東方天命録~The Final Shape Begins~   作:はならむ

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第二十三話:紅魔館防衛戦 ①

――数分前。霧の湖の対岸。

 

深い霧の向こうに佇む紅い洋館――紅魔館の周辺では、すでに激しい戦闘が始まっていた。

普段であれば、正門の辺りに聞こえるのは湖から吹き抜ける風の音と、木々のざわめきくらいのものだ。

 

門番である紅美鈴にとって、そんな昼下がりは実に穏やかな時間である。少しくらい目を閉じても問題ない。

 

ほんの少しだけ。

そう、決して仕事を放棄しているわけではなく――。

 

「はあっ!!」

 

――ドンッ!!

 

美鈴の掌底が、異形の兵士の胸へ叩き込まれた。

強烈な気を纏った一撃を受け、白黒に染まった身体が正門前を大きく吹き飛んでいく。

鮮やかな赤い長髪に、緑を基調とした中国風の衣服。そして頭には、星と「龍」の文字をあしらった緑色の帽子。

 

彼女の名は――紅美鈴。『華人小娘』

 

この紅魔館の正門を預かる妖怪であり、気を操ることに長けた武術の達人でもある。普段こそ朗らかで、時には勤務中に居眠りをしている姿まで見られる彼女だが、一度戦いとなればその拳と蹴りは門番の名に恥じない威力を発揮する。

 

「せっかくお昼寝していたのに、何なんですか一体!?」

 

文句を言いながら、美鈴は身体を沈めた。

その頭上を黒いエネルギー弾が通過する。

すぐさま地面を蹴る。

一瞬で敵の懐へ入り込み、腹部へ拳を打ち込む。続けて顎へ掌底。身体を捻り、最後に回し蹴りを叩き込んだ。

敵が宙を舞う。

だがその後ろから、すでに次が来ている。

 

「まったくもう……!」

 

美鈴は腰を落とした。

敵の正体は分からない。

人間ではない。

妖怪でもない。

全身を覆う白と黒。

身体の輪郭から絶えず立ち昇る、煙のような靄。

そして、幻想郷ではまず見かけない奇妙な武器。

少なくとも、友好的な客人でないことだけは明白だった。

 

「ここは紅魔館の正門ですよ!」

 

美鈴の周囲へ色鮮やかな気が集まる。

 

「通りたければ――」

 

 

――スペルカード。

 

「許可を得なさい!!」

「華符――芳華絢爛!」

 

 

無数の花弁を思わせる弾幕が、一斉に広がった。

 

 

――ドドドドドドッ!!

 

 

光弾が敵陣へ降り注ぐ。

 

一体。

二体。

さらにその後ろ。

 

何体もの兵士がまとめて吹き飛ばされ、地面へ転がった。

 

「ふぅ……!」

 

美鈴が着地する。

ようやく一息つける。

そう思った。だが。

 

「…………え?」

 

霧の向こう。

また影が動いた。

 

一つ。

二つ。

五つ。

十。

 

「ちょっと……」

 

さらに空間そのものが歪んだ。

黒い靄が集まり、白と黒が混ざり合ったような奇妙な光が揺らめく。そこから、新たな兵士達が次々と姿を現した。

 

「また増えた!?」

 

思わず声が裏返る。先ほど倒した数を補充したどころではない。

むしろ増えている。

 

「……冗談でしょう?」

 

だが、美鈴を本当に戦慄させたのは、その数ではなかった。

 

「…………」

 

敵が進んでくる。

誰一人として躊躇しない。

目の前で仲間が殴り飛ばされても。

弾幕に呑み込まれても。

倒れた仲間の身体が足元に転がっていても。

何もなかったかのように、その身体を踏み越えて進んでくる。

助けようともしない。

振り返りもしない。

恐怖すら見せない。

 

「……何なんですか、あなた達」

 

美鈴の表情から、先ほどまでの軽さが消えていく。

再び敵が来る。

拳、一体を倒す。

蹴り、二体目。

掌底、三体目。

それでも次、さらに次。

倒しても倒しても終わらない。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

やがて美鈴の呼吸が荒くなり始めた。

一体一体なら問題ない。複数を同時に相手取ることだってできる。

だが、こいつらは違う。何人倒されようとも構わない。

こちらが疲れ果てるまで、ただ兵を送り続ける。

まるで最初から、兵士一人一人の命など勘定に入れていない。

 

「死ぬのが……怖くないんですか?」

 

答えはない。

 

――バシュッ!!

