東方天命録~The Final Shape Begins~ 作:はならむ
眩い光が収まる頃には、境内を埋め尽くしていた敵影は跡形もなく消え去っていた。
土煙だけが静かに舞っている。
魔理沙は八卦炉を肩に担ぎ、得意げに笑った。
「へへっ、どうだ!」
「これで終わりだぜ!」
霊夢も息を整えながら周囲を見渡す。
「……もういないみたいね。これで終わりと願いたいわ」
ガーディアンはなお警戒を解かず、オートライフルを構えたまま辺りを見回す。
ゴーストも静かに周囲をスキャンする。
「敵反応を確認……」
「残存個体……ゼロ」
一拍置いて、その声が止まった。
「……え?」
青いレンズが激しく明滅する。
「待ってください……」
「何です、この反応は……?」
その瞬間だった。
ゴォォォォォ……。
空間そのものが軋むような低い唸りが響く。境内の中央。
黒い霧が渦を巻き、ゆっくりと一か所へ集まり始めた。
さっきまで吹いていた風が止む。木々の葉も揺れない。
重苦しい静寂だけが辺りを支配した。
霊夢は眉をひそめる。
「……何?」
魔理沙も八卦炉を握り直した。
「まだ来るってのか……」
黒い霧の中から、一つの巨大な影がゆっくりと姿を現す。
――人型。
しかし、人間とは思えない異様な威圧感を放っていた。
その右手には、禍々しい長杖が握られている。異形は一歩、また一歩と境内へ歩み出る。
ただ歩くだけで地面が微かに震えた。
ゴーストが息を呑む。
「識別……どれも該当しません。新しい敵です!」
謎の敵の名は――。
前兆《Omen》
霊夢の表情から余裕が消える。
「……今までの奴とは違う」
ガーディアンは無言のままライフルを構え直した。
前兆は何も語らない。
ゆっくりと長杖を掲げる。
杖の先端から蒼白い光が脈打ち始めた。
ギィィィィ……
空気が白く染まり、周囲の温度が一気に下がっていく。
魔理沙が目を見開く。
「なんだあれ……冷気魔法?」
魔理沙は八卦炉を構え直した。
「あいつ……冷気魔法を使うのか!?」
ゴーストが前兆へ向けて高速スキャンを行う。
青い瞳が激しく点滅した。
「違います――あれはステイシスです!」
霊夢は聞き慣れない言葉に目を見開く。
「す、ステイシス……!?」
魔理沙も眉をひそめる。
「なんだそれ!?」
ゴーストは切迫した声で叫んだ。
「暗黒の力です、冷気魔法ではありません!物質や生命活動を極限まで停止させ、対象を結晶化させる能力です!直撃すれば身動きが取れなくなります!」
ガーディアンは無言でマシンガンを構え、前兆へ照準を合わせる。
だが、前兆は微動だにしない。
静かに杖を振り上げる。杖の先端で蒼白い結晶が脈打った。
「ガーディアン!来ます!!」
ゴーストの叫びと同時に、前兆は長杖を振り下ろした。
ゴォォォォッ!!
蒼白い奔流が境内を駆け抜ける。地面が一瞬で凍りつき、白い結晶が次々と生まれていく。
「しまっ――!」
霊夢が大きく飛び退く。だが、一歩遅かった。
蒼白い結晶が足元から一気に這い上がる。
「きゃっ……!」
バキバキバキッ!!
霊夢の身体は腰まで巨大な結晶に包まれ、そのまま全身が氷のような結晶へと閉じ込められた。
「霊夢!!」
魔理沙が叫ぶ。霊夢は意識こそあるものの、指一本動かせない。
「うっ……動け……ない……!」
ゴーストが焦った声を上げる。
「ステイシスによる拘束です!早く破壊しないと!」
ガーディアンは武器を構え、霊夢を覆う結晶へ照準を向ける。
しかし、その前へ前兆が立ちはだかった。
長杖を横薙ぎに払う。
ドォンッ!!
