Fate/Grand Order ――反逆の堕天使と最後のマスター――   作:MIDNIGHT

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第二節 爆発

医務室では、白衣を着た青年が端末を操作していた。

淡い橙色の髪。

親しみやすい顔立ち。

医師というより、気のいい近所の青年のような雰囲気がある。

 

「君が藤丸立香さんだね」

 

「はい」

 

「僕はロマニ・アーキマン。医療部門の責任者をしている。ドクター・ロマンで構わないよ」

 

「責任者には見えませんね」

 

立香が率直に言うと、ロマニは胸を押さえた。

 

「会ってすぐの相手に、そこまで正直に言う?」

 

「すみません」

 

「いや、否定できないところが悲しいんだけどね」

 

ロマニは苦笑し、簡単な健康確認を始めた。

立香の魔術回路やレイシフト適性は、決して優秀ではない。

だが、極端に悪くもない。

何より、霊子転移に対する適合率が高かった。

 

「不思議だよね。名門の魔術師だからといって、必ずしも適性があるわけじゃない。逆に、君みたいに魔術と縁が薄かった人が高い数値を出すこともある」

 

「それで南極まで連れてこられたんですね」

 

「その言い方だと、人さらいみたいだなあ」

 

「違うんですか?」

 

「契約書には同意してくれたよね?」

 

話しているうちに、緊張が薄れていく。

ここへ来てから、立香は自分だけが異物のように感じていた。

ロマニはそんな立香を、特別扱いも軽視もせず、普通の人間として接してくれた。

 

 

そのときだった。

床が揺れた。

最初は小さな振動だった。

地震かと思う間もなく、施設全体を突き上げるような衝撃が走る。

照明が消えた。

一拍遅れて、腹の底に響く爆発音。

医務室の棚から器具が落下し、ガラスが割れる。

非常灯が赤く点灯した。

 

 

『緊急事態発生。中央管制室において爆発を確認。隔壁を閉鎖します』

 

 

機械音声が繰り返される。

ロマニの表情が変わった。

 

「管制室……?」

 

そこには、マスター候補全員が集められていた。

マシュもいる。

立香は医務室の扉へ走った。

 

「待って、藤丸さん!」

 

「マシュが管制室にいます!」

 

「分かってる! でも、今は隔壁が――」

 

立香は振り返らなかった。

通路には煙が流れ込み、警報が鳴り響いている。

赤い非常灯が明滅するたび、白い壁が血に染まったように見えた。

職員たちが走る。

負傷者を運ぶ者。

消火装置を起動する者。

何が起きたのか分からず立ち尽くす者。

立香は流れに逆らって管制室へ向かった。

途中の隔壁は爆発によって歪み、完全には閉じていない。

立香は隙間に身体を滑り込ませた。

熱い。

煙が目に染みる。

 

「マシュ!」

 

返事はない。

中央管制室は崩壊していた。

巨大な筐体が倒れ、天井の一部が崩れ落ちている。

マスター候補が収められていたコフィンは炎に包まれ、職員たちが必死に救助を試みていた。

爆発の中心付近には巨大な穴が空いていた。

その近くで、立香は薄紫色の髪を見つけた。

 

「マシュ!」

 

瓦礫を飛び越え、駆け寄る。

マシュの下半身は、崩れた機材と瓦礫の下に挟まれていた。

制服は破れ、血が流れている。

意識はあった。

だが、その顔は青ざめていた。

 

「先輩……?」

 

「今、助けるから!」

 

立香は瓦礫に手をかけた。

持ち上がらない。

全身に力を込めても、巨大な構造材はわずかにも動かなかった。

 

「無理です」

 

マシュが静かに言った。

 

「そんなこと分からないでしょ!」

 

「分かります。私の身体は、もう……」

 

「分からないって言ってる!」

 

立香の声が管制室に響いた。

マシュが目を見開く。

立香自身、なぜここまで必死なのか分からなかった。

今日会ったばかりの少女だ。

ほとんど何も知らない。

それでも、置いていくという選択肢はなかった。

 

「誰か! 手を貸してください!」

 

叫んでも、周囲は混乱している。

救助に来られる者はいない。

床に刻まれた召喚・転送用の術式が、不安定な光を放ち始めた。

爆発の影響で、レイシフトシステムが暴走している。

 

『藤丸立香、応答して!』

 

通信機からロマンの声が聞こえた。

 

『そこにいるのか! すぐに管制室を離れて! コフィンなしでレイシフトに巻き込まれたら、霊子分解される!』

 

「マシュが動けません!」

 

『分かってる! 救助班を――』

 

再び爆発が起きた。

通信が途切れる。

転送術式の光が強くなった。

マシュの身体が淡い粒子に包まれていく。

 

「先輩、逃げてください」

 

「嫌だ!」

 

「私に構う必要はありません」

 

「あるよ!」

 

立香は瓦礫の隙間から伸びているマシュの手を握った。

冷たい手だった。

 

「私が、ここにいたいから――っ」

 

「ですが……」

 

「一人より二人の方が、少しは怖くないでしょ」

 

マシュの瞳が揺れた。

死への恐怖。

諦め。

困惑。

その奥に、かすかな安堵が浮かぶ。

立香は強く手を握った。

 

「絶対に離さない」

 

白い光が二人を包んだ。

施設も、炎も、瓦礫も消える。

最後に聞こえたのは、マシュの小さな声だった。

 

 

「ありがとうございます、先輩」

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