その時歴史がまたまた動かなかった 作:dwwyakata@2024
原作における山場です。
圧倒的暴力を振るうオフレッサー上級大将の見せ場ですね。
白兵戦巧者のミッターマイヤーとロイエンタールが手も足も出ないほどの超越的暴力が彼らを襲います。
ちなみに「落とし穴」の下りは道原版の描写を採用しています。
レンテンベルク要塞の司令室で、報告を聞く。
やはりシュターデンは敗れた。
予想通りの結果。
予想通りの展開だった。
ヒルデスハイムをはじめとする貴族達が暴走。シュターデンに突撃を迫った。シュターデンはやむを得ず、兵を二手に分けて。機雷原の向こうにいるミッターマイヤーを挟撃するという大雑把な作戦を立てた。
少しでも、まともに動かせる戦力を増やすための策。
そして最初兵力で上回っていたシュターデンの率いる宇宙艦隊は、この時点で疾風ウォルフの艦隊を下回ったのである。
後は悲惨だ。
作戦の意義も理解せず、無秩序に突進してきた貴族の艦隊は、超高速で回り込んできた疾風ウォルフの艦隊に真横から襲われ。
疾風ウォルフの艦隊が動かないと決めてかかっていた彼らは、文字通り機雷原と挟まれて壊滅した。
逃げようとする艦艇もどうにもならず。
機雷原に放り込まれた艦艇は、文字通り機雷の餌になった。
短時間で貴族達の艦隊を壊滅させた疾風ウォルフは、兵をまとめるとまた高速機動。慎重に索敵しながら移動していたシュターデンの艦隊を、背後から強襲したのである。
これはどうにもならない。
シュターデンは閉口すると、兵をまとめてレンテンベルクに逃げ込んできた。
対峙は二週間ほどだったようだが、レンテンベルクでシュターデンに会って、ぎょっとした。
髪が真っ白になっている。
まるで二十年は老け込んだようだった。
「あんな艦隊、率いるのではなかった……」
遅すぎる後悔が、学者にはむいていても前線指揮官には向いていないシュターデンの口から漏れる。
オフレッサーは嘆息すると、もう一度言い聞かせた。
「金髪の孺子めは基本的には無抵抗の相手を殺さないそうだ。 貴殿はこのまま、もし負けた場合は素直に降伏なされよ。 精神病院か軍刑務所に送られるかも知れないが、命までは取られんだろう。 貴殿は門閥貴族でもないのだからな」
「……分かった」
「では失礼する。 どうやら俺は、これから過酷な連勤をしなければならないようであるからな」
司令室に戻る。
敵はほとんど無傷の疾風ウォルフの艦隊に加えて。
下級貴族でありながら、事業に成功して門閥貴族から嫁を取った事で政界に食い込んできた人物の息子。
金銀妖瞳こと、オッドアイになっていることで有名な、ロイエンタール提督である。
しかもロイエンタールは父のコネを使わず実力で出世してきた人物で、それはオフレッサーも知っている。
疾風ウォルフと非常に仲が良いことで知られているが。オフレッサーとしても、同じような「成り上がり」として意識していて。
こちらもまた、声を掛けて部下に誘ったことがある。
やはり袖にされたが。
こちらはオフレッサーを更に嫌悪しているらしく、野蛮人とか、石器時代の勇者だとか言っているようだが。
それに対して、オフレッサーは別に腹を立ててはいない。
嫌われることなどどうでもいい。
ロイエンタールは攻守ともに極めて優れたバランスを有する有能な将軍であり、そういった人材は癖が強いものなのだ。
金髪の孺子めのように、運と姉の色仕掛けで成り上がった(オフレッサーは少なくともそう思っている)存在ではなく。
貴族だろうが、最前線で泥にまみれて出世を勝ち取ってきた存在だ。
軽蔑をする理由はない。
要塞の防衛艦隊が、二個艦隊三万隻に達する敵と交戦を開始する。要塞砲の支援があっても厳しいだろう。