衝撃波が境内を駆け抜け、ガーディアンと魔理沙を吹き飛ばした。
「…………っ!!」
「うわぁっ!」
二人は地面を転がる。その隙を見逃さず、前兆は静かに杖を掲げる。
周囲の闇が蠢いた。
その闇の中から、生き残っていたドレッドたちが姿を現す。
グリム。
ハスク。
ウィーバー。
アテンダント。
まるで命令を待っていたかのように、一斉に霊夢へ向き直る。ゴーストが叫んだ。
「まずい、彼女が動けないままです!」
魔理沙は必死に立ち上がる。
「くそっ……間に合え!」
ガーディアンもライフルを構える。しかし距離が遠い。
ドレッドたちは咆哮を上げながら、一斉に凍りついた霊夢へ襲いかかった。
「れ、霊夢!!」
その瞬間――。
――ズガァン!!
乾いた銃声が境内へ響き渡る。先頭を走っていたグリムの胸を、黄金の弾丸が貫き、そのまま光となって消滅する。
「……えっ!」
誰もが銃声のした方角を振り向く。
続けて。
ズガァン!!
ズガァン!!
黄金の閃光が火線となって立て続けに戦場を駆け抜ける。ドレッドたちは次々と撃ち抜かれ、爆ぜるように消えていく。
魔理沙は目を見開いた。
「なんだ……あの炎は……!」
石段の上。夕日に照らされるような黄金の輝きを纏い、アウォークンのハンターが颯爽と姿を表す。
ハンター、ソーラーSC《スーパースキル》【ゴールデンガン】
その右手には炎そのものから形作られた黄金のリボルバー……彼は静かに照準を合わせる。
「彼女に指一本触れさせやしない!」
引き金を引く。
ズガァン!!
最後の一体が黄金の弾丸に撃ち抜かれ、爆散した。
ゴーストが思わず叫ぶ。
「クロウ!」
クロウは銃をゆっくりと下ろす。その背後から、もう一人の人物が姿を表す。フードを軽く被りマントを揺らしながらハンドキャノンを指先で器用にくるりと回す見覚えのあるエクソ――。
「ようガーディアン、相変わらず派手にやってるじゃないか」
その声を聞いた瞬間、ゴースト、ガーディアンの動きが止まる。
「あなたは…………………け、ケイドっ!?」
二人は信じられない顔をする。彼は数年前にとある人物によって殺され葬式まで上げたはず……なんでこんな所に――。
「ケイド…………………!」
ガーディアンですら驚きを隠せない。そんな彼にケイドはニヤリと笑った。
「まあ言いたいことは分かる。だが積もる話は後だ」
そう言ってガーディアンの肩をポンと軽く叩く。
「まずはあいつらを片付けようぜ、話はそれからだ」
一瞬だけ真剣な表情を見せる。そして彼の象徴であるハンドキャノン、切り札を掲げる。
「それと――俺をちゃんと守ってくれよな。もう俺のゴースト、サンダンスはいねえんだからよ。それにもう光の力は使えないんだ、頼れるのはこの相棒だけさ」
切り札を見つめて軽く笑いながら続ける。
「お前らと昔話する前に、もう一回くたばるのは御免だ」
ガーディアンは言葉も出ず、ただ小さく頷いた。ゴーストも目の前の再会が現実なのだと確かめるように、静かにケイドを見つめ続けていた。
ガーディアンは静かに頷いた。
その横でゴーストも小さく微笑む。
「……はい。今度は、私達が守ります。」
霊夢はそんなやり取りを横目に、お祓い棒を握り直した。
「そこのあんた達、話は後でじっくり聞かせてもらうわ。それよりも今は協力してこいつらをなんとかしましょう!」
「お、気合い入ってるなお嬢ちゃん!その意気だ!」
ケイドは右肩を軽く回して霊夢の横に並んだ。
「あたしもあんた達に興味がある。よろしく頼むぜ!」
箒を跨いで宙に浮く魔理沙もケイドの横に並ぶ。
「気を付けろ、こいつらは目撃者の手下だ。まだまだ何をしてくるか分からん」
「………………」
クロウ、ガーディアンも続けて魔理沙の横に並び、5人揃って迎え討つ。
前兆は五人を見据え、静かに長杖を持ち上げる。
杖の先に蒼白い暗黒が集まり始めた。
「来るぞ!」
クロウが叫ぶ。
「散開!」
ゴーストの声と同時に五人は一斉に飛び出した。ガーディアンは前方へスライディングし、その勢いのまま左へ跳ぶ。
ケイドは右へ駆け、石灯籠を遮蔽物にする。
クロウは跳躍し、空中へ。
霊夢と魔理沙も左右へ大きく飛び退いた。
次の瞬間。
ゴォォォォォッ!!
