東方天命録~The Final Shape Begins~   作:はならむ

21 / 21
第二十話:共同戦線 ①

イコラの放った紫紺の奔流が、湖畔を埋め尽くしていたスロールの群れへと突き刺さった。

轟音と共にボイドの光が膨れ上がり、朝靄の残る霧の湖を一瞬だけ紫色に染め上げる。まともに巻き込まれたスロール達は甲高い断末魔を上げる暇すらなく吹き飛ばされ、何体かはそのまま湖面へ叩きつけられて大きな水柱を上げた。

 

「…………」

 

チルノは、目の前で起きたことを理解できずにいた。

隣にいるルーミアも、その少し上空にいる大妖精も同じだった。

つい先ほどまで、自分達三人が必死になって食い止めていた異形の怪物達。それを、突然現れた見知らぬ女が、たった一度腕を振るっただけでまとめて薙ぎ払ってしまったのだ。

 

「……なに、今の」

 

ようやくチルノの口から漏れたのは、それだけだった。

 

「知らないのだー……」

 

ルーミアも珍しく呆然としている。だが、戦場は彼女達が驚きから立ち直るのを待ってはくれなかった。

 

「キシャァァァァッ!!」

 

霧の向こうから、再び耳障りな咆哮が響いた。続いて無数の足音が重なり合い、白い霧を突き破るように新たなスロールの群れが現れる。

 

「はああああっ!!」

 

イコラは気の入れて全力の掌底をスロールの顔面に入れて、『ドゴッ!』と陥没するほどの重い一撃で吹き飛ばした。

 

 

先ほどイコラに吹き飛ばされた仲間達の亡骸など目にも入っていない。

踏む、乗り越える、押し退ける。

ただ目の前にいる生き物を殺すためだけに、異形の群れは一斉に駆け出した。

 

「まだ来るの!?」

 

大妖精が思わず叫ぶ。

 

「だから言ったでしょう」

 

イコラは空中で身体を翻しながら答えた。その声からは、普段の落ち着いた柔らかさが消えている。

 

「ハイヴは数で押すことを躊躇しない!」

 

彼女の言葉を証明するかのように、さらに奥の霧が揺れる。スロールの群れの後方からは、剣と盾を携えた巨大なナイトが姿を現し、その頭上では長い衣を引きずるようにウィザードが宙を漂っていた。

 

「来るわよ!」

 

霊夢がお祓い棒、御札を構えた。

 

「分かってるぜ!」

 

魔理沙も箒の上で八卦炉を取り出す。

 

次の瞬間。幻想郷の住人と、遥か未来からやって来た戦士達が、同時に動いた。

三体のスロールが霊夢へ飛びかかる。

長い腕を振り上げ、鋭い爪を彼女へ突き立てようとするが、霊夢は僅かに身体を後ろへ引いただけだった。

 

「遅い!」

 

お祓い棒が横へ振られる。

その動きに合わせるように、数枚の御札が霊夢の周囲から飛び出した。

一枚目が先頭のスロールの額へ張りつく。

 

二枚目。

三枚目。

 

「ギッ――」

 

次の瞬間、御札が一斉に炸裂した。

三体のスロールがまとめて吹き飛ばされる。しかし、その背後からさらに十体が迫っていた。

 

「本当にきりがないわね!」

 

霊夢は地面を蹴り、一気に上空へ舞い上がる。獲物を追うようにスロール達が顔を上げた瞬間、その周囲に赤と白の弾幕が展開された。

完全な包囲。逃げ場などない。

 

「そこ!」

 

霊夢がお祓い棒を振り下ろす。無数の光弾が一斉に収束した。湖畔が連続して爆発し、スロール達が次々と弾き飛ばされていく。

 

「霊夢!」

 

上空から魔理沙の声が飛んだ。

 

「そっち退け!」

 

「言われなくても!」

 

霊夢が急上昇する。

その直後。魔理沙が八卦炉を前へ突き出した。

 

「まとめて吹っ飛べ!」

 

凄まじい閃光。太い魔力の奔流が湖畔を横切った。

 

――ドォォォォォン!!