指揮官の提督も無能だ。
右往左往するだけで、ほとんど何も出来ていない。
しかも味方が乱戦に持ち込まれ。
その隙に多数の強襲揚陸艦が要塞に肉薄してきている。それをオフレッサーは冷静に見ていた。
「適当に指揮を執っていろ。 艦隊は出来るだけ要塞の主砲の範囲内に入れて、突出させるなよ」
「お、オフレッサー上級大将は」
「俺はこれから、敵を駆逐する」
兵士達がごくりと生唾を飲み込んでいた。
また随分軟弱な話だ。
第六通路にまもなく敵が乗り込んでくる。
装甲擲弾兵達と同じように装甲服を身につけると、トマホークの石突きで、床をオフレッサーは叩きならした。
「敵は名高い疾風ウォルフと金銀妖瞳のロイエンタール! いずれも平民や下級貴族から実力でのし上がった優れた敵だ! 俺たち、宇宙最強の陸戦部隊の敵として不足なし! この場の全員! 優れた敵に対して奮励せよ!」
「おおっ!」
「オフレッサー上級大将閣下に続け!」
「ゆくぞ!」
ずんと、身長二メートルに達するオフレッサーの巨大な足が進むと、兵士達がそれに続く。愛用のトマホークには、今まで倒した兵士の数を刻んでいたこともあったのだが、今はそれも止めた。
刻みきれないからだ。
第六通路に、まもなく敵の装甲擲弾兵部隊が突入してくる。やはり此処を狙ってくるな。動力炉があるのだから当然だ。
この要塞を設計した奴は、それなりに分かってはいる。
それはオフレッサーも評価していた。
それなりに体格がいい兵士が突っ込んでくるが、オフレッサーには隙だらけにしか見えなかった。
雄叫びを上げながら、トマホークを振るう。
凄まじい圧力に、そいつらは抵抗も出来ず、一瞬で粉々に消し飛んでいた。
あまりの破壊力に、敵兵が逃げ腰になる。それを、飛び散った死体を踏み砕きながら、オフレッサーは前に出て、容赦なく切り払った。
どうした。
こんな程度か。
叫びながら、右に左に斬り伏せる。
体格だけならオフレッサーに迫る兵士もいるが、練度も速度も話にならない。
まとめて切り払って、叩き潰して。
第一波は文字通り蹂躙。
死体の山のうち、ある程度形が残っているものを運ばせる。
既にゼッフル粒子で通路を満たしていて、ブラスターのような火器は仕えないのだが。それでもボウガンなどを使ってくる事がある。
そういうときは専門の軍用盾を用いることもあるが。
それより丁度良い盾があちこちに散らばっているのだから、活用するだけである。
第二波が来る。
兵を下がらせて、そして通路の中程で迎え撃つ。こうすることで、交戦点を通路の奥深くにし。
仮に逃げ出しても、その背中を思う存分に叩くことが出来るし。
仮に万が一押されたとしても。
死地になっている通路奥に引き込んで、敵を縦横無尽に蹴散らすことが可能であるからだ。
艦隊戦はできないが。
オフレッサーの専門は陸戦だ。
こういう場所での陸戦なんて、誰よりもたくさん経験してきている。たとえ疾風ウォルフと金銀妖瞳が同時だろうと、遅れなどとるものか。
第二波を充分に引きつける。今度はさっきよりかなり数が多いようだが、同じだ。オフレッサーが先頭に突撃すると、敵兵が怯む。
其処に、容赦なくトマホークが殺戮の嵐を吹き荒れさせる。
部下達も突撃して、おびただしい戦果を挙げていく。必死に逃げる敵兵を、真後ろから真っ二つにする。
だが、降伏を言い出す敵はいない。
気に入った。
オフレッサーは満面の笑顔で、敵の頭をたたき割る。
倒れた敵兵士を踏み砕きながら、敵を思う存分に蹂躙した。
敵が監視カメラを設置したようだ。
オフレッサーはそれを見て、にんやりと嗤うと。
今真っ二つに打ち砕いた敵兵の死骸を放り投げて。更に監視カメラを踏み砕いていた。
これでいい。
敵の怒りを自身に集中させる。
