~転生したら奈良シカマルの双子の兄でした~   作:ざいぜん

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第六話 初めての一歩

 

 

朝靄が、奈良家の庭を白く包んでいた。

 

草の先には小さな露が光り、鹿たちはまだ眠そうに身を寄せ合っている。

 

カゲマルは一人、庭の中央に立っていた。

 

足元には、自分の影。

 

「……。」

 

アスマから渡された課題。

 

影を観察すること。

 

動かそうとしない。

 

命令しない。

 

ただ知る。

 

その言葉を胸に、カゲマルは静かに目を閉じた。

 

(焦るな。)

 

(術を使うんじゃない。)

 

(昨日も、一昨日も……影は俺の意思で動いたわけじゃない。)

 

深く息を吸う。

 

吐く。

 

鳥のさえずり。

 

木々を揺らす風。

 

遠くで鹿が鳴く声。

 

そして、自分の鼓動。

 

すべてを感じながら立ち尽くす。

 

その様子を、縁側からシカクが見つめていた。

 

「親父。」

 

隣に腰を下ろしたシカマルが、小声で尋ねる。

 

「兄貴、何してる?」

 

「待ってる。」

 

「何を?」

 

「自分の影を、だ。」

 

シカマルは首を傾げる。

 

「影なんて待たなくても付いてくるじゃん。」

 

「普通はな。」

 

シカクは苦笑する。

 

「だが、あいつの影は少し違う。」

 

「だから、急がせちゃいけねぇ。」

 

シカマルは兄の背中を見つめた。

 

いつもなら一緒に将棋を指している時間。

 

兄貴は、一人で影と向き合っている。

 

「……頑張れ。」

 

その声は小さく、カゲマルには届かなかった。

 

────────

 

それから数日。

 

影は動かない。

 

朝も。

 

昼も。

 

夕方も。

 

何も起きない。

 

帳面だけが少しずつ埋まっていく。

 

『今日は何も起きなかった。』

 

『焦った。』

 

『焦ると余計に駄目だった。』

 

『シカマルに将棋で負けた。悔しい。』

 

『母さんに怒られた。』

 

『ナルトが笑っていた。少し安心した。』

 

毎日書き続けた。

 

そして五日目。

 

アスマが再び奈良家を訪れる。

 

「見せてみろ。」

 

カゲマルは少し照れながら帳面を差し出した。

 

アスマは一枚ずつ丁寧に目を通す。

 

「……なるほど。」

 

「何か分かりましたか?」

 

「一つだけ。」

 

帳面を閉じる。

 

「お前、自分のことを書いてないな。」

 

「え?」

 

「全部、誰かの話だ。」

 

ナルト。

 

シカマル。

 

父。

 

母。

 

鹿。

 

自分自身については、ほとんど書かれていない。

 

「それが悪いんですか?」

 

「悪いとは言わねぇ。」

 

アスマは腕を組む。

 

「でも、お前は自分を後回しにしすぎる。」

 

その言葉に、カゲマルは黙った。

 

前世でもそうだった。

 

誰かの役に立てれば、それでいい。

 

そう思って生きてきた。

 

「兄貴。」

 

横で聞いていたシカマルが口を開く。

 

「自分が腹減って倒れたら、誰も助けられないぞ。」

 

「……。」

 

思わず笑ってしまう。

 

「お前に言われるとは思わなかった。」

 

「俺、結構いいこと言う。」

 

「調子に乗るな。」

 

兄弟は顔を見合わせ、小さく笑った。

 

その光景を見ていたアスマも、口元を緩める。

 

(似てるようで、全然違う。)

 

(だからこそ、お互いを支えられるんだろうな。)

 

────────

 

その日の夕方。

 

ナルトが奈良家へ遊びに来た。

 

「カゲ兄ー!」

 

元気いっぱいの声。

 

「今日も来たのか。」

 

「だって暇なんだってばよ!」

 

シカマルは面倒そうに寝転びながらも、小さく笑う。

 

三人で木切れを積み上げたり、鬼ごっこをしたり。

 

日が傾き始めた頃。

 

ナルトが勢いよく走った拍子に、小さな子鹿へぶつかりそうになる。

 

「あっ!」

 

ナルトは咄嗟に体をひねる。

 

だが、間に合わない。

 

子鹿は驚き、足をもつれさせる。

 

(危ない!)

 

カゲマルの身体が動く。

 

助けたい。

 

傷ついてほしくない。

 

その一心だった。

 

次の瞬間――

 

足元の影が音もなく伸びる。

 

黒い線が地面を滑り、子鹿の前へ回り込む。

 

影はまるで柔らかな壁のように広がり、子鹿の身体をそっと受け止めた。

 

ドサッ。

 

衝撃はほとんどなかった。

 

子鹿は目を丸くしたまま、すぐに立ち上がる。

 

「え……?」

 

ナルトが固まる。

 

シカマルも起き上がった。

 

「兄貴……今。」

 

カゲマル自身も、自分の手を見つめていた。

 

印は結んでいない。

 

チャクラを練った感覚もない。

 

それでも。

 

今度は確かに、自分の”願い”に影が応えた。

 

縁側から見守っていたシカクは、静かに目を細める。

 

その隣でアスマが、小さく息を吐いた。

 

「偶然じゃない。」

 

その声には確信があった。

 

「今のは……」

 

シカクはゆっくり頷く。

 

「ああ。」

 

「一歩、前へ進んだ。」

 

夕日に照らされた影は、何事もなかったように元の形へ戻る。

 

しかし、その日から。

 

カゲマルは初めて思う。

 

“影は、怖いものじゃない。”

 

“俺と一緒に、誰かを守ろうとしてくれる。”

 

その小さな確信こそが。

 

未来へ続く道の、本当の始まりだった。

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