 

「っ!」

 

紫色の光の弾丸が肩を掠めた。

僅かに身体が揺れる。

その瞬間を逃さず、複数の敵が美鈴へ殺到した。

 

「しまっ――!」

 

――ヒュン。

 

銀色の光が、美鈴の横を通過した。

 

次の瞬間。

 

――ザシュッ!!

 

迫っていた兵士達へ、何本ものナイフが突き刺さる。

 

「……え?」

 

敵が次々と倒れていく。美鈴はすぐに振り返った。

 

「まったく」

 

――正門の向こう、一人の少女が立っていた。

銀色の髪を整え、青と白を基調としたメイド服を纏い、その両手には何本もの銀のナイフが握られている。戦場の只中にあってさえ、その姿には一分の隙も感じられない。

 

「随分と楽しそうなことをしていますね、美鈴」

 

「咲夜さん!」

 

彼女の名は――十六夜咲夜。『完全で瀟洒な従者』。

 

紅魔館のメイド長にして、館の主レミリア・スカーレットに仕える忠実な従者。普段は紅魔館の家事や管理を一手に担う可憐なメイドだが、ひとたび敵を前にすれば、無数の銀のナイフと駆使する冷徹な戦士へと変わる。

 

「もう少し早く来てくださいよ!」

 

「あなたが勤務中に昼寝をしていなければ、もう少し早く異変に気づけたんじゃない?」

 

「今それ言います!?」

 

「事実でしょう?」

 

「うぅ……」

 

いつものやり取り。だが、咲夜の視線はすぐに敵へ向けられた。奇声をあげて倒れた仲間を踏み越えながら、なお進んでくる異形達。

 

「……随分と多いわね」

 

「そうなんですよ」

 

美鈴も構え直す。

 

「それに、あいつら全然怯まないんです。仲間が何人倒されてもお構いなしで……」

 

「…………」

 

ちょうど一体の兵士が、倒れた仲間を踏み越えた。

その後ろも。さらに次も。

咲夜の目が僅かに細くなる。

 

「……気味の悪い連中ね」

 

その時。

 

――ズズズズ……。

 

再び空間が歪んだ。

 

「ほら!」

 

美鈴が指を差す。

 

「また来た!」

 

新たな兵士達が現れる。さすがの咲夜も、僅かに眉を寄せた。

 

「……なるほど。確かに面倒ね」

 

「美鈴さん!咲夜さん!」

 

今度は館から声が響いた。

 

「小悪魔!」

 

紅魔館から一人の少女が飛び出してきた。

赤みを帯びた髪に、背中から伸びる黒い翼。さらに頭部にも小さな翼のようなものを持つその姿は、一目で人間ではないと分かる。

 

彼女は小悪魔。

 

紅魔館地下の大図書館に住まい、主であるパチュリーの傍から離れない悪魔である。

普段は表立って戦うことこそ少ないが、悪魔として魔力を操ることもできる。

 

そして、その後ろから。一冊の魔導書を開きながら、紫色の髪をした少女がゆっくりと宙を進んでくる。

 

「まったく……」

 

長い紫色の髪。同じく紫を基調としたゆったりとした衣服に、頭にはナイトキャップ。華奢な身体と白い肌だけを見れば、およそ激しい戦闘とは縁遠そうな少女に見える。

しかし、その身体から漂う魔力は決して小さくない。

 

パチュリー・ノーレッジ。『知識と日陰の少女』。

 

紅魔館の地下に広がる大図書館を住処とする、生粋の魔法使いである。

百年以上を生き、膨大な魔法知識を蓄えた彼女は、日・月・火・水・木・金・土――七曜に対応した多種多様な魔法を自在に使い分ける。

 

普段なら滅多に図書館の外へ出ようとはしない彼女まで、正門へ姿を現していた。

 

「これだけ騒がれたら、本も読めないじゃない」

 

「パチュリー様!」

 

「パチェまで来たの?」

 

「館のすぐ外でこれだけ暴れられて、無視できると思う?」

 

パチュリーはそう答えながら敵を見る。

 

「…………」

 

僅かに眉が動いた。

 

「変ね」

 

「何がです?」

 

小悪魔が尋ねる。

 

「こいつらから感じる力。妖力とも霊力とも違う。魔力とも少し違う」

 

魔導書のページがひとりでに捲れていく。

 

「少なくとも――幻想郷のものじゃないわね」

 

その瞬間、異形の兵達が一斉に武器を構えた。

 

「来ます!」

 

小悪魔が叫ぶ。ボイドとアークの銃火――だが。

 

「遅いわ」

 

咲夜が消えた。次の瞬間には敵陣の中央。

彼女を囲むように、無数の銀のナイフが宙へ浮かんでいる。

 

「さようなら」

 

銀の雨が降った。

 

――ザザザザザザッ!!

