東方天命録~The Final Shape Begins~ 作:はならむ
妖精メイド達も加わり、総力戦と化した紅魔館。ステイシスの結晶、瓦礫が混ざり合う異様な空間と化す一帯――。
「レミリアお嬢様の家を壊したあなた達を絶対に許さないんだからーー!!!」
「ここから出てけーー!!」
大妖精、メイド達の無数の魔法の弾幕がハイヴ達へ降り注ぐ。一発一発では大したことはないがまるで雨のように降り注ぐ魔法弾によってスロール、アコライトは穴だらけにされて吹き飛ばされていく――。
「みんな、一気に押し返すよ!」
「うん!!」
その一方で、ルーミアは自身を中心に黒い闇の球体を展開してところ構わずスロール達に体当たりを仕掛けて更に蹴り飛ばすなどの、その幼い少女の見た目からは想像できない力業を見せつける。
「食らうのだー」
――バキッ!
「遅いのだ―!」
――ドゴッ!!
その光景を見たケイドは苦笑いし、
「……やっぱりこの世界怖いな」
「何がだ?」
と、クロウが話に乗る。
「あんな幼い子が平然とハイヴ達を蹴り飛ばしてるんだぜ?」
「…………確かに」
すると、そこに霊夢が隣に入る。
「ルーミアはああ見えて闇を操る妖怪よ。見た目以上に人間以上の力もあるし能力もある。あと、あんた達も気をつけなさい」
「何がだ?」
「ルーミアは基本的に能天気に見えるけど、人間を食べる妖怪なのよ」
「…………は?」
「…………」
銃声と爆発音が鳴り響く戦場の真ん中でケイドとクロウが同時に固まった。
数秒の沈黙――最初に口を開いたのはケイドだった。
「……今なんて?」
「人間を食べる妖怪」
霊夢は平然と繰り返した。
ケイドがゆっくりとクロウを見る。
クロウもゆっくりとケイドを見る。
「クロウ」
「なんだ?」
「俺、エクソでよかったかもしれん」
「私はただの人間じゃない。アウォークンだ」
「それセーフなのか?」
「……知らん」
二人の視線が、再びルーミアへ向けられる。
すると。
「んー?」
いつの間にか戦闘を終えたルーミアが、闇の球体を纏ったままこちらを見ていた。
「どうしたのだー?」
「いや」
ケイドが僅かに後ずさる。
「何でもない」
「?」
ルーミアは首を傾げる。
そして笑顔のまま言った。
「あなたは硬そうだから食べてもおいしくなさそうなのだー」
「ほらぁ!!」
ケイドが即座に叫び、クロウが思わず吹き出す。
「本人が言ったぞ」
「笑ってる場合か!」
「冗談なのだー」
ルーミアは楽しそうに笑う。
「…………冗談よね?」
ケイドが霊夢を見る。
「さあ?」
「おい霊夢!」
だが霊夢は相手にせず、迫ってきたスロールの群れへ御札を投げつける。
「ほら、くだらないこと言ってないで戦いなさい!」
「――イエス、マム」
放たれた霊力弾が爆発し、数体のスロールがまとめて吹き飛ぶ。その直後。
「グオオオオオオッ!!」
低く重い咆哮が戦場へ響き渡った。
瓦礫の向こうから、一体の大型ナイトが姿を現す。
剣を振り上げ、妖精メイド達へ突進していく。
「危ない!」
大妖精が叫んだ。
「任せろ!」
クロウが即座に銃口を向ける。
だが、それより早く青白い閃光がナイトの足元を駆け抜けた。
――パキキキキッ!!
一瞬にしてナイトの両脚がステイシスの結晶に覆われ、その巨体が動きを止める。
「…………!」
その横を、ガーディアンがスライディングで駆け抜けていた。凍結したナイトの眼前で立ち上がると、何の躊躇もなく掌打を打ち込んだ。
――ガシャァァン!!
ステイシスの結晶ごとナイトの身体が砕け散る。
「よし!」
その様子を見た大妖精が再び声を張り上げた。
「今だよ!みんな、押して!!」
「「「おおーーーっ!!」」」
妖精メイド達の弾幕が再び空を埋め尽くす。
魔法。
銃弾。
光。
ステイシス。
そして妖怪達の力。
本来なら決して交わるはずのなかった二つの世界の力が、紅魔館という一つの戦場で重なり合い、押し寄せるハイヴの軍勢を少しずつ――だが確実に押し返し始めていた。
一方、アラークハルは斧を構えてとある方向へその巨大な体躯を向ける。視線の先は――フランドール。
「……私?」
彼女がすぐさまレーヴァテインを構える。
――ドンッ!!
