その時歴史がまたまた動かなかった   作:dwwyakata@2024

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オフレッサー上級大将って下級貴族、しかも下手をするとラインハルトと同じ帝国騎士の出身の可能性があるんですよね。本作では帝国騎士出身と設定していますが、原作では明言されていませんのであしからず。

それでラインハルトとわかり合えなかったのは、オフレッサー上級大将が帝国を愛している上実力で出世してきたという強いプライドがあったから。これがラインハルトへを見る目へフィルターを掛けてしまうことになります。

原作でも示唆されているラインハルト嫌いのこの理由を、本作では描写し。そして決して脳筋ではないオフレッサー上級大将が、最初の一歩を間違えてしまった理由としても描いていきます。





1、帝都脱出

皇帝フリードリヒ四世が崩御した。

 

葬儀の席で、オフレッサーが大声を上げて泣いているのを見て、周囲が明らかに恐れているのが分かる。

 

皇帝陛下の老いた体は棺に納められていたが。オフレッサーは巨大で勇壮な花束を持ってきて。大泣きしながら、側にいた侍従に渡した。花束が重すぎたのか、侍従は数人がかりでそれを運んでいった。

 

ラインハルトが来る。

 

形式的に、だが。

 

明らかに死んだことをなんとも思っていない。

 

やはり此処で首をへし折るべきではないのだろうか。オフレッサーはそう思ったが、しかし崩御された皇帝陛下の御前だ。

 

無礼は働けなかった。

 

ラインハルトは、大泣きしているオフレッサーを見て、意外そうな顔をしていた。意外、か。

 

ラインハルトがオフレッサーを軽蔑しているのは知っている。

 

これでも相手の好悪くらいは分かるのだ。

 

ほとんどの人間はオフレッサーを恐れる。上司達も、オフレッサーの働きぶりを見て、皆青ざめていたし。昇進して部下から離れると、誰も彼もがほっとした顔をしていたのを思い出す。

 

しかし、ラインハルトは違う。

 

オフレッサーを恐れていない。

 

同じ帝国騎士の身分から成り上がった存在だというのに、あまりも大局的だ。近くで見ると、かなり出来る事は分かる。

 

それでもオフレッサーから見れば子供も同然の力量だが。

 

無言ですれ違って、巨大なハンカチで鼻水を噛む。

 

そして喪服の他の貴族達の間に座ると、国葬の間オフレッサーはずっと泣いていた。

 

他の貴族達は、ラインハルトと同じだ。

 

ほとんどが、この後どうするかばかり考えている。

 

帝国への恩を忘れおって。

 

そうオフレッサーは怒りを覚えていたが。それでも、皇帝とその手足である門閥貴族による統治が正しいという思考から。オフレッサーは離れられなかった。

 

葬儀が終わった後、すぐに事態が慌ただしく動き出していた。

 

ブラウンシュバイク公とリッテンハイム侯を中心として、反ラインハルトの貴族達が、「リップシュタットの盟約」を結んだのである。

 

公然と反ラインハルトの動きを始めたのだ。

 

オフレッサーはあまり褒められた行動ではないと、大げさな動作で門閥貴族達に「大神オーディンが必ず勝利を約束してくれる」とかほざいたブラウンシュバイク公に。盟約締結が終わった後に発言していた。

 

それを聞いて、ブラウンシュバイク公はオフレッサーを明らかに怖がりながら言う。

 

「おかしなものだな。 貴殿なら必ず賛成してくれると思ったのだが」

 

「ラインハルトは運だけで成り上がった男ではありますが、小官であればこのような動きをすれば即座に鎮圧に動きますな。 さっさと首都星を離れた方が賢明かと」

 

「心配するでない。 我らの力は圧倒的だ。 兵力だけでも2500万を超えるという試算が出ている」

 

「そんな兵士は案山子の集まりでありましょう。 特に地上軍など、小官と部下達だけで蹴散らして見せますが?」

 

オフレッサーが冷え切った声で言うと。

 

ブラウンシュバイクは、すんと黙り込んでいた。

 

青ざめているブラウンシュバイク公に、オフレッサーは進言する。

 

「さっさと首都星オーディンを離れるのですな。 お仲間もろとも。 小官も家族を連れてそうさせていただきます」

 

「う、うむ……」

 

「それとまさかご自身で指揮をとるつもりではありますまいな。 ラインハルトめは無能とはいえど、相手がさらなる無能だったから勝てただけの事。 こちらがその無能になっては意味がありますまい。 盟主どのの専門は政争にございましょう。 軍事の専門家を総司令官に為されるべきかと」

