~転生したら奈良シカマルの双子の兄でした~   作:ざいぜん

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第四話 受け継がれなかった影

夕暮れの木ノ葉隠れ。

 

空は茜色に染まり、里には仕事を終えた忍たちが戻り始めていた。

 

その中を、一人の男がゆっくり歩いている。

 

猿飛アスマ。

 

まだ若き上忍であり、猿飛一族の一員。

 

口には火のついていない煙草。

 

難しい顔のまま、奈良家へ向かっていた。

 

「珍しいな。」

 

奈良家の庭先で、鹿の世話をしていたシカクが顔を上げる。

 

「お前から来るなんて。」

 

「少し気になることがあってな。」

 

アスマは苦笑しながら門をくぐった。

 

「酒でも飲みながら話すか。」

 

「今日は仕事だ。」

 

「真面目だな。」

 

「誰かさんのせいでな。」

 

シカクは縁側へ腰を下ろし、お茶を二つ用意する。

 

「で?」

 

「何があった。」

 

アスマは一拍置いてから口を開いた。

 

「今日、市場の近くでお前の息子を見た。」

 

「カゲマルか。」

 

「ああ。」

 

「それで?」

 

「ナルトが木から落ちた。」

 

シカクの眉が僅かに動く。

 

「……続けろ。」

 

「カゲマルは印を結んでいない。」

 

「チャクラを練る素振りもなかった。」

 

「だが。」

 

アスマは思い出すように空を見た。

 

「あいつの影が動いた。」

 

「しかも。」

 

「支えた。」

 

沈黙。

 

風が庭を抜ける。

 

鹿の鈴だけが、小さく鳴った。

 

「……そうか。」

 

シカクは静かに湯呑みを置く。

 

驚きはしない。

 

いや。

 

驚けなかった。

 

もう何度も見てきたからだ。

 

生まれた日。

 

森。

 

庭。

 

そして今日。

 

影は少しずつ変化している。

 

「お前。」

 

アスマが尋ねる。

 

「知ってたな?」

 

「ああ。」

 

「いつから。」

 

「五年前。」

 

「……は?」

 

シカクは苦笑した。

 

「産まれた日からだ。」

 

アスマは絶句した。

 

「冗談だろ。」

 

「俺もそう思いたかった。」

 

シカクは空を見上げる。

 

「影ってのはな。」

 

「奈良一族にとっちゃ道具じゃねぇ。」

 

「相棒みたいなもんだ。」

 

「長年付き合ってりゃ。」

 

「ほんの少し違うだけでも分かる。」

 

アスマは腕を組む。

 

「それでも。」

 

「勝手に動く影なんて聞いたことがねぇ。」

 

「俺も聞いたことはない。」

 

シカクは静かに笑う。

 

「だから困ってる。」

 

 

その頃。

 

家の裏庭では。

 

「兄貴。」

 

「何?」

 

「もう一回やって。」

 

シカマルが木の枝を投げる。

 

カゲマルは深く息を吸った。

 

(助けたい。)

 

そう思う。

 

しかし。

 

何も起きない。

 

枝は普通に地面へ落ちた。

 

「駄目か。」

 

「駄目だな。」

 

シカマルは首を傾げる。

 

「昨日はできたのに。」

 

「分からない。」

 

カゲマルも困っていた。

 

意識してやろうとすると。

 

影は何も応えてくれない。

 

昨日。

 

ナルトが落ちた時だけ。

 

影は自分から動いた。

 

(……まるで。)

 

(本当に意思があるみたいだ。)

 

その考えが頭をよぎる。

 

だが。

 

すぐに振り払った。

 

そんなはずはない。

 

影は自分自身だ。

 

そうシカクも言っていた。

 

「もう一回。」

 

シカマルが枝を投げる。

 

今度も駄目。

 

十回。

 

二十回。

 

三十回。

 

一度も動かない。

 

「めんどくせぇ。」

 

シカマルは芝生へ寝転んだ。

 

「兄貴。」

 

「ん?」

 

「考えすぎ。」

 

「え?」

 

「昨日は何も考えてなかっただろ。」

 

「助けたいって思っただけ。」

 

その言葉に、カゲマルはハッとする。

 

そうだ。

 

術を使おうとは思っていなかった。

 

影を動かそうとも思っていなかった。

 

ただ。

 

ナルトを助けたい。

 

その気持ちだけだった。

 

(気持ち……。)

 

(感情……。)

 

カゲマルは足元の影を見る。

 

「お前。」

 

「何を見て動いてるんだ。」

 

影は答えない。

 

しかし。

 

夕日に照らされた影が。

 

ほんの僅かだけ揺れた。

 

 

その夜。

 

火影岩を見上げる建物。

 

火影執務室。

 

「ほう。」

 

猿飛ヒルゼンは煙管を置いた。

 

「面白い話じゃ。」

 

向かいにはアスマ。

 

その隣にシカク。

 

「本当ならば。」

 

「奈良一族の歴史が変わる。」

 

シカクは静かに頷く。

 

「まだ断言はできません。」

 

「ですが。」

 

「あの力は影真似ではありません。」

 

ヒルゼンは窓の外を見る。

 

里の灯が一つ、また一つと灯っていく。

 

「……六道仙人は。」

 

突然だった。

 

アスマが首を傾げる。

 

「親父?」

 

「古い文献にはな。」

 

ヒルゼンはゆっくり立ち上がる。

 

「世界は陰と陽から生まれたと記されておる。」

 

「陰は。」

 

「無を形にする力。」

 

「陽は。」

 

「命を宿す力。」

 

シカクは黙って聞いていた。

 

「奈良一族の影は。」

 

「昔から陰遁に近いと言われておる。」

 

「じゃが。」

 

ヒルゼンは首を横に振る。

 

「近いだけじゃ。」

 

「本物の陰遁ではない。」

 

「では……。」

 

シカクが問う。

 

「もし。」

 

ヒルゼンは静かに笑った。

 

「もし、本物に限りなく近い者がおるとしたら。」

 

部屋が静まり返る。

 

誰も答えられなかった。

 

その可能性は。

 

あまりにも大きすぎた。

 

 

同じ頃。

 

奈良家。

 

眠るシカマル。

 

眠るヨシノ。

 

眠るシカク。

 

月明かりだけが部屋を照らしている。

 

その中で。

 

一人だけ。

 

カゲマルは目を開けた。

 

眠れなかった。

 

理由は分からない。

 

ただ。

 

胸騒ぎがした。

 

縁側へ出る。

 

夜風が心地いい。

 

「……。」

 

ふと。

 

足元を見る。

 

月明かりでできた自分の影。

 

黒く。

 

静かで。

 

何も動かない。

 

そう思った、その瞬間。

 

影がゆっくりと立ち上がった。

 

「――っ!?」

 

カゲマルは息を呑む。

 

影は人の形をしていた。

 

だが輪郭はぼやけている。

 

顔もない。

 

声もない。

 

数秒後。

 

影は何事もなかったように地面へ戻った。

 

夢だったのか。

 

現実だったのか。

 

判断もできない。

 

カゲマルは知らない。

 

今見た現象は。

 

これまでとは決定的に違う意味を持つことを。

 

影は初めて。

 

“形”ではなく、

 

“存在”になろうとしていた。

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