東方天命録~The Final Shape Begins~   作:はならむ

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第四十二話:戦いという日常

「はあ……はあ……はあ…………っ」

 

咲夜の呼吸は、もはや誰の目にも分かるほど大きく乱れていた。

先ほどまでは多少息が上がっていても、それを戦闘動作へ表すまいとしていた。ナイフを投げる腕にはまだ力が残っており、ガーディアンを追う紅い瞳にも鋭さは失われていなかったが、試合開始時とは比較にならないほど胸が激しく上下し、額や頬には汗が浮かんでいる。

 

(ま、まずい、感情任せに動きすぎた……!)

 

ここまで動き続ければ、当然だった。

ガーディアンは戦いが始まってからというもの、ほとんど一か所へ留まっていない。地上を全力で走り、スライディングで一気に位置を変え、立ち上がるより早く射撃へ移る。そこからグライディングで空中へ上がればイカロスダッシュで突然軌道を変え、追い詰めたと思えばフェニックスダイブで地面へ戻り、着地した瞬間にはまた走り始める。

咲夜は、そのすべてへ付き合わされてきた。

相手が右へ行けば右へ。

左なら左へ。

空中へ逃げればその先へナイフを送り、遠距離だけでは崩せないと判断すれば自分から接近して斬りかかる。ガーディアンの移動先を先読みしながら攻撃を配置し、そこからさらに別の行動へ移られれば、そのたびに自分も判断を更新し続けなければならない。

しかも、肉体的な疲労だけならまだよかった。

咲夜を追い詰め始めていたのは、それ以上に精神的な部分だった。

 

「…………っ」

 

荒い呼吸を押さえながら顔を上げる。

視線の先では、輝きの泉の中心に立つガーディアンが、いつもと変わらない様子でこちらを見ていた。

ラスト・ワードを握る腕は下がっていない。

姿勢も崩れていない。肩で息をしている様子もない。

 

(な、なんなのこの人……!?)

 

ここまで庭園中を走り回り、飛び回り、何度も咲夜のナイフをかわし、撃ち落とし、近接攻撃まで受けながら戦ってきたにもかかわらず、少なくとも外から見る限りでは、ほとんど疲れているように見えなかった。

そのこと自体が、咲夜には次第に不気味に感じられ始めていた。

先ほどまでなら、こちらの攻撃が何度か通ったことで、少しずつ相手を追い詰めているという実感があった。

だが今は違う。

負わせた傷は輝きの泉が癒す。

大量のナイフを正面から浴びせれば、ラスト・ワードで一枚ずつ撃ち落とされる。

数を増やせばフュージョンライフルでまとめて吹き飛ばされ、包囲して逃げ道を潰したと思えば、イカロスダッシュとフェニックスダイブを使ってわずかな隙から抜けられる。

こちらは疲れているのに。

向こうは崩れない。

自分だけが一方的に消耗していくような感覚。

そして、その感覚をさらに強める事実が一つだけあった。

ここまで戦ってガーディアンはまだ一度も咲夜本人へ本気で攻撃をしていない。

先ほどスナイパーライフルを向けられた時ですら、弾丸は意図的に頭の横を通過している。

ラスト・ワードも。

フュージョンライフルも。

焼却の指鳴らしも。

すべて狙っているのはナイフ、あるいは、咲夜の攻撃そのもの。

自分自身ではない。

 

「…………」

 

その事実を改めて意識した瞬間、咲夜の胃の奥に重いものが落ちたような感覚が走った。

自分は全力で攻撃している。

それなのに相手は、こちらを倒すための攻撃をまだしていない。

そう考えた途端、それまで無理矢理押さえ込んでいた疲労と緊張が一気に表へ出た。

 

「はあ……はあ……っ、う……」

 

咲夜が口元を押さえる。

 

「……咲夜?」

 

バルコニーにいたレミリアの表情が変わった。

咲夜は大きく息を吸おうとしたが、思うように入らない。胸の奥が熱く、心臓が激しく打ち続け、走り回ってきた脚にも重さが溜まっている。

その状態で顔を上げると黄金色の光の中にガーディアンがいる。

変わらず静かに構えている。

その光景が今の咲夜には得体の知れないものに見えた。

 

「はあ……はあ……うっぷ……」

 

身体が僅かに前へ折れる。

そして。

 

「ウエッ……!」

 

「咲夜!」

 

