仮想空間ツクヨミ、初ログインゲート前…
「わ〜!【ミキ】さんのアバター衣装めっちゃオシャレ〜!」
「ほんと凄いです!いいな〜!」
「ふふっ、ありがとうございます。【まみまみ】ちゃんと【ROKA】ちゃんもとっても可愛いですよ」
「後は拓望と酒寄さんか。酒寄さんキャラメイクどれくらいかかるかな?」
「ツクヨミのキャラメイクは不思議とコレだと思うものが見つかりやすい。そんなにかからないだろう」
夜空すら輝くツクヨミの世界。集まった5人の男女はそれぞれの姿を互いに見せ合いながら未だ姿の見えない2人を待っている
「お〜い、お待たせ〜」
そんな一団に歩み寄る男が1人…
「あっ!この声は〜!鹿嶋先……輩?…」
「………うっそ…」
「?…あら、もしかして…」
「…知ってた?」
「…いや、初知りだ」
「なんだ、彩葉はまだチュートリアルしてんのか?」
次の瞬間、2人の少女が発した驚きの声に迎えられて鹿嶋拓望こと【鳴神】は姿を現した
一方、ツクヨミエントリールーム
「今さらだけど…ヤチヨ、なんで私の名前知ってるの?」
「……………えっ…アッ」
月見ヤチヨは窮地に陥っていた―
8000年ぶりの彩葉との再会。嬉しくて嬉しくてたまらないヤチヨはそれでも暴走しないように自分を抑え込んで平静を保ち、テンプレート通りツクヨミの紹介をしてキャラメイクまでを順調にこなしていた。ように思えたが…
「確か最初に出てきた時から名前言ってよね?」
そもそも初手でやらかしてしまっており、思い返せばその後も普通に何回か彩葉と呼んでしまっていた
(う、うわ〜!!!ヤッチョのバカ〜!!!助けて拓望〜!!!)
「後さっきからFUSIの話し方がちょっとおかしいような?…」
「ウェ!」
そもそも何故こんな状況になっているのかは、約2週間程前のヤチヨ城での会話が発端となる…
「彩葉が…スマコンを買う?」
「ああ、もうすぐ入るバイト代があれば買えると嬉しそうに報告されてな、なんなら購入する時不安だから付いてきて欲しいとお願いまでされた」
何時ものように雑談や来年以降の対策を話をしようとしていたヤチヨと話の最初から爆弾を投下した拓望。落ち着いた様子で淡々と告げる拓望に対し、対面のヤチヨはしばらく時間を置いてもどこか反応がぼんやりとしたままであり目線も定まっていない
「(随分前からこの時が来るのは分かっていただろうが…やっぱいざってなると心が追いつかないか)…おい、ヤチヨ」
「…大丈夫だよ、拓望。ただちょっと…頭がこんがらがっちゃただけだから」
(どこが大丈夫なんだ…)
「そっか…彩葉が遂にツクヨミに来てくれるんだね。ようやく、彩葉に直接会う事が、出来るんだ…」
確かめる様に、噛み締める様に、ヤチヨはどこか遠くを見つめたまま何度か同じ言葉を繰り返した
「…………落ち着いたか?」
「うん、ごめんね、情けない姿見せちゃって」
そこから更に少ししてから落ち着いたヤチヨ、ようやく話が再会する
「いいさ別に。気持ちは分かるし、むしろ想定よりも落ち着いてたぐらいだ。……で、改めて彩葉がツクヨミに初ログインする日なんだが、多分ゴールデンウィークの初日の夜になると思う」
「ゴールデンウィーク、って…確か」
「ああ、元々俺と彩葉の友達集めて山奥の別荘に旅行する予定だった」
「だよね、どうするの?」
「両方一緒にやる、別にスマコン持って行けばいいだけの話だからな。彩葉の奴も初ログインはどうせなら特別な日にしたいだろうからな」
「…そっか…分かった、詳しい時間帯は…」
「現地で時間作って数時間前に伝えに来るは」
(スマホで連絡するだけでもいいけど、この様子だとなるべく顔合わせて落ち着かせた方が良さそうだからな…)
「…分かった、ありがとう……彩葉が来てくれるなら私、ライブも特別なものがしたいな」
「すればいいだろ、元々ゴールデンウィークの間は普段より派手なライブする予定だったんだし、今からでも規模は大きくできる。お前が歌いたいだけ歌えばいい」
「うん…うん!私いっぱい歌いたい!いっぱい歌っていっぱいこの気持ちを彩葉に伝えたい!」
「…ハッ…了解」
(ようやく元気出てきたみたいだな、なら後は…)
「じゃあライブは拡張する、選曲は任せるから好きなの言ってくれ、演出とか場所とかの決めるとこ多い話はまた後でするとして…」
「して?」
「ヤチヨ、チュートリアルとキャラメイクもほぼNPCレベルの分身じゃなくてお前本人がしてこいよ」
「……………えっ!!??」
「あっFUSIもな」
「………えっ!?」
以上の出来事があり、その後アレコレ理由を上げて対面を回避しようとしたヤチヨとFUSIを拓望の
『会いたいのか、会いたくないのか。どっちだ』
という答えの決まっている質問で無事ノックアウトされて今現在に至っている
『大丈夫だ、彩葉は俺がツクヨミの管理会社も経営してるのは知ってるから大抵のボロは俺から聞いたことにすれば問題ない』
(って拓望は言ってたけど…ん〜!ええい!ままよ!)
