東方天命録~The Final Shape Begins~   作:はならむ

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第一話:来訪者

翌朝――。

昨日、幻想郷の空に突如として現れた巨大な三角形の歪み。

 

誰もが一夜明ければ消えていることを願っていた。

 

しかし、その願いは叶わなかった。

 

赤紫色の光を静かに放ちながら、巨大な三角形は今日も幻想郷の空に浮かんでいる。

 

まるで空そのものに穴を穿ち、世界を繋ぎ止めているかのように。

その異様な光景は、幻想郷に住む誰も見たことのないものだった。

 

博麗神社。

 

朝日が境内を照らし、小鳥のさえずりが響く。

 

霊夢は竹箒を手に、いつものように境内を掃いていた。

 

落ち葉を集め、石畳を掃き終えると、賽銭箱の前へしゃがみ込む。

そっと蓋を開け、中を覗いた。

 

「…………」

 

静寂。

 

昨日から賽銭は一枚も増えていない。

 

霊夢は深いため息をつき、蓋を閉めた。

 

「相変わらず参拝客が少ないから、お賽銭が寂しいわね……」

 

縁側へ腰を下ろし、頬杖をつく。

 

「幻想郷の秩序を守る博麗の巫女なのに、どうしてこうも貧しいのかしら……もっと敬ってくれてもいいんじゃないの?」

 

「まさか弾幕ごっこに運を全振りしちゃってて金運ゼロとか――」

 

深いため息をつく霊夢。

 

「このままじゃ神社の維持も厳しいし……私も何かバイトしようかしら」

 

誰に聞かせるでもない愚痴が、朝の静かな空気へ溶けていく。

 

ふと、霊夢は空を見上げた。

 

そこには昨日と変わらず、巨大な三角形――ベイルの扉が浮かんでいる。

 

妖気ではない。

 

神気でもない。

 

魔力とも違う。

 

何も感じ取れないはずなのに、見ているだけで胸の奥がざわつく。

まるで本能が危険だと告げているようだった。

 

霊夢は眉をひそめる。

 

「結局、今のところ何も起きてないから様子見だけど――」

 

「……正直気味悪い。」

 

「今までの異変とは、何かが違う……。」

 

その時だった。

 

ピシッ――。

 

目の前で、ガラスにひびが入るような乾いた音が響く。

 

「!」

 

霊夢は勢いよく立ち上がった。

 

神社の境内。

 

何もないはずの空間が、水面のように揺らぎ始める。

 

昨日見た、あの現象と同じだった。

 

「まさか……!」

 

揺らぎは徐々に大きくなり、一筋の裂け目を生み出す。

 

そして次の瞬間――。

 

「…………っ!」

 

謎の人物が裂け目から放り出されるように飛び出し、境内へ勢いよく転がった。

 

ドサッ!

 

「ガーディアン!」

 

男の傍らには、小さな機械球が慌てたように飛び回る。

 

「ガーディアン!大丈夫ですか!」

 

霊夢は思わず一歩後ずさった。

 

頭部は蛍光色の緑に輝く奇妙な兜で覆われ、顔は一切見えない。

紫、赤、黄緑、水色――。

 

全身を彩る装甲は、まるで子供が絵の具を好き放題ぶちまけたような色合いだった。

 

(うわっ……目に悪い配色で気持ち悪すぎる………っ)

 

幻想郷では見たこともない姿。

 

思わず本音が漏れる。

 

「へ、ヘカーティアよりえげつない格好してるわね……」

 

男はゆっくりと身体を起こした。

 

その肩の横では、小さな機械球が心配そうに浮かんでいる。

 

霊夢は目を丸くした。

 

「……し、式神?」

 

機械球はぴたりと動きを止める。

 

「え?」

 

謎の男と機械球、そして霊夢は顔を合わせる。

 

「あ、あなたは?」

 

『シェル』と呼ばれるその幾枚もの外殻が花びらのように開き、その中央では青白い一つ目のような光が霊夢を見つめている

 

 

「あんた式神なの?」

 

「しき、がみ……?式神とはなんのことです?」

 

「式神を知らない?なら使い魔?」

 

機械球は霊夢の顔のそばへ近づく。

 

「私はゴースト、あなたの言う式神でも使い魔でもありません。トラベラーによって生み出されたガーディアンに仕える存在です」

 

「と、とらべら~~?がーでぃあん?何それ?」

 

「てかあなた達は何なの?一体どうやってここに来たの?」

 

「…………………」

 

ゴーストは彼女にここからどう説明すればいいか迷ってしまう。

 

「ガーディアン、ここは本当にトラベラーの内部なのでしょうか?トラベラーの光を全く感じられないのですが……いや」

 

