白銀さんちの超高校級   作:るるトゥ

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第六話 四条眞妃は手伝いたい

 

 

都内某所にある、ごく普通の公立高校。

そんなありふれた学校のグラウンドには、現在、多くの生徒たちによって人だかりが作られていた。

 

彼ら彼女らがこの場に集まっている理由。それは、グラウンドでサッカーボールを蹴っている若き青年たちの姿を見るためである。

 

断じて。

断じて、サッカー部のマネージャーから彼らへ振る舞われることになるであろう、激ウマ料理のおこぼれにあずかりたいわけではない。

 

……決して、断じて、そんな邪な理由ではないのである。

 

「うおおおおおおっ!!」

 

「入ったぁぁぁぁ!!」

 

「ナイスシュート!!」

 

「さっすが帝!!」

 

突如として、観衆が大きな歓声を上げた。

今行われている練習試合にて、この高校におけるエースストライカーが見事なシュートを決めたからだ。

 

ゴールネットを揺らしたボール。

それを見届けた選手たちが喜びの声を上げる一方、グラウンドの外から眺めていた生徒たちもまた、我先にと歓声を飛ばしている。

 

もっとも、その視線がサッカー部のエースだけに向けられているかというと――。

 

「……なあ。」

 

「ん?」

 

「俺たち、何のためにここにいるんだっけ?」

 

「サッカー部の応援。」

 

「だよな。」

 

「…………。」

 

「じゃあ、なんで俺らは調理室のほうをチラチラ見てるんだ?」

 

「知らん」

 

彼らの視線の先には、校舎の端。

 

そこには調理室があった。

 

さて。

そろそろ、視点を変えようじゃないか。

 

次に見てみるのは、校舎の端っこにある調理室。

そこにも、グラウンドほどではないにしろ、少なくない数の生徒たちが押し寄せていた。

 

集まった生徒たちの視線の先にいるのは――エプロンを着た美少女と見紛ってしまいそうな少年。

白銀廻。

 

「ふん、ふふーん♪」

 

鼻歌交じりに、廻は手を動かしていた。

包丁を握り、野菜を刻み、鍋の中身をかき混ぜ、必要な調味料を正確な分量だけ加えていく。

 

その動きは、とにかく速い。

速いのだが、決して雑ではない。

むしろ一切の無駄がなく、次に何をするべきなのかを完全に理解しているような動きだった。

 

「廻くん、こっちの鍋は?」

 

「あと二分くらい煮込んでください。その間に火を弱めておいてもらえると助かります。」

 

「了解!」

 

「それと、そこの野菜は盛り付け用なので、切り終わったら冷蔵庫に入れてください。」

 

「わかった!」

 

「ありがとうございます。」

 

まるで厨房の料理長である。

最初の頃は、その光景に誰しもが驚き、目を見開かせていた。

 

しかし、今となっては誰も動じたりはしない。

それどころか、廻の動きの無駄のなさに感心している始末である。

 

慣れというのは、本当に恐ろしいものだ。

 

某料理バトル漫画もかくやという超人的挙動を繰り広げながら、周囲で作業している他のマネージャーたちにも的確な指示を飛ばしていく廻。

 

彼の周囲で料理を作る少女たちも、廻には及ばないながら料理が得意な者たちだ。

さらに言葉を付け加えるのなら、彼女たちは以前から廻にある程度の手ほどきを受けている。

 

ゆえに、誰も彼もその手の動きには卒がない。

────一人の少女を除いて。

 

「…………。」

 

どこか慣れない手つきで野菜を刻んでいる少女。

四条眞妃である。

 

彼女は廻のお手伝いという名目で、この場にやって来ていた。

ゆえに、廻の手伝い――つまりマネージャー業務をやるのは当たり前のこと。

 

とはいえ。

四大財閥の一角、四条家の令嬢である眞妃が、料理をした経験などまともにあるはずもない。

包丁を握ることすら、今日が初めてと言っていい。

 

「…………これで、いいのよね?」

 

恐る恐る野菜を刻む。

トン、トン、トン。

他の少女たちが小気味よいリズムを刻んでいるのに対し、眞妃のそれはどこかぎこちない。

 

本人もそれを自覚しているのか、眉間にしわを寄せながら真剣な表情で包丁を動かしていた。

そんな彼女を見ていた廻が、ふと手を止める。

 

「大丈夫ですか、四条先輩。手が止まっていますけど、なにか分からないことがありましたか?」

 

「へ!?」

 

突然背後から声をかけられ、眞妃の肩が大きく跳ねる。

 

「い、いやいや、なんもないわよ!! へーきへーき。」

 

「そうですか?」

 

「そうよ!」

 

「…………。」

 

「…………。」

 

じーっ。

廻が眞妃の手元を見つめる。

 

眞妃は気まずそうに視線を逸らした。

 

「……本当に?」

 

「ほ、本当だってば!」

 

すると廻は、眞妃の耳元へ少しだけ顔を近づける。

 

「四条先輩、包丁を使う時の手の形が違いますよ。」

 

「……え?」

 

その囁きに、眞妃はまたしてもビクリと肩を震わせた。

 

「え、ほんと?」

 

「はい。包丁を使う時は猫の手にすると聞いたことがあるでしょう?」

 

そう言いながら、廻は自分の手を丸めてみせる。

 

「こうです。こうして指先を内側に曲げておけば、間違って指を切ってしまう危険も減りますから。」

 

「……こ、こう?」

 

眞妃も真似して手を丸める。

 

「はい。そんな感じです。」

 

「なるほど……。」

 

少しだけ安心したように頷く眞妃。

 

しかし。

その光景を見ていた周囲の生徒たちは、それどころではなかった。

 

(か、可愛い……。)

 

(猫の手を実演する廻くん、破壊力高すぎない?)

 

(四条先輩も顔真っ赤じゃん……。)

 

(尊い……。)

 

男女を問わず、調理室にいた観衆の何人かが瀕死のダメージを受けていた。

まぁ当の本人は、その事実にまったく気づいていないようだが。

 

「そろそろ午前の練習が終わりますし、うつわによそいましょうか。」

 

廻はそう言って、何事もなかったかのように料理へと向き直る。

 

「四条先輩も、よそるの手伝ってもらえますか?」

 

「……ええ、任せなさい。」

 

眞妃は小さく息を吐き、今度こそ気合を入れて料理へと向き直る。

その頬が、ほんのり赤く染まっていたことには――本人も、まだ気づいていなかった。

 

 

 

 

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