 

霊夢の弾幕を辛うじて抜けたスロール達がまとめて呑み込まれ、さらにその向こうを漂っていたウィザードまで巻き込まれる。

 

「ギキャィィィィッ!」

 

ウィザードが吹き飛ばされ、湖面へ墜落した。

 

「よし!」

 

魔理沙が拳を握る。

 

「こいつら、思ったよりやれるじゃないか!」

 

「調子に乗らない!」

 

「分かってるって!」

 

口ではそう返しながらも、魔理沙の口元には明らかに笑みが浮かんでいた。

最初こそ、大妖精の話やイコラ達の反応から、どれほど恐ろしい怪物なのかと思っていた。

 

だが倒せる、単体か複数体だけならそれほど強くはない。

 

自分の魔法が通用する。それが分かれば、必要以上に恐れる理由などない。

少なくとも――魔理沙はそう考え始めていた。

その頃、地上では乾いた銃声が響いていた。

 

――ドォン!

 

一体のスロールの頭部が跳ね上がる。

 

「一匹」

 

ケイドは切り札の銃口を下ろすことなく素早く身体を半回転させた。

右の二体目。

 

――ズドン!

 

「二匹目」

 

背後から爪を振り上げる三体目。振り返らない。

僅かに身体を沈める。

スロールの爪がケイドの頭上を通過した。

そのまま切り札を顎下へ押しつける。

 

――バンッ!

 

「三匹」

 

倒れる身体を横へ押し退ける。

次、さらに次、ケイドは止まらなかった。

彼の身体には、かつて宿っていた光はもうない。

かつての彼の相棒、サンダンスもいない。

黄金の炎を纏ったゴールデンガンを呼び出すこともできなければ、ソーラーの力を込めたナイフを投げることもできない。

それでも何百年とハンターとして戦い続けてきた経験まで失われたわけではなかった。

 

撃つ。

避ける。

走る。

 

敵の死角へ入る、そしてまた撃つ。

派手な超常の力など何一つ使っていない。

にもかかわらず、ケイドの周囲ではスロールが次々と倒れていった。

 

「……すごい」

 

上空からその様子を見ていた大妖精が、思わず呟く。

何が凄いのか。

彼女自身にも上手く説明できなかった。

イコラのような巨大な光を放っているわけでもない。霊夢や魔理沙のような弾幕を使うわけでもない。ただ銃を撃っているだけ。

 

なのに――あの青い角の生えた機械の男は、まるで怪物達が次にどう動くのか最初から知っているかのようだった。そして少し離れた場所では、クロウが一体のナイトと対峙していた。

 

「グォォォォォッ!!」

 

大剣が振り下ろされる、クロウは寸前で横へ跳んだ。

 

――ドゴォン!!

 

地面が砕け、土砂が舞い上がる。

クロウは着地すると同時にホークムーンを構えた。

――ドォンッ!

 

肩。

 

――ドンッ!

 

脇腹。

 

――ドゴッ! 

 

兜に三発、しかし。

 

「グォォォォォッ!!」

 

ナイトは止まらない。巨大な盾を構え、そのままクロウへ突進する。

 

「く、やはり硬いな……!」

 

クロウは舌打ちしながら後退した。

無理に盾を抜こうとはしない。

距離を維持する。

敵の動きを見る。

攻撃を誘う。

一見すれば慎重すぎるほど慎重な戦い方だった。

だが。それこそが。

長くハイヴと戦ってきた者の戦い方でもあった。

そのすぐ横を。

蛍光色の影が駆け抜けるガーディアン。

 

「キシャァァァァッ!!」

 

正面、二十体近いスロール達。

 

「ガーディアン!」

 

傍らを飛ぶゴーストが警告する。

 

「前方、スロール多数!」

 

「…………」

 

ガーディアンは走りながら左手を前へ伸ばした。

紫色の光が掌へ集まる。高密度のボイドの塊をそのまま地面へ投げつけた。

 

――ゴォォォォォッ!!