アラークハルが地面を蹴った。
先ほどまでの重々しい歩みから一転。
巨体が一気に加速する。
「フラン!」
レミリアが叫ぶ。だが彼女、フランドールは逃げなかった。
むしろレーヴァテインを両手で構え、真正面からアラークハルを迎え撃つ。
「さあおいで、あたしと遊びましょう!」
光を帯びた巨大な斧が振り下ろされた。
――ガァァァァン!!
大斧と魔剣が真正面から激突した。
凄まじい衝撃波が庭園を駆け抜け、周囲に残っていたステイシス結晶が一斉に震える。足元に散らばっていた石片まで跳ね上がり、二人を中心に放射状の亀裂が石畳へ走った。
アラークハルが斧へさらに力を込める。
フランドールの小さな身体が僅かに後ろへ滑り、足元の石畳が砕ける。
だが。
少女の口元には笑みが浮かんでいた。
「……重いね」
アラークハルがさらに押し込む。
巨体。
腕力。
そして光によって強化された力。
そのすべてが斧へ乗せられる。
それでも。
フランドールの笑みは消えなかった。
「でも――」
紅い瞳が鋭く輝く。レーヴァテインを握る両腕へ、さらに力を込めた。
「私の方が遥かに強いよ!」
それまで拮抗していた二つの武器が、少しずつ動き始める。
押されているのはアラークハルの方だった。
「……!」
クロウが目を見開く。
巨大な斧が徐々に押し上げられていく。
そして。
――ガキィィィン!!
ついに斧が大きく上方へ弾かれた。
アラークハルの上体が仰け反る。
フランドールはその隙を逃さなかった。
踏み込むと同時に、レーヴァテインを横薙ぎに振るうがアラークハルが斧で受ける。
――ガァン!!
すぐさま切り返す。
――ガキィン!!
斬り上げ。
振り下ろし。
さらに突き。
小さな身体から次々に繰り出される斬撃は、その一つ一つが巨大なナイトの巨体すら吹き飛ばしかねないほど重い。
だが、アラークハルもただ受け続けるだけではなかった。
巨大な斧を驚くほど巧みに操り、レーヴァテインを受け流しながら、僅かな隙を見つけて反撃を返す。
大斧がフランドールの頭上を通過した。
金色の髪が風圧で激しく揺れる。
「惜しいね」
フランドールは楽しそうに笑うと、その場で身体を沈めた。勢いのまま回転し、レーヴァテインをアラークハルの横腹へ叩き込む。
――ガァァァン!!
巨体が横へ大きく流れる。
一歩、さらに一歩。
アラークハルが後退した。
「……押してる」
美鈴が驚いたように呟く。
咲夜もまた、普段以上に真剣な表情で二人の戦いを見つめていた。
◇
アラークハルとフランドールが真正面から激突する一方で、紅魔館の庭園では未だハイヴの増援が途切れていなかった。
崩れた外壁。 砕けた門。 そこから次々とスロールやアコライトが雪崩れ込んでくる。
「また来たよ!」
大妖精が叫ぶ。妖精メイド達が一斉に振り返り、魔法弾を放つ。
色とりどりの弾幕が押し寄せるスロール達へ降り注ぎ、前列の数体をまとめて吹き飛ばした。
だが。
「多い……!」
その後ろから、さらに別の群れが現れる。
アコライト。 ナイト。 そして数体のウィザード。
紅魔館へ続く道を埋め尽くすほどのハイヴが、一斉にこちらへ押し寄せていた。
「館に入れちゃ駄目!」
大妖精が声を張り上げる。
「みんな、とにかく撃って!」
「「「おおーっ!!」」」
再び妖精メイド達の弾幕が放たれる。
だが先ほどまでとは違う。 敵の数が多すぎる。
スロール達を撃ち倒しても、その死骸を踏み越えて次の群れが迫ってくる。
さらに後方ではウィザード達が両腕を広げた。
緑色のハイヴ魔術が宙へ集まり始める。
「まずい!」
クロウがホークムーンを構えた。
「私が行く!」
静かな声が、その横から聞こえた。
「イコラ?」
クロウが振り向く。イコラはすでに前へ歩き出していた。
彼女の視線は、押し寄せるハイヴの軍勢へ向けられている。
スロール。 アコライト。 ナイト。 そしてその後ろで魔術を準備しているウィザード。
敵は一か所へ密集していた――ならば。
「ちょうどいいわね」
イコラが小さく呟いた。
そして右手を開く。
「……?」
近くにいた美鈴が、その動きに気づいた。
次の瞬間。
――ヴゥゥゥン……。
低い振動音が空気を震わせた。
イコラの掌へ、紫色の光が集まり始める。
最初は拳ほどの大きさだった。
だが。
光は瞬く間に膨張する。
紫。