戦場では立派な戦術だ。
ボタン戦争が終わった今の時代。しかもゼッフル粒子を満たして地上戦を行うようになった今の時代では。
大規模な平原での地上戦でもなければ、古き良き戦士の一対一の戦いが意味を持ってくる。
大口径ライフルによる狙撃などはオフレッサーでも流石にどうにも出来ない。
だから、それらが使えない環境を用意すれば良いだけだ。
第三波が来る前に、味方を下げさせる。呻きながら死にきれない敵がいたので、介錯してやる。
首をたたき落とすと、静かになった。
これは、オフレッサーなりの、戦士に対する礼儀だった。
それが理解されなくても良かった。
第三波、第四波と次々と攻撃が来る。
休憩をさせない波状攻撃か。だが、その攻撃に参加する敵兵を、ほとんど生かして帰さない。
波状攻撃をする敵が、毎回全滅に近い打撃を受ければ。それは波状攻撃としては成立しない。
兵士達も、明らかに逃げ腰になるからだ。
オフレッサーも波状攻撃を捌いたことは何度もあるが。
こうやって毎回甚大な被害を出させてやれば、それは単なる兵力の逐次投入となる。そうすれば、被害ばかりが増えるのだ。
部下が興奮剤を入れ始めている。
オフレッサーは早めにトイレに行っておく。
そして、すぐに戻ってくる。
第五波が来たようだ。部下達が対応しているが。敵もなかなかやるようで。互角に戦闘しているようである。
オフレッサーが出る。
積上げさせておいた敵の死骸をつかむ。
装甲擲弾兵の装甲服も含めて、重さは平気で百㎏を超えるが、オフレッサーからしてみれば軽い軽い。
「オフレッサーが来たぞ!」
「皆、「道」を開けよ!」
「ははっ!」
味方の兵士達が、ささっと左右に分かれる。
其処にオフレッサーは、ぶち殺してつんでおいた敵兵の死骸を剛速球で放り込んでいた。
敵兵が露骨に恐怖の声を上げる。
直撃を受けた敵兵が吹っ飛び、そして転がる。
オフレッサーは大股で歩きながら、第二弾を放り込む。下半身を失っているその死骸は、軽いからさっきより更に速度が出た。
怯むというのは、こういう場では大きな戦果につながる。
オフレッサーが雄叫びを上げた。
「ゆくぞ! 蹴散らせ!」
「皆、閣下に続け!」
「殺せえええっ!」
興奮剤を入れた部下が吠えている。
やんちゃなことだと、オフレッサーは薄ら笑いを浮かべながら、最前線に突入すると。逃げ腰になった敵を右左に切り払う。勿論逃がさない。片っ端からぶち殺していく。そうしないと、次は味方が殺されるし。
最悪、マリアンヌだって手に掛かるのだ。
雄叫びを上げる。
それだけで、敵が恐怖で身をすくませる。
其処に突入すると、更に切り払う。
敵が悲鳴を上げて逃げ散る。
勿論逃がさない。片っ端からたたき伏せていくが。
決めていたラインから先には出ない。
出ようとした部下を、ひょいとつまみ上げていた。
「此処までだ。 戻るぞ」
「す、すみません閣下! こ、興奮してしまって」
「いい。 俺も初陣の頃は、何も分からなかったからな」
そう言って、オフレッサーは下がる。
大量の死体を集めさせて。
更には敵の監視カメラに向けて、吠える。
「疾風ウォルフ! 金銀妖瞳のロイエンタール! 見ているか! お前達を部下に誘った日のことを忘れたか!」
それだけで、辺りの空気がビリビリと揺れるらしい。
ともかく、集音機能もついている監視カメラに、叫んでおく。
「やはり俺の部下になっておくべきだったな! お前達の部下の軟弱なこと、まるで手応えがないぞ! 俺を倒したければ、お前達が直接来るのだな! いや、二人がかりでも、簡単に俺に勝てると思うなよ! 命を賭けて掛かってこい!」
それと、死体を掲げてみせる。
右左に唐竹にかち割ってやった死体だ。
内臓や脳がはみ出している。
