東方天命録~The Final Shape Begins~   作:はならむ

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第九話:魔法の森へ

二機のスパローが唸りを上げた。土煙を巻き上げながら、一瞬で加速する。

 

その爆発的な加速に、霊夢は思わず振り返った。

 

「え……?」

 

ほんの一瞬前まで神社の石段にいたはずの二機が、もうすぐ背後まで迫ってきている。

 

「もう追いついたの?」

 

魔理沙も目を丸くした。

 

「速っ!」

「おいおい、あたしの箒とほとんど変わらないじゃないか!」

 

ケイドはニヤリと笑う。

 

「だろ?」

「こいつは俺達ガーディアンの必需品だからな」

 

ガーディアン。

  

霊夢は少しだけ口元を緩めた。

 

「……なら」

「もう少し飛ばすわよ!」 

 

霊夢と魔理沙が同時に速度を上げる。

二人は林道へ入り、木々の間を縫うように飛び始めた。

枝葉が次々と頭上を流れていく。

普通なら速度を落とさなければ危険な道。

しかし二機のスパローは減速することなく、その真下を滑るように走り抜けていく。

木の根も岩も関係ない。

浮遊している機体は地形の影響をほとんど受けず、まるで水面を滑る船のように安定していた。

 

クロウは前を見据えたまま呟く。

 

「相変わらず。さすがだな」

「こんな悪路でも全く速度が落ちないとは」

 

グリントも嬉しそうに答える。

 

「スパローですから!」

 

魔理沙は思わず振り返り、目を見開いた。

 

「うそだろ……」

「この細い道でも普通について来るのかよ」

 

ケイドは豪快に笑う。

 

「まだ余裕だぜ!」

「相棒!」

「もう少し見せてやれ!」

  

ガーディアンはスロットルをさらに開く。

 

ギュイイイイィン!!

 

ブーストをかけてスパローは一段階鋭い加速を見せた。

風圧が一気に強くなる。

ケイドのクロークが大きく翻り、ローブが激しくはためく。

 

魔理沙は思わず笑った。

 

「ははっ!」

「面白ぇ!」

「だったら、こっちも負けねぇぞ!」

 

箒がさらに加速する。

霊夢も速度を合わせる。

四人は幻想郷の郊外を、風と競うように駆け抜けていった。

 

やがて林を抜ける。視界が一気に開け、青々とした草原が広がった。

その一角では、妖怪の山へ運ぶ資材を河の妖怪、河童達が荷車へ積み込んでいた。

中心にいたのは、発明好きで知られる河童、河城にとりだった。

 

「この歯車はあとで組み込んで……」

 

その時だった。

遠くから低く唸るような音が聞こえてくる。

 

 

シュイイイイイ………

 

「……?」

 

にとりが顔を上げる。

河童達も作業の手を止めた。

音は瞬く間に近付いてくる。

 

そして――。

 

 

ギュォォォォォォンッ!!

 

霊夢と魔理沙が空を駆け抜ける。

 

「あら、河童がいるじゃない」

 

「お、にとりもいるじゃん。ヤッホー!」

 

にとりも二人に気づいたその直後。

 

ガーディアン、クロウのスパローが草原を切り裂くように走り去った。

 

風圧で草木が大きく揺れる。

にとりは荷物を落としそうになった。

 

「えっ……なにあれ!?」

「浮いてる!?」

「車輪がないのに、どうしてあんな速度が出るの!?」

 

河童達も騒然となる。

 

「あんな乗り物見たことないぞ!」

「河童製じゃない!」

「何で動いてるんだ!?」

 

にとりは目を輝かせて思わず道に身を乗り出した。

 

「すごい……なんだあの乗り物……」

「あんな技術、初めて見た……!」

 

 

――そのすぐ近くでは。

 

「お宝のためならエーンヤコーラ、と……」

 

ダウジングロッドを片手に歩いていたネズミの妖怪、ナズーリン。今日も無縁塚でお宝探しに行こうとしていた。

 

「……ん?」

 

徐々に高くなる、聞きなれない音のする方へ振り返る。

次の瞬間。

 

「うわっ!」

 

猛烈な風が吹き上がり帽子を押さえながら見上げる。

既に二機のスパローは遥か彼方。

 

ナズーリンは呆然とその背中を見送り、小さく呟いた。

 

「……今のは、一体何だったんだ?」

 

……その頃。

 

「あ~あ、あの空の歪みについて聞き込みにきたけど、誰も知らない一定張りでこれじゃあ記事にならないよ……」

 