 

「小悪魔!」

 

「はい!」

 

魔力弾が敵陣へ飛び込む。

 

「私も!」

 

美鈴も飛び出した。

拳。

蹴り。

掌底。

三人の攻撃が重なり、敵の前線を押し返していく。

そして後方では。

 

「火符――」

 

パチュリーがスペルカードを掲げた。

 

「アグニシャイン!」

 

――ドォォォォォン!!

 

灼熱の業火が敵陣を呑み込んだ。

 

「おお!」

 

美鈴の顔が明るくなる。

 

「やっぱり人数が増えると違いますね!」

 

「油断しない」

 

咲夜が即座に告げる。

 

「まだまだいるわ」

 

その言葉通り。黒煙の向こう。

また影が現れた。

 

「……まだいるんですか?」

 

小悪魔の顔が引きつる。

 

「いるわね」

 

パチュリーが淡々と答える。そして。

 

「というより、増えてるわ」

 

「えぇ……」

 

その時だった。

 

「――何をそんなに手こずっているの?」

 

全員が振り返る。紅魔館の正門。

その向こうから、小柄な少女がゆっくりと姿を現した。淡い青色を帯びた短い髪。桃色を基調とした衣服。

その外見だけを見れば、幼い少女と呼んでも差し支えない。

 

だが背中から大きく広がる、蝙蝠を思わせる一対の翼。

そして深紅の瞳。その小さな身体から漂う濃密な妖気が、彼女がただの少女ではないことを雄弁に物語っていた。

 

「お嬢様」

 

咲夜が僅かに頭を下げた。

 

彼女こそ――レミリア・スカーレット。

 

この紅魔館の主にして、五百年以上を生きる吸血鬼。

 

『永遠に紅い幼き月』の異名を持ち、幻想郷でも名の知られた強大な妖怪の一人である。

レミリアは門前へ広がる惨状を見渡した。

そして紅い瞳が不愉快そうに細められる。

 

「随分と派手にやってくれたものね」

 

一歩、また一歩と門の外へ出る。

 

「私の館の前で」

 

濃密な妖気が溢れ出す。

 

「しかも招待もしていないのに、これだけ大勢で押しかけてくるなんて」

 

唇が吊り上がった。

 

「随分と礼儀を知らない客人ね」

 

美鈴が拳を構える。

咲夜の指へ銀のナイフ。

小悪魔が魔力を集める。

パチュリーの周囲へ魔法陣。

その先頭へ。

紅い悪魔が立った。

 

「私の館に手を出したこと――」

 

レミリアの瞳が妖しく輝く。

 

「後悔させてあげなさい」

 

そして、紅魔館総出の迎撃が始まった――。

 

 

同じ頃、霧の湖から紅魔館へ向かっていた一行も、ようやく対岸へ到達しようとしていた。

 

――ドォォォン!!

 

遠くから響く爆発。

 

「見えてきた!」

 

魔理沙が叫ぶ。霊夢達は上空、その下を。

 

――ギュオォォォォン!!

 

三台のスパローが猛烈な速度で駆け抜ける。

やがて森が途切れた。視界が開ける。そして。

 

「――!」

 

ガーディアン達の視界には紅魔館が映る。

だが、その周囲はすでに完全な戦場だった。

 

「……うわあっ」

 

魔理沙が思わず声を漏らす。

 

紅。

青。

緑。

紫。

 

無数の弾幕の火線が空を飛び交っている。その中を黒い銃火が走り、あちらこちらで爆発が起こっていた。

 

「派手にやってるわね……」

 

霊夢が目を細める。

 

「美鈴だ!」

 

チルノが指差した。正門前。

紅い髪をなびかせた門番――美鈴が敵陣へ飛び込み、その頭上を咲夜の銀のナイフが通過する。

後方には、魔力弾を放つ小悪魔と、魔導書を携えたパチュリー。

 

そして、そのさらに前では。

小柄な身体から強大な妖力を迸らせる紅魔館の主、レミリアが紅い弾幕を展開していた。

 

「レミリアもいるわ」

 

霊夢が呟いた。

紅魔館側も総出。

それだけ敵が多い。

 

「こりゃ思ったより酷いな」

 

