東方天命録~The Final Shape Begins~   作:はならむ

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第二十九話:復活――光の刃、アラークハル ⑤

――霧の湖中央。巨大なステイシスの足場に立つアラークハルが、再び大斧をゆっくりと持ち上げた。

先ほど湖全体を巻き込むほどのアーク放電を放ったばかりだというのに、その刃には早くも新たな青白い光が集まり始めている。最初は小さな火花に過ぎなかったそれは、瞬く間に斧の刃全体へ這い広がり、柄から腕、肩へと絡みつくように増幅していった。

 

――バチッ。

 

短い放電が空気を裂く。それだけで湖上の霧が僅かに揺れた。

 

「……また何か来るぞ」

 

クロウがホークムーンを握り直した。ケイドも切り札を構えながら、冗談を言うことなく湖中央を睨む。

 

「あいつ、まだ終わりじゃねえのかっ」

 

「終わるつもりなら、あんな溜め方はしないでしょうね」

 

イコラの声は落ち着いていたが、その表情には明確な警戒が浮かんでいた。

霊夢も御札を構え直す。

身体にはまだ、先ほど受けた傷が残っている。呼吸をするたび脇腹に鈍い痛みが走ったが、それを気にしている余裕はなかった。

 

「今度は何するつもりよ……」

 

魔理沙も八卦炉を握り、アラークハルの動きを見逃すまいと目を細めた。

その時だった。

 

「……待って」

 

パチュリーが低く呟いた。

 

「何?」

 

レミリアが振り向く。だがパチュリーの視線はアラークハル本人へ向いていなかった。

 

庭園だった。

 

ハイヴとの戦闘によって荒れ果てた紅魔館の庭。その各所には、先ほどアラークハルが作り出した巨大なステイシスの壁、その残骸が今も大量に残されている。

 

あの壁は、アラークハル自身が大斧による縦一閃を叩き込み、無数の結晶片へ吹き飛ばしたものだ。

大きな破片は砕けた石畳へ突き刺さり、小さなものは瓦礫の間へ散乱している。紅魔館の外壁や屋根にまで突き刺さったものもあり、青白い結晶はまるで戦闘の傷跡そのもののように庭園一帯へ残されていた。

 

その結晶の一つが淡く光った。

続いて、もう一つさらに別の場所でも。

 

「……まさか」

 

パチュリーの表情が険しくなる。

同時に、湖中央のステイシスの足場から大きな軋みが響いた。

 

「結晶が、共鳴している……?」

 

一本の結晶が根元から剥離する。

しかし、それは水中へ落ちなかった。

湖面の上で静止したまま、ゆっくりと宙へ浮かび上がる。

 

「浮いた……?」

 

チルノが目を丸くした。

 

さらに二本、三本と続く。

大小様々なステイシス結晶が足場から分離し、アラークハルの周囲を離れて湖上へ広がっていった。

あるものは水面すれすれ。

あるものは上空。

あるものは岸辺。

さらに、庭園へ残っていた先ほどの壁の破片までもが、それに呼応するように輝きを強め始める。

魔理沙が周囲を見渡し、顔を引きつらせた。

 

「おい……あいつまさか」

 

パチュリーが答える。

 

「戦場に残っている結晶を、全部利用する気!?」

 

その言葉を裏付けるように、湖中央でアラークハルが斧を高く掲げた。

 

――バチバチバチッ!!

 

今度こそ、膨大なアークエネルギーが一気に刃へ集中した。

ゴーストが即座に走査を始める。

 

「アーク反応、急上昇しています!」

 

「全員、今すぐ散開!」

 

イコラの声が飛ぶ。霊夢達は反射的に距離を取った。

だがアラークハルの斧が向いた先に、誰もいなかった。

狙っているのは自分のすぐ近くを浮遊する一つのステイシス結晶。

 

「……?」

 

咲夜が眉を寄せた。

次の瞬間、アラークハルが斧を振り抜いた。

 

――バチィィィィン!!

 

巨大なアーク弾が真正面からステイシス結晶へ叩き込まれた。

結晶全体が眩い青白い光に包まれる。

そこで雷撃は消える。

一瞬、誰もがそう思った。だが。

 

――バチンッ!!