 

まるでブラックホールのように着弾地点を中心として、特異点の紫紺の渦が生まれた。空気が歪む。

砂、石、周囲に転がっていたハイヴの残骸、そして。

 

「キシャァァァッ!?」

 

スロール達の身体までが、一斉に引き寄せられ始めた。

 

「なにあれ!?」

 

チルノが目を見開く。一体のスロールが地面へ爪を突き立てる。だが止まらない。

どんどん引きずられる。

 

二体、三体と次々と渦へ呑み込まれていく。それでも、渦の範囲外にいた別の群れが左右からガーディアンへ迫った。

 

「まだ来ます!」

 

ゴーストが叫ぶ。ガーディアンは動じずすぐさま右手を伸ばした。

淡い光と共にその中から、一丁の銃が実体化する。

 

「ん……?」

 

上空を飛んでいた魔理沙が、それに気づいた。

一昨日使っていた武器とは違う。

 

細長い銃身。銃であることは分かる。

しかし、その輪郭はどこか異様だった。

外の世界で作られた銃というよりも、もっと理解し難い何かを無理矢理兵器という形へ押し込めたような、不思議な存在感を放っている。

 

 

――その名前は『グラビトン・ランス』。

 

 

「おい!」

 

魔理沙が思わず叫ぶ。

 

「なんだその武器!?」

 

「パルスライフルです!」

 

ゴーストがそう答える。

 

「パルス……ライフル?」

 

「はい!」

 

「何する武器なんだ?」

 

ゴーストは一拍置いた。

 

「断続的なバースト射撃ができますがこの武器はちょっと特殊です!」

 

「分かりにくい説明はやめろ!」

 

その間にもガーディアンは既に銃を構えていた。

照準、そして引き金。

 

――ビトン、ビトン。

 

「…………?」

 

魔理沙が眉を寄せる。

今まで聞いたどの銃とも違う。

乾いた火薬の炸裂音ではない。

もっと低く。もっと重い。

まるで空気ではなく、空間そのものを内側から叩いたような奇妙な響き。

放たれた一撃が、先頭のスロールの頭部を撃ち抜いた。その瞬間。

 

――ボンッ!!

 

紫色の爆発。

 

「!?」

 

魔理沙が目を見開く。だが。

それだけではなかった。

倒れたスロールの身体から紫紺のエネルギーが弾け飛び、すぐ隣にいた別のスロールへ吸い込まれる。

 

――バシュンッ!

 

二体目が爆発。そこからさらに。

 

――バシュッ!

 

三体目。

四体目。

五体目。

 

――ボンッ!!

 

紫色の爆発が連鎖した。

 

「…………」

 

チルノが固まる。

 

「…………」

 

ルーミアも。

 

「…………」

 

大妖精も。

 

「……なんだよ、それは」

 

魔理沙まで呆然としていた。

 

「グラビトン・ランス。小型ブラックホール弾を撃ち出す特殊な重力異常を利用した武器です!」

 

「…………は?」

 

魔理沙は数秒考えた。

 

「よく分からん!」

 

「今はそれで十分です!」

 

「なんか腹立つな、お前!」

 

ガーディアンはそんなやり取りなど聞こえていないかのように、淡々と次の標的へ銃口を向けた。

 

――ズン、ズン。

 

紫紺。

 

――バシュンッ!

 

爆発。さらに別のスロールへ。

 

――ビトン、ビトン。

 

――ボシュウウッ!!

 

次々と連鎖するボイドの渦と、紫色の爆発。

その二つが入り混じり、どこまでがガーディアン自身の力で、どこからが武器による現象なのか。

チルノ達には、もはや区別すらつかなかった。

 

「……なんだ、あいつ」

 

チルノが呟く。

 

「知らないのだー……」

 

ルーミアも首を傾げる、けれど。

一つだけ、三人にも分かることがあった。

戦況が変わった。

つい先ほどまで。

自分達は押されていた。

一体倒しても二体。

二体倒しても五体。

どれだけ戦っても減らなかった怪物達。

それが今、明らかに押し返されている。

霊夢の弾幕。

魔理沙の魔砲。

イコラとガーディアンのボイド。

クロウとケイドの銃撃。

全く異なる戦い方をする者達が、それぞれの方法でハイヴの軍勢を次々と薙ぎ倒していく。

 

「いける……!」

 

魔理沙の口元が上がった。

そして一体のスロールへ魔力弾を撃ち込む。

撃破。

二体目。

撃破。

前方、ウィザードのアーク光弾。

 

「遅い!」

 

箒を傾け、光弾が横を通過する。

魔理沙はそのまま一気にウィザードとの距離を詰めた。

 

「くらえ!」

 

至近距離、魔力弾。

 

――ドンッ!