「雑に部下を戦わせるからこうなる! こいつらの死体をこれから鍋に放り込んで、フリカッセにしてやる! どうせさぞやまずかろうが、戦場では贅沢も言えんからな!」
賎民と言ってやろうかと思ったが止めた。
オフレッサーもそうだったからだ。
帝国貴族とは名ばかりの最下層貴族である帝国騎士出身のオフレッサーは、首都星オーディン出身だが、最貧街に近い場所で生まれ育った。
体がどんどん大きくなるオフレッサーの食費は多く、両親は稼ぐために本当に苦労をしていた。
更に貧しい人だってたくさん見てきた。
だから貧民を馬鹿にするつもりはない。
他の貴族のように、賎民と呼ぶのも、実は気が引けた。
興奮している時は、言動が凶暴化する事はある。
だがそれは、あくまで興奮しているから暴言が口を出るだけだ。
「フリカッセになりたい奴から掛かってくるのだな!」
吐き捨てると、オフレッサーは戻る。
さて、そろそろだな。
恐らく七度か八度くらいの攻撃作戦を失敗した後、疾風ウォルフか金銀妖瞳のロイエンタールか、或いはその両方が出てくるはずだ。
戻った後、給水をして。
興奮剤を口に放り込んで、がりがりとかみ砕く。
部下達も既に興奮剤でガンギマリになって、目がらんらんとしていた。
それを窘める気はない。
負ければ全てが終わりなのだ。
斥候が来る。
「第六波来ます! 今までよりも更に数が多いです!」
「ふん、兵力の逐次投入の見本だな! 皆、更に頑張れ! 俺の見たところ、そろそろ一段落になる! 敵司令官が前線に出てくるぞ! それを潰せば一休みできる!」
「おおっ!」
そして、オフレッサーは、第六通路に突貫。
今度は敵がボウガンを携帯していると聞いたので、部下それぞれに敵兵の死体を盾として抱えさせる。
それを見て、敵が流石に怯んだところに、剛速球で生首を放り投げる。
ひっと、悲鳴を上げた敵兵の懐に、凄まじい跳躍と速度で入り込むと。オフレッサーは、その兵士の首もはねていた。
暴れる。
暴れ狂う。
興奮剤を入れたから、更に全身が活性化して熱い。
激しい暴虐を振るいながら。
オフレッサーはそれでも自分の力に酔わない。
自分が最強である自覚はある。
だが、最強でも死ぬのだ。
戦車砲が直撃した部下を何度だって見た。一瞬で木っ端微塵になって。装甲もなにもなかった。
あれが自分だったら、今はとっくに戦場の土だ。
それが分かっているから。
オフレッサーは五感を研ぎ澄まし。
興奮剤の狂騒の中でも、圧倒的な暴力だけではなく、人間としての知性。更には五感も働かせる。
「フリカッセにして……」
トマホークが唸る。
相手のトマホークは二回りも小さい。
防ごうとしたトマホークごと相手を吹っ飛ばす。
一合受けられる奴すら滅多にいない。一度に数人を両断することだって珍しくもないのだ。
部下達もオフレッサーに続き。
おびただしい戦果を挙げていく。
血で足をすべらせないように、靴には様々な工夫をしてある。
内臓を踏みつけても。
その場で踏みとどまる事が可能だ。
「全員食ってやろうか!」
吠え猛るオフレッサーを見て、兵士達が逃げ始める。奴らが放棄したボウガンから、一斉射を浴びせてやる。
背中を貫かれて、次々と倒れていく敵兵。
それらを容赦なくとどめを刺していく。
興奮している部下達の中には、死体をぐしゃぐしゃに潰しているものもいる。好きにさせる。
そして、一定のラインに行くと、其処で足を止めた。
手を横に。
これ以上は進まないように、という合図だ。
部下達も、それでピタリと止まる。
それでいい。
「疲労している者は後退して休憩を取れ! 水分はとくに早めにとっておけ! ああ、勿論死体を本当に食うなよ」
「ははっ!」
フリカッセは勿論言葉のあやだ。