ケイドの声からも軽さが消える。

 

「待って――」

 

イコラが上を見た。ガーディアンもほぼ同時に気づく。

紅魔館上空。弾幕よりもさらに高い場所。

白い霧の中。菱形の巨大な殻のような物体が浮かんでいた。

 

一つ。

二つ。

三つ。

さらに奥にも。

 

「……シュリーカー」

 

クロウが呟く。ケイドが顔をしかめた。

 

「やっぱりいやがったか」

 

「何よ、あれ」

 

霊夢が尋ねる。

 

「先程ケイドが言っていた例の固定砲台だ」

 

クロウが答える。

 

「近づくと――」

 

――ガコン。

 

一体が開いた。

 

内部。紫色の光。

 

「……あ」

 

魔理沙が声を漏らす。

 

――ガコン。

 

二体目。

三体目。

 

「全員、高度を下げて!」

 

 

イコラが叫ぶ。

 

「シュリーカー起動!」

 

ゴーストの警告。直後。

 

――バシュシュシュシュシュッ!!

 

まるで機関銃のような紫色の砲撃が降り注いだ。

 

「うおっ!?」

 

魔理沙が箒を急旋回させる。霊夢も横へ飛ぶ。

 

「きゃあっ!」

 

「大ちゃん!」

 

チルノが大妖精の手を掴む。

地上。ガーディアンはスパローを一気に加速させた。

 

「おいおいおい!」

 

後ろに乗るケイドが身体を伏せる。

紫色の弾幕が地面を追いかける。

その時。

 

「前方!」

 

ゴーストが警告した。森の出口。

複数のハイヴが武器を構えている。

 

「アコライト!」

 

こちらへ気づいたアコライト達が一斉に発砲した。

ボイド特有の紫色のエネルギー弾。

だがガーディアンは止まらない。

 

「…………」

 

スパローが加速する。

 

「え?」

 

上空、魔理沙が目を丸くした。

 

「おい、まさか――」

 

――ドガッ!!

 

アコライトが真正面から撥ね飛ばされた。

 

「轢いた!?」

 

霊夢が叫ぶ。

 

「邪魔だったからな、あいつらが悪い!」

 

後ろのケイドが答える。

 

「そういう問題!?」

 

だがガーディアン達にとっては、それで終わりだった。

 

「右!」

 

「任せろ!」

 

ゴーストの声。ケイドがスパロー後部から身体を捻る。切り札を取り出す。

 

――ズドンッ!

 

一体。

 

――ドンッ!

 

二体目。アコライトが次々と倒れる。

 

「邪魔だ!」

 

クロウも片手でスパローを操りながらホークムーンを構えた。

 

――ドォンッ!

 

正確な一撃。さらにイコラもショットガンを片手に構えて三人が射撃しながらハイヴを蹴散らしながら進行する。そしてガーディアンは。

 

――ドガッ!!

 

また一体を撥ね飛ばした。

 

「また轢いた!」

 

チルノが叫ぶ。

 

「すごーい!」

 

「感心しない!」

 

霊夢が怒鳴る。

そのまま一行は一気に紅魔館へ突入した。

 

 

――ドンッ!

 

美鈴の背後へ迫っていたアコライトが倒れた。

 

「!?」

 

振り返るそこには見知らぬ者達。

銃を持った機械の男。

黒と白の軽装鎧を着込むの青白い肌と光る瞳の青年。

坊主頭の褐色の女性。

そして、全身を奇妙な装甲で覆った戦士。

さらに。

 

「霊夢!?」

 

「魔理沙さんも!」

 

上空から霊夢達が飛び込んできた。

 

「はあっ!」

 

霊夢の弾幕が敵陣へ降り注ぐ。そして魔理沙は。

 

「――いくぜっ!!」

 

魔理沙が箒の柄を強く握り込み、その先端を敵の群れへと向けた。

次の瞬間、彼女の周囲に無数の星屑が生まれる。

白、青、赤、黄――色とりどりの光が尾を引きながら渦を巻き、箒に跨る魔理沙の身体を包み込んでいく。

 

「彗星――」

 

ぐっと身を伏せる。狙う先には前方のハイヴの群れ。 アコライトが銃口を向け、ナイトが巨大な剣を構えた。だが――遅い。

 

魔理沙の口元が、不敵につり上がった。

 

「ブレイジングスター!!」

 

――ドンッ!!

