少し間が空く。
「速い」
カゲマルは忍具袋へ手を伸ばした。
先ほどの雨隠れとは違う。
スズの表情が硬い。
「こっちに気づいてる?」
「分からない。でも――」
スズが目を開ける。
「一人、足音がほとんどしない」
レンの顔から笑みが消えた。
カゲマルも息を潜める。
木々の奥。
何も見えない。
鳥の声。
葉が擦れる音。
その中に、僅かな気配だけがある。
「隠れる」
カゲマルが短く言う。
三人が同時に動いた。
今度は指示を待つ必要もなかった。
レンは右。
スズは後方。
カゲマルは木の上へ。
それぞれが別の位置から同じ場所を見る。
やがて三人の忍が現れた。
草隠れ。
カゲマルは僅かに目を細める。
その中にいる一人を見た瞬間、背中を冷たいものが走った。
長い黒髪。
笠を深く被った忍。
顔は知らない。
少なくとも、この姿には覚えがない。
けれど。
三人が通り過ぎていく。
カゲマルは動けなかった。
何かがおかしい。
理由を説明できない。
ただ、あの一人だけが他の二人と違う。
隠している。
そんな感じがした。
草隠れの三人は、第十一班に気づいた様子もなく森の奥へ消えていった。
しばらくしてレンが姿を現す。
「……行った?」
スズも木の陰から出てくる。
「多分」
カゲマルは草隠れが消えた方向を見続けていた。
「カゲマル?」
レンに呼ばれる。
「あの人たち、追わない方がいい」
「巻物持ってるかもしれないぞ」
「それでも」
カゲマルは即答した。
レンが黙る。
スズが尋ねた。
「何か気づいた?」
どう答える。
大蛇丸かもしれない。
そう言えるはずがない。
そもそも確証もない。
「……分からない」
カゲマルは正直に答えた。
「でも、嫌な感じがする」
レンとスズが顔を見合わせる。
以前なら、根拠を聞かれたかもしれない。
だがレンはすぐに頷いた。
「じゃあやめよう」
「いいの?」
「カゲマルがそこまで言うなら」
スズも草隠れが消えた方向へ耳を向ける。
「私も賛成。あの一人だけ、音が変だった」
「音?」
「静かすぎた。足音だけじゃない。呼吸もほとんど乱れてなかった」
レンが顔をしかめる。
「なんだそれ。気持ち悪いな」
三人は反対方向へ進み始めた。
カゲマルは一度だけ振り返った。
もし、あれが大蛇丸なら。
もう第七班を探している。
追うべきか。
警告するべきか。
頭の中にいくつもの選択肢が浮かぶ。
その時、前を進んでいたレンが振り返った。
「カゲマル、置いてくぞ」
「あ、ごめん」
カゲマルは二人を追った。
まだだ。
確証もないまま動けば、第十一班まで危険に晒す。
まず自分たちの試験を進める。
そう決めた。
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日が傾き始める頃、第十一班は小さな水場を見つけていた。
長時間の移動を避けるため、今日はこの周辺で休むことにする。
火は焚かない。
目立つからだ。
レンが木にもたれながら携帯食を齧る。
「初日で天の書欲しかったな」
「まだ初日終わってないよ」
スズが返す。
「今から探す?」
「暗くなってから?」
「やめとく」
判断が早い。
カゲマルは木の根元に座り、地図を見る。
中央の塔までの距離。
現在地。
今日遭遇した班。
雨隠れ。
そして草隠れ。
記憶では、大蛇丸は草隠れの忍に成り代わって試験へ入り込んでいた。
先ほどの三人。
その可能性は高い。
だが、問題はそこからだった。
知っている。
この先、第七班が大蛇丸に襲われる。
サスケは呪印を受ける。
ナルトも危険な目に遭う。
知っているなら止めるべきなのか。
けれど、どうやって。
第七班の現在地すら分からない。
大蛇丸を探して第十一班を連れ回す?
あり得ない。
レンとスズは、自分の未来知識のために命を懸ける駒ではない。
カゲマルは地図を畳んだ。
「まだ考えてる?」
スズだった。
「ちょっとね」
「さっきの草隠れ?」
カゲマルは一瞬迷い、頷く。
「うん」
レンも身体を起こす。
「やっぱなんかあった?」
「確証はない」
「それは聞いた」
レンは携帯食を飲み込む。
「じゃあ、確証ができたら教えて」
カゲマルは顔を上げた。
「理由も分からないのに?」
「分からないからだろ」
レンは当然のように言った。
「三人で考えるんじゃなかったのか?」
言葉に詰まる。
スズが少し笑った。
「レンがまともなこと言った」
「お前今日それ二回目だぞ」
「記念日かも」
「喧嘩売ってる?」
二人のやり取りを聞きながら、カゲマルは肩の力を抜いた。
「分かった」
全部は話せない。
前世のことまで説明するつもりはない。
それでも、何か起きた時に自分だけで決めない。
そのくらいはできる。
「何か分かったら話す」
「おう」
「うん」
森の夜は早い。
木々の隙間から見える空が少しずつ暗くなっていく。
遠くで獣の鳴き声がした。
スズが顔を上げる。
「……待って」
レンとカゲマルが同時に反応する。
「どうした?」
スズは耳を澄ませた。
「今……」
森の奥。
かなり遠い。
何かが弾けるような音がした。
鳥たちが一斉に飛び立つ。
続いて、地面を僅かに震わせる衝撃。
レンが立ち上がる。
「何だ?」
カゲマルも立っていた。
方角を見る。
距離は分からない。
ただ、嫌な予感がした。
草隠れの三人が向かった方向と、完全に同じかどうかも分からない。
それでも胸の奥がざわつく。
スズが低く言った。
「戦闘だと思う。かなり大きい」
カゲマルは答えなかった。
森の向こうを見つめる。
始まったのかもしれない。
自分が知っている、あの戦いが。
隣でレンが聞く。
「どうする?」
以前なら、カゲマルはすぐに答えを出そうとしただろう。
けれど今は違った。
スズを見る。
レンを見る。
そして、もう一度遠くの森を見る。
「……まず状況を確認しよう」
二人が頷く。
知っているからといって、決めつけない。
怖いからといって、目を逸らさない。
第十一班は三人で立ち上がった。
死の森の最初の夜は、まだ始まったばかりだった。