人肉を口にしたら、様々な病気になることくらいはオフレッサーだって知っている。人血も止めた方が良いだろう。
兵士達は血を浴びて興奮しているから。
それをやりかねない。
だから、こうやって掣肘しておくのだ。
そして、第七波、第八波も撃退。まだ敵に動きがない。
だから第八波をたたきのめしたその後に、ダメ押しにカメラに向かって、今までの怒りをぶつける。
「金髪の孺子! 監視カメラを通してでも、この俺をまともに見る勇気があるか!」
敬意を払っている疾風ウォルフと金銀妖瞳とは違う。オフレッサーは興奮剤の効果もあり、今までの鬱屈を全部口にしていた。
姉の威光だけで成り上がった。運だけでのし上がった。皇帝陛下の恩を忘れた不忠者。姉とそろって皇帝陛下を色仕掛けで誑かした。
勿論、最後は本当にそれをやったとは思っていない。
それくらい言えば、流石に金髪の孺子も出てくると思ったのだ。
そろそろだと思っていた時に。
動きがあった。
前衛に、明らかにカスタムの装甲擲弾兵の装甲服を着た二人が来る。それを見て、部下達が興奮の声を漏らしていた。
疾風ウォルフと金銀妖瞳のロイエンタールだ。
二人の首には多額の賞金が掛かっている。
だが、オフレッサーはまずは部下達に、手を横にして掣肘する。
「久しぶりだな二人とも。 俺が部下に誘ったのは。 お前達がまだ尉官の頃だったな。 平民や下級貴族でありながら、実力でのし上がった優れた者達。 俺はあの頃から、お前達の実力を認めていたし、今でも優れた戦士だと判断している」
「それはどうも。 あんたとやり合うのは流石に厳しいがね」
「野蛮人に認められても嬉しくはないな。 貴様は勇敢を通り越して残虐極まりない。 その残虐さがある故に、素直に尊敬は出来ないし、上司として敬う気にもなれないのだ」
「そうか。 だがこれらは全て戦術だ。 勝つためのな」
一瞬だけ、戦場に不思議な空気が流れた。
だが、オフレッサーは、興奮剤を理性で押さえつけながら。それで提案する。
「やはり俺の部下にならないか。 金髪の孺子めは、どうせお前達の役割が終わったら使い捨てるぞ。 あれはそういう輩だ。 俺はお前達と大差ない立場から上級大将にまで上り詰めた。 その過程で、多くの人間を観察した。 俺は奴が気に食わん。 俺の勘は当たるぞ」
オフレッサーは、ラインハルト憎しで目が曇っていた。
だが、それでも。
実はこのときの言葉は、「半分は」当たっていたのである。勿論、その通りではなく、不幸な行き違いの結果ではあるのだが。それが分かるのは。数年後の事だったが。
「断る。 俺にとって、天に抱くのはローエングラム公だけだ」
「同じく。 今更ブラウンシュバイク公やらリッテンハイム侯やらの無能者に膝など屈するか」
「そうか。 では、残念だが斬る!」
一歩を踏み出す。
敵が下がる。
二歩目を踏み出す。
その時、何か違和感を感じた。興奮剤を入れていても、なおも感じる嫌な予感。理性が、下がるべきだと告げていたが。
その時、疾風ウォルフと金銀妖瞳のロイエンタールが前に出る。ならば、問題はないか。その判断が、最大のミスだった。
雄叫びを上げながら突貫。
二人同時でも、勝てないことはあり得ない。
跳躍したオフレッサーが、気付く。
敵兵達が、全力で逃げている。それに対して、疾風ウォルフと金銀妖瞳のロイエンタールはその場に。
しまった。
そう思った瞬間、凄まじい風圧が、オフレッサーを引っ張っていた。
「皆、下がれ!」
叫ぶ。
そうか、第六通路が一本道なのを利用して、真空状態を作り出し、一気に引きずり出しに掛かったのか。
一種の落とし穴だ。宇宙空間の真空を利用した。
しかもこのラインまでしかオフレッサーが出てこないのを計算して、二人が餌になってまで。誘引した。勿論二人も真空に吸い出されるだろうが、宇宙空間で受け止めて貰えばいいだけの事だ。
