Fate/Grand Order ――反逆の堕天使と最後のマスター――   作:MIDNIGHT

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第三節 炎上都市 -堕天使の現界-

目を覚ましたとき、空は燃えていた。

赤黒い雲が渦を巻き、夜の街を覆っている。

建物は崩れ、道路には放置された車両が折り重なっていた。

遠くで炎が上がっている。

人の声はない。

風が運んでくるのは、煙と灰だけだった。

 

「マシュ……」

 

立香は身体を起こした。

目立った怪我はない。

だが、隣にいたはずのマシュが見当たらない。

 

「マシュ!」

 

瓦礫の向こうで、大きな音がした。

立香が走り出す。

崩れたコンクリート片が持ち上がり、その下から巨大な盾が現れた。

盾を支えていたのは、黒と紫の装甲を身につけた少女だった。

 

「先輩」

 

声はマシュのものだった。

眼鏡はない。

衣服も違う。

それでも、彼女を見間違えるはずがない。

 

「マシュ……だよね?」

 

「はい。私です」

 

マシュは自分の姿を見下ろした。

 

「私の中に、別の存在を感じます。爆発に巻き込まれたとき、契約を交わしました」

 

「誰と?」

 

「分かりません。名前も、正体も教えてはくれませんでした。ただ、この力を先輩のために使うことだけはできます」

 

巨大な盾。

人間とは思えない身体能力。

マシュはサーヴァントの力を得ていた。

正確には、人間とサーヴァントが融合した『デミ・サーヴァント』。

だが、二人が状況を理解する時間は与えられなかった。

瓦礫の奥から、骨の擦れる音がする。

剣や槍を持った骸骨の兵士たちが、炎の中から姿を現した。

眼窩には不気味な青い光が灯っている。

 

「先輩、下がってください!」

 

マシュが盾を構える。

骸骨兵が走り出した。

最初の剣撃を、盾が受け止める。

鋭い金属音。

マシュは敵を押し返したが、横から別の骸骨が迫る。

盾は強固だ。

だが、マシュには戦闘経験がない。

敵の数も多い。

 

「マシュ、右!」

 

立香の声に反応し、マシュが身体を回す。

盾の縁が骸骨兵を打ち砕いた。

しかし背後から、槍を持った敵が立香へ迫った。

 

「先輩!」

 

マシュが手を伸ばす。

間に合わない。

立香は反射的に右手を掲げた。

熱が走った。

手の甲に、赤い紋様が浮かび上がる。

令呪。

同時に、立香の足元へ召喚陣が広がった。

カルデア式の召喚術式に似ている。

だが、完全に同じものではない。

円環の一部が黒く染まり、その外側に未知の文字が浮かび上がる。

 

刹那、炎上する空に雷鳴が轟いた。

黒い雷。

紫の閃光。

 

――一枚の黒い羽根が、立香の前へ舞い落ちる。

 

羽根が地面に触れた瞬間、闇が爆発した。

立香へ迫っていた骸骨兵が、跡形もなく吹き飛ばされる。

他の骸骨たちも衝撃に呑まれ、瓦礫の向こうへ投げ出された。

呆然となる立香の眼前――召喚陣の中央に、一人の女が立っていた。

 

美しく流れる長い金髪。

黒を基調とした衣装。

背には、夜空よりも深い色をした翼。

紫色の瞳が、燃える街を静かに見渡す。

 

「……騒がしい場所だ」

 

落ち着いた声だった。

恐怖も混乱もない。

ただ、眠りを邪魔された者のような不機嫌さだけがあった。

女は自分の手を見つめ、続いて背の翼を動かした。

表情がわずかに曇る。

 

「力が抑えられている。妙な器に押し込められたものだな――」

 

マシュが立香の前に、守るように立つ。

 

「あなたは何者ですか?」

 

女はマシュを一瞥した後、立香の右手に浮かぶ令呪へ視線を向けた。

 

「私を喚んだのは、お前か?」

 

「たぶん……そうです」

 

「たぶん?」

 

女は、呆れたように眉を寄せる。

 

「自分が何を喚び出したのかも知らないらしい――」

 

骸骨兵が再び立ち上がった。

女は振り返らない。

 

「まあいい。この器に収まった以上、最低限の形式には従おう」

 

黒い翼が広がる。

 

 

「クラス『アヴェンジャー』―――我が真名は『ルシファー』」

 

 

空気が震えた。

炎が風圧に押され、低く揺れる。

 

「天に背き、反逆を選んだ者だ」

 

骸骨兵が一斉に襲いかかる。

ルシファーは片手を上げた。

その背後に黒い光輪が形成される。

いくつもの紫電が円周を走り、闇の魔力が膨れ上がった。

 

「消えろ」

 

光輪から放たれた衝撃が、骸骨兵をまとめて飲み込む。

剣も、槍も、骨の身体も、一瞬で砕け散った。

戦闘と呼ぶことすら難しい。

立香は言葉を失った。

マシュも盾を構えたまま、呆然としている。

ルシファーは敵が消滅したことを確認すると、近くの瓦礫へ腰を下ろした。

 

「終わったな」

 

「え?」

 

「少し休む」

 

「ここで寝るんですか?」

 

立香が尋ねる。

 

「問題があるのか」

 

「街が燃えています」

 

「私が燃えているわけではない」

 

「また敵が来るかもしれません」

 

「来たら起こせ」

 

「私が?」

 

会話にならないなか、ルシファーは目を閉じた。

 

「お前がマスターなのだろう?」

 

マシュが立香の隣へ来て、小声で言う。

 

「先輩、かなり変わった方ですね」

 

「――聞こえているぞ」

 

ルシファーは目を閉じたまま答えた。

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