 

雷撃が、あり得ない角度へ折れ曲がった。

 

「なっ!?」

 

魔理沙が目を見開く。一つ目の結晶から跳ね返ったアークが、数十メートル離れた別の結晶へ飛び込む。

そして今度は二本へ分かれた。

一本は上空、もう一本は湖面近く。

それぞれが別のステイシス結晶へ命中し、そこからさらに分裂する。

二本が四本へ四本がさらに枝分かれして青白い雷光が、巨大な蜘蛛の巣を張るように湖上へ広がっていく。

 

「結晶がアークを中継しています!」

 

ゴーストの声が鋭くなる。

 

「それだけじゃありません! 一部が分岐しています!」

 

「分岐!?」

 

霊夢が叫んだその直後。

湖上を走った一本の雷撃が岸辺へ到達した。

そこには先ほど粉砕された巨大なステイシス壁の破片が、石畳へ深く突き刺さっている。

 

――バチィン!!

 

アークがそこへ飛び込んだ。

そして庭園全体が光った。

 

「まずい!」

 

イコラが叫んだ直後、先ほどまで単なる戦闘の残骸だったステイシス結晶が一斉に雷撃を受け渡し始めた。

 

湖から岸へ、岸から庭園へ、庭園から紅魔館の壁際へ、外壁に突き刺さった結晶から上空へ。

 

そこから再び湖へアークは次々と角度を変えながら戦場全体を駆け巡り、ほんの数秒で無数の青白い線が辺り一帯へ張り巡らされていった。

 

「全員、直ちに結晶から離れて!」

 

イコラが叫ぶ。霊夢は反射的に周囲を見る。

そして。息を呑んだ。

右にもある。

左にも。

頭上にも。

背後にも。

地面にも。

先ほどの戦いで撒き散らされたステイシスが、あまりにも多すぎる。

 

「こんな……どこに離れろっていうのよ!」

 

その声に応えるように、正面から一本のアークが迫った。

 

霊夢は身体を横へ捻る。青白い雷撃が脇を掠めて通り過ぎる。

 

「っ……!」

 

避けた。しかしその先に結晶が――。

 

――バチンッ!!

 

雷撃が跳ね返る。

今度は霊夢の背後。

 

「え……?」

 

振り返る暇などなかった。

 

――バリィィィィン!!

 

「きゃあああああっ!!」

 

アークが霊夢の背中へ直撃した。

すでに負傷していた身体へ、凄まじい電流が一気に流れ込む。全身の筋肉が強制的に硬直し、御札を握っていた指が開いた。飛行を維持できない。

霊夢の身体が落ちる。

 

「霊夢!」

 

魔理沙が箒を反転させた。だが。

 

「魔理沙、上!」

 

イコラの警告。魔理沙が顔を上げると頭上の結晶が青白く輝いていた。

 

「っ!」

 

箒を急旋回させる。一撃目は避けた。

しかし、その雷撃もまた右側の結晶へ飛び込む。

魔理沙が目を見開いた。

 

「……冗談だろ」

 

――バリィィィィン!!

 

「ぐあっ!!」

 

胸部へ直撃。八卦炉が手から弾き飛ばされ、箒も制御を失った。魔理沙の身体は空中で何度も回転し、そのまま湖岸へ叩きつけられる。

 

「魔理沙!」

 

チルノが思わずそちらへ顔を向けた。

その一瞬が命取りになった。

チルノの正面と右、さらに斜め上に浮いていた三つの結晶がほぼ同時に発光する。

 

「こんなの!」

 

チルノは咄嗟に巨大な氷壁を作った。

 

「あたいの氷で防いで――!」

 

だがアークエネルギーの雷は氷壁へ直進しない。

途中のステイシス結晶へ飛び込み、真横へ跳ね返った。

 

「え?」

 

――バチィィィン!!

 

「ぎゃああっ!!」

 

小さな身体が大きく弾かれる。

翼まで電流が走り、一瞬にして飛行能力を失ったチルノは、湖面へ落ちる寸前で岩場へ叩きつけられた。

 

「チルノちゃん!」

 

大妖精が悲鳴を上げる。

 

「大ちゃん、前!」

 

妖精メイドの声に大妖精が振り返った時にはもう遅かった。

 

――バリィィィィン!!

 

「きゃあああっ!!」

 

正面から雷撃を受ける。さらにそのアークが背後の結晶へ反射した。

 

二撃目。

 

大妖精は悲鳴を上げることすらできなかった。

全身から力が抜け、そのまま空中から落下する。

 

「大ちゃん!」

 

近くにいた妖精メイドが慌てて抱き止める。

だが。今度はその妖精の背後で光が走った。

 

――バァン!!