彼は空の上空のベイルの扉に視線を向ける。

 

「正確には、光はベイルで生じたあの歪みからいくらか流れているので全くないわけではないですが……」

 

「とにかく、早くザヴァラとイコラ、クロウと合流しなければ――」

 

「ちょっとお話し中、申し訳ないけどさ」

 

二人は視線を戻すと霊夢はお祓い棒を静かに構える。

それに呼応するように、二つの陰陽玉がふわりと宙へ浮かび上がった。

 

「答えてくれないなら、あたしからいくつか質問をさせてもらえないかしら」

 

先ほどまでの戸惑いは消え、そこにいるのは博麗の巫女だった。

 

鋭い眼差しが男を射抜く。

 

「あなた達……もしかして外来人?」

 

「外来人?」

 

「つまり外の世界から来た人ってこと?」

 

「……まあ外側からと言えば確かにそうですが……?」

 

男は霊夢を見つめたまま黙ったままで代わりにゴーストが会話をしてくれている。

 

「あらそう、あなたは小さいながらずいぶんと賢いのね」

 

その瞬間、霊夢の表情がさらに険しくなる。

 

「外来人が、昨日の空の異変と同じ裂け目から現れるなんて……」

 

小さく息を吐き、お祓い棒を握る手に力を込める。

 

「そんな都合のいい偶然、信じられないわ」

 

男は何も答えない。

 

霊夢の視線が全身を見渡す。

 

先ほど苦言を呈した様に悪趣味な祭りにでも参加するのかと思えるほどの、ちぐはぐな見た目と悪色の鎧。

 

腰のガンホルダーにはハンドキャノン

 

背中には、銃身の長い自動小銃『オートライフル』。

 

さらにそれを被せるように担ぐ、ライフルを更に巨大にさせた重火器『マシンガン』。

 

肩の横には喋る機械球、ゴースト。

 

どれも幻想郷には存在しないものばかりだった。

 

「その格好も、その武器も……全部初めて見る」

 

「あなた、本当にただの外来人なの?」

 

返事はない。

 

沈黙だけが流れる。

 

その沈黙が、霊夢の警戒心をさらに強めた。

 

「昨日の異変と何か関係があるんじゃないでしょうね」

 

霊夢はじり、と半歩踏み込む。

 

お祓い棒の切っ先を男へ向けた。

 

「悪いけど、事情が分かるまでここから動かないで」

 

「少しでも怪しい真似をしたら、その場で退治するから」

 

張り詰めた空気。

 

霊夢はお祓い棒を構えたまま、一歩、また一歩と男との距離を詰める。

 

その瞳に浮かんでいるのは敵意ではない。

 

幻想郷を守る博麗の巫女としての、揺るぎない覚悟だった。

 

「悪いけど……」

 

静かな口調で切り出す。

 

「あなたが外来人なら、すぐに外の世界へ送り返さないといけないの」

 

男は何も答えない。

 

霊夢はその視線を真っ直ぐ受け止めながら続ける。

 

「確かに幻想郷には外の世界からきた者はたくさんいるわ――まあ、あたしの独断で許してる奴らだけど」

 

「けど、あなたはどこからどう見ても不審者にしか見えないし、そうとしか思えないの」

 

一瞬だけ空に浮かぶ巨大な三角形――ベイルの扉へ目を向ける。

 

「さらに昨日はあんな得体の知れないものまで現れた」

 

霊夢は小さく息を吐く。

 

「これ以上、余計な面倒事を増やされるのはごめんだわ」

 

その言葉とともに、お祓い棒の切っ先が男へ向けられる。

 

境内の空気が張り詰める。

 

「これはマズイ!」

 

するとゴーストは慌てたように二人の間へ割って入った。

 

「待ってください!」

 

青白い一つ目が霊夢へ向けられる。

 

「お願いです。私たちの事情を、少しだけ聞いてもらえませんか?」

 

霊夢は眉をひそめる。

 

「事情……?」

 

ゴーストは静かに頷いた。

 

「私たちも、好きでここへ来たわけじゃないんです」

 

「……………」

 

「私達は地球から目撃者という存在を追ってきたら何故かここにたどり着いただけなんです」

 

「地球……目撃者?何よそれ?何を目撃するの?」

 

「それは……どう説明すればよいやら……」

 

だんだん険しい表情になり、今にもその手に持つお札を飛ばそうとスタンバイする霊夢。

 

「……ガーディアン、これは少々まずい状況では?」

 

男もゆっくり後退りながらハンドキャノンに一瞬、意識してしまう――彼女がどんな人物か分からないが警戒心、いや敵意を出しており、思わず警告射撃をしてしまいそうになる。

 

「ち、違います。本当に怪しい者じゃありません!」

 

しかし。

 

当の男はというと。

 

「!」

 

何かを思いついたように小さく頷いた。

 

そして、おもむろに手を動かす。

 

シュンッ。

 

どこからともなく、一台の半透明のソリが現れた。

 

「……?」

 

霊夢が目を瞬かせる間もなく、男は迷いなくその上へ飛び乗る。

 

シャーーーーッ!

