Fate/Grand Order ――反逆の堕天使と最後のマスター――   作:MIDNIGHT

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第四節 影の騎兵

カルデアとの通信が回復するまで、それほど時間はかからなかった。

立香の通信端末に、ロマニの顔が映る。

 

『藤丸さん! マシュ! 無事だったんだね!』

 

「ドクターも無事ですか?」

 

『僕は何とか。カルデアはひどい状況だけど……』

 

ロマニの表情が沈む。

爆発によって、マスター候補の大半は重傷を負い、コフィン内で凍結保存されている。

施設の機能も大部分が停止。

カルデアスの観測によれば、立香たちがいる場所は西暦二〇〇四年の日本、『冬木市』だった。

だが、本来の歴史にこのような大火災は存在しない。

 

 

歴史の異常点――特異点。

 

 

『君たちは、観測不能になった冬木へレイシフトしたらしい。ただ、そちらにいる彼女は……?』

 

ロマニの視線が、ルシファーへ向く。

ルシファーは瓦礫に腰掛け、興味がなさそうに空を見ていた。

 

「アヴェンジャーのルシファーです」

 

『アヴェンジャー!?』

 

ロマニの声が裏返る。

 

『冬木の聖杯戦争で確認されている七つのクラスに、『アヴェンジャー』は含まれていない。それに、その真名……』

 

端末越しでも、ロマニが慌てて解析を始めたのが分かった。

 

『霊基情報がほとんど読めない。英霊の座との接続記録もない。神性に似た反応はあるけど、既知の神霊とも一致しない……』

 

「神ではない」

 

ルシファーが言った。

 

「少なくとも、この世界の神ではない」

 

『この世界?』

 

「私がいた場所と、ここは異なる理で成り立っている」

 

ロマニが黙り込む。

通常、英霊召喚は人類史に刻まれた記録を参照する。

 

 

英雄。

反英雄。

神話や伝承に名を残した者。

 

 

だがルシファーの霊基は、カルデアが観測する人類史のどこにも存在しない。

何らかの理由で不安定になった世界の境界を、立香の召喚式が越えた。

そして別の世界に存在する『反逆の記録』を、アヴェンジャーの霊基へ落とし込んだ。

それがロマニの仮説だった。

 

『本来の存在規模は、通常のサーヴァントを大きく超えている。でも、大半の権能がこの世界の法則と衝突して封じられているようだ』

 

「窮屈なわけだ」

 

ルシファーは、不満そうに翼を動かした。

 

『それでも、現在の出力はかなり高い。無理に制限を破れば、霊基の方が崩壊する可能性があるから気をつけて』

 

「必要になれば使う」

 

『使わないで!』

 

ロマニが即座に叫んだ。

通信を続けようとしたところで、マシュが盾を構えた。

 

「先輩。敵です」

 

骸骨兵ではない。

炎の向こうから、一人の女が歩いてくる。

長い紫色の髪。

目を覆う黒い仮面。

身体へ巻きつく鎖。

その先端には、鋭い刃が取り付けられていた。

 

―――サーヴァント。

 

姿だけを見れば美しい女性だ。

しかし、理性を失った獣のような殺気を放っている。

 

『霊基反応を確認! クラスはライダー!』

 

ロマニの声と同時に、女が鎖を放つ。

刃が複雑な軌道を描き、立香へ迫った。

マシュが前に出る。

盾が一撃を弾いた。

だが二本目、三本目の鎖が左右から襲いかかる。

ルシファーが翼を開く。

黒い羽根が刃へ変わり、鎖を空中で撃ち落とした。

 

「なるほど。先ほどの骨よりはましか」

 

ルシファーが立ち上がる。

ライダーは低く唸り、地面を蹴った。

人間の目では追えない速度。

マシュへ接近し、鎖を振るう。

盾と刃が衝突した。

重い一撃。

マシュの身体が後退する。

 

「マシュ!」

 