蒼白い奔流が境内を薙ぎ払う。
石畳は一瞬でステイシスの結晶に覆われ、大木が鈍い音を立てて凍り付く。
「これが、暗黒の力……!」
霊夢が息を呑む。
「よそ見してる暇はねぇ!」
ケイドが飛び出した。
ドンッ!
切り札の銃声――前兆が咆哮を上げる。
「っ!」
ケイドは銃を連射しながら横へ飛ぶ。
しかし、前兆はその程度では止まらない。
長杖を薙ぎ払った瞬間、凄まじい衝撃波が境内を駆け抜け、
「ぐぁっ!」
ケイドの身体が弾き飛ばされる。
石畳を何度も転がり、ようやく瓦礫へ身体をぶつけて止まった。
エクソの装甲は所々砕け、火花が散る。
「ケイド!」
クロウが叫ぶ前兆は間髪入れず、倒れたケイドへ歩み寄る。
「まずい!」
魔理沙が箒を傾ける。しかし、間に合わない。
「!!」
その瞬間だった。ガーディアンがケイドの前へスライディングで飛び込み左手を地面へ叩きつけた。
ドンッ!!
白色の暖かい光が地面に広がり、円形のリフトが展開される。柔らかな光が二人を包み込み、砕けた装甲がみるみる修復されていった。
「なんだあれは!」
と、魔理沙が声を上げる。
「回復のリフトです!密接する自身と他人のガーディアンの傷を癒します!」
「回復……あいつそんなこともできるのか!」
「彼はウォーロック。得意分野なんです!」
彼女は驚く一方、ケイドは驚いたように自分の腕を見つめる。
さっきまで軋んでいた装甲が、何事もなかったかのように修復されている。ケイドは立ち上がり、銃を構え直すと、ガーディアンへ笑みを向けた。
「わりぃ!助かった!」
ガーディアンは何も言わず、親指を立てる。
その様子を見たクロウは駆け寄り、思わず声を荒らげた。
「ケイド!前へ出るな!」
「お前にはもうゴーストがいない!死んだらもう終わりなんだぞ!」
ケイドは一瞬だけクロウを見た。そして、小さく笑う。
「バカ野郎!全員必死で戦ってるってのに、俺だけ離れた場所で指くわえて見てろってか?そんな情けねぇ真似、できるかよ!」
「でも――!」
クロウがなおも言い募ろうとしたその時、ケイドはリボルバーのシリンダーを勢いよく閉じた。
カチンッ。
「俺は戦う。仲間が命懸けならなおさらな!」
そう言い残すと、ケイドは再び前兆へ向かって駆け出した。
「ケイド!」
クロウはその背中を見つめたまま拳を握る。ガーディアンは静かに頷くとケイドの援護へと駆け出した。
「世話の焼けるやつだな全く――!」
クロウも援護に入ろうと黄金の炎を拳銃へ宿す。
「貴様らの好きにはさせん!」
ズガァン!!
黄金の弾丸が前兆を撃ち抜く。
「ガーディアン!」
ガーディアンもライフルを構え、絶え間なく弾丸を浴びせ続けた。
だが前兆は杖を構えたまま、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「くっ……!」
霊夢は一歩前へ踏み出した。
「だったら!」
懐から大量の札を取り出し、一斉に投げ放つ。
札は風を切りながら前兆の周囲へ突き刺さっていく。
「霊符――」
お祓い棒を高く掲げる。
「封魔陣!!」
札が紅白の光を放つ。
無数の光の線が札同士を結び、巨大な結界が前兆を包み込んだ。
「……!」
前兆が杖を振り上げる。
しかし結界へ触れた瞬間、霊力が激しく弾けた。
バチィィッ!!