幻想郷中を飛び回り、日々新聞のネタを探している鴉天狗の新聞記者・射命丸文。

 

「……ん?」

 

聞き慣れない轟音に、文は視線を下へ向ける。

先頭を飛ぶ霊夢と魔理沙。

 

「霊夢さんに魔理沙さんだ……どうしたんだろう?」

 

そして、その後ろを地面すれすれに疾走する二機の未知の乗り物。文の瞳が大きく見開かれた。

 

「なっ……!」

「あややややややや………な、何ですか、あれはぁぁぁぁぁっ!?」

 

新聞記者としての本能が告げる――これは、絶対に見逃せない。

文は翼を大きく広げる。

 

「待ってくださぁぁぁい!!」

「文々。新聞でーーす!」

 

 そう叫ぶと、韋駄天のごとき速度で急降下し、一行を追い始めた。

 

林道を抜けた一行は、郊外の草原へと飛び出した。

爽やかの風が草花を揺らし、霊夢と魔理沙は低空を滑るように飛ぶ。

 

そのすぐ後ろを、二機のスパローが轟音を響かせながら追従していた。

 

ガーディアンは寸分違わぬ距離を保ちながら霊夢達の後を走る。

魔理沙は思わず振り返った。

 

「おいおい……」

「まだ普通について来るのかよ」

 

霊夢も少し驚いたように目を細める。

 

「この速度でも余裕なのね……」

 

ケイドは後部座席で豪快に笑った。

 

「ははは!」

「最高だ!」

「幻想郷っていいな!」

 

ガーディアンは強く頷いた

  

クロウはため息混じりに呟く。

 

「……本当にお気楽な奴で羨ましいくらいだ」

 

その時だった。

ゴーストが突然、周囲を警戒するように宙で向きを変えた。

 

「ガーディアン、高速接近する反応あり」

「後方上空です」

 

クロウもすぐに振り返る。

 

「誰だ?」

 

次の瞬間、一陣の風が一行を追い抜き、黒い影が横へ並んだ。

黒い翼を大きく広げた鴉天狗。

幻想郷中を飛び回る新聞記者――射命丸文だった。

 

「霊夢さーん、魔理沙さーん!あと後ろの方々ーー!」

 

霊夢はその姿を見るなり、「うわっ」と額へ手を当てた。

 

「あ。文……っ」

 

魔理沙も苦笑する。

 

「文かよ……っ」

 

二人は顔を見合わせる。そして、同時にぼやいた。

 

「ある意味、一番最悪なタイミングで会ったな……」

 

「そうね……」

 

文は首を傾げる。

 

「え?」

「最悪とは失礼ですねぇ」

「私はただ――」

 

そこまで言い掛けた文の視線が、二機のスパローへ向いた。

 

「そんなことよりも――!」

「な、何ですかそれぇぇぇぇぇ!?」

「浮いてますよ!?」

「車輪がありませんよね!?」

「なのに何ですかその速度は!?」

「どこの河童製ですか!?」

「いや、河童でも見たことありませんよぉ!」

「あなた達は一体何者なんですか!」

 

矢継ぎ早に飛び出す質問、ケイドは思わず吹き出した。

 

「ははは、元気がいい!」

「なあ、お嬢ちゃん!」

 

 文はぴくっと眉を動かした。

 

「お、お嬢ちゃん!?」

「私は射命丸文です!」

「文々。新聞を発行している新聞記者ですよ!」

 

胸を張って名乗る文にケイドはニヤリと笑う。

 

「そうか」

「よろしくな、お嬢ちゃん!」

 

「だから、お嬢ちゃんじゃありませんってば!」

 

「知るか、俺からしてみればあんたもお嬢ちゃんだ!」

 

魔理沙は思わず吹き出した。

 

「ぶっ!」

「文が押されてやがる!」

 

霊夢も苦笑する。

 

「珍しいわね」

 

ケイドはガーディアンの肩を軽く叩いた。

 

「なあ相棒!」

「幻想郷も面白い連中ばっかだな!」

 

ガーディアンも文の方へ顔を向けてサムズアップするとクロウが少し強い口調で声を掛ける。

 

「ガーディアン」

「運転に集中しろ」

「事故でも起こしたら大変だ」

 

ガーディアンはハッとしたように前を向き直る。ゴーストもため息をついた。

 

「クロウの言う通りです」

「運転に集中してください」

 

ケイドは笑いながら肩をすくめる。

 