 

空気が爆ぜた。箒の後方から眩い光が噴き出し、魔理沙の身体が一条の流星となって戦場を駆け抜ける。

 

「うおっ――!?」

 

ケイドが思わず声を上げた時には、もう遅かった。

先ほどまで隣にいたはずの魔理沙は、すでに数十メートル先にいる。

 

いや――飛んでいるという表現すら生温い。

星屑を撒き散らしながら一直線に突き進むその姿は、夜空を翔ける流星そのものだった。

進路上にいたアコライトが慌てて散開する。 間に合わない。魔理沙は速度を落とさない。

 

一体。

二体。

三体――。

 

次々と敵陣を突き抜け、そのたびに星の光が爆ぜる。最後に立ちはだかったナイトが咆哮し、大剣を振り下ろした。

 

「遅いぜ!」

 

魔理沙が身体を傾ける。紙一重で刃をかわし、その脇を閃光となって通過した。

直後。

 

――ズドオオンッ!!

 

背後で巨大な爆発が巻き起こる。爆風に煽られながらも魔理沙は急上昇し、紅魔館の上空へと躍り出た。

長い金髪と黒いスカートが風になびき、その周囲を残光となった星々が流れていく。

 

「へへっ」

 

魔理沙は箒の上で振り返った。眼下には、一直線に抉られた敵陣。

 

「弾幕だけが、魔法使いの戦い方じゃないんだぜ」

 

「あいつの箒にはロケットエンジンでもついてんのかよ……!」

 

ケイドも思わず苦笑い。

 

そして弾幕を展開していたレミリアもすぐに気づいた。

 

「霊夢に魔理沙……そして、あの者達は――」

 

「話はあと!」

 

霊夢が即座に遮る。

 

「今はあの敵を追い返すのに集中して!」

 

「…………」

 

レミリアが一瞬だけ不満そうな顔をする。

当然だ。自分の館へ、正体不明の武装集団が突然やってきたのだから。

だが、今は目の前に敵がいる。

 

「……いいでしょう」

 

レミリアが紅い弾幕を展開する。

 

「ただし、終わったら全部説明してもらうわよ!」

 

「はいはい!」

 

「返事が軽い!」

 

その横で美鈴はケイドを見る。

 

「あなた達は一体……?」

 

ケイドは切り札を構えたまま、僅かに笑った。

 

「こいつらのことをよーく知るヤツらさ」

 

――ドンッ!

 

――ズドンッ!

 

ハンドキャノン特有の、腹の底まで響く重い銃声。

放たれた弾丸はアコライトの頭部を正確に撃ち抜いた。

 

次の瞬間。

 

――ドォンッ!!

 

「えっ!?」

 

撃ち抜かれたアコライトを中心に爆発が起こった。

炸裂したエネルギーが周囲へ飛び散り、近くにいた別のアコライトやスロールまでまとめて吹き飛ばしていく。一発の銃弾が、敵の一団を連鎖的に巻き込んだのだ。

 

それはケイドの愛銃――『切り札』が持つ効果の一つ。

 

『ホタル』。

 

 

名前だけ聞けば幻想的だが、実際に起きていることはまるで可愛らしくない。

 

「…………」

 

美鈴の拳が一瞬止まった。

 

「……なんですか、その物騒な銃」

 

「俺の相棒さ」

 

ケイドは平然と銃口を次のアコライトへ向ける。

 

「話は後だ!」

 

――バァンッ!

 

「今はこいつらを片付ける!」

 

「……分かりました!」

 

美鈴も拳を構える。

 

「じゃあ全部終わったら聞かせてもらいますよ!」

 

「なら紅茶と菓子付きで。できればラーメンもな!」

 

「お嬢様に頼んでください!」

 

「ならまず、そのお嬢様の館を守らないとな!」

 

「はい!」

 

二人が同時に敵へ向かう。その光景を咲夜は戦いながら観察していた。

 

「…………」

 

霊夢達と共に来た。少なくとも、今すぐ敵と判断する必要はない。それに。

 

――ズドンッ!

 

クロウがホークムーンでスロールを撃ち抜く。

イコラも敵の配置を確認しながらナイトに急接近、その大剣が振り落とされるもすかさず翻して回避。

 

「遅いっ!!」

 

――バァン!!

 

至近距離からショットガンの散弾がナイトの全身を捉えてそこらじゅうを穴だらけにして後方へ吹き飛ばした。

 

「うわあ………」

 

美鈴は少し血の気が引く。

 

「……………………」

 

そして中央ガーディアンがグラビトン・ランスを構えた――発砲。紫紺の光弾が敵へ突き刺さる。

直後。

 

――ボン!!

