東方天命録~The Final Shape Begins~ 作:はならむ
――幻想郷。
そこは人間と妖怪、妖精などの超常的存在が独自のルールと掟を守り共存する、外の世界から忘れ去られた楽園。
その日もまた、幻想郷の外れに位置し、外界との境界に構える博麗神社には穏やかな時間が流れていた。
「今日も穏やかないい晴れの日だわ」
竹箒を手に境内を掃く一人の紅白の巫女服を着た少女。代々幻想郷の秩序を守る博麗の巫女を継ぐ博麗霊夢は、夏の日差しに小さくため息をつく。
「……平和ねぇ」
「まぁな」
縁側では彼女の親友の、黒い魔女帽子がよく似合う魔法使いの金髪少女、霧雨魔理沙が湯飲みを片手に空を見上げていた。
「異変もないと退屈だな……眠くなってきたぜ」
「いちいち異変ばかり起きるより平和であることが一番よ」
「霊夢、お前仕事サボりたいだけだろ」
「違うわよ!」
「ワハハハ、早く掃除を切り上げて縁側でお茶飲みたいって顔してるぞっ」
「魔理沙、あんたねえっ!」
平和な幻想郷の午前中、ふたりはたわいのない会話を楽しんでいる。
――だが、その時だった。
――ゴォォォォォ……。
突然、地鳴りにも似た低い音が空全体を震わせる。霊夢の手が止まった。
「……え?」
二人は同時に空を見上げる。
青く澄み渡っていた空に、黒い一本の線が走る。
まるで世界そのものが裂けるように。
その裂け目はゆっくりと広がり、やがて巨大な三角形を描いた。
赤紫色の光を放つ禍々しい裂け目。
そこからは何の気配も感じられない。
生気も、妖気も、神気すらも。
ただ、言いようのない不安だけが幻想郷全体を包み込んでいく。
「……何よ、あれ」
霊夢は思わず呟いた。
魔理沙も冗談を言うことなく、その裂け目を見つめる。
「見たことねぇな……こんな異変」
魔理沙は飲んでいたお茶の湯呑みをこぼしても気づかないほどに謎の歪みに呆気を取られた。
「何だろう、物凄く嫌な予感がする――」
――その頃。幻想郷の各地にて。
妖怪の山。
「ねえ文、あれは何?」
「あやややや………これは大・大・大スクープネタかもォ!」
守矢神社。
「加奈子様、諏訪子様、あれを――」
「………………」
「異変……?とりあえず様子見といこうかねぇ。早苗、何かあればすぐに動けるようにしておくんだよ」
「はいっ!」
紅魔館。
「お嬢様、空の様子が変です」
「これは……不吉なことが起こるかもしれないわね」
永遠亭。
「(穢れは感じれませんが……それ以上に恐ろしい何かが感じます。これは何………?)」
白玉楼。
「幽々子様、空が……」
「……綺麗ね」
「でも」
「嫌な風が吹いてくるわ」
幻想郷各地の者たちが、一斉に空を見上げていた。
そして――。
「紫様、これは一体……?」
八雲紫は静かに目を細める。
「……境界じゃない」
珍しく、その表情から余裕が消える。
「世界そのものが……繋がっている」
その言葉だけが、静かに風へ溶けた。
◇
ここは幻想郷の外れにある無縁塚。
三角形の歪みから、一人の男が押し出されるように飛び出して地表へ急降下する。
青白い肌に、暗闇でも淡く光る金色の瞳。
黒い前髪が片目を隠し、肩には羽根を思わせる白い肩当てとフード付きのマントを羽織っている。
腕を覆う防具には、鳥の鱗のような白い紋様が幾重にも刻まれていた。
「………っ!」
彼は地面スレスレの地点で空中でジャンプし、落下速度と衝撃を相殺し華麗に地上へ降り立つ。
「…………………」
――男の名はクロウ。
彼はゆっくりと周囲を見回す。
「これが……トラベラーの内部……なのか?」
任務のために飛び込んだはずだった。
「……?」
見えるのは無数に朽ち果てた古びた名もなき墓石。
カアカアと夥しい数のカラスが飛び交う不気味さ。
木々に囲まれた見知らぬ土地。
湿った不浄の土の匂い。
「違う……トラベラーの光を感じない」
「ここは……どこだ?」
乾いた銃声が響いた。
ドンッ!
弾丸がクロウの頬をかすめる。
「なっ!」
彼の死角に銃を持った謎の人物。反射的に身を翻して岩陰へ飛び込みすぐさま腰のガンホルダーから大型リボルバー銃、『ハンドキャノン』を取り出す。
『ホークムーン』。
白銀の銃身に鷹の羽の彫刻が掘られたそれがこの銃の名前だ。
息を殺して、飛び出すタイミングを伺う。
(いまだ――!)
クロウは岩陰から身を躍らせると、並行して走る人物へ撃鉄を掌で次々と扇ぎ、ホークムーンを怒涛の連射で撃ち放つ。
墓場に乾いた銃声が立て続けに響き渡る。
何発もの銃声が静かな墓場へ響き渡る。
相手もかなりの腕だ。
岩陰に隠れては正確にこちらを狙ってくる。
クロウはとんぼ返りをして再び近くの岩陰にスライディングするように飛び込み素早くリボルバーをスライドさせてリロードする。
しかし「ピコン、ピコン……」と謎のセンサー音が聞こえ、前を見ると赤く点滅する謎のナイフが前の岩に突き刺さっている。
(近接爆破ナイフ……!)