光の鎖が四方八方から伸び、前兆の腕、脚、胴体へ巻き付く。
ギギギギギ……
その巨体が初めて動きを止めた。
「今だ!」
霊夢が叫ぶ。
「了解!」
ケイドは迷わず引き金を引いた。
ドンッ!
ドンッ!
二発の精密射撃。
クロウのゴールデンガンが黄金の閃光を描き、前兆の肩を貫く。
ガーディアンもオートライフルを連射する。
弾丸の嵐が前兆へ降り注ぎ、火花が絶え間なく散った。
「まだまだだ!
」
魔理沙は大きく上昇する。
八卦炉を掲げると、その周囲に無数の星々が現れた。
小さな星の光は次々と数を増やし、まるで夜空そのものが境内へ降りてきたかのようだった。
霊夢が見上げる。
「魔理沙、全力よ!」
魔理沙は得意げに笑う。
「任せな!」
八卦炉を前へ突き出した。
「魔符――」
星々が一斉に輝きを増す。
「スターダストレヴァリエ!!」
無数の星弾が流星群となって降り注ぐ。
封魔陣の内側で次々と炸裂し、爆炎と閃光が前兆を飲み込んだ。
周囲のドレッド達も巻き込まれ、次々と吹き飛ばされる。
轟音が境内を揺らし、土煙が空高く舞い上がった。
「やったか!」
魔理沙が叫ぶ。霊夢も封魔陣を維持したまま煙を見据える。
誰もが勝利を確信しかけた、その時だった――。
『――では』
どこからともなく、声が響く。
男とも女ともつかない、底知れぬ静かな声。
『これならどうだ』
その瞬間。煙の中から、眩い光が溢れ出した。
それは黒でも白でもない。
ベイルを思わせる、現実の色では表せない不可思議な光。
前兆の身体を包み込み、吹き飛ばされていたドレッド達にも次々と宿っていく。
「なっ……!」
ゴーストが息を呑む。
「まさか、目撃者が……直接力を!」
煙が晴れる。そこには、傷一つ負っていない前兆が静かに立っていた。
「やっぱり一筋縄にはいかねえか」
ケイドが眉をひそめる。
クロウも黄金の拳銃を構え直す。
「もう一度だ、全員撃て!」
五人は一斉に攻撃を放つ。
銃弾。
札。
星弾。
黄金の弾丸。
すべてが前兆へ向かって殺到する。
しかし――
キィン……
極光の光へ触れた瞬間、それらは音もなく弾かれ、霧のように掻き消えた。
「……効いてない?」
霊夢の顔から血の気が引く。魔理沙も信じられないという表情で八卦炉を握り締める。
「一発も……通ってない……。」
前兆はゆっくりと長杖を掲げた。
「皆さん、ダメージが全く届いていません!」
その背後では、強化されたドレッド達が静かに武器を構え始める。
境内を包む空気が、一瞬にして絶望へと塗り替えられた。
●簡単なdestiny用語集④属性編
◇光
・ソーラー
炎と太陽の力。 爆発や燃焼で敵を焼き尽くし、仲間を回復することもできる。
・アーク
雷と超高速の力。 電撃を操り、驚異的な機動力で敵を翻弄する。
・ボイド
重力や虚無の力。 敵を拘束・弱体化させ、防御や支援にも優れる
◆暗黒
・ステイシス
氷ではなく「停止」の力。 敵や空間を結晶化させて動きを封じる暗黒の力。
・ストランド
万物を結ぶ因果の糸を操る暗黒の力。糸を掴んで空中を飛び回り、敵を拘束・切り裂き分解する力。
・スーパースキル《SC》
ガーディアンが光や暗黒の力を最大限まで解放して放つ必殺技。一度使用するとしばらくは使えないが、戦況を一変させるほどの威力を持つ。