 

神社の境内を、楽しそうにソリで滑り始めた。

 

鳥居の前を一周。

 

賽銭箱の横を華麗に旋回。

 

最後は霊夢の目の前でピタリと止まる。

 

男は満足そうに彼女に向かって親指を立ててガッツポーズ。

 

霊夢はしばらく固まった。

 

 

 

「…………………は?」

 

 

 

ゴーストは慌てて霊夢の前へ飛び出す。

 

「え、えっと。『僕たちは怪しい者じゃないから安心してね』、とのことです!」

 

霊夢は無表情のまま二人を見つめる。

 

数秒の沈黙。

 

そして――。

 

「余計に怪しいわ!!」

 

霊夢の鋭いツッコミが、静かな博麗神社に響き渡った。

 

しかし。

 

当の本人はというと、まるで意味が分かっていない様子で首をかしげる。

 

「……?」

 

再び何かを閃いたように頷くと男はその場で軽快なステップを踏み、腰を振りながら陽気に踊り始める。

 

見事なサンバダンスだった。

 

「………………」

 

霊夢は一言も発しない。

 

ただ、じっとその光景を見つめている。

 

踊り終えたガーディアンは、達成感に満ちた様子で胸を張る。

 

ゴーストは慌てて口を開いた。

 

「え、えっと!『見てよ。どこをどう見たら僕たちのどこが怪しいんだい?』……と、言っています!」

 

霊夢は俯いたまま、小さく息を吐いた。

 

「……なるほど」

 

ゴーストはほっとしたように声を弾ませる。

 

「わ、分かっていただけましたか!」

 

霊夢はゆっくりと顔を上げた

その口元には、穏やかな笑みが浮かんでいる。

 

「ええ。」

 

「よぉーく分かったわ」

 

彼は満足そうに、もう一度親指を立てる。

 

だが――。

 

霊夢の笑みが、そのまま引きつった。

 

「……あんた達さあ」

 

低く、静かな声。

 

「私をおちょくってる?」

 

ゴーストは慌てて二人の間へ割って入る。

 

「ち、違います!」

 

「彼は決して悪気があるわけじゃないんです!」

 

「だからどうか落ち着いてください!」

 

男も「任せろ」と言わんばかりにその場でいきなりとんぼ返り、着地をした瞬間に右腕を曲げてちからコブをみせつける謎の行動――。

 

「……………………」

 

その瞬間。

 

ブチッ。

 

霊夢の中で、何かが音を立てて切れた。

 

「もう何もしなくて結構よ」

 

霊力が一気に解放される。

 

二つの陰陽玉が霊夢の周囲へ展開し、突風が境内を吹き抜けた。

 

「コテンパンにぶちのめす!!」

 

ゴーストは慌ててに慌て、男の周りをビュンビュン飛ぶ。

 

「だからガーディアン!『感情表現』で会話を乗り切ろうとするなって何度も言っているでしょう!」

 

ガーディアンは不思議そうに首をかしげる。

 

「……?」

 

しかし彼は再び親指を立てて、誇らしげにゴーストを見つめる。

 

「ああもう、更に誤解されるようなことしないで下さいガーディアン!!」

 

 

その時だった。

 

 

 

ゴォォォォォォ……。

 

腹の底へ響くような重低音が、博麗神社全体を震わせた。

 

霊夢の表情が一変する。

 

怒りは消え、博麗の巫女として異変に向き合う鋭い眼差しへと変わった。

 

「……何?」

 

三人は同時に空を見上げる。

 

幻想郷の空に浮かぶ巨大な三角形――ベイルの扉。

 

その中心が、まるで生き物のように赤紫色へと脈打ち始めていた。

 

ドクン。

ドクン。

 

鼓動にも似た音が、空間そのものを揺らしていく。

 

やがて、扉の真下に新たな亀裂が走る。

 

ピシッ――。

 

「また裂け目……!?」

 

霊夢が息を呑む。

 

裂け目はゆっくりと広がり、その奥から黒い影が姿を現した。

 

それは、人の形をしていながら人ではない。

 

禍々しい漆黒の装甲。

 

歪な体躯。

 

全身から言い知れぬ威圧感を放ちながら、ゆっくりと境内へ降り立つ。

 