「相棒――」

「俺まで振り落とすなよ?」

 

文はそのやり取りを見ながら、ものすごい勢いで手帳へ書き込んでいく。

 

「未知の浮遊機械……」

「謎の外来人三名……」

「運転中でも親指を立てる……」

「仲間から安全運転を注意される……」

「……あやや、記事が追いつきません!」

 

霊夢は呆れたようにため息をついた。

 

「文、取り込み中悪いけど取材は後にして」

「今は急いでるの」

 

魔理沙も真面目な表情で頷く。

 

「ああ、遊びじゃない」

「異変なんだ」

 

その一言で、文の表情も少しだけ引き締まる。

 

「……そういうことでしたか」

「……分かりました」

「事情は聞きません」

「それは、今は皆さんの邪魔をするべきではありませんね」

 

ケイドはフードを軽く上げる。

 

「悪いな、お嬢ちゃん。落ち着いたらいくらでも話してやるよ」

 

文は小さく笑う。

 

「約束ですよ?」

 

「ああ、約束する」

 

ガーディアンも親指を立てる。文は苦笑した。

 

「その親指は返事なんですね」

 

ゴーストも頷く

 

「ええ」

「彼は『約束する』と言っています」

 

文は翼を広げる。

 

「では」

「皆さん、ご武運を」

「私は先に幻想郷へ戻って、この異変について調べてみます」

 

「悪いわね、助かるわ」

 

「何か分かったら教えてくれ」

 

「もちろんです」

 

文は一礼するとバサッと翼をはためかせ、青空へ舞い上がり、瞬く間に彼方へ飛び去っていった。

ケイドはその背中を見送りながら笑う。

 

「いい子じゃねぇか」

 

クロウも静かに頷く。

 

「ああ。万が一、彼女に何かあればマズいからな。賢明な判断をしてくれて助かった」

 

――そして一行は魔法の森の濃い緑が、少しずつ視界いっぱいに広がってくる。先頭を飛ぶ魔理沙が後ろを振り返った。

 

「見えてきたぞ!」

「ここから先が魔法の森だ。」

「胞子やら毒キノコやらがあるからな。少し高度を下げるぞ!」

 

霊夢も頷き、高度を落としていく。

 

「私達について来て。」

 

二人は木々の梢すれすれを滑るように飛び始めた。その様子を見ていたケイドが、不意にニヤリと笑う。

 

「よっしゃ!」

 

ガーディアンの肩をぽん、と軽く叩く。

 

「おっと、すまねぇな相棒。俺、行くわ!」

 

ガーディアンは振り返りケイドに頷いた。

 

「なあ魔理沙、ちょっと来てくれ!」

 

「ん?ケイド?」

 

彼は何故か彼女を呼びよせるとゴーストは二人を見比べた。

 

「…………」

「………………」

「……まさかとは思いますが」

 

ケイドは立ち上がる。

 

「それじゃ!」

「おりゃぁっ!!」

 

勢いよくスパローを蹴り、宙へ飛び出した。

 

「え?」

 

「何だ――」

 

ガシッ!!

 

「うああっ!」

 

ケイドは見事に箒へ飛び移り、柄へしがみついた。

 

「!!?」

 

突然、大人一人分の体重が加わる。箒が大きく沈み込み、左右へ激しく揺れた。

 

「うわぁぁぁっ!?」

「ちょ、ちょっと待っ――!」

 

木へ突っ込みそうになりながらも、魔理沙は必死に体勢を立て直す。ギリギリで枝を避け、そのまま高度を維持した。

 

「……っ!」

「なに考えてんだてめぇはぁぁぁぁぁ!!?」

 

森中に怒鳴り声が響き渡る。

ケイドは悪びれる様子もなく笑った。

 

「ははは!」

「いいじゃねぇか!」

「俺だって箒で空飛んでみたかったんだよ!」

「景色最高だぜ!」

 

「最高じゃねぇぇぇぇぇ!!」

 

魔理沙は必死に箒を握り締める。

「重い!」

「落ちるーー!」

「離れろぉぉぉ!!」

 

後方ではクロウが額に冷や汗を垂らし額を押さえていた。

 

「あの大バカ野郎……!」

 

深いため息が漏れる。

ガーディアンはスパローを走らせながら、その光景を見送る。

クロウは振り返り、呆れたように言った。

 

「ガーディアン」

「今は運転に集中しろ。ここから更に狭くなるし事故を起こしやすくなるぞ」

 