黒。
そして星空そのものを凝縮したかのような、深い虚無の色。
周囲の空間が僅かに歪んだ。
「……何ですか、あれ」
美鈴が思わず呟く。パチュリーも戦闘の合間に視線を向けた。
「魔力……?」
違う。
そう言いかけて、口を閉じる。
イコラの手に集まっている力からは、幻想郷で使われる魔法とはまるで異なる性質を感じた。
炎でもない。 雷でもない。 冷気でもない。
むしろそこに存在するものを――消してしまうような。
「ノヴァボム!」
ゴーストが小さく呟く。
その瞬間、イコラが地面を蹴った。
「!」
身体が宙へ浮かび上がる。
ローブの裾が大きく広がり、その右手に抱えられた紫色の球体がさらに膨れ上がった。
押し寄せていたハイヴ達も、ようやく異変に気づく。アコライト達が一斉に銃口をイコラへ向けた。
「危ない!」
大妖精が叫ぶ。無数のハイヴ弾が放たれる。
だが、イコラは避けなかった。
ただ眼下の敵陣を見据える。
「邪魔よ!」
――ウォーロック、ボイドSC【ノヴァボム:ボルテックス】!!
右腕を振り抜いた。紫色の巨大な球体が放たれる。
――ヒュォォォォォォン!!
空気を歪ませながら、ノヴァボムがハイヴの軍勢へ一直線に飛んでいく。
「……え?」
妖精メイドの一人が目を丸くした。
それはまるで小さな星だった。
紫色に輝く巨大な塊が、押し寄せていたハイヴ達の中央へ落下する。そして、
――――ズドォォォォォォォン!!
庭園全体が紫色の閃光へ包まれた。
「うわっ!?」
美鈴が思わず腕で顔を庇う。
爆発――いや。
単なる爆発ではない。
着弾地点を中心として、巨大なボイドの渦が広がった。
スロール達が巻き込まれる。
アコライト達も。
ナイトさえも。
「グァァァァッ!!」
凄まじい力によって身体を引き寄せられ、そのまま紫色の虚無へ呑み込まれていく。
ウィザード達が逃れようと高度を上げる。
だが遅い、ボイドの爆発がその身体を捉えた。
一体。
二体。
三体。
次々と身体が紫色の粒子へ変わり、跡形もなく消滅する。
ほんの数秒前までそこには数十体ものハイヴがいた。
だが紫色の爆炎が消えた後。
そこには何も残っていなかった。
地面は巨大に抉れ。
中心部には紫色のボイドエネルギーだけが、残滓のようにゆらゆらと漂っている。
「…………」
大妖精が口を開けたまま固まっている。
妖精メイド達も。
美鈴も。
小悪魔も。
誰もすぐには言葉を発せなかった。
その静寂の中。
イコラがゆっくりと地面へ降り立つ。
何事もなかったかのように。
「これで少し時間が稼げるわ」
淡々とそう告げた。
「…………」
美鈴がボイドによって抉れた地面を見る。
それからイコラを見る。
もう一度、地面を見る。
「……あの」
「何?」
「あなたも相当おかしくないですか?」
「…………」
イコラの眉が僅かに動く。少し離れた場所で、その会話を聞いていた霊夢が即座に言った。
「今更よ」
「いやいやいや!」
美鈴が思わず声を上げる。
「今の見ました!?」
「見てたわよ」
「あれ一発でほとんど消し飛びましたよ!?」
「だから言ったでしょ」
霊夢は御札を構え直しながら、呆れたように肩を竦める。
「こいつら、揃いも揃って普通じゃないのよ」
「お前らも大概だぞ」
離れた場所からケイドが口を挟む。
「なんか言った?」
「さあな」
イコラの視線はすでに別の場所へ向いている。
湖中央。
アラークハル。
フランドールと真正面から打ち合う巨大なナイト。
そして、さらにその背後から現れようとしているハイヴの増援。
「まだ来るわよ」
イコラが静かに告げる。
その声を聞いた瞬間。
全員の表情が戦士のものへ戻った。
妖精メイド達が再び弾幕を構える。
大妖精も両手へ魔力を集める。
美鈴が拳を握る。
クロウとケイドが銃を構え直す。
そしてイコラも再び両手へボイドの光を纏わせた。
「ここを抜かせない」
その声には先ほどまで作戦を指示していた指揮官としてではなく。
長い戦いを生き抜いてきた、一人のガーディアンとしての強い意志が宿っていた。
◇
アラークハルとフランドールの真正面からの力比べでは彼女が勝っている。
「相手が悪かったわね!」
その時、アラークハルが不意に斧から右手を離した。
掌へ青白い雷光が集まる。
「!」
フランドールは即座に飛び退いた。
――バチィィィン!!