ゴーストの声が、先ほどとは打って変わって緊迫したものになる。

 

「ガーディアン……!」

 

「目撃者の軍勢、ドレッドです!」

 

その言葉を合図にするかのように、裂け目の奥から次々と黒い影が雪崩れ込む。

 

「……いくぞ、ゴースト」

 

――男の空気が変わった。

 

先ほどまでソリで滑り、陽気に踊っていた人物と同じとは思えない。

 

ゆっくりと背中へ手を伸ばす。

 

カチャリ。

 

オートライフルを抜き、素早く構えて放つ。

 

銃口が静かに敵を捉える。

 

一切の無駄がない。

 

霊夢は思わず目を見開いた。

 

「……!」

 

さっきまでの間の抜けた雰囲気はどこにもない。

 

そこに立っていたのは、幾千幾万の戦場を生き抜いてきた歴戦の戦士だった。

 

ドレッドの一体が低いうなり声を上げる。

 

次の瞬間、一斉に霊夢へ向かって駆け出した。

 

「あっ、しま――!?」

 

慌てた霊夢は札を構え、陰陽玉を展開しようとするも間に合わない――だが。

 

ガーディアンは素早くスライディングで霊夢の前へ滑り込み、

 

ダダダダダダッ!!

 

乾いた銃声が境内に響き渡る。

 

先頭を走っていたドレッドの胸部へ、弾丸が正確に突き刺さる。

 

一発。

二発。

三発。

 

一切の無駄がない連射。撃ち抜かれたドレッド達は煙のように消滅する。

 

「あ、あんた…………」

 

「……君は早く下がれ。俺がなんとかする」

 

先ほどまでふざけにふざけていた男とは思えない威厳のある声だ。

 

「あんた、ちゃんと喋れるじゃないの」

 

「……………」

 

敵が倒れるより先に、照準は次の標的へ移っていた。

 

「なっ……!」

 

霊夢は思わず息を呑む。

 

速い。あまりにも速い。

 

それでも後続のドレッドは止まらない。

 

一体が大きく跳躍し、ガーディアンへ飛びかかった。

 

その瞬間、ガーディアンは左手を前へ突き出す。

 

漆黒に染まったエネルギーが掌へ収束していく。

 

空気が軋む。

 

重力そのものが歪んだかのようだった。

 

ゴーストが霊夢に叫ぶ。

 

「危険です、離れてください!」

 

「!?」

 

紫黒の光が一気に解き放たれた。

 

轟音と共に虚無の奔流が敵を飲み込み、周囲のドレッドごとボイドの残響で吹き飛ばす。

 

境内の石畳が震え、黒紫の残光だけが静かに漂っていた。

 

霊夢はその光景を見つめたまま、小さく呟く。

 

「……何なのよ、あれ」

 

戦いは、まだ始まったばかりだった。




●簡単なdestiny用語集②基礎知識編

・タイタン
ガーディアンのクラス(職業)の一つでいわゆるタンク役。
最前線で仲間を守りながら戦う重装戦士。高い防御力と近接戦闘を得意とし、バリケードやドーンウォードなどのバリア系の能力で味方を支援する。その特性ゆえ機動力は低いと思われがちだがタックル系や素早く横移動するスラスター、空中を推進するリフトなど見た目以上の機動力を持つ。代表的な人物はザヴァラ、セイント14など。

・ハンター
ガーディアンのクラスの一つ。
素早い動きと高い機動力を活かして戦う遊撃手。精密射撃や不可視と呼ばれる透明化による奇襲を得意とし、敵を翻弄する戦法を得意とする。前衛向けで攻撃面に特化している分、防御面に不安が残るクラスである。destiny世界ではかなり人気を誇るクラスである。代表的な人物はケイド6、クロウなど。

・ウォーロック
ガーディアンのクラスの一つ。いわゆる魔法使い系。
光や暗黒の力を巧みに操る戦術家。クラス最多のHP回復手段を持ち味方の攻撃力を上げるなどの支援スキルを有し、強力な遠距離攻撃も得意とする。クラスで一番滞空時間を長くできるクラスでもある。代表的な人物はイコラ・レイ、オシリスなど。今作の主人公、ガーディアンもウォーロックである。

・感情表現
いわゆるエモート機能でガーディアンはこれで意思や感情を表現する。一般的な挨拶や敬礼、挑発するようなダンス、果てにはポップコーンや雪、ゲーム機など無から取り出すなどdestiny世界で未だに仕組みが解明されていない最も謎に包まれた機能。今作の主人公であるガーディアンは基本的にこれでコミュニケーションをとろうとする悪い癖がある。

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