Fate/Grand Order ――反逆の堕天使と最後のマスター――   作:MIDNIGHT

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第五節 所長

オルガマリー・アニムスフィアと合流できたのは、キャスターを加えた一行が、一度休息を取ろうと向かう時だった。

彼女は崩れた地下施設の近くに一人でいた。

衣服は煤で汚れ、いつもの威圧的な態度は影を潜めている。

それでも立香たちの姿を見つけた瞬間、怒鳴るだけの元気は取り戻したらしい。

 

「遅い! 所長である私を、どれだけ待たせれば気が済むの!」

 

「無事でよかったです、所長」

 

立香が言うと、オルガマリーは一瞬だけ黙った。

 

「当然でしょう。私はカルデアの所長なのよ」

 

強がる声だった。

立香はそれを指摘しなかった。

オルガマリーはマシュの変化に驚き、キャスターを警戒し、最後にルシファーへ目を向けた。

その瞬間、表情が凍りついた。

 

「……何、これ」

 

ルシファーが眉を上げる。

 

「私を見て、その反応をする者は珍しくない」

 

「そういう意味じゃない!」

 

オルガマリーは端末を操作し、ルシファーの霊基を走査した。

数値が表示される。

すぐに測定限界を超え、警告が点滅した。

 

「あり得ない……」

 

彼女の声が震える。

 

「霊基は確かにサーヴァント規格。でも、内部に押し込められている存在規模が合っていない。神性反応……いいえ、違う! 神霊級に近いのに、私たちの知る神代体系に属していない」

 

「大げさだな」

 

ルシファーは退屈そうに言う。

 

「大げさですって?」

 

オルガマリーが声を上げた。

 

「あなた、自分がどれだけ異常か分かっているの!? 英霊の座に記録がない! 召喚式にも登録されていない! それなのに神霊級の霊格を持った存在が、アヴェンジャーの霊基に押し込まれて現界している!」

 

キャスターが口笛を吹く。

 

「神霊級か。とんでもねえのを引いたな、嬢ちゃん」

 

「引いたって言い方はどうなんですか」

 

立香が呆れたように言う。

 

「そもそも、なぜあなたがそんなものを召喚できたのよ!」

 

オルガマリーが立香へ詰め寄る。

 

「私にも分かりません」

 

「分からないまま契約したの!?」

 

「気づいたら喚んでいました」

 

「あなたねえ!」

 

オルガマリーは頭を抱えた。

 

恐怖。

困惑。

研究者としての好奇心。

そして、自分の理解を超えたものが現れたことへの苛立ち。

 

複数の感情が混ざっている。

ルシファーはそんな所長を眺めていたが、やがて口を開いた。

 

「安心しろ。今の私は、大半の力を封じられている」

 

「それのどこが安心材料なのよ!」

 

「少なくとも、この街を一撃で消すような真似はできない」

 

「できたの!?」

 

オルガマリーの顔から血の気が引いた。

ロマニの通信が割り込む。

 

『ルシファー、所長を脅かすのはやめて!』

 

「事実を述べただけだ」

 

『事実でも言わなくていいことはあるから!』

 

キャスターが肩を震わせて笑っている。

オルガマリーは、彼を睨みつけた。

 

「笑っている場合ではないでしょう!」

 

「いや、悪い。あんたら、思ったよりいい組み合わせだな」

 

「どこがよ!」

 

荒れていた空気が、ほんの少しだけ軽くなる。

しかし、オルガマリーの不安は消えなかった。

彼女は立香を見た。

 

「藤丸立香。あなたがマスターである以上、そのサーヴァントを制御する責任はあなたにあるのよ」

 

「制御されるつもりはない」

 

ルシファーが即座に言う。

 

「黙っていて!」

 

オルガマリーは叫んだ後、立香へ向き直る。

 

「いい? どれだけ強くても、何を考えているか分からない存在に頼り切っては駄目。あなた自身が判断して、命令しなさい」

 

立香は、ルシファーを見る。

ルシファーも立香を見返した。

 

「命令されるのは嫌いだ」

 

「だろうね」

 

「だが、お前の決断なら聞いてやる」

 

それは服従ではない。

主従というより、選択だった。

ルシファー自身が立香をマスターとして認め、隣を歩くと決めている。

 

「分かりました」

 

立香はオルガマリーへ答えた。

 

「私が考えます。ルシファーにも、マシュにも、無理をさせないように」

 

「最後の部分は余計よ。必要なら命令してでも戦わせるのがマスターでしょう」

 

「でも、傷ついたら嫌なので」

 

オルガマリーは言葉を失った。

キャスターが楽しそうに笑う。

 

「いいマスターじゃねえか」

 

ルシファーは何も言わなかった。

ただ、わずかに視線を逸らした。

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