 

「ギィィィィッ!」

 

ウィザードが吹き飛ぶ。

 

「よし!」

 

その時だった。

 

「おい魔理沙!」

 

下からケイドの声。

 

「ん?」

 

魔理沙が視線だけを向ける。ケイドは切り札でスロールを撃ち抜きながら、彼女を見上げていた。

 

「前出すぎだ!少し下がれ!」

 

「大丈夫だって!」

 

魔理沙は笑う。

 

「こいつら、思ったよりやれるぜ!」

 

「そういう問題じゃない!」

 

――ドォンッ!

ケイドが横から飛びかかったスロールを撃ち落とす。

 

「周りを見ろ! こいつらは一体ずつ相手してくれるほど親切じゃねえぞ!」

 

「分かってるって!」

 

「分かってる奴はそんな前まで行かねえ!」

 

「心配性だな!」

 

「戦場じゃ心配性なくらいで丁度いいんだよ!」

 

「へいへい!」

 

魔理沙は軽く手を振った、ケイドが顔をしかめる。

 

「おい、聞いてんのか!?」

 

だが、その時。

魔理沙の正面の霧が揺れた。

 

「…………!」

 

巨大な影が一歩、また一歩。

霧の中から現れたのは禍々しい形の大剣と盾

黒ずんだ分厚い装甲。

三つの眼、クリーバーナイト。

 

「……ちょうどいい」

 

魔理沙がニヤリと笑った。

 

「さっきチルノを苦戦させてた奴だな」

 

「魔理沙!」

 

ケイドが嫌な予感を覚える。

 

「待て!」

 

しかし魔理沙は止まらない。

 

「大火力で真正面から吹っ飛ばしてやる!」

 

八卦炉に魔力が集まる。 

 

「恋符――」

 

「おい!」

 

「マスタースパーク!!」

 

轟音と共に巨大な魔力の奔流が湖畔を貫き、真正面からナイトを呑み込む。

周囲のスロール達までまとめて消し飛び、爆風によって白い霧が大きく押し退けられた。

 

「どうだ!」

 

魔理沙が得意げに笑う。

 

「いくら硬くたって、これなら――」

 

「まだだ!」

 

ケイドの怒声。

 

「え?」

 

――ズン。

 

土煙の中に巨大な足。

 

――ズン。

 

盾は半分ほど砕けている。

鎧も焼け焦げていた、それでも。

 

「グォォォォォォッ!!」

 

ナイトはまだ立っていた。

 

「なっ!?」

 

魔理沙の表情が変わる、ナイトが走り出した。

大剣を振り上げ一直線に突撃してくる。

 

「しぶといな!」

 

魔理沙は箒を引いた。

まだ避けられるし距離はある。

彼女はそう判断した。

だから気づかなかった。

自分の頭上。

霧の中に。

別の影がいることに。

 

「魔理沙!」

 

ケイドが叫ぶ。

 

「上だ!」

 

「え?」

 

魔理沙が顔を上げる。

 

「ギィィィィィ……!」

 

「――っ!?」

 

ウィザードはいつの間にか真上へ回り込んでいた。

両手の間には既に強力なアークエネルギー。

 

「しまっ――」

 

下にナイト、上にはウィザード、そして。

 

「キシャァァァァッ!」

 

周囲にはスロール、逃がげ道まで塞がれ始めている。

 

「…………!」

 

そこでようやく魔理沙は理解した。

ケイドが何を警告していたのか。

ナイトが正面から注意を引く。

ウィザードが上空へ回り込む。

スロールが退路を塞ぐ。

こいつらはただ闇雲に襲いかかっているわけではない、連携している。

 

「魔理沙!!」

 

ウィザードの両手が光った。

 

「伏せろ!!」

 

「――っ!?」

 

横から強い衝撃。

誰かが魔理沙へ飛び込んだ。

身体が箒から引き剥がされる。

そのまま二人で地面へ転がった。

直後。

 

――ドォォォォン!!