壁にトマホークを突き立てようとしたが、それをボウガンの矢がはじいた。
疾風ウォルフによるものだった。
呻きながら、オフレッサーは第六通路から吸い出され、宇宙空間に。装甲擲弾兵の装甲服は真空にも耐えられるが。
その先に待っていたのは、口を開けた揚陸艦だった。
おのれええええええ。
叫ぶが、もはやどうにもならない。
揚陸艦が、小魚を食べる鯨のように口を閉じる。
そして、其処では。
周囲のあらゆる方向からブラスターが向けられ。更には、強烈な催眠ガスが流し込まれてきていた。
「卑怯者! 戦士としての誇りを忘れたか!」
「褒められた、と思っておこう」
ロイエンタールの声が聞こえる。
オフレッサーはそれでもトマホークを杖に立ち上がろうとしたが。
ついに、普通なら死にかねない濃度で流し込まれている催眠ガスを前にして。膝を屈したのだった。
鎖で縛り上げられ、二重に手錠を掛けられたオフレッサーが、ラインハルトの前に引きずり出される。
ラインハルトはブッ殺してやると視線でオフレッサーに告げていた。
どうやらあの挑発は聞いていたらしい。
ふっとオフレッサーは嗤う。
どうでも良いことだ。
ラインハルトの参謀をしているオーベルシュタインが、何かをささやく。そうすると、ラインハルトは顔色を変えた。
そして、オフレッサーは連れて行かれて。別室で待機させられた。
其処に来たのは、ミッターマイヤーだった。
「あの後レンテンベルクは陥落した。 卿の部下達は戦意をなくさず、全員が玉砕した。 卿なしでも二度も我らの陸戦部隊を押し返して見せたよ」
「そうか。 卿が俺の部下にいたのなら、何度でもやれただろうな」
「本当に俺を評価してくれているのは光栄の極みだ。 だが、俺の主を侮辱したことは許さない。 解放してやるから、好きに去るといい」
「はあ?」
解放だと。
次の戦場では、更に大量に斬り伏せてやるだけだ。
あの金髪の孺子めに従うことなどあり得ない。
だが。
そうか、なるほど。オフレッサー一人を、ブラウンシュバイク公の元に返すつもりか。そうかそうか。
他に行くところなどない。
だったら、最後は一花咲かせてやるか。
「良いだろう。 もう此処で戦うつもりなどない。 代わりに俺のトマホークを返せ」
「……」
「俺は約束は守る。 戦場ではそれなりに暴言は吐くが、それは戦術としてだ。 負けた以上、此処で暴れるつもりはもうないわ」
「分かった。 流石に卿だけでは、此処では何も出来ん」
そして、そのまま本当にシャトルを与えられて、トマホークも返されて解放された。
シャトルの行き先はガイエスブルグに設定されていて、固定もされていた。
ガイエスブルグに着く。
シャトルから出たオフレッサーを、アンスバッハが出迎える。部下達は当たり前のように武装していた。
「オフレッサー上級大将閣下ですね。 レンテンベルク要塞では見事な奮戦でした」
「俺の部下達が処刑される映像でも送られてきたのではないのか?」
「!」
「だろうな。 俺の部下達は、戦場で全員玉砕したよ。 それは合成映像か、或いはレンテンベルクにいた貴族どもの処刑映像だ」
どけと、ザコ兵士どもを押しのける。それだけで吹っ飛びそうになる。
ブラスターを抜こうとする兵士もいたが。
オフレッサーが視線を向けるだけで、皆腰を抜かしてしまった。
大股で歩く。
手には愛用のトマホーク。
兵士達がわらわらと出てくる。
部下達が処刑されたのに、一人だけで戻った。それはつまり、あの金髪の孺子めに寝返ったからだ。
そうとでも、あのアホどもは思うだろう。
そしてこのオフレッサーは、反逆者の汚名を着せられて死ぬわけだ。あの陰険そうな参謀が考える事だ。