彼はすぐさま飛び出すように離れた瞬間、
ズドオオオ!!
大爆発し、彼は前に押し出されるように吹き飛ばされた。
(ハンター……奴もガーディアンか!)
クロウはすかさず立ち上がり、こちらへ走ってくる謎の男を見据えて銃を構えた――しかし。
「――――なっ!」
何故かたじろぎ、その隙を狙われて男の投げた投擲ナイフが彼の銃を弾き飛ばした。
「っ!」
クロウは飛び込みすぐさま拾い、仰向けで男に照準を向け、向こうも銃を向けながらゆっくりとこちらへ歩き距離を詰めて、顔を確認するようにクロウを眺める。
「…………………」
クロウの側から何やら掌ほどの小さな外殻に守られた存在が男へ直視する
「あ、あなたは……!」
その人物はまるで鬼を彷彿とさせる青い金属、額に一角のついた顔に青い瞳。擦り傷だらけの機械の身体。
機械人間、『エクソ』。
見覚えのある『ハンター』特有の軽装鎧にフードのついたマント、クローク。
スペードのエースの装飾がなされたハンドキャノン『切り札』は銃身の亀裂から淡い白光を放っている。
……見間違えるはずがない。
ケイド6。
忘れたくても忘れられないあの男が数年振りを経て自分の前に立って銃を向けている。
「……ケイド?」
男は銃のトリガーを半引きし、クロウをグッと見つめた――まるで何を見定めているかのように。
数秒の沈黙。
クロウは震える声で呟く。
「し、死んだはず……」
男は口元をわずかに緩めた。
「――お前もな」
ケイドはトリガーを戻して銃を下ろし、手を差しのべると彼は手を掴み、立ち上がる。
「もう、お前を『王子』って呼ばなくていいよな?」
相変わらずの憎たらしいその軽口。クロウは正真正銘、ケイド本人だと確信する。
二人は並んで前を向くと広大な自然と見慣れぬ集落。そして遥か上空には――クロウが通ってきた巨大な三角形の時空の歪み 。
『ベイルの扉』
「ここはどこなんだ……?少なくともトラベラーの内部ではなさそうだが――」
「さあな。とりあえずこんなハイヴが出てきそうな辛気くさい場所から離れて食い物と寝る場所探そうぜ。それからみっちり話を聞かせてもらおうか、なぁクロウ――いや」
「――ユルドレン・ソヴ」
「………………」
二人は見知らぬ土地、幻想郷の広大な光景を眺めていた。自分達が既に『異変』に巻き込まれていることも気づかずに……。
◇
――闇とも光ともつかない、静寂だけが支配する空間
そこに、一つの"存在"が佇んでいた。
白く滑らかな頭部から立ち昇る無数の顔は、煙のように揺らめき、幾千幾万もの意思が溶け合いながら、一つの意志だけを形作っている。
その視線は、遥か彼方――幻想郷へと注がれていた。
空に穿たれた巨大な三角形の歪み。
二つの世界を繋ぐ境界。
静寂の中、その存在はゆっくりと口を開く。
「幻想郷」
「……また一つ、救済すべき世界を見つけた」
感情のない声が、空間そのものに染み渡る。
「苦しみも、争いも、終わらせよう」
「すべては――最終形態のために」
その言葉と同時に、三角形の歪みが静かに脈動する。
まるで、その意思に呼応するかのように。
やがて、その存在はゆっくりと目を閉じた。
幻想郷はまだ知らない。
この邂逅が、幻想郷始まって以来最大の異変の幕開けであることを。
そして、このすべてを引き起こした元凶の名を。
その名は――。
目撃者。
●簡単なdestiny用語集①基礎知識編
・トラベラー
人類へ「光」を授け、ガーディアンとゴーストを生み出した巨大な白い球体。Destiny世界では希望と復興の象徴として知られる一方、その正体や真の目的はいまだ多くの謎に包まれている。
・ベイル
トラベラーの対となる暗黒の根源。海王星の失われた都市「ネオムナ」の遥か地下深くに封印されていた。ベイルの扉はベイルを手に入れた目撃者がトラベラーに使用したことで形成され、今作の発端となる。
・ガーディアン
トラベラーの光の加護を受けた不老不死の異能の戦士。基本的に選ばれた死体から蘇生されるが例外あり。ゴーストが存在する限り蘇生可能。ただし暗黒領域など例外もある。タイタン、ハンター、ウォーロックの3つのクラスがある。
・ゴースト
トラベラーから生み出された小さな光を宿す機械生命体。非常に高い知能を持ち、ガーディアンを蘇生させることは勿論コンピューターのハッキングや探索など幅広い能力も持つ。
・アウォークン
人類から派生した種族の一つ。青白い肌と独特の光る瞳を持ち、光と暗黒の狭間で誕生した存在とされる。高い知性と長い寿命を持ち、リーフと呼ばれる独自の勢力を築いている。クロウ、ザヴァラが該当する。
・エクソ
人型フレームに人間の人格を移植したロボット種族。食べる、飲む、寝る、息を吐くなど100%近く人間と変わらない行動ができる。ケイド6が該当する。
人類
地球人類。destiny世界ではほぼ絶滅寸前となっている。ガーディアン(主人公)、イコラが該当する。