ガーディアンは素直に前を向く。

 

「あいつ……あれだけ目立つ行動するなと言ったのに、生き返っても相変わらずだな」

 

クロウは思わず肩を落とした。

そしてゴーストも静かにため息をつく。

 

「…………」

「私は、止めましたからね」

 

前方では霊夢も呆れ顔で振り返る。

 

「……やっぱり紫のいう通り元の世界に送り返したほうがいいんじゃないかしら……」

 

一方、魔理沙は涙目で叫ぶ。

 

「霊夢!」

「こいつ何とかしてくれよお!!」

 

ケイドは豪快に笑いながら両手を広げる。

 

「ははは!」

「空飛ぶって最高だな魔理沙!」

 

「てめえ、あとで覚えてやがれ!!!」

 

魔理沙の箒が、ケイドの体重に耐えかねるように再び大きく沈み込んだ。

左右には、魔法の森の木々が迫っている。

太い幹。

複雑に伸びた枝。

地面から突き出した巨大な茸。

普段の魔理沙なら、どれも難なくすり抜けられる障害だった。

だが今は違う。

背後には、大人一人分の重量がしがみついている。

箒の反応は鈍く、僅かに姿勢を変えるだけでも普段より一拍遅れた。

 

「くっ……!」

 

魔理沙は迫る枝を紙一重でかわす。

その直後、今度は別の木の幹が正面に現れた。

慌てて箒を傾け、横をすり抜ける。

 

「おおっ!」

 

ケイドは後ろで楽しそうな声を上げた。

 

「今のはなかなかスリルがあったな!」

「楽しんでる場合か!」

 

魔理沙は振り返る余裕もなく怒鳴った。

 

「これじゃあ二人を安全に誘導できないだろ!!」

 

後方では、ガーディアンとクロウの二機のスパローが、木々の間を滑るように走っている。

車輪を持たない機体は、張り出した根や石をものともせず、ほとんど速度を落とさない。

それでもここは、彼らにとって初めて通る道だ。

魔法の森には、普通の森とは異なる危険がいくつも潜んでいる。

毒を持つ茸。

視界を遮る胞子。

いつ現れるとも知れない妖怪。

案内役である自分が目を離すわけにはいかなかった。

 

……だというのに。

 

「大丈夫だろ」

 

ケイドは呑気に言った。

 

「どこからそんな根拠が出るんだよ!」

 

「俺の勘」

 

「……………………」

 

魔理沙は一瞬、言葉を失った。

 

「……勘?」

 

「おうよ」

 

「勘で済ませるな!」

 

ケイドは楽しそうに笑った。

 

「心配すんなって」

 

彼は肩越しに後方を振り返る。

木々の間を縫いながら、ガーディアンのスパローが滑らかに進路を変える。

突然垂れ下がった枝を避け、地面から突き出した岩を軽くかわし、それでも速度はほとんど落ちない。

少し離れた位置では、クロウも同様に正確な操縦を続けていた。

 

「こいつらは空間把握、危険察知能力がずば抜けて高い」

 

ケイドの声から、先ほどまでの軽さがほんの少しだけ薄れる。

 

「状況判断も、機転の良さも折り紙付きだ」

「それに――」

 

彼はガーディアンの傍らを飛ぶ小さな機械へ視線を向けた。

 

「あいつらにはゴーストもいるしな」

 

ゴーストはその言葉に反応し、魔理沙の方へ向き直った。

 

「周辺の地形と生体反応は常に監視しています」

「進路上に危険を確認した場合、直ちに警告します」

 

その横で、グリントも元気よく答える。

 

「私もクロウを補助しています!」

 

クロウは前方を見据えたまま、静かに付け加えた。

 

「すまない魔理沙、ケイドのバカには後でこっちがたっぷりお灸を据えておく」

「私達は心配いらない」

 

ガーディアンも魔理沙へ顔を向ける。そして片手を離し――

  

「だからガーディアン」

 

クロウの声がすぐに飛んだ。

 

「いちいち手を離すな。運転に集中しろ」

 

ガーディアンは素直に前を向く。それでも、もう一度だけ親指を立てた。

  

クロウは深いため息をつく。

 

「……本当に分かっているのか」

 

 ゴーストも小さく呟いた。

 

「私も少し不安になってきました。」

 

魔理沙は後方の二人を見ると確かに、操縦に危うさはない。

 

初めて通る森の中だというのに、二機のスパローはまるで何度もこの道を走ったことがあるかのように、正確な動きを見せている。

 