だが。
ホールに出る。
多数の兵士達が真っ青になってオフレッサーを囲んでいるが、手にはトマホークがある。
それにだ。
マリアンヌは部下達の一部と一緒に、フェザーンに逃がした。
悔いがあるとすれば、あの金髪の孺子めの首を挙げられなかったことだが。
「オフレッサー! この卑しい裏切り……」
「黙れっ! 俺の部下達は処刑などされず、全員帝国に殉じた! 合成映像を目にして、それを真に受けおって!」
「な、なんだとっ!」
「金髪の孺子めはな、俺を反逆者にするために、貴様等に処刑画像を送りつけ、俺を単騎で返したのだ!」
右往左往するブラウンシュバイク公。
更には貴族どもが、オフレッサーの声で明らかに逃げ出す。
その場で気絶する者までいた。
「どうせ俺を反逆罪で殺すつもりなのだろう! だったら俺は、お前などではなく、最後は銀河帝国のために死ぬ! 皇帝陛下万歳! 俺を上級大将にまでしてくれて本当に嬉しかった! 俺は帝国のため、皇帝陛下のためなら全てをなげうつ! そして、こんなアホどもに殺されるものか!」
そういって、オフレッサーは。
愛用していたトマホークを器用に使って、自分の首をはねた。
それが、オフレッサーの最後となった。
数限りない敵を、オフレッサーの手で殺し続けたトマホークが最後に殺したのは、オフレッサー自身だった。
自決したオフレッサーを見て、ブラウンシュバイク公が青ざめている。
凄まじい形相のオフレッサーの生首と胴体を、部下達に運ばせ。
数人がかりで血だらけのトマホークも一緒に運ばせながら。ブラウンシュバイク公の腹心であるアンスバッハは言う。
「ブラウンシュバイク公。 如何なさいますか」
「と、当初の通り反逆罪で死刑でいいだろう!」
「いえ、ホールであまりにも多くの貴族が様子を見ていました。 これは反逆罪では通らないかと」
「……そうか。 ではどうすればいい」
アンスバッハは嘆きたくなる。
主君はこの程度の事も決められないのだ。
政治闘争に関してだけは、ブラウンシュバイク公は優秀だ。100年生まれてくるのが遅かった。
その頃だったら、帝国はここまでがたついていなかったのだから。
「部下達を全て殺されたと聞いて、オフレッサー提督は悲憤のあまり自害。 それで良いでしょう」
「わ、分かった……。 そうしてくれ」
「はっ……」
アンスバッハは、死体の処理をさせながら。
その死体に話しかけていた。
「この件は仮に貴殿が反逆罪として処刑されなかったとしても大きい。 貴殿が最後に吠えた言葉、あれはブラウンシュバイク公の指導者としての資質が欠ける事を意味していたからな。 貴殿は最後の意地を通したが、それでも敵の手のひらの上だったのさ」
ため息がまた漏れた。
ブラウンシュバイク公は勝てない。
それでもブラウンシュバイク家に仕え続けたアンスバッハは、彼を支えなければならない。
帝国の呪縛にとらわれているという点では。
アンスバッハも同じなのだ。
「そんなに恨めしそうな顔をしなさんな。 私だって、そう長くはない。 貴殿を誘って済まなかったな」
それだけしか。
アンスバッハは、誇りに殉じた狂戦士に、言うことが出来なかった。
原作との明確な違い。オフレッサー上級大将は自刎して果てました。
また、本作のオフレッサー上級大将は、ミッターマイヤーとロイエンタールに本気で敬意を抱いていたし、部下に誘ったのも本気です。
それが相手にとってどうかはともかく、自分と同じように実力でのし上がったとみていたからですね。
ちなみに二人に言った言葉が実現したというのは、後々ロイエンタールに起きた例の事件を暗示しているものですね。多くの貴族とやりあってきたオフレッサー上級大将は、それくらいは見抜くことが出来たのです。