Fate/Grand Order ――反逆の堕天使と最後のマスター―― 作:MIDNIGHT
オルガマリー・アニムスフィアと合流できたのは、キャスターを加えた一行が、一度休息を取ろうと向かう時だった。
彼女は崩れた地下施設の近くに一人でいた。
衣服は煤で汚れ、いつもの威圧的な態度は影を潜めている。
それでも立香たちの姿を見つけた瞬間、怒鳴るだけの元気は取り戻したらしい。
「遅い! 所長である私を、どれだけ待たせれば気が済むの!」
「無事でよかったです、所長」
立香が言うと、オルガマリーは一瞬だけ黙った。
「当然でしょう。私はカルデアの所長なのよ」
強がる声だった。
立香はそれを指摘しなかった。
オルガマリーはマシュの変化に驚き、キャスターを警戒し、最後にルシファーへ目を向けた。
その瞬間、表情が凍りついた。
「……何、これ」
ルシファーが眉を上げる。
「私を見て、その反応をする者は珍しくない」
「そういう意味じゃない!」
オルガマリーは端末を操作し、ルシファーの霊基を走査した。
数値が表示される。
すぐに測定限界を超え、警告が点滅した。
「あり得ない……」
彼女の声が震える。
「霊基は確かにサーヴァント規格。でも、内部に押し込められている存在規模が合っていない。神性反応……いいえ、違う! 神霊級に近いのに、私たちの知る神代体系に属していない」
「大げさだな」
ルシファーは退屈そうに言う。
「大げさですって?」
オルガマリーが声を上げた。
「あなた、自分がどれだけ異常か分かっているの!? 英霊の座に記録がない! 召喚式にも登録されていない! それなのに神霊級の霊格を持った存在が、アヴェンジャーの霊基に押し込まれて現界している!」
キャスターが口笛を吹く。
「神霊級か。とんでもねえのを引いたな、嬢ちゃん」
「引いたって言い方はどうなんですか」
立香が呆れたように言う。
「そもそも、なぜあなたがそんなものを召喚できたのよ!」
オルガマリーが立香へ詰め寄る。
「私にも分かりません」
「分からないまま契約したの!?」
「気づいたら喚んでいました」
「あなたねえ!」
オルガマリーは頭を抱えた。
恐怖。
困惑。
研究者としての好奇心。
そして、自分の理解を超えたものが現れたことへの苛立ち。
複数の感情が混ざっている。
ルシファーはそんな所長を眺めていたが、やがて口を開いた。
「安心しろ。今の私は、大半の力を封じられている」
「それのどこが安心材料なのよ!」
「少なくとも、この街を一撃で消すような真似はできない」
「できたの!?」
オルガマリーの顔から血の気が引いた。
ロマニの通信が割り込む。
『ルシファー、所長を脅かすのはやめて!』
「事実を述べただけだ」
『事実でも言わなくていいことはあるから!』
キャスターが肩を震わせて笑っている。
オルガマリーは、彼を睨みつけた。
「笑っている場合ではないでしょう!」
「いや、悪い。あんたら、思ったよりいい組み合わせだな」
「どこがよ!」
荒れていた空気が、ほんの少しだけ軽くなる。
しかし、オルガマリーの不安は消えなかった。
彼女は立香を見た。
「藤丸立香。あなたがマスターである以上、そのサーヴァントを制御する責任はあなたにあるのよ」
「制御されるつもりはない」
ルシファーが即座に言う。
「黙っていて!」
オルガマリーは叫んだ後、立香へ向き直る。
「いい? どれだけ強くても、何を考えているか分からない存在に頼り切っては駄目。あなた自身が判断して、命令しなさい」
立香は、ルシファーを見る。
ルシファーも立香を見返した。
「命令されるのは嫌いだ」
「だろうね」
「だが、お前の決断なら聞いてやる」
それは服従ではない。
主従というより、選択だった。
ルシファー自身が立香をマスターとして認め、隣を歩くと決めている。
「分かりました」
立香はオルガマリーへ答えた。
「私が考えます。ルシファーにも、マシュにも、無理をさせないように」
「最後の部分は余計よ。必要なら命令してでも戦わせるのがマスターでしょう」
「でも、傷ついたら嫌なので」
オルガマリーは言葉を失った。
キャスターが楽しそうに笑う。
「いいマスターじゃねえか」
ルシファーは何も言わなかった。
ただ、わずかに視線を逸らした。