 

蒼白い光弾が、先ほどまで魔理沙のいた場所を撃ち抜いた、さらに。

 

――ブォン!!

 

その直下をナイトの巨大な剣が薙ぎ払う。

あと一瞬、遅れていればまともに挟み撃ちを受けていた。

 

「いってぇ……!」

 

 

魔理沙が地面へ手をつく。

 

「何す――」

 

顔を上げる。

 

「ケイド!?」

 

「だから!」

 

ケイドも立ち上がる。

 

「死ぬ気か!前出すぎだって言っただろ!」

 

「…………!」

 

魔理沙が黙った。

いつもの軽い声ではなかった。

冗談も笑いもない。

ケイドは既に魔理沙へ背を向け、迫ってくるナイトへ切り札を構えている。

 

――ドンッ!

 

銃弾が兜へ命中。

 

「お前が強いのは見りゃ分かる!」

 

二発目は肩に。

 

「火力もある!」

 

――ズドッ!

 

装甲の隙間。

 

「空も飛べる! あのデカブツ相手にも十分やり合える!」

 

「…………」

 

「けどな!」

 

ナイトが盾を構えた、ケイドは撃ちながら後退する。

 

「ハイヴ相手に目の前の敵だけ見て突っ込むな!」

 

魔理沙は言い返せなかった。

自分はナイトしか見ていなかった。

ウィザードにもスロールにも気づかなかった。

 

「こいつらは何百年も俺達と殺し合ってきた連中だ!」

 

ナイトが突進する。ケイドは冷静に距離を取る。

 

「ただの化け物だと思って舐めるな!」

 

「…………」

 

悔しい。けれど正しいのも分かる。

 

「……分かったよ!」

 

魔理沙が立ち上がった。

 

「よし!」

 

その瞬間。

 

「ケイド!」

 

クロウの声が飛んだ。

 

「!」

 

ケイドが振り返ると少し離れた場所に黄金色の光。

 

「…………!」

 

魔理沙も目を見開いた、知っている。

一昨日の博麗神社で一度見たクロウの右手。

炎のような黄金色の光が集まり、瞬く間に拳銃の形へ変わっていく。

 

 

ゴールデンガン。

 

 

「そのまま引きつけろ!」

 

 

クロウが叫ぶ、ケイドの口元が上がった。

 

「了解!」

 

再びナイトへ向き直る。

 

「こっちだデカブツ!」

 

切り札から発射される強力な銃弾がナイトの盾、兜に直撃、そして三つの眼がケイドへ向く。

 

「グォォォォォォッ!!」

 

大剣を振りかざし怒り狂ったように走り出す。

 

ケイドは動かなかった。

 

「ケイド!」

 

魔理沙が叫ぶ。

 

「大丈夫だ!」

 

剣が振り下ろされる。寸前。

 

「今だ!」

 

ケイドが横へ飛んだ。その向こうに射線が開くクロウの黄金銃――。

 

――バァン!!

 

黄金の火線が霧を切り裂いた。

 

一発目、ナイトの胸部へ直撃。

 

「グォォォッ!!」

 

巨体が仰け反る。

 

――バァン!!

 

二発目、装甲が砕け飛ぶ。

ナイトがよろめいた、そして。

クロウは最後の一発を静かに頭部へ合わせ。

 

――ズドォン!!

 

黄金の光がナイトの頭部を撃ち抜いた。

 

「グォォォォ――ッ!!」

 

巨体が止まり数秒間、沈黙。

やがてゆっくりと後方へ傾き。

地響きと共に倒れた。

 

「…………」

 

魔理沙はその光景を黙って見ていた。

クロウの手から黄金の拳銃が光の粒子となって消えていく。

ケイドは倒れたナイトを数秒見つめ、完全に動かなくなったことを確認すると、切り札をくるりと回してホルスターへ戻した。

 

「なかなかの腕だ」

 

「お前が上手く引きつけたからだ」

 

クロウが答える。

 