 

「それに関しては小官も同意します」

 

側に控えていたアンスバッハが言う。

 

ブラウンシュバイクは青ざめたまま、そうかとだけ言った。

 

まあ釘は刺しておいたし、大丈夫だろう。

 

オフレッサーは旗艦に部下達を詰め込んで乗り込む。娘も連れて行く。向かう先は帝国第二の……今は第一の要塞であるガイエスブルグ宇宙要塞である。

 

第一の要塞であるイゼルローンは叛徒どもに落とされて久しく、それより一回り小さいガイエスブルグが現在は第一の要塞となっている。

 

其処には、既に目端が利く貴族達が集まり始めていた。

 

掌握されている艦隊も、である。

 

オフレッサーがガイエスブルグに乗り込むと、先に来ていた将官がいる。

 

同じように食い詰めから成り上がった提督。

 

ファーレンハイトだった。

 

銀髪の精悍な男である。

 

敬礼をかわす。

 

「貴官も来ていたか」

 

「こちらに勝ち目があると思いましたので。 小官はこれでも勝てると思う方に着くような卑しい男なのですよ」

 

「ふん、まあ貴官がいれば少しはマシになるだろう。 あの生もやしどもでは、運だけで成り上がったラインハルトにすら勝てぬわ」

 

「ローエングラム公が運だけで成り上がったかは意見が分かれそうですが、ただ此処にいる貴族達だけでは、どうにもならないのは同意します」

 

オフレッサーを恐れずに接してくる。

 

それだけで立派だ。

 

それにオフレッサーは、寒門や平民から「実力で」のし上がった人間を、誰でも尊敬していた。

 

マリアンヌにも挨拶させる。

 

ファーレンハイトは、オフレッサーに娘がいることに驚いていた。

 

「結婚為されていたのですか」

 

「もう妻は他界したがな。 忘れ形見だ」

 

「そうですか」

 

「……」

 

敬礼をかわして、あてがわれた自室へ。

 

狭い。

 

あまり良い気分はしない。

 

マリアンヌが長旅で疲れているので、先に休ませる。だが、マリアンヌは言う。

 

「あのファーレンハイトって人、父上の部下?」

 

「いや、違う。 父は地上軍の担当だが、あれは宇宙軍の人間だな」

 

「そう。 あの人、裏切ると思う」

 

「ふん、その場合は首をねじ切るだけだ」

 

娘を休ませると、次は部下達を集める。

 

いずれもがオフレッサーが鍛え上げた陸戦の専門家達だ。彼らは要塞内での戦闘を担当する。

 

それだけではない。

 

場合によっては艦隊戦で揚陸艦に乗って突撃。

 

敵艦に突入して、皆殺しにして制圧するのだ。

 

オフレッサーはそうやって、百隻以上の敵艦を落としてきた実績を持っている。部下達もあわせると、その数は倍になる。

 

「我々は恐らくですが、レンテンベルク要塞に配置されることになるかと思います」

 

「確かアルテナ星系にある要塞だったな」

 

「はい」

 

立体映像を部下が出す。

 

レンテンベルクは小惑星を改造した要塞だが、一万隻の艦艇を収容することが出来、要塞主砲も搭載している強力な要塞だ。

 

貴族どもの戦略構想は聞いたが、ラインハルトの軍勢を遠路に引きつけて、疲労のピークで撃つものとなる。

 

それ自体は別にどうでも良い。

 

オフレッサーは上級大将という立場だが、作戦立案には関与しないし。

 

それだけの無茶ぶりをされても、力尽くで突破してきた自負がある。

 

故に、今更である。

 

「この要塞には第六通路というものがあり、中央の動力炉には此処を通らなければ行けません。 其処で我々が此処を守備することになるでしょう」

 

「出番がなければ良いのだがな」

 

「はい」

 

部下も言う。

 

アルテナ星系はそれなりに重要な拠点であり、少なくともレンテンベルクが使い捨ての捨て石でないのは確かだ。

 

オフレッサーが配備されることについてはなんら異論はない。

 

だが、どうせ陸上戦をするのであれば、金髪の孺子めの旗艦であるブリュンヒルトに挑みたいものだ。

 

乗り込めば、確実に奴を討ち取ってやるのだが。

 

「ブリュンヒルトの設計図はあるか」

 

「はい。 狙われるのですか」

 

「機会があればな」

 

「そうですな。 腕が鳴ります」

 