 

「きゃっ!」

 

二人まとめて吹き飛ばされる。

そこから妖精メイド達の戦線は一気に崩れ始めた。

 

「右から!」

 

「上も来るよ!」

 

「後ろ!」

 

必死の警告が飛び交う。

しかし一撃を避けても終わらない。

避けた雷撃は別の結晶へ。

そこからさらに別の角度へ。

壁を盾にしても壁際に刺さったステイシス結晶が、アークをその裏側へ送り込んでくる。

 

「きゃあっ!」

 

「うあっ!」

 

「飛べない……!」

 

妖精メイド達が次々と落ちていった。

ナイフが石畳へ散らばる。

翼を焼かれた者。

腕の痺れで弾幕を出せなくなった者。

仲間を助けようとして、そのまま一緒に雷撃へ巻き込まれる者。

 

「みんな、こっちに逃げて!」

 

ルーミアが闇を大きく広げる。

妖精達を隠す。

だがアークは視界など必要としていなかった。

暗闇の中、ステイシスの結晶だけが不気味に青白く輝いた次の瞬間。

 

――バリィィィン!!

 

闇が雷光に切り裂かれた。

 

「うあっ!」

 

ルーミアも紅魔館の外壁近くまで吹き飛ばされる。

 

「まずい!」

 

美鈴がすかさず落下してくる妖精メイドを一人受け止め、続けてもう一人。

 

「あなた達、しっかりして!」

 

腕の中の妖精へ呼びかける。

返事はない、呼吸だけはある。

その背後庭園へ突き刺さっていた巨大なステイシスの破片が青白く輝くのを咲夜が気づく。

 

「美鈴!」

 

彼女は銀の懐中時計を取り出して時間を止める。

世界から音が消えた。

瓦礫も。

水飛沫も。

落下途中の妖精もすべてが静止する。

咲夜だけが美鈴の元へ向かう。

しかし、数歩進んだところで足が止まった。

 

「……そんな」

 

青白いアーク。

完全には止まっていない。

恐ろしく遅い。

それでも確かに静止した時間の中を進んでいる。

咲夜の紅い瞳が僅かに見開かれた。

 

 

『パラコーザル』。

 

 

こちらの世界の法則だけでは完全に縛れない力。

 

「ウソでしょ……!」

 

咲夜は迷わず美鈴へ駆け寄り、彼女と抱えていた妖精達を強引に横へ押し退けた瞬間、時間が動き出した。

 

――バリィィィィン!!

 

「っ……!」

 

完全には避け切れなかった。

雷撃が咲夜の左肩を掠め、そのまま背中へ抜けた。

身体が大きく弾かれ、石畳へ叩きつけられる。

 

「咲夜さん!」

 

美鈴が駆け寄る。咲夜はすぐに起き上がろうとした。だが左腕が動かない。

 

「……平気よ」

 

「全然平気じゃないですよ!」

 

美鈴自身も右腕を押さえていた。

妖精達を庇う間に何度もアークの余波を受け、拳を完全に握れなくなっている。

その光景をレミリアが上空から見ていた。

 

咲夜。

美鈴。

妖精メイド達。

 

自分の館を守ってきた者達が、次々と倒されていく。

 

「…………」

 

紅い瞳に怒りが宿る。

 

「よくも……!」

 

その漆黒の翼を広げ、湖中央のアラークハルへ向かおうとした。

 

「レミィ、駄目!」

 

パチュリーの声。

同時に左右のステイシス結晶が発光した。

レミリアは一撃目を高速で回避し、続く二撃目も翼を畳んで急降下して躱す。

だがその二本が別の結晶へ。

そして上下から戻る。

 

「――なっ!」

 

――バリィィィィン!!

 

「あああああっ!!」

 

二本のアークがレミリアの身体を挟み込んだ。

強靱な吸血鬼の肉体さえ、全身を駆け巡る電流までは無視できない。

翼が硬直し、高度が落ちた。

 

「お姉様!」

 

フランドールが飛び出して姉を受け止めようとする。

 

「こんな雷ごときにあたし達が――!」

 

その背後には巨大なステイシス結晶が。

 

「妹様、後ろ!」

 

咲夜が叫ぶ。フランドールが振り返る。

青白い雷光。迫る。レーヴァテインを構えた。

 

――バチバチバチバチッ!!

 

「う……っ!」

 

正面から受け止める。

小さな身体が押される。

それでも踏ん張る。

だが背後にはもう一つ。

 

「フラン!」

 

――バリィィィン!!