「お?」

 

ケイドが振り返った。

 

「今の聞いたか?坊やが俺を褒めたぞ」

 

「撤回する」

 

「おい」

 

「…………」

 

魔理沙が二人を見ていた。そして。

 

「ケイド」

 

「ん?」

 

「…………」

 

帽子のつばを少し下げる。

 

「……悪かった」

 

「お?」

 

「それと」

 

少しだけ声を小さくして。

 

「……助かった。ありがとな」

 

「…………」

 

ケイドは一瞬だけ黙った。

いつものように茶化すこともできただろう。

だがそうはしなかった。

 

「まあ、次から気をつけてくれればそれでいいさ」

 

ただそう答えた。

魔理沙が顔を上げる。

ケイドは僅かに笑っていた。

 

「……ニヤニヤすんな」

 

「してないって」

 

「してる!」

 

「ハハハ!」

 

「笑うな!」

 

そのやり取りに少し離れた場所でハイヴを撃っていたクロウが呆れたように息を吐く。

 

「戦闘中だぞ、お前達」

 

「分かってる!」

 

魔理沙は箒を拾い上げ、そして跨る。

だが今度はすぐには飛び出さなかった。

一度、戦場全体を見る。

 

正面にスロール。

右にナイト。

上にはウィザード。

さらに霊夢

イコラ。

クロウ。

ケイド。

ガーディアン。

 

敵だけではない、味方の位置まで確認する。

 

「…………」

 

ケイドは何も言わなかった。

ただその様子を横目で見ていた。

やがて魔理沙が八卦炉を構える。

 

「……よし」

 

「今度は?」

 

ケイドが尋ねた魔理沙は。

いつもの不敵な笑みを浮かべた。

 

「前に出すぎないように暴れてやるぜ」

 

ケイドも笑った。

 

「上出来だ」

 

その直後。

 

――ビトン、ビトン。

 

重い音に二人が振り返る。

 

ガーディアンのグラビトン・ランスが火を吹く。

 

――ボン、バシュンッ!!

 

紫色の爆発が連鎖し、スロールの群れがまとめて吹き飛ぶ。その上空では、霊夢が無数の御札を展開していた。

 

「チルノ!」

 

「!」

 

「いつまで見てんのよ!戦う気がないなら下がってなさい!」

 

「誰が見てるだけだよ!」

 

チルノが我に返った。

 

「ルーミア!」

 

「そーなのかー!」

 

「大ちゃん!」

 

「う、うん!」

 

チルノの周囲に冷気。

ルーミアの周囲に闇。

大妖精も弾幕を展開する。

 

「いっけぇぇぇぇ!!」

 

氷弾が飛ぶ。

闇が広がる。

妖精の弾幕が降り注ぐ。

そこへ魔理沙の魔力弾が重なった。

銃声。

爆発。

弾幕。

ボイド。

黄金の光。

氷。

闇。

昨日まで互いの存在すら知らなかった者達。

幻想郷で生きてきた者達と星々を巡る戦争を生き抜いてきた者達。

その戦い方はあまりにも違う。

使う力も、武器も、戦ってきた敵も、何もかもが違う。

それでも今、彼らは同じ敵を見ていた。

 

「キシャァァァァッ!!」 

 

霧の向こうからさらにスロールが押し寄せる。

 

「まだまだ来るわよ!」

 

霊夢が叫ぶ。

 

「分かってるぜ!」

 

魔理沙が八卦炉を構える。

 

「ガーディアン!」

 

イコラが呼ぶ。

 

「…………!」

 

ガーディアンがグラビトン・ランスを構えた。

 

「クロウ!」

 

「右を抑える!」

 

「ケイド!」

 

「任せろ!」

 

それぞれが。

それぞれの場所へ。

走る。

飛ぶ。

銃を構える。

魔力を集める。

光を纏う。

そして。

再び。

霧の湖に轟音が響き渡った。

紫紺の閃光が走り。

弾幕が空を覆い。

銃弾が異形の軍勢を撃ち抜いていく。

こうして幻想郷の住人達と。

遥か未来からやって来たガーディアン達による。

初めての本格的な共闘が始まった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。