叛徒どもにも薔薇の騎士連隊なる精鋭がいるらしいが、そんなものはオフレッサー単独で片付けられる程度の相手だ。

 

問題になってくるのは、陸上部隊じゃない。

 

宇宙艦隊である。

 

流石のオフレッサーも、揚陸艦に乗っているところを戦艦の主砲で撃たれれば死ぬ。そういう観点では、オフレッサーも現実的にものを考える事が出来るのだ。

 

「我々の指揮は結局誰が執ることになるか分かったか」

 

「ええと。 今、帝都でローエングラム公が、案の定粛正を初めて、多くの大貴族が捕縛されたようです。 その中で、先に逃れてきた中に、メルカッツ提督がいます。 今回元帥に昇進して、皆の指揮を執るのだとか」

 

「メルカッツ提督か。 それならば信頼できる」

 

メルカッツは、オフレッサーを好いてはいない。

 

それは分かる。

 

メルカッツは帝国の戦歴とともにあるような老将で、歩く時計とも言われるくらい時間に正確な人物だ。

 

オフレッサーは嫌ったことはないが。

 

何度か戦場で、貴官のやり口は度を超していると苦言を呈されたことがある。

 

白兵戦で手加減をしろというのもおかしな話だが。

 

同じ帝国に忠義を誓うもの同士だ。

 

別にそれで、オフレッサーがへそを曲げたことはないし。

 

敬意を失ったわけでもない。

 

メルカッツはオフレッサーをどう評価しているかは知らないが。オフレッサーは、少なくともメルカッツを高く評価していた。

 

「あの老練なメルカッツ提督であれば信頼出来るな」

 

「は。 ブラウンシュバイク公が直に指揮を執るよりは遙かにマシでしょう」

 

「……」

 

それから、時間が経過すると。

 

どんどんガイエスブルグに大貴族達が逃げ込んできた。

 

オーディンから命からがら逃げ出してきた者も多かったようだ。

 

各地の領地から、私兵を連れてきた貴族も多い。

 

事前にブラウンシュバイク公が自慢していたとおり、兵員2500万を超えるようである。

 

これは去年の史上空前の同盟艦隊の規模に迫るものだ。

 

金髪の孺子めの指揮する艦艇は九個艦隊、1800万程度であるから。兵力であれば勝っている。

 

だが、要塞内で警備を固めて、それで見て回る限り。

 

酷い練度だった。

 

オフレッサーのことは味方からも知られているようで、兵士達は青ざめて敬礼してきたり。

 

明らかに逃げ腰になっているものも多かった。

 

本当に案山子の群れだな。

 

そう判断する。

 

程なくして、メルカッツが来る。

 

メルカッツが来て、やっと安心した。

 

オフレッサーは、メルカッツに会いに行くが。メルカッツは家族を連れていなかった。

 

「元帥になられたそうですな。 おめでとうございます」

 

「うむ。 卿も無事なようで何よりだ」

 

「それよりも娘御がおられましたな。 如何なさいました」

 

「帝都に残してきた」

 

はて。妙なことだ。

 

逃げる時間はあったはずだが。

 

それを指摘すると、メルカッツは嘆息する。シュナイダーというメルカッツのまだ若い副官が、オフレッサーに言う。

 

「メルカッツ提督はお疲れです。 此処は休息の時間を取りたく」

 

「ああ、それは済まなかったな。 後で作戦について相談したいので、時間を取ってくれ」

 

「分かった。 時間を取っておこう」

 

メルカッツがそう言って、この場を後にする。

 

妙な話だな。

 

メルカッツの妻は死別だったか。それはオフレッサーと同じだ。

 

だったら誰よりも大事な娘をどうして放置してきた。

 

それよりもあのシュナイダー。

 

なぜかオフレッサーを責めるような目をしていた。何か変なことでも言ったか。

 

こういった機微には、オフレッサーも詳しい。そうでなければ、上級大将にまでなれなかったのだ。

 

癪だが一応部下に調べさせる。

 

そうすると、馬鹿なことが分かってきた。

 

「ブラウンシュバイク公が、娘をネタにメルカッツ提督を恫喝しただと?」

 

「はい。 最初はメルカッツ提督はリップシュタット盟約に参加することを拒んでいたようなのですが」

 

「それでか……」

 

これは。

 

まずい。

 

こちらには、メルカッツが必須だ。

 

それをそんなやり方で味方に抱き込んでも、最悪のタイミングで裏切られる可能性すらある。

 