立香が叫ぶ。

マシュは踏みとどまり、盾を押し返した。

だが、ライダーの仮面の奥で紫色の光が輝く。

周囲の空気が重くなった。

立香の指先が動かなくなる。

 

「魔眼……!」

 

マシュが盾を地面へ突き立てる。

魔力の障壁が展開され、立香を覆った。

それでも、ライダーの視線は障壁を侵食してくる。

ルシファーが二人の前へ出た。

 

「他者を縛る力か」

 

魔眼の光を受けても、ルシファーは動きを止めない。

瞳に不快そうな色が浮かぶ。

 

「気に入らんな」

 

黒い光輪が現れる。

ライダーが鎖を防御へ回した。

ルシファーが片手を振る。

深紫の光が放たれ、ライダーを正面から呑み込んだ。

爆風が交差点を駆け抜ける。

マシュは盾で立香を守った。

光が消えた後、ライダーは膝をついていた。

霊基が崩れ始めている。

それでも彼女は顔を上げ、最後の攻撃を仕掛けようとした。

ルシファーが近づき、額へ指先を触れる。

 

「もういい」

 

小さな光が弾けた。

ライダーの身体が魔力の粒子となり、燃える空へ消えていく。

 

「メドゥーサか」

 

ルシファーが呟いた。

 

「知っているんですか?」

 

立香が尋ねる。

 

「この器に与えられた知識だ。怪物となり、討たれた女」

 

ルシファーは消えていく粒子を見つめる。

 

「この者自身の意志ではなかったようだがな」

 

「御名答だ」

 

知らない男の声がした。

全員が振り返る。

崩れた建物の屋上に、青い外套を纏った男が立っていた。

手には杖。

軽い笑みを浮かべながら、こちらを見下ろしている。

 

「随分派手にやったな。こっちは助けに入る機会を失っちまったが」

 

苦笑気味に、男は屋上から飛び降りた。

地面へ着地しても、足音一つ立てない。

 

「俺はキャスター。今のところ、この街でまともに話ができる唯一のサーヴァントだ」

 

ルシファーが男を見る。

 

「『槍兵』の臭いがするな――」

 

キャスターは片眉を上げた。

 

「初対面でそこまで見抜くかよ。嫌な女だな」

 

「お前の好みなど、聞いていない」

 

「そいつはどうも」

 

男――キャスターは肩をすくめる。

その視線が、立香へ移った。

 

「そっちの嬢ちゃんがマスターか。ずいぶん、妙な連中を引き連れてるじゃねえか」

 

「キャスターは、何が起きているか知っているんですか?」

 

「多少はな」

 

彼によれば、この冬木では聖杯戦争が行われていた。

七騎のサーヴァントが聖杯を巡って戦う儀式。

しかし、何者かによってサーヴァントたちは黒く染められ、理性を失った。

中心にいるのは、黒い剣士。

 

―――セイバー。

 

彼女は他のサーヴァントを次々に倒し、この街を炎の中へ閉じ込めている。

 

「さっきのライダーも、あの黒いセイバーに負けて変質した一騎だ」

 

キャスターは、ルシファーへ視線を向けた。

 

「しかし、そっちの翼持ちは何者だ? サーヴァントの皮を被ってはいるが、中身がでかすぎる」

 

「ルシファーだ」

 

「名前を聞いてるんじゃねえ。何の神話から出てきたって話だ」

 

「お前に説明する義務はない」

 

「会話する気がねえな、こいつ」

 

キャスターは頭を掻いた。

 

「まあ、敵じゃないならいい。黒いセイバーを倒すつもりなら、手を組め」

 

「信用できるんですか?」

 

立香が聞く。

 

「できねえな」

 

キャスターは笑った。

 

「だが、今のところ利害は一致している。それで十分だろ?」

 

ルシファーも静かに答える。

 

「正直な男だ。少なくとも、嘘で取り繕う者よりは信用できる」

 

「そりゃ褒め言葉として受け取っておく」

 

こうして立香たちは、キャスター:クー・フーリンと行動を共にすることになった。

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