 

「きゃあああっ!!」

 

二発目が背中へ直撃した。

両腕から力が抜け、レーヴァテインが消える。

正面から押さえていたアークまで一気に流れ込み、フランドールはレミリアとともに湖岸へ叩き落とされた――。

 

「お嬢様!フラン様!」

 

今度は二人ともすぐには立ち上がらなかった。

 

「……くぅっ!!」

 

一方、パチュリーは小悪魔を庇いながら、幾重もの障壁を展開していた。

 

一枚目。

 

雷撃が直撃し砕ける。

二枚目、亀裂。

三枚目、大きく歪む。

 

「パチュリー様!」

 

小悪魔が背後から魔力を送る。

 

「まだ……大丈夫よ……!」

 

パチュリーは必死に耐える。

しかし正面へ意識を集中しすぎた。

足元には瓦礫の間に転がっていた。

小さなステイシスの破片。

先ほどアラークハルが壁を粉砕した時の残骸。

そこへ一本のアークが流れ込んだ。

 

「パチュリー様、下!」

 

小悪魔の叫び。

 

――バリィィィィン!!

 

障壁の内側で雷光が炸裂した。

 

「っ……!」

 

「きゃああっ!!」

 

二人まとめて吹き飛ばされる。

パチュリーの手から魔導書が落ち、展開していた魔法陣も一斉に消えた。

そしてガーディアン達も同じように追い詰められていた。

 

「正面!」

 

クロウがホークムーンを連射し、目の前に浮いていた大きなステイシス結晶を砕く。

 

「よし――」

 

「クロウ、待って!」

 

砕けた破片が落ちない。

細かな欠片が空中に漂う。

そこへ一本のアークが触れる。

 

――バチバチバチバチッ!!

 

クロウの顔色が変わった。

一つだった反射点が数十へ増える。

 

「早く散れ!」

 

ケイドが叫ぶ。

だがもう遅かった。

無数の細い雷光が一気に広がった。

 

――バリィィィン!!

 

「ぐあっ!」

 

ケイドの胸部へ直撃。エクソの身体が大きく吹き飛ばされ、背中から地面へ叩きつけられた。

装甲が黒く焼け、首元から小さな火花が散る。

 

「ケイド!」

 

クロウが振り向く。ケイドは一瞬動かない。

 

「…………」

 

そして片手が僅かに上がった。

 

「し……心配すんな、まだしぶといぞ俺は」

 

弱い声、それだけだった。

冗談は続かない。

ケイドにはゴーストがいない。

この損傷は簡単には消えない。

 

「待ってろ、今助ける!」

 

「来るな坊や!」

 

クロウが駆け寄ろうとしたがその右腕へ雷撃が直撃し、ホークムーンが弾き飛ばされた。

続けて胸部にも直撃。

 

――バァン!!

 

シールドが砕け散る。

 

「っぐ……!」

 

クロウの身体も地面へ吹き飛ばされた。

 

「クロウ!」

 

イコラが前へ出て紫色のボイドが広がり、二人を守る障壁となった。そこへアークが次々と殺到する。

一発。

二発。

三発。

防御が大きく揺れる。

 

「まだよ……!」

 

だが左側には別の結晶が発光していた。

 

「イコラ、左!」

 

ゴーストが叫ぶ。

彼女はすぐに振り向くが間に合わない。

 

――バリィィィィン!!

 

「っああっ!」

 

横腹へ直撃した。

ボイドの防御が崩れ、イコラも地面へ叩きつけられる。

 

「……………!」

 

そして湖岸、最後まで動いていたガーディアンの周囲にも青白い雷撃が殺到していた。

 

「ガーディアン!」

 

正面から枝分かれした稲妻が迫り、ガーディアンは地面へ滑り込むようにスライディングし、紙一重で下を潜り抜ける。

そのまま地面を蹴りグライド。

二本目を空中で回避した。

右から三本目、身体を捻る。

一発。

二発。

三発。

なんとか避けた。

 

「そのまま――」

 

ゴーストが言いかける。

だが中央眼が大きく開いた。

ガーディアンが避けた三本。

それぞれが別々のステイシス結晶へ命中していた。

 

――バチンッ!!

 

三本のアークが一斉に向きを変える。

 

「ガーディアン、戻ってきます!!」

 

右。

左。

背後。

同時。

 

全く逃げ場がない。

ガーディアンはゼノファジを手放した。

両腕を交差させ、頭部と胴体を庇う。

 

――バリィィィィィィン!!

