白銀さんちの超高校級 作:るるトゥ
「どうして…どうして手が止まってくれないのよ!!私が食べてるのは、年下が調理実習で作っただけのチーズケーキなのにぃ!!」
負け惜しみのような、悔しそうな声を響かせる四条先輩。
ふふっ、料理で人を堕とすのなんてチョロいもんですよ。
先輩がチーズケーキを食べ終わるのを待つこと数分。
彼女はその手に握っていたフォークを起き、ふぅと息を吐く。
そして、準備は整ったと言わんばかりに口を開いた。
「ま、まぁ悪くはなかったわよ。貴方がどうしてもと言うのなら、四条家お抱えの料理人として雇ってあげなくもないわ。」
「心苦しいですけど、そのお誘いはお断りさせてもらいます。今の僕には、料理を作ってお金をもらうことをするつもりはありませんので。」
「そうなのね…。」
誘いを断られたことにしょぼんとする四条先輩。
「ふふっ、やっぱり似ていますね。」
性格は似ても似つかないのに、反応の仕方とかはすごく似ている。
さすがは先輩と血を分けた────
「回り道をしすぎたけど、そろそろ本題に入りましょ。白銀は…被るから廻と呼ばせてもらうわね。廻はどうして私を呼び出したのかしら?」
「端的に言うのなら、あいさつのためです。」
「ふぅん…あいさつ、ね。おばさまよりも早くこっちにあいさつしたという点は褒めてあげるけど……理由が分からないわね。貴方の家は四条家の傘下でもないわけだし、後ろ楯が必要というわけでもない。」
なるほど。
この学校だと、あいさつはそういう意味で取られることもあるわけですか。
これからは注意しなければなりませんね。
「このあいさつに、とくに深い理由はありませんよ。強いて言うのなら、前の学校でお世話になった先輩の姉弟である四条先輩へのお礼でしょうか?」
「前の学校?姉弟?……えっ?まさか貴方────」
察することができたみたいでなによりです。
「帝の知り合いッッ!?」
「はい。帝先輩には、僕が中三のころに知り合ってから、かなり良くしてもらっていました。」
「アイツが高一になった時にできた知り合い?でもそんな話聞いた覚えが…。」
うーんとうなりながら、四条先輩は記憶を掘り起こそうとする。
「あっ!!もしかしてアイツが部活の時に食べ物を作ったりした中学生?」
「あー…そんなこともありましたね。」
帝先輩とその部活仲間の人たちに材料費とかもろもろは全部出すから食べるものを作ってほしいと言われて、休日は毎日作るはめになったんですよね。
今となっては懐かしい思い出です。
僕の通っていた中学と帝先輩たちの高校も公認するっていう前代未聞のことだったのは、つい最近になってから知ったことですけど。
インターハイ先に料理担当としてついていくことになった時は、さすがに笑えませんでしたね…アハハッ。
「へぇ、貴方がそうだったのね。そういえばうちの料理人たちが、『最近、帝様がお弁当を持ってってくれない日が多すぎる!!』って悲しんでた時期があったわね。まぁ相手かまこの料理の腕なら、仕方のないことだと思うけど…。」
「それは光栄?です。だけど帝先輩のお弁当を作ってる料理人の人たちには申し訳ないことをしてしまいましたね。」
まさか裏でそんなことが起きていたとは…。
「別にいいわよ。うちの料理人の作るものより、廻の作ったもののほうがアイツにとって美味しかったってだけのことだし。むしろ私たちのためだけにいる料理人なのに、他者の料理に負けるヤツのほうが悪いでしょ。」
そういうものなんでしょうか?
「そういうものなのよ。まぁとにかく気にしてもらう必要はないわ。」
「そこまで言うのなら、そうさせてもらいます。」
まぁ今さら深く考えたところで、なにか変わったりしてくれるわけでもないですし。
その後は四条先輩と他愛もない世間話をしてから、僕はその場を後にするのでした。
───*───
「ただいまです。」
「おう、おかえりメグ。」
「おかえりー、メグ兄。」
一番最初に返事を返してきたのは、リビングにいた兄様。
続いて自室から妹の圭の声が聞こえてくる。
「今日は親父は遅いらしいから、先に飯食べるぞー。」
エプロン姿でそう言う兄様には、なんだか百戦錬磨の母親みたいな風格がありました。
「ん?そんな可笑しそうな顔をしてどうしたんだ、メグ。俺の顔になにか付いてたか?」
「いえ。兄様のその姿が、なんだか母親っぽい格好だなぁと思いまして。」
「嫌味か?」
「そういう意図を込めたつもりはなかったのですけど…。」
「メグ兄ぃに母親っぽいって言われても嫌味かお世辞にしか聞こえないよ。」
「それな。」
なぜ僕に関する話題になると、兄様と圭はこんなにも息をぴったりに合わせるのでしょうか?
他の話題ならば、圭は嫌な顔をして「うっさいしね!」と言うはずなのに…。
まぁ喧嘩しているわけでもないので、別に良いですけど。
ハッ…もしやこれが解せぬ、というヤツなんですかね。
「じゃあ食うか。いただきます。」
「「いただきます。」」
兄様が作ってくれた生姜焼きと野菜炒めをつつきながら、僕たちは話す。
基本的に我が家では、僕が話題を出して、父様か兄様がボケて、僕か圭がツッコんで、兄様がいらないことを言って、圭が毒を吐くといった感じの会話をします。
「あっ、そういえばメグ…。差し入れありがとな。みんな喜んでたぞ。」
「それなら良かったです。調理実習で作ったものをあげてしまって不快に思われないか心配でしたけど、ようやく安心できました。」
「へー…お兄ぃ、メグ兄ぃから差し入れもらったんだ。しかも食べ物。」
絶対零度の声音で、圭がそんなつぶやきを漏らしました。
その眼は絶対零度と言い表しても過言ではなく、見るものすべてを凍らせてしまいそうです。
「あ、いや…これは違うんだ!!」
「ふーん…なにが違うの?」
いつの間にか、兄様が被告人の裁判が始まっていました。
裁判長は圭、僕は公聴といったところでしょうね。
弁護人?検察?そんなものはいませんよ。
ここでは、すべてが裁判長たる圭の思いのままになりますから。
圭の判決を阻害する輩は一人たりとも存在してはならないのですよ!!
「メグ兄ぃは変なこと考えないで!!」
おっと、怒られてしまいましたね。
僕まで裁判の対象になるのは嫌ですし、大人しく聞いておくとしましょう。
申し訳ありません、兄様。
僕には兄様を助けることは不可能なようです。