白銀さんちの超高校級   作:るるトゥ

8 / 9
第七話 白銀廻はやらかす

 

 

「なんでこんなことになってしまったのでしょうか?」

 

僕⋯白銀廻は、誰にも聞き取れないほど小さな声で、そう独りごちました。

 

こちらへと投げ飛ばされてくる大きな歓声。

それらは僕のことを応援してくれる、温かくて優しいものばかりなのですが……それゆえに緊張してしまう。

 

期待されるというのは、どうにも苦手です。

できることなら、誰にも見られていないところでひっそりとやりたかった。

 

なのに今、僕は大勢の人たちから注目を浴びながら、サッカーボールの前に立っています。

 

しかも。

相対しているのは、全国レベルのエースストライカーたちのシュートを何度も止めてきているゴールキーパー。

テレビで名前を聞いたことすらあるような、とんでもない人です。

 

初めてのPK戦で戦うような相手じゃないと思うのですが???

そもそも、どうして僕はPK戦をやることになったのでしょう。

 

少し前まで、僕はただ皆さんの試合を見ていただけだったはずなのに。

 

気がつけば「廻も蹴ってみればいいじゃん!」などと言われ、気づけばボールが用意され、気づけば観客まで集まり、そして今に至ります。

 

人生、何が起こるか分かりませんね。

 

まぁ、そんなことを考えても、もはや手遅れなんですけどね……。

 

ここまで白熱した空気になっているのに、僕が試合を降りてしまったら、白けるどころの話じゃあ済まなくなります。

ここで「やっぱりやめます」なんて言おうものなら、きっとみんな困った顔をするでしょう。

 

なので逃げ道はない、と。

 

「ボールに触れるのは久しぶりですけど……日ごろから皆さんのシュートフォームを見てるので、大丈夫でしょう。」

 

自分に言い聞かせるように、僕は呟きます。

 

大丈夫。

たぶん。

きっと。

 

……そう思いたい。

 

超高校級の主夫が持っている才能の一つに、戦いの才能というものがあります。

現代で普通の生活を送っているのなら、戦いなんてほとんど起こりません。

 

包丁を握ることはあっても、人に向けることなんてありませんし、フライパンを振ることはあっても、それで誰かを殴ることなんてありません。

 

ですが、戦いの才能というものは、何も喧嘩だけに使えるものではないのです。

日常生活の中でも、意外と応用が利く。

 

例えばそう。

今みたいに、初めての体験を上級者のようにこなしたい時とかですね。

 

戦いの才能。

それは、言い換えるのならば、殴り合いの才能とも呼べます。

殴り合いとは、身体を使った喧嘩のこと。

 

ゆえに、どれだけ上手に身体を動かせるかが物を言います。

 

だから、その才能を持つ僕が誰かの動きをコピーすることなど朝飯前。

 

身体の重心。

足の踏み込み。

腰の回転。

力を入れるタイミング。

そして、力を抜くタイミング。

 

それらをコピーすることなど、ね。

 

たった一回しか見ていないものでも、ある程度は真似できる。

ましてや、何百回も見た覚えのあるシュートフォームならば。

 

それこそ百二十パーセントの出力でコピーできます。

 

問題があるとすれば――。

僕がPK戦をするのが、初めてに近いということだけ。

 

……まぁ、それも今さらですね。

 

「それじゃあ、いきますね。」

 

そう言って、僕はボールから少しの距離を取ります。

周囲の声が、ほんの少しだけ遠くなったような気がしました。

 

歓声も。

野次も。

誰かの笑い声も。

 

全部が薄い膜の向こう側にあるように感じます。

 

目の前にあるのは、白黒のボール。

そして、その先にいるゴールキーパー。

 

僕は一度、深く息を吸いました。

 

吐く。

 

もう一度、吸う。

 

吐く。

 

身体の調子はいつも通り。

足も動く。

視界も良好。

心臓は少しだけ速く動いていますが、それくらいは誤差でしょう。

 

緊張も、とくにはありません。

 

……たぶん。

 

ぴょん、ぴょん、とその場で身体を跳ねさせる。

軽く身体をほぐして、足の感覚を確かめる。

 

そして、視線をボールへ。

ゆっくりと、ボールのもとへと駆け───。

 

「ふっ!!」

 

僕は、それを蹴り抜きました。

 

瞬間。

────ズドンッ!!

 

自分でも驚くほど大きな音が響きました。

そして、すぐに己の失敗に気がつきます。

 

そう。

力を込めすぎたのです。

 

体育の授業ではある程度力をセーブしているのですが……今は本気の本気でやってしまいました。

いつもの感覚で身体を動かしてしまった。

 

コントロールに全力を注いだのなら良かったのですけど、残念ながら蹴る力に全力を注いでいます。

ボールは、まるで僕の足から逃げ出すように猛烈な勢いで飛んでいきました。

 

「……あ。」

 

そして。

僕の視界の端で、ゴールキーパーが動き出す。

 

いや。

動き出そうとして――。

 

止まった。

 

正確には、動けなかったのでしょう。

あまりにも速かったから。

 

場を支配するのは静寂。

 

ゴールは入りました。

試合でやれば、スーパーゴールとも呼ばれそうなすごいゴールが。

 

「……これ、僕のせいですよね。」

 

キーパーの人が、まったく反応できていない。

呆然と、その場に立ち尽くしちゃっていますよ。

ゴールの中に転がっていくボールを見つめながら、何とも言えない顔をしている。

 

失態も失態、大大大失態ですね。

 

僕は頭を抱えたくなりました。

 

違うんです。

そういうつもりじゃなかったんです。

もっとこう、ギリギリの勝負になる予定だったんです。

 

キーパーが「そこだ!」と飛び込んで、それを僕が見事にかわしてゴールする。

あるいは逆に、止められてしまって「あー!」とみんなで盛り上がる。

 

そういう、スポーツらしい展開を想像していました。

なのに。

 

「………。」

 

誰も彼も、ポカンとした表情を浮かべています。

なにが起こっているのか分かっていなさそうに。

 

できれば今すぐ「さっきのなしで」と言いたいです。

しかし、そんな空気でもありません。

 

すると。

 

「す、すごいじゃない、廻!!」

 

シーンとした空気の中で、そう声をあげたのは四条先輩でした。

ほんの一瞬だけ、気を使ってくれたのかなと思いましたが……その声音からは、純粋な称賛しか感じ取れません。

 

「すごい! あんなシュート、私でも止められるか分からないわ!」

 

「いや、四条先輩が止める必要はないと思いますけど……。」

 

そんなやり取りをしているうちに。

 

「おお……!」

 

「すげぇ!」

 

「今の見たか!?」

 

ちらほらと、周りから声が上がり始めました。

 

一人。

二人。

三人。

 

そして、それは瞬く間に広がっていきます。

 

「廻! 廻!」

 

誰かが僕の名前を呼びました。

それに合わせるように、別の場所からも声が上がります。

 

「「「廻!廻!」」」

 

……いや。

なんか、とっても恥ずかしいですね。

 

顔が熱くなっていくのが自分でも分かります。

僕はこういう目立つことが、本当に苦手なのです。

 

帝先輩はインターハイでゴールを決めるたびにこれをやられていたと考えると……すごいメンタルです。

僕なら一回で限界ですよ。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。