ケイドの態度は腹立たしいが、仲間への評価そのものは誇張ではないらしい。

 

「だからって、お前が勝手に飛び移っていい理由にはならねぇからな!」

 

「そこは別の話だ」

 

「別にするな!」

 

その時――目の前に、太い枝が幾重にも重なった場所が現れた。

通常なら、魔理沙は身体を低くして枝の隙間を抜ける。

だが、今の箒は僅かな操作にも大きく揺れる。

 

このまま進めば、ケイドを枝へ叩きつけるか、最悪の場合は二人揃って墜落する。

 

魔理沙は歯を食いしばった。

 

「くそっ……!」

 

大きく箒を傾け、最初の枝をかわす。

しかし、その先にもさらに太い枝が迫っていた。

 

「これ以上は無理だ!」

 

魔理沙が叫ぶ。

 

「霊夢!」

 

前方を飛んでいた霊夢が振り返った。

 

「どうしたの!」

 

「悪い、一旦上へ出るぞ!」

 

「はあ!?」

 

「このバカを乗せたままじゃ、木の間なんか安全に飛べねぇ!」

 

ケイドが不満そうに口を挟む。

 

「おいおい、バカは余計だろ!」

 

「今この状況で否定できると思ってんのか!」

 

魔理沙は箒の柄を強く引き上げた。機首が急角度で上を向く。

身体へ強い重力が掛かり、ケイドが咄嗟に魔理沙の肩を掴んだ。

 

「おっと!」

「しっかり掴まってろ!」

 

箒は枝葉をかき分けながら一気に上昇していく。

木々の隙間から差し込む光が、少しずつ強くなる。

 

そして次の瞬間。

 

二人は鬱蒼とした梢を突き抜け、魔法の森の上空へ飛び出した。

眩しい陽光。

眼下には、果てしなく続く緑の海。

森を覆う葉が風に揺れ、波のようにうねっている。

魔理沙は大きく息を吐き、なんとか箒の姿勢を安定させた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

ケイドは対照的に、満足そうに辺りを見渡している。

 

「おお、こりゃいい眺めだな。」

 

「誰のせいで上に来たと思ってんだ!」

 

少し下では、霊夢は低空飛行しながら迷っていた。

魔理沙を追うべきか。それとも、森の中を進むガーディアン達の案内を続けるべきか。

 

「………………」

 

眼下へ目を向ける。枝葉の隙間から、二機のスパローが規則正しく進んでいるのが見えた。

ゴーストとグリントも、それぞれの傍らを飛びながら周囲を警戒している。

先ほどの動きを見る限り、少なくとも直ちに助けが必要な様子はない。

 

一方で、魔理沙の箒は明らかに不安定だった。

ケイドが再び妙な動きをすれば、今度こそ本当に墜落しかねない。

霊夢は額へ手を当てた。

 

「……まったくもう!」

 

そして眼下へ声を張る。

 

「ガーディアン、クロウ!」

 

二機のスパローが僅かに速度を落とした。ゴーストが霊夢を見上げる。

 

「はい!」

 

「悪いけどあたし、魔理沙達を見てくるわ」

「あなた達はこのまま森の奥へ進んで!」

「道はほぼ真っ直ぐよ。大きく開けた場所に出たら速度を落として待ってなさい!」

 

ゴーストはすぐに応じた。

 

「了解しました。」

「周辺を警戒しながら進みます」

 

クロウも上空の霊夢へ軽く頷く。

 

「霊夢。魔理沙とケイドを見てやってくれ。私達は大丈夫だ」

 

ガーディアンは自信げにサムズアップを見せて霊夢は一瞬だけ不安そうに眉を寄せた。

 

「……本当に大丈夫でしょうね」

 

ゴーストがやや気まずそうに答える。

 

「私とグリントが見ていますから」

 

「ならお願い!」

 

霊夢は身を翻し、魔理沙の後を追って一気に上昇した。

ほどなくして、彼女は箒の隣へ並ぶ。

 

「大丈夫、魔理沙?」

 

「大丈夫に見えるか!?」

 

魔理沙は涙目で怒鳴った。

その背後で、ケイドは眼下の森を眺めながら楽しそうに笑っている。

 

「心配すんな、俺がついてる!」

 

霊夢と魔理沙は、同時にケイドを見た。

 

「「一番の不安要素が何言ってんのよ(だ)!!」」

 

二人の怒声が、魔法の森の上空へ響き渡った。

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