「……夢、だったのか。」
翌朝。
目を覚ましたカゲマルは、昨夜の出来事を思い返していた。
月明かりの下。
人の形をした影。
あれは確かに見た。
だが、目を擦った次の瞬間には消えていた。
「兄貴。」
隣からシカマルが顔を覗き込む。
「今日も変な顔。」
「最近そればっかり言うな。」
「本当だから。」
シカマルは欠伸をしながら立ち上がる。
「母ちゃん呼ぶぞ。」
「それはやめろ。」
「一番効く。」
「お前、それしか言わないな。」
「便利だから。」
カゲマルは思わず笑った。
こんな何気ない朝が、少しだけ心を軽くしてくれる。
朝食を終えた後。
シカクは二人を庭へ呼んだ。
「今日は修行じゃねぇ。」
「え?」
「話だ。」
珍しい。
修行より先に話だけというのは初めてだった。
シカクは二人の前へ座る。
「昨日、火影様のところへ行ってきた。」
シカマルは「へぇ」とだけ返事をする。
一方、カゲマルの背筋は自然と伸びた。
「火影様も、お前の力に興味を持たれた。」
「俺に?」
「ああ。」
シカクは少し考えてから続ける。
「ただし、安心しろ。」
「研究材料にするつもりも、一族の秘密として閉じ込めるつもりもない。」
「火影様は、まず見守れと言われた。」
カゲマルは小さく息を吐いた。
前世の知識では、ヒルゼンは子どもを道具として扱う人物ではない。
それでも、自分の存在が歴史から外れたものである以上、不安は消えなかった。
「親父。」
シカマルが手を挙げる。
「兄貴の影って、結局なんなんだ?」
シカクは腕を組んだ。
「まだ分からん。」
「分からんけど、一つだけ確かなことがある。」
二人を見る。
「影は嘘をつかねぇ。」
「……?」
カゲマルは首を傾げた。
「人は口では何とでも言える。」
「平気だ。」
「怖くない。」
「怒ってない。」
「そう言っても、本心は違うことがある。」
「だが影は違う。」
シカクは自分の影へ視線を落とした。
「影は、心の形だ。」
「奈良一族の術は、その心を使って影を動かす。」
「だから心が乱れれば、影も乱れる。」
「逆に、心が澄めば、影は驚くほど素直になる。」
カゲマルは昨夜を思い出す。
ナルトを助けたい。
その時だけ、影は自然に動いた。
術を使おうとした時は、何も起きなかった。
「つまり。」
シカマルがまとめる。
「兄貴は考えすぎってことか。」
「……そういうことだ。」
シカクは苦笑した。
「お前が一番簡単に言うな。」
「事実だろ。」
「否定できない。」
午後。
奈良家へ一人の客がやって来た。
「邪魔するぞ。」
低い声。
玄関へ立っていたのは、猿飛アスマだった。
「おう。」
シカクが迎える。
「珍しいな。」
「今日は仕事じゃない。」
アスマは庭へ目を向けた。
「少し、カゲマルと話したくてな。」
カゲマルは少し驚いた。
「俺と?」
「ああ。」
アスマは庭へ降りる。
シカマルも興味津々で付いてきた。
「昨日のことは聞いた。」
「ナルトを助けたらしいな。」
「……はい。」
「良い判断だった。」
その一言に、カゲマルは少しだけ肩の力が抜ける。
「でも。」
アスマは笑う。
「術は六十点だ。」
「え?」
「助けられた。」
「それは満点。」
「だが、自分でも何をしたか分かってない。」
「それじゃ次は使えねぇ。」
確かに、その通りだった。
「忍はな。」
アスマは一本のクナイを取り出した。
ひらり、と上へ放る。
落ちてきた瞬間。
指先だけで器用に受け止める。
「偶然勝つことはある。」
「でも、本当に強い奴は偶然を減らす。」
「再現できるようにする。」
カゲマルは真剣な表情で聞いていた。
「だから。」
アスマはクナイをしまう。
「お前は、自分の影を観察しろ。」
「戦うな。」
「命令するな。」
「まず知れ。」
その言葉は、シカクの教えとどこか似ていた。
「今日から毎日。」
「影が勝手に動いた時。」
「何を考えてたか。」
「何を感じてたか。」
「全部書け。」
「日記……ですか?」
「そうだ。」
アスマは笑う。
「忍でも記録は大事だ。」
「自分の癖を知る奴が、一番強くなる。」
カゲマルは静かに頷いた。
「やります。」
「よし。」
その返事を聞いて、アスマは満足そうに笑った。
少し離れた場所で、その様子を見ていたシカクも小さく頷く。
(悪くねぇ。)
(こいつには、俺とは違う視点を教えてやれる。)
アスマはまだ正式な師ではない。
だが、この日から。
カゲマルにとって「父親以外で初めて自分を理解しようとしてくれた大人」となった。
そしてその夜。
カゲマルは、アスマに言われた通り帳面を開いた。
『影が動いた時の記録』
一ページ目。
震える字で、こう書く。
ナルトを助けたいと思った。
シカマルを守りたいと思った。
怖いと思った。
嬉しいと思った。
どれも、人のためだった。
最後に、少し迷ってから一行を書き足す。
自分のために動いたことは、一度もない。
その文字を見つめた瞬間。
机の上に伸びた影が、ほんのわずかに揺れた。
まるで、その言葉に頷くように。
カゲマルは気づかない。
しかし読者だけが知る。
影が求めているものは、力ではない。
"誰かを想う心"なのだということを。
もし「ここはこうした方が読みやすいよ」「この表現の方が自然かも」といった改善点があれば、ぜひ教えていただけると嬉しいです。
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温かく見守っていただけたら幸いです。
これからも『NARUTO ~転生したら奈良シカマルの双子の兄でした~』をよろしくお願いします!