レミリアが思わず身を乗り出した。

フランドールも大きく目を見開く。

 

「え……まさか吐いちゃうの……?」

 

咲夜は片手で口元を押さえたまま、しばらく動かなかった。

胃が強く収縮し、喉元まで何かがせり上がってくるが咲夜は歯を食いしばり、込み上げてきたものをどうにか飲み下した。

 

――数秒後。

 

咲夜はゆっくりと上体を起こした。

 

「……はあ……はあ……っ」

 

顔色は明らかに悪い。

元々白い肌からさらに血の気が引き、額から流れた汗が頬を伝っている。

 

「…………咲夜」

 

レミリアがもう一度名前を呼んだ。

今度は先ほどよりも小さい。

試合を止めることはできる。

ルール上、危険だと判断すれば自分が終わらせてもいい。

しかし、咲夜はまだナイフを手放していなかった。

呼吸は荒い。

身体も疲れている。

それでも紅い瞳は、まだガーディアンから逸れていない。

その姿を見て、レミリアはすぐには何も言えなかった。

隣ではフランドールも心配そうに咲夜を見つめている。

パチュリーもまた、いつもの無表情に近い顔を保ちながら、内心では全く別のことを考えていた。

 

(……むしろ、ここまでよく動いたわね)

 

咲夜は最初からほとんど休んでいない。

縦横無尽に移動するガーディアンを追いながら、遠距離の投擲だけでなく接近戦も織り交ぜ、複数のスペルカードまで使っている。

普通なら、とっくに集中力が切れていても不思議ではない。

それでも、まだ立っている。

そして……パチュリー、いや彼女をよく知る者達には分かっていた。

 

咲夜にはまだ一つ、とんでもない『切り札』が残っている。

 

彼女が持つ、十六夜咲夜たらしめている最も象徴的な能力。

 

(いや……まだ、咲夜にはアレがある)

 

ただし、それをこの模擬戦で使う気はあるのか。

そこだけはまだ分からない。

 

一方、庭園の下でも、霊夢達の表情から先ほどまでの興奮は消えていた。

 

「咲夜……」

 

霊夢が心配そうに見つめる。

魔理沙も眉を寄せた。

 

「顔色かなり悪いぞ。大丈夫かあいつ……」

 

美鈴も何も言わず、胸の前で拳を握っている。

同じ屋敷で長く過ごしてきた相手が、目の前でえずくほど追い詰められているのだ。

たとえ模擬戦だと分かっていても。

見ていて気持ちのいいものではない。

そんな中。

ケイドが小さく息を吐いた。

 

「……やっぱりな」

 

「え?」

 

霊夢が振り向く。

ケイドの表情には、いつもの軽薄な笑みはなかった。

 

「初めに言ったろ。途中から過酷すぎて吐きそうになるかもって」

 

その視線はまっすぐ咲夜へ向いている。

 

「……分かってたの?」

 

霊夢の声が少し低くなる。

 

ケイドは誤魔化さなかった。

 

「ああ。ただ何度も言うが咲夜ちゃんが弱いわけじゃない」

 

そこで一度言葉を切り、今度は真剣な目で咲夜を見る。

 

「むしろ逆だ。初めて相棒と戦って、ここまでついてきてる時点で相当やばい。最初は動きに振り回されてたのに、途中からスライディングの出口を狙い始めて、遮蔽物から出る場所を読んで、銃で捌かれるなら近距離まで詰めた。あの短い時間で、相棒の戦い方へここまで適応した奴なんて、そう多くねえよ」

 

クロウもその評価には異論がないらしく、静かに頷いた。

 

「こちらの戦い方を何も知らない状態から、ここまで対応できている。それだけでも十分に強い」

 

「でもな――」

 

ケイドの声が僅かに低くなる。

 

「これで分かっただろ?」

 

霊夢達が見る。ケイドは、輝きの泉の中に立つガーディアンを顎で示した。

 

「これが――あいつを相手にするってことなんだよ」

 

「…………」

 

「しかも見ての通り、あいつは咲夜ちゃんへ攻撃する選択肢そのものを封じてあれだからな」

 

誰もすぐには返事をしなかった。

今まで咲夜はガーディアンたった一人だけを相手にしてきたが、ここまで疲れている。

 

「それに――」

 

クロウが、その事実を確かめるようにゆっくり口を開いた。

 