特大のアーク弾が目の前を掠め、その背後で爆発する。
「もう、その手は分かったよ!」
爆煙の中からフランドールが飛び出す。
だが同時にアラークハルも煙を突き破っていた。
巨大な斧が振り下ろされる。
フランドールはレーヴァテインを正面へ構えた。
――ガァァァァァン!!
再び二つの武器がぶつかり、二人の足元が大きく沈む。
しかし今度は最初から違っていた。
フランドールは押されない。
むしろアラークハルが両手で斧を支えているにもかかわらず、レーヴァテインがじわじわと前へ進んでいく。
「さっきさあ」
フランドールが笑った。
「私の攻撃、耐えたよね」
さらに一歩、アラークハルの足元が砕ける。
「だったら」
レーヴァテインを包む紅い炎が、一段と激しく燃え上がる。
「もっと強くすればいいんでしょ?」
――ドンッ!!
一気に押し切りアラークハルの斧が上方へ弾かれ、防御が完全に開く。
「フラン!」
レミリアはその瞬間を待っていた。
「退きなさい!」
「えー、まだ遊びたいのに!」
「言うこと聞きなさい!」
「ちぇっ!」
フランドールが渋々、横へ離脱する。
同時に、レミリアの右手へ濃密な紅い妖力が集まり始めた。光は瞬く間に一本の長大な槍へ形を変える。
「神槍――!」
腕を大きく引く。
そして振り抜いた。
「スピア・ザ・グングニル!!」
紅い神槍が一直線に戦場を貫いた。
――ズドォォォォン!!
アラークハルの胸部へ直撃。
すでに何度も攻撃を受けていた分厚い装甲が、ついに大きく弾け飛んだ。巨体そのものも後方へ大きく吹き飛ばされる。
「パチェ!」
「分かってるわ」
パチュリーはすでに魔導書を開き、準備を終えていた。彼女を取り囲むように幾つもの魔法陣が展開される。
火。
水。
木。
金。
土。
異なる属性の魔力がそれぞれの魔法陣へ集まり、その周囲の空気を震わせていく。
「小悪魔も続いて!」
「はい!」
小悪魔も両手を前へ向け、ありったけの魔力を集めた。
アラークハルはまだ立とうとしている。
大斧を地面へ突き立て、それを支えに片膝を起こそうとする。
だが。
先ほどのような異常な再生は間に合っていない。
胸部にはグングニルによる深い傷。
肩や腕にはフランドールとの近接戦で受けた損傷。
全身の鎧も大きく砕けている。
「撃って」
パチュリーが静かに告げた。
次の瞬間。
無数の魔法が一斉に放たれる。
――ドドドドドドドドッ!!
炎が走る。水流が巨体を呑む。
雷撃が全身へ絡みつき、さらに無数の魔力弾がそこへ重なった。
「……………………!!」
巨大な爆炎がアラークハルを包み込む。
地面が揺れ、爆風が荒れ果てた庭園を駆け抜けた。
誰もすぐには動かなかった。
ゴーストが爆煙の向こうを走査する。
「アラークハルの生命反応、急激に低下しています!」
クロウの表情が変わる。
「いける」
イコラも同じ判断だった。
煙がゆっくりと晴れていく。
その中。
アラークハルは片膝をついていた。
胸部を覆っていた鎧はほとんど残っていない。
肩口も深く抉れ、全身から黒煙が立ち上っている。
大斧を地面へ突き立て、それを杖代わりにして、辛うじて身体を支えている状態だった。
そして何より。
先ほど全員の集中攻撃を受けた時に見せた、異常なまでの急速再生が起きていない。
「生命反応、危険域です!」
ゴーストが告げる、フランドールがレーヴァテインを握り直した。
「もう少し遊びたかったのになあ」
ケイド、クロウ、イコラ、ガーディアンは武器を構え、霊夢は御札を手に取り、魔理沙も八卦炉へ再び魔力を集める。
あと一撃。もう一度攻撃を集中させれば。
今度こそ倒せると――。
『お前の役目はまだ、終わっていない――』
アラークハルの脳裏に目撃者の声が響いた――。