 

奇妙な重力異常が炸裂し、周囲の敵まで巻き込んだ。咲夜の眉が動く。

 

(あれって銃……なの?)

 

知っているものとは明らかに違う。

それだけではない。

彼らの動き。

撃つ。

避ける。

次を狙う。

その判断が異様なほど速い。

 

(この戦い方に……慣れている?)

 

「咲夜」

 

パチュリーが声を掛けた。

 

「見すぎよ」

 

「……パチュリー様こそ」

 

「私は見てるんじゃないわ」

 

魔導書を開きながら平然と答える。

 

「調べてるの」

 

「同じでは?」

 

「違うわ」

 

――即答だった。

 

「パチュリー様」

 

小悪魔もガーディアン達を見る。

 

「あの人達……何なんでしょう?」

 

「さあ」

 

パチュリーの視線がガーディアンへ向く。

 

「でも妙ね」

 

「何がです?」

 

「あの武器だけじゃない」

 

パチュリーの目が細くなる。

 

「彼ら自身から感じる力も、この辺りのものとは違う」

 

「魔力じゃないんですか?」

 

「普通の魔力とは違うわ。霊力でも妖力でもない」

 

未知。それだけで、魔法使いの興味を引くには十分だった。その時。

 

――バシュシュシュッ!!

 

上空。シュリーカーから砲撃。

 

「きゃあっ!?」

 

小悪魔が慌てて回避する。

 

「上!」

 

クロウの声。小悪魔が顔を上げた。

別のシュリーカーが紫色の光を蓄えている。

 

「また撃ってきます!」

 

「分かってるわ」

 

パチュリーが魔法陣を展開する。だがその前に。

 

「相棒!」

 

ケイドが叫んだ。ガーディアンが地面を蹴る。

跳躍――そして、その身体が落ちてこない。

 

「……え?」

 

小悪魔が目を丸くする。空中を滑るように移動している。

 

「飛んでる……?」

 

「違う」

 

パチュリーが即座に否定した。

 

「飛行じゃない」

 

「え?」

 

「少しずつ高度が落ちてる」

 

――グライディング。幻想郷の飛行とは異なる、奇妙な空中機動。

 

「…………………」

 

ガーディアンは右手にボイドのエネルギーを集中させてシュリーカーの中央のコアへ投擲。

 

――ズボボボボッ!!!

 

直撃すると紫の子弾へ分裂し派手に爆ぜる。ガーディアンは休まずグラビトン・ランスを構え、射撃。

 

――ビトン、ビトンッ!

 

紫紺の光弾がシュリーカーへ直撃する。

 

一発。

二発。

三発。

 

「…………」

 

敵へ弾幕を放ちながら、レミリアは横目でその光景を見ていた。

 

奇妙な鎧。

奇妙な武器。

そして、見たこともない力。

 

何より気になるのは――動きだった。

迷いがない。初めて見るはずの戦場でありながら、敵の攻撃を見てから判断しているのではない。

次に何が来るのかを知っているかのように動いている。

 

「……なるほど」

 

レミリアの口元が僅かに上がった。

 

「霊夢。随分と面白い客を連れてきたじゃない」

 

「だから話はあと!」

 

「分かってるわよ」

 

そして咲夜。

パチュリー。

小悪魔。

三人が同じものを見る。

見たことのない武器。

見たことのない力。

見たことのない戦い方。

 

「……何者なの、あの人達」

 

小悪魔が思わず呟いた。パチュリーは、ほんの僅かに興味深そうな笑みを浮かべた。

 

「さあ」

 

魔導書のページを捲る。

 

「でも――」

 

新たな魔法陣が展開される。

 

「後で詳しく聞く必要がありそうね」

 

「同感です」

 

咲夜もナイフを構える。ただし、その視線にはパチュリーとは違う意味での警戒が残っていた。

 

……何者なのか。何を目的としているのか。

どれほどの力を持っているのか。

まだ何一つ分からない。

それでも今だけは。

 

「……まあ」

 

咲夜が銀のナイフを投げる。

 

「敵でないなら、それで十分ね」

 

銀光が異形を貫く。

小悪魔も魔力を集めた。

パチュリーも敵へ向き直る。

 

そして紅魔館を守る者達。

博麗の巫女達。

遠い世界からやって来たガーディアン達。

互いの素性すら、まだほとんど知らない者達が。

紅魔館の正門前で初めて。

同じ敵へ向かって――肩を並べた。

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