「今は一対一の模擬戦だから、まだ意識する相手は一人だけだ。ガーディアンの位置も見えているし、何をしているかも追える」

 

「……まだ?」

 

霊夢がその言葉に反応する。クロウは頷いた。

 

「クルーシブルは一対一だけではない。試練などの三人対三人戦のチーム戦、最大で六人対六人、さらには六人全員が敵として戦うルールもある」

 

「六人……」

 

大妖精が思わず呟いた。クロウは説明を続ける。

 

「クルーシブル自体は、基本的にガーディアンならだれでも参加できる。まだ戦闘経験が浅い者が訓練のつもりで入ってくることもあるし、そういう者が敵側にいることもあれば、自分と同じチームへ入ることもある」

 

「つまり、参加者の強さは毎回バラバラってこと?」

 

霊夢が聞く。

 

「ああ」

 

クロウは答える。

 

「初心者ばかりの試合になることもある。逆に、経験者が多いこともある」

 

そこで僅かに間を置いた。

 

「そして問題は、たまに――」

 

泉の中のガーディアンを見るクロウ。

 

「チーム戦で敵側があいつのようなオシリスの試練へ何度も通っているような猛者だけで構成されるケースだってある」

 

霊夢達の表情が一斉に固まった。

一人でもこれなのだ。ケイドがその反応を見ながら、今度は少し具体的に説明した。

 

「想像してみな。相棒みたいに縦横無尽に動き回りながらガンガン前にでてくるような奴が一人じゃない。二人、三人、場合によっちゃ敵側全員があいつみたいなヤツらだ。しかも、全員が同じ方向から来るわけじゃねえ」

 

正面。

横。

背後。

上。

遮蔽物の裏。

曲がり角。

 

様々な場所から同時に攻撃が絶え間なく飛んでくることを。

 

「正面の奴を見てたら横から撃たれる。横へ意識を向けたら後ろから来る。逃げ込んだ先の角を曲がった瞬間、別の奴がショットガン構えて待ってるなんてこともある」

 

クロウはさらに続ける。

 

「しかもあいつがここで使ったハンドキャノン、フュージョンライフル、スナイパーライフルだけじゃない。さらにピストル、オートライフル、サブマシンガン、パルスライフル、スカウトライフル、ショットガン、弓――」

 

「いやいや、どれだけ武器の種類あるのよ!?」

 

魔理沙が少し引いた顔になる。

 

「……弓もあるのか」

 

「ある」

 

クロウは淡々と答えた。

 

「それに常に使えるわけではないが重火器のロケットランチャー、グレネードランチャー、マシンガン、リニア・フュージョンライフルも持ち込める」

 

パチュリーの眉がぴくりと動いた。

 

「ロケット……?仲間同士の競技でそれを当てるの?」

 

「ああ」

 

「敵の密集地で上手く使えばまとめて消し飛ばせる」

 

「物騒すぎるわ……………」

 

クロウは少し苦笑したが、さらに付け加える。

 

「近接武器として剣、グレイブという薙刀のような武器を使う者もいる」

 

「剣、薙刀!?銃があるのに!?」

 

「ああ、撃たれながら怯まず剣を構えて突撃するガーディアンもいる」

 

霊夢は数秒黙った後、小さく息を吐いた。

 

「……もう何でもありじゃない」

 

「相手を殺せるなら何でも使うってか……」

 

「まあ」

 

ケイドが肩を竦める。

 

「だいたい合ってる」

 

説明を聞いている間にも、美鈴の視線は咲夜から離れなかった。

咲夜はまだ肩で息をしている。ナイフを握る指にも僅かな震えが見えたが、それでも構えを解こうとはしなかった。

対するガーディアンも泉から出ず、ラスト・ワードの銃口だけを静かに下げている。少なくとも、今すぐ攻撃を再開するつもりはないらしい。

 

「要するに、クルーシブルじゃ常に考え続けなきゃならない。今見えてる相手がどの武器を持ってるか、どの距離が一番危ないか、別の敵が横から来ないか、後ろを取られてないか。遠距離だから安全だと思えばスナイパーで抜かれるし、近距離へ入ったと思ったらショットガンで吹っ飛ばされる」

 

霊夢達の顔が次第に険しくなっていく。

 

「つまり」

 

美鈴が低く呟く。

 

「今の咲夜さんみたいに、一人だけを見ていればいいわけでもないんですね」

 

「そういうこと」

 

ケイドは頷いた。

 