 

第一撃に正面。

シールドが激しく輝く。

耐えるがほんの一瞬。

そして。

 

――――――!!

 

光の膜が砕け散った。

 

「シールドダウン!」

 

第二撃、背中。

 

――バァン!!

 

身体が前方へ大きく弾かれる。

そこへ三撃目が続いて横腹へ。

 

――ドンッ!!

 

ガーディアンの身体が空中で回転した。

地面へ落ち石畳の上を何度も転がり崩れた瓦礫へ激突。

 

「ガーディアン!!」

 

すぐさま駆け寄り中央眼を近づける。

 

……生命反応はある。

 

だがシールドは完全消失。

アーマーの各所から薄い煙が上がる。

 

「返事をしてください!」

 

この数秒、異様に長く感じられた。

やがて指先が僅かに動いた。

 

「……!」

 

片腕を地面へつき、ゆっくりと身体を起こそうとするが一度、力が抜け再び倒れる。

 

「無理しないでください!」

 

ゴーストが叫ぶ。

 

「シールドは完全に落ちています!アーマーも複数箇所が損傷しています!」

 

それでもガーディアンはもう一度腕を立てた。

今度はどうにか片膝をつくところまでで、そこで止まる。

 

「………………っ!」

 

……立てない、呼吸も荒い、それでもヘルメットは。

湖中央へ向いていた。

アラークハルはまだ立っている。

こちらから浴びせた傷を全身へ刻み、装甲を砕かれ、本来ならとうに倒れているほど傷ついている。

それでも目撃者から与えられたと思われる異質な加護に守られたまま巨大な斧を握り、ステイシスの足場に立ちながらこちらを見下ろしている。

 

「……霊夢、大丈夫かっ?」

 

「………………」

 

一方、霊夢は地面へ倒れ魔理沙も瓦礫の横から起き上がれない。

チルノ、大妖精、ルーミア妖精メイド達。

まともに飛べる者さえ少なくなった。

レミリアとフランドールも湖岸へ叩き落とされたまま。

咲夜は左腕を動かせず、美鈴も片腕をまともに使えない。

パチュリーと小悪魔は魔法を維持できない。

ケイドは胸部から火花を散らし。

クロウのシールドは失われ。

イコラも地面へ倒れている。

そしてガーディアンさえ。

立ち上がることができない。

 

「…………………………」

 

アラークハルへの攻撃は届かない。なのに奴の攻撃は避けても避けても戻ってくる。

どこにも安全な場所がない。

その事実が何よりも重かった。

やがて長く続いたアークの乱反射が、ようやく弱まり始めた。

庭園を走っていた青白い雷光が一本、また一本と消えていき、湖上に張り巡らされていた光の網も少しずつ薄れていく。

だが誰も安堵しなかった。

これで勝ったわけではない。

耐え切ったわけでもない。

ただアラークハルの一度目の攻撃が終わろうとしているだけだった。

最後のアークが湖面を走り消えた。

一瞬、何も聞こえなくなる。

やがて荒い呼吸。

崩れた紅魔館から落ちる瓦礫。

そして湖面で小さな水音。

 

「え……?」

 

チルノが僅かに顔を上げた。

白いものが一つ湖面へ浮かぶ。

それは魚だった。

腹を上へ向け。

動かない。

その横。

もう一匹。

そして。

さらに。

一匹。

また一匹。

先ほど湖を駆け巡ったアークは、水中にまで届いていた。

感電した魚達が次々と白い腹を見せながら。

霧の湖へ浮かび上がってくる。

 

「…………」

 

チルノはただそれを見ていた。

自分が毎日のように遊んできた湖。

大妖精と飛び回った場所。

妖精達と騒いだ場所。

そこに死んだ魚が次々と浮かんでくる。

 

「あたいの……湖が……っ」

 

その声はほとんど聞こえないほど小さかった。

怒りも悔しさもある。

だが、今の身体では拳を握ることしかできない。

そして、湖の中央ではアラークハルがまだ立っている。

 

「……たくっ、冗談じゃないわよ……こんなの、まともに喰らってられないわ……」

 

霊夢は地面へ手をついたまま、荒い息の中でその姿を睨んだ。

誰も口にはしなかった。

だが、その場にいる全員が同じことを理解していた。

今の攻撃をもう一度受けたなら、次は誰かが生き残れないかもしれない……。

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