Fate/Grand Order ――反逆の堕天使と最後のマスター――   作:MIDNIGHT

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第二節 聖女と反逆者

飛竜たちの咆哮が森を震わせる。

十数頭の翼が空を覆い、その影が立香たちの頭上を横切った。

 

「マシュ!」

 

「はい、先輩!」

 

マシュは一歩前へ踏み出し、巨大な盾を地面へ叩きつける。

鈍い衝撃音とともに魔力障壁が展開される。

その直後、飛竜たちの炎が降り注いだ。

 

轟音。

 

火柱が森を包み込み、乾いた木々が瞬く間に燃え上がる。

 

「防ぎきりました!」

 

「ありがとう!」

 

立香は即座に、周囲を見渡す。

数では圧倒的に不利。

しかし、飛竜は統率こそ取れているものの、個々の動きは単調だ。

 

「ルシファー!」

 

「分かっている」

 

黒い翼が広がる。

彼女の身体は地を蹴ることなく宙へ浮かび、その姿は一瞬で飛竜の群れの中心へ到達した。

 

「遅い」

 

右腕を振るう。

漆黒の魔力が三日月のような斬撃となり、先頭の飛竜を両断する。

血飛沫が霧となって舞う。

残る飛竜たちは怒り狂ったように一斉に襲い掛かった。

 

「グオオオオオッ!」

 

「来るよ!」

 

立香の指示が飛ぶ。

 

「マシュは防御! ルシファーは左を!」

 

「了解!」

 

マシュは盾を構え、飛び込んできた飛竜を真正面から受け止める。

巨体が激突し、大地が陥没する。

それでも彼女は一歩も退かなかった。

 

「はあああっ!」

 

盾を押し返し、飛竜の体勢を崩す。

そこへルシファーが滑り込む。

 

「終わりだ。」

 

拳が飛竜の喉元へ突き刺さる。

魔力が内部から炸裂し、巨体は悲鳴を上げる間もなく崩れ落ちた。

残る飛竜たちは空へ退避する。

しかし逃がすつもりはない。

ルシファーは翼を大きく広げた。

無数の黒い羽根が宙へ舞う。

一枚一枚が刃となり、飛竜の翼を正確に切り裂いた。

制御を失った飛竜が次々と墜落する。

最後の一頭が地面へ倒れ伏した時、森には静寂だけが残っていた。

 

「終わった……」

 

立香が息を吐く。

だが、その静けさの中で一人だけ警戒を解かなかった者がいた。

ルシファーである。

 

「まだ誰かいる」

 

その言葉と同時に、木立の向こうから一人の女性が姿を現した。

 

銀色の鎧。

純白の旗。

青いマント。

凛とした立ち姿は、戦場とは思えぬほど穏やかだった。

 

「お見事でした」

 

女性は静かに頭を下げる。

 

「私はルーラー、ジャンヌ・ダルク」

 

立香は驚きを隠せなかった。

 

「ジャンヌ……ダルク。」

 

歴史の授業で軽く触れた程度だが、立香でも知っている偉人。

温かく、静かで、人を安心させるような空気。

見た目はごく普通の女性だ。

 

「皆さんは、この土地の方ではありませんね。」

 

「はい」

 

立香は自分たちの事情を伏せながら答える。

 

「この異変を止めるために来ました」

 

ジャンヌは目を閉じ、小さく頷く。

 

「そうでしたか…神は、まだこの国を見捨ててはいなかったのですね」

 

その言葉に、ルシファーが僅かに眉を動かす。

 

「……神?」

 

静かな声だった。

だが、その一言には鋭さがあった。

ジャンヌはルシファーへ向き直る。

 

「はい。私は、神は最後まで人を見捨てないと信じています」

 

「そうか」

 

ルシファーは短く答える。

 

「私は違う」

 

空気が張り詰めた。

立香とマシュは顔を見合わせる。

互いに敵意はない。

しかし、その信念は正反対だった。

 

「神は何も救わない」

 

ルシファーは焼け落ちた森を見渡す。

 

「見ろ」

 

森に広がる破壊の爪痕――異変が起こったフランスでは、多くの場所でこのような状況が広がっている。

 

「子どもが死に、大人が死に、国が滅びても、空は何も変わらない。私は、それを知っている」

 

ジャンヌは否定しなかった。

彼女もまた、多くの死を見てきた。

 

「……そうですね。私も、数え切れないほどの悲しみを見ました。ですが…」

 

彼女は穏やかに続ける。

 

「それでも人は、互いに手を差し伸べることができます。その手を差し伸べる心を、私は神から授かったものだと信じています」

 

ルシファーは沈黙する。

立香はその横顔を見つめた。

付き合いはまだ短いが、ルシファーがここまで自らの考えを語ることは珍しい。

 

「私は神に反逆した」

 

ルシファーは静かに言う。

 

「だから堕天使になった。それでも、人間だけは嫌いになれなかった」

 

その言葉に、ジャンヌは微笑んだ。

 

「でしたら、あなたも人を救いたいのでしょう」

 

「違う」

 

即答だった。

 

「私は世界を救いたいわけじゃない」

 

ルシファーは立香を見た。

 

「……面倒なマスターを死なせたくないだけだ」

 

一瞬の沈黙。

立香は苦笑する。

 

「素直じゃないね」

 

「黙れ」

 

そのやり取りに、マシュが小さく笑った。

ジャンヌも口元を綻ばせる。

 

「皆さんは、不思議な方々ですね。ですが、その関係はとても羨ましく思います」

 

その時だった。

遠方から鐘の音が響く。

それは教会の鐘ではない。

避難民たちが危険を知らせる合図だった。

ジャンヌの表情が引き締まる。

 

「村です! 近くの避難民が襲われています!」

 

立香はすぐに頷いた。

 

「急ごう!」

 

四人は森を駆け出す。

まだ、この特異点の本当の絶望を誰も知らない。

だが、この出会いは偶然ではなかった。

 

人を信じ続けた聖女。

神へ反逆した堕天使。

 

相反する二つの信念は、これから続く戦いの中で何度もぶつかり合い、そして少しずつ互いを理解していくことになる。

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