「複数の相手を見ながら、撃たれない位置を探して、自分が撃てる場所へ動いて、武器の距離も考えて、それを制限時間いっぱい戦い抜く」

 

「……休む暇なんて」

 

大妖精が呟く。

 

「ないんですね」

 

「ああ」

 

クロウが静かに答えた。その言葉を聞いて霊夢達の視線がもう一度咲夜へ向いた。

彼女は今、たった一人のガーディアンを追い続け、もう吐きそうになるまで疲れている。

それなのにクルーシブルではこんな相手が複数、しかも同時に四方八方から、様々な武器を使いながら襲いかかってくる。

 

その状況を想像するだけでも十分だった。

誰もすぐには何も言えなかった。

そんな沈黙の中、ケイドがふと思い出したように口を開いた。

 

「あと勘違いしないでほしいのが――」

 

霊夢が嫌そうな顔をする。

 

「……まだあるの?」

 

「ああ」

 

ケイドは笑わなかった。

 

「多分、こっちの方が重要だ」

 

その声音に全員が自然と耳を傾ける。

 

「俺達は、別に毎日クルーシブルだけやって暮らしてるわけじゃねえ」

 

「……え?」

 

魔理沙が首を傾げる。

 

「クルーシブルは殺し合いだが所詮は競技、つまり参加するかしないかは個人の自由だ」

 

ケイドは静かに答えた。

 

「俺達の本来の仕事は、クルーシブルじゃない」

 

そこで一度言葉を止めるケイド。

 

「戦争だ」

 

霊夢達の表情が変わった。

 

「俺達の世界ではもう何百年も前から毎日のように宇宙から敵が押し寄せてくる。ハイヴ、フォールン、カバル、ベックス、宿られた兵、スコーン……相手によって作戦も変わる。正面から敵を殲滅することもあるし、別方向へ引きつける陽動もある。見つからないように敵陣へ入り込むこともあるし、特定の標的だけを潰して帰ることだってある」

 

それは先ほどまで話していた。

競技ではない。

 

本物の戦争。

霊夢も魔理沙もふざけた顔では聞けなかった。そしてケイドは続ける。

 

「そういう作戦から帰ってくるだろ?」

 

「ああ」

 

魔理沙が答える。

 

「それで」

 

ケイドはほんの少し口元を上げる。

 

「いろいろ報告書を出したりして、ようやく休みになる」

 

「……まあ、そうでしょうね」

 

霊夢が言う。

 

「普通ならそこで休む。武器の整備したり、飯を食ったり、酒飲んだり、寝たり、仲間と話したり、何もせずぼーっとしたりな」

 

「普通はね」

 

霊夢が頷く。

 

「ところが――」

 

ケイドが泉の中のガーディアンを見る。

 

「あいつはそのままクルーシブルへ行く」

 

「…………」

 

数秒。

沈黙した。

霊夢も。

魔理沙も。

すぐには意味が理解できなかった。

魔理沙が最初に口を開く。

 

「は?」

 

「だから」

 

ケイドが説明する。

 

「本物の戦場から帰ってくる」

 

「うん」

 

「休みになる」

 

「おう」

 

「クルーシブルへ行く。で、意気揚々と殺し合いする」

 

「…………」

 

……再び沈黙、そして。

 

「はあああああああ!?」

 

霊夢と魔理沙の声がほぼ同時に庭園へ響いた。

 

「じゃあ、あいつ!」

 

霊夢がガーディアンを指差す。

 

「戦争から帰ってきて、やっと休めると思ったら、その休みを使ってまた戦いに行ってるの!?」

 

「おう」

 

ケイドが即答する。

魔理沙も。

完全に理解できない顔で叫ぶ。

 

「何でだよ!?」

 

「好きだから」

 

「何が!?」

 

「クルーシブル」

 

「だから何でだよ!!」

 

ケイドはその質問に答える代わりに、肩を竦めた。

 

「そんなの知るか。あとで相棒に聞いてくれよ」

 

視線がガーディアンへ集まる。

当の本人はもちろん何も言わない。

輝きの泉の中でラスト・ワードを構えたまま静かに咲夜を見ている。

大妖精も信じられないような顔をした。

 

「じゃあ……ここに来るまでほとんどずっと戦ってるんですか?」

 

ケイドは少しだけ考えてから答えた。

 

「まあ、本当に一日中ってわけじゃねえよ。飯も食うし、寝るし、仲間と馬鹿やる時間だってある」

 