陰謀ごっこしか能がない門閥貴族の事は、オフレッサーだって分かっている。ブラウンシュバイク公が無能なことも知っている。

 

それでも味方に益になる陰謀ごっこくらいはこなせると思っていたのだが。

 

まさか最大の駒となるメルカッツの心に、あからさまなくさびを自分から入れるような真似をするとは。

 

まさかとは思うが、オフレッサーにも似たようなことをしないだろうな。

 

そうオフレッサーは懸念を抱く。

 

だが、帝国が大事であるのは確かだ。

 

しばらく考え込んでいるオフレッサーに、部下が提案する。

 

「総監」

 

「うん」

 

「マリアンヌ様を、疎開させては如何でしょうか」

 

「……そうか。 それが良いかもしれないな」

 

此処が戦場になることは別にどうでもいい。

 

オフレッサーにも娘に対してはそれなりの情があるのだ。戦争で一緒に死ぬのなら本望だが。

 

ブラウンシュバイク公の陰謀ごっこのネタにされるのだけは許しがたい。

 

もしそんなことになったら、オフレッサーはあのブラウンシュバイク公に飛びかかって、床にたたきつけて赤い染みにしてしまうだろう。

 

もしブラウンシュバイク公がマリアンヌをネタに揺すってきた場合、理性に自信を持てない。

 

「疎開させるとしてどこに行かせる」

 

「フェザーン自治領が良いでしょう。 丁度私の従兄弟が向こうにいますので、先にお連れいたしますが」

 

「フェザーンか……」

 

惰弱で陰険な商人どもの巣窟か。

 

まあ悪くはない。

 

部下を少し連れていれば、フェザーンの惰弱な警備兵程度が、マリアンヌを脅かすことは不可能だ。

 

部下の中で、既に一線を退きつつあるものを数名抜擢。

 

言い出した部下とともに、マリアンヌにつけさせる。

 

「分かった。 俺が金髪の孺子めの首を引っこ抜くまで、フェザーンで潜伏しているように」

 

「は……」

 

「しかし予想以上に無能だったな。 予想以下と言うべきか」

 

舌打ちすると、オフレッサーは酒を持ってこさせる。

 

そして翌日には、娘を呼び出して、疎開を頼んだ。

 

ぐずることもなく、マリアンヌは一も二もなく受ける。なんとなくだが。此処が危ない事。

 

最悪、オフレッサーが死を覚悟していること。

 

更には、此処ではいつ陰謀に巻き込まれてもおかしくないし、最悪足かせになる事、それを理解しているのかも知れなかった。

 

部下三十人ほどとともに、小型の輸送船とともに娘を送り出すと。

 

オフレッサーは約束通りメルカッツに会いに行く。

 

そして、作戦案を練っていたらしいメルカッツと、軽く話をした。

 

「ブリュンヒルトに白兵戦を挑む?」

 

「そうです。 貴官であれば既に承知なのではありませんか。 盟主は正直言って無能ですな。 金髪の孺子も運だけで生き残ってきた輩だが、下手をするとそれを下回るかも知れないほどにです。 故に、早々に奴を仕留める必要があると言うことです。 勿論奴は味方の後方に隠れているでしょうが、奴を引きずり出す作戦を立てていただきたく」

 

「流石に卿に白兵戦を挑まれることのリスクはローエングラム公は把握しているだろう。 かなり難しいぞ」

 

「分かっています。 しかしこのままでは負けましょうな」

 

娘を避難させた話をする。

 

そうすると、メルカッツもある程度事情を理解したようだった。

 

その上で、知らなかったのだとわびる。

 

そうすると、メルカッツも多少心を開いてくれたようだ。

 

「近々大まかな作戦を貴族達を集めて決めることになる。 最高司令官として私は依頼されたが、どうせすぐに貴族達は命令に従わなくなるだろう。 卿であれば覚えはあるのではないか」

 

「はい。 いつでも戦場では彼らは無能でしたな」

 

「もし仕掛ける好機があるとしたら最初だけだろう。 私も作戦案を練ってはいるが、それでも勝ち目はあまり多くはない。 特にリッテンハイム候は第二派閥を作っていて、ブラウンシュバイク公に対抗する気満々だ。 最悪分派行動を起こして、勝手に行動を開始するだろう」

 

そうか。

 

どうやらオフレッサーが思っていた以上に状況は悪いらしい。

 

これはメルカッツは。

 

死ぬために、ここに来たのだな。

 

それをオフレッサーは理解した。

 

だから娘や家族をオーディンに残したのだ。

 