「え〜、フッフッフ、それはね〜彩葉の事をよーく知ってるある人物に聞いたからなのです!」
(い、いけるか?…)
なんとか初手のやらかしを誤魔化そうとする月見ヤチヨとそれを不安そうに見守るFUSI―
「私の事をよく知ってるって…ああ!たくみ兄か!」
「大正解〜!おみごと〜(い、いけた!?)」
「お、おめでとう〜!」
「ヤ、ヤチヨに認知されてる上に褒められちゃった!どうしよう、夢じゃないよね!(わぁ〜!頑張ってスマコン買って本当良かった〜!あっ!扇子に『あっぱれ』って書いてある!)」
推しの事で頭がいっぱいなのであんまり深く考えることができなくなっている彩葉―
普通に納得している様子になんとかなりそうだと判断したヤチヨはそのまま話を続ける事にしたらしい
「(相変わらず彩葉チョロいなー)いや〜 、という訳で拓望から色々聞いてるよ〜。なんでもヤッチョの大ファンで神棚にアクスタを飾ってくれてるとか〜」
「えっちょ!(な、なんてことまで話しとんねん!たくみ兄め〜!)それはその何と言いますかその…」
「…ふふっ、焦らなくても大丈夫だよ。ヤチヨはと〜っても嬉しかったからね!」
「…え」
「彩葉が本当にヤッチョの事大好きなんだな〜ていうのが伝わって、それが嬉しかったの。だからありがとう彩葉、ヤチヨを好きになってくれて」
満面の笑みで彩葉へと思いを伝えるヤチヨ。その言葉は全てを語ってはいないが決して嘘でもない。拓望からアクスタの話を聞いたあの時、ヤチヨの胸の中には溢れんばかりの喜びがあったのだから
「そんな…そんなの当たり前だよ。私、ヤチヨにいっぱい助けて貰ったんだよ。どんなに辛くて苦しい時も、1人で悩んで寂しい時も、ヤチヨの歌を聴いたら元気になれた。本当にありがとうヤチヨ」
「…彩葉………わ、わたし―」
彩葉の言葉に感極ってその思いを伝えようとヤチヨは自身の手を伸ばし彩葉の手を握る
(………………え―――)
しかし手を握った途端に固まり、握り合った手を見つめ続けている
「?…ヤチヨ?」
その様子に気づいた彩葉が声を掛けた瞬間―
「いつまでも来ないと思ったら、な〜にしてんだお前ら…」
ヤチヨと自分を除けばFUSIしか居ないはずのこの空間で響く第三の声、驚いて振り向いた彩葉はそこで更に驚く事となる
「!?、だ、誰!?…って…え?」
そのに立つのは紫と黒を基調とした着物を着た頭に鹿の角がある大柄な男性。その姿をした人物はヤチヨ以外のライバーをよく知らない彩葉であっても一目で誰なのかが分かるほどに世間に知られている
「な、なんで【鳴神】がここに!…」
「さぁ、なんでだろうな。後で教えてやるよ」
本来会うはずのない人物に混乱した彩葉だが、聞き馴染みあるその声と話し方に既視感を覚えすぐさま思い至る
「?…あっ!まさかたくみにっ、い〜〜〜!!!」
されどその心当たりを叫びきる前に彩葉はその腕を掴まれて鳥居の向こうへと投げ飛ばされてしまった
「うし、出荷完了………っと!」
残った拓望が一仕事終えたとばかりに一息ついたその時、腰を小さな衝撃が襲った
「………なんで縮んでんだ?」
「………」
顔だけ振り向けばそこには拓望の腰へと背後から抱きついた小さくなったヤチヨ、しばらくの間無言でそのまま過ごした後、唸る様に声を発する
「なんで…」
「?」
「なんで…あったかいの」
「…」
「抱きついてるとこから熱を感じる。さっき彩葉の手を握った時もそう、…これじゃあまるで…」
「…月見ヤチヨ感覚アップデートプログラム[アメノウズメ]。数年前から開発してたのがようやく完成してな。さっき連絡しに来た時にこっそりとアップデートさせてもらった、検査テストは完璧にクリアしてるから不具合もないはずだ」
「…うん、自己チェックしてみたけど問題なかった…」
「そりゃ良かった。で?8000年ぶりの彩葉と感じたぬくもりはどうだった?」
「…ほんと…ずるい…嬉しいに、決まってるでしょ…」
「けっこう泣き虫だよな、お前」
「うっさい!…拓望が泣かせてるんだもん」
「はいはい、それは悪うございました…」
「…だから…しばらくこうさせて」
「ああ、いくらでもどうぞ」