彼は少しだけ苦笑した。

 

「……ただ、普通なら『今日はもう戦いたくねえ』って思うような日に、相棒は嬉々としてクルーシブルの参加申請を出し、対戦場でトリガーハッピーかましてるような奴だ」

 

その言葉を聞き霊夢達は改めてガーディアンを見る。

 

少し前まで、ケイドに便乗してレミリアに対してノリノリとハートマークを出し、突然ゴミバケツに入り転がり、ソリに乗り、雪だるまを作り出し、透明なソファーへ座り、ポップコーンを食べ、イコラに始末書を追加されて、慌てて土下座する、一体何を考えてるのか分からない男。

 

普段はあんなふざけたことばかりする。

それなのに戦場へ出れば目の前にいるような動きへ変わる。

そして、本物の戦争が終わった後でさえ自分から戦いの場へ向かっていく。

 

「…………」

 

文でさえ、すぐには手帳へ何も書かなかった。霊夢も魔理沙も、チルノも大妖精も、ルーミアも美鈴も、しばらく何を言えばいいのか分からなかった。

 

「ふぅ………ふぅ………っ」

 

そして、その間にも咲夜は乱れた呼吸を整えようとしていた。

肩を上下させながら二本のナイフを指の間へ挟み、足の位置をわずかに変える。

ガーディアンも追撃はせず、黄金色の泉の中からその動きを見守っていた。

休ませているのか。

それとも、次に何をしてくるのか待っているだけなのか。

咲夜には判断できなかった。

 

その沈黙を破ったのはパチュリーだった。

 

「つまり……」

 

静かな声。

 

「彼にとって、戦うことは仕事だけではないのね」

 

ケイドがパチュリーを見る。

 

「ああ」

 

「戦わなければならないから戦っているだけではない」

 

「そういうことさ」

 

パチュリーはもう一度、ガーディアンへ視線を戻した。

 

「…………」

 

少しずつ分かってきた気がする。

何故、あの男の動きにあれほど違和感を覚えたのか。

何故、戦っている姿が異様なほど自然に見えるのか。

途方もなく長い間、戦うことを繰り返しているがそれだけではない。

本来なら戦いから離れるはずの時間にまで、自分から戦いへ戻っていく。

つまりあの男にとって戦闘という行為は特別な状況ではない。

 

「まあ、こんなことを言うのもなんだが」

 

その目はガーディアンへ向いたまま――。

 

「相棒は戦うこと自体が生活の一部になってる」

 

そして少しだけ口元を上げる。

 

「言ってみりゃ、撃ち合って、出し抜いて、相手を仕留める。その全部が楽しくてやめられなくなった、生粋の戦闘屋さ」

 

「…………」

 

クロウは苦笑いしながら引き継ぐ。

 

「試合が始まる前にケイドが言った『クルーシブル、特に試練に脳を焼かれたガーディアンの恐ろしさ』。そういう意味では百点満点だな、あいつは……」

 

今回は誰も笑わなかった。

言葉だけ聞けばかなり物騒だ。

先ほどからガーディアンの戦いを見続けている霊夢達にはその表現が冗談だけではないことも何となく分かってしまった。

 

「……………」

 

パチュリーはそんなガーディアンを静かに見つめ続ける。

 

(……なるほどね)

 

自分の中で一つ答えが形になった。

 

(彼にとっては、普通の生活の中に戦いがあるんじゃない)

 

ガーディアンはまたラスト・ワードを構え直す。

無駄な力は入っていない。

あれだけ動き回ってもなお呼吸も、姿勢も落ち着いている。

 

(むしろ逆なのね)

 

パチュリーの瞳が僅かに細くなる。

 

(戦うことが当たり前になりすぎて、その中に普通の生活の方が混ざっている)

 

そう考えれば、今まで感じていた得体の知れなさにも少しだけ形が与えられた。

ただし理解できたからといって安心できるようになったわけではない。

 

むしろ、その逆だった。

 

パチュリーは改めて黄金色の泉の中に立つ男を見つめる。

そしてその向こうでは咲夜がまだ立っている。

顔色は悪い。呼吸も荒い。

それでもナイフを手放していない。

レミリアはそんな咲夜を。

じっと見つめていた。 

 

「…………咲夜」

 

今度の声には先ほどまでにはなかった、明確な心配の色が混じっていた。

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