恐らく、あの忌々しい金髪の孺子が家族を害さないだろうと判断した上で、だ。

 

「ともかく作戦は立ててみる。 ただし、それが受け入れられなかった場合は、当初の目標通りレンテンベルクを守ってほしい」

 

「承知しました」

 

「うむ……」

 

メルカッツはそう言って、後は幕僚達と星系図を見る作業に戻った。

 

オフレッサーも自分の部下達のところに戻る。

 

これは最悪の場合を常に想定しなければならないかもしれなかった。

 

部下達が不安そうにする中、指示を出す。

 

「レンテンベルクを守る際に、卿らに命じることがある」

 

「は……」

 

「負けた場合は、悪いが俺と一緒に死んでくれ」

 

「!」

 

流石に恐れを知らぬ部下達も、青ざめていた。

 

それでもやっておかなければならないのだ。

 

「今のうちに家族はフェザーンにでも逃がせ。 それとも金髪の孺子めのところでも構わない」

 

「な、何があったのです」

 

「どうやら予想以上に状況が悪いようでな。 メルカッツ元帥と話し合いをしてきたが、そもそもまともな作戦が動かないかも知れないようだ」

 

「それほどですか」

 

そういえば、だ。

 

理論家や学者にはむいているが、前線指揮官には決定的に向いていないシュターデン提督が、意気揚々と乗り込んできていた。

 

あれはリッテンハイム侯が勧誘したらしい。

 

ブラウンシュバイク公がメルカッツ元帥を擁立して、総司令官としたのに対応して。政治的な駆け引きで、ある程度状況をコントロールするつもりなのだろう。

 

政治的駆け引きなんか、何の意味もない。

 

それが戦場で敵を殺せるか。

 

兵力を配置し、物資を支給できるか。

 

答えは否だ。

 

オフレッサーもくだらないと思いながらも、その中を生き抜いてきた身だ。だからこそ、如何にそれらが有害だかは分かるし。

 

若い頃は理解していなかったが、この年になると。それらがお気持ちに起因する、人間の営みの中でももっとも愚劣なものであることは分かる。

 

オフレッサーは、ラインハルトへの怒りで自分も足下をつかまれている事には気づけていない。

 

オフレッサーという男は、周囲は見えるが。

 

自分は見えない男だった。

 

「いずれにしてもレンテンベルクでの戦闘が行われた場合、俺たちの出番だ。 敵が百万こようが二百万こようが、俺たちでたたきのめしてやるだけだ」

 

「そ、そうですな……」

 

「皆、先に準備を済ませておけ。 メルカッツ元帥は既に死ぬ準備を終えたようだ。 俺たちも、最悪の結末に備えておかなければな」

 

死を怖いとは。

 

オフレッサーは思わない。

 

恐怖は今まで感じたことは当然ある。

 

なければ、戦場で死ぬだけだったからだ。それを完璧にコントロールしてきたから、今まで生きてきた。

 

そして今も、オフレッサーは死など恐れてはいない。

 

ただ、自分の周りの状況が著しく悪い事は理解していたし。

 

それについての覚悟はしていた。

 

それだけだ。

 

マリアンヌを送り出したフェザーンに、追加で希望した第二陣の者達を送り出した。多くが部下の家族だった。

 

ほとんどの部下が、家族を送り出すようだ。一緒について行くことを選ぶ部下もいて、それをオフレッサーはとめなかった。

 

こういったところが。

 

オフレッサーが、長年部下を統率できていた理由だ。

 

先に送り出したマリアンヌはぐずることもなく、疎開を受け入れていた。最後に高い高いをしてやったが、それだけだ。

 

これが今生の別れになるかも知れない。

 

それについては、戦場に出るたびにオフレッサーは覚悟をしていたし。今回もそれというだけだ。

 

部下達とともに、大ホールに出向く。

 

ピクニックにでも来たつもりの大貴族ども。愛人を連れ込んでいる奴も多い。

 

案山子の群れの弱兵どもの主は、頭が空っぽのアホの集団か。

 

そう思うと腹立たしいが。

 

愛用のトマホーク一本で、今までもずっと最悪の状況をひっくり返してきたのだ。今回もそうするだけだった。







本作のオフレッサー上級大将は、原作で触れられていない妻子がおります(奥さんは死別)。これは彼くらいの立場であればいてもおかしくないというか、いないと不自然だからですね。

また地盤がないところから上級大将まで上がれたのは、部下達を巧みに統率できていたからなのは間違いないでしょう。

それらも今作では描写をしています。


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