東方天命録~The Final Shape Begins~   作:はならむ

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第四十七話:クルーシブル ②

「あ……!」

 

庭園の中央へ視線を向けていた霊夢が、不意に小さな声を漏らした。

先ほどまで咲夜とガーディアンの模擬戦を見ながら、彼女はずっと胸の奥に引っ掛かるものを感じていた。戦いそのものは見事だった。ガーディアンは咲夜の投げるナイフを紙一重でかわし、遮蔽物を利用し、時には地面を滑るようなスライディングで射線を外し、空中へ逃れれば急激に軌道を変えて追撃を振り切っていた。その一つ一つに無駄がなく、技量という意味では疑いようもない。

それなのに、見ていて妙に落ち着かなかった。

決して卑怯だからではない。戦い方が汚いからでもない。

 

もっと根本的な部分で、自分達とは何かが違う。

ようやく、その正体に気づいたのだ。

 

「どうした、霊夢?」

 

隣にいた魔理沙が怪訝そうに振り返ると、霊夢はすぐには答えず、少し離れた場所で呼吸を整えているガーディアンをじっと見つめた。

 

「いや……さっき私、あいつの戦い方を見てて、不快っていうか、妙な違和感があるって言ったじゃない?」

 

「ああ、言ってたな」

 

「あれの理由がやっと分かったわ」

 

「え?」

 

霊夢はそこで一度息を吐き、今度ははっきりと言った。

 

「ガーディアンの戦い方って、私達の弾幕ごっこと根本的に違うのよ」

 

その言葉を聞いた瞬間、魔理沙の表情が変わった。

 

「…………!」

 

どうやら彼女も、霊夢が何を言おうとしているのか気づいたらしい。

近くで話を聞いていたパチュリーや美鈴、咲夜、レミリアも霊夢へ顔を向ける。少し離れたところでは射命丸文が取材帳を構えたまま羽根ペンを止め、興味深そうに耳を傾けていた。

 

「私達の弾幕ごっこにだって、もちろん勝ち負けはあるわ。弾が当たれば痛いし、怪我もする。異変の内容によっては、冗談抜きで命懸けになることだってある」

 

「……まあな」

 

魔理沙も少し苦い顔で頷いた。

 

「異変解決で立ちはだかってきた奴らなんて、普通に殺しに来てた奴も結構いたしな。まあ……あたし達も人のこと言えないけど」

 

その言葉を聞き、大妖精、美鈴、咲夜、パチュリー達が何とも言えない顔で苦笑する。一方、チルノは自分のことを言われているとは思っていないらしく首を傾げ、ルーミアはいつも通りぼんやりと空を眺め、フランドールに至っては特に気にした様子もなく足を揺らしていた。

 

霊夢はそんな面々を一度見回してから話を続ける。

 

「でも、それでも弾幕ごっこってむやみやたらに相手を殺すためのものじゃないでしょう?どういう弾を使うのか、どういう技を持ってるのか、どういう戦い方をするのか。自分の力だけじゃなく、自分らしさそのものを相手に見せる意味合いもある」

 

「スペルカードルールそのものがそういう思想で作られているものね」

 

パチュリーが静かに同意する。

 

「純粋な破壊力だけではなく、技の構成や美しさ、本人の個性も戦いの一部として扱われる。必ずしも最も効率のいい攻撃だけが正しいわけではない」

 

「そう。それよ」

 

霊夢は頷いた。

 

「綺麗な弾幕を広げてもいい。わざと派手な技を使ってもいい。多少効率が悪くても、それが自分らしいなら別に構わない。むしろ、そういうところまで含めて弾幕ごっこなのよ」

 

そこで霊夢は再びガーディアンへ顔を向けた。

 

「でも、あいつの戦い方にはそれがほとんどない」

 

その一言で、周囲の空気が僅かに変わる。

 

「別に格好良く見せようとしてるわけじゃない。相手に技を見せつけようともしてない。自分の強さを誇示するために無駄なことをするわけでもない。あいつが考えてるのはずっと一つだけ」

 

霊夢は目を細めた。

 

「どうすれば、相手を一番早く倒せるか」

 

誰も口を挟まなかった。

 

「もっと言えば――どうすれば、一番簡単に殺せるか」

 

その言葉が落ちた瞬間、先ほどまでとは違う種類の静寂が庭園を覆った。

大妖精が無意識に自分の腕を抱き、チルノもさすがに表情を強張らせる。美鈴は笑みを消し、咲夜も僅かに目を伏せた。

 

「なるほど……」

 

沈黙を破ったのはパチュリーだった。

 

「クロウ。あなたが試合中に言っていた『弾幕ごっことクルーシブルでは、戦い方の前提そのものが違う』という話……誇張でも何でもなかったのね」

 

「ああ」

 

クロウが静かに頷く。パチュリーは先ほどまでの模擬戦を思い返すようにガーディアンを見る。

 

「彼の動きには極端なほど無駄がない。遮蔽物を使い、身体を晒す時間を減らし、敵の射線を外しながら自分だけが攻撃できる位置を取る。攻撃できない状況では無理に仕掛けず、逆に相手に隙ができれば一瞬も逃さない」

 

「それだけじゃないぜ」

 

ケイドが会話へ割って入り、親指でガーディアンを示した。

 

「距離、武器、残弾、能力、相手が次にどっちへ動くか、逃げ道がどこにあるか。そういうのを全部まとめて考えてる。で、その答えが『今撃てば殺せる』なら、迷わず撃つ。それだけだ」

 

パチュリーは少し考え、やがて呟いた。

 

「つまり彼、いやあなた達ガーディアンの戦闘スタイルは、合理性と効率性を極端なところまで突き詰めた結果なのね」

 

「ご名答」

 

ケイドは指を鳴らした。

 

「俺達のクルーシブルじゃ、派手な技や格好いい動きを見せびらかしたところで、それ自体には何の価値もない。もちろん、それで敵を倒し続けられるなら拍手喝采ものだろうな。だが、調子に乗って隙を晒した挙げ句に撃ち抜かれたら――」

 

彼はわざと大げさに肩をすくめる。

 

「味方からすれば『調子に乗った大バカ野郎』、敵からすれば『キル数稼ぎ手伝ってくれてありがとな、お間抜けさん』って話になる」

 

「性格悪い競技ね……」

 

霊夢が呆れた顔をする。

 

「実際、クルーシブルに入り浸っている奴らほど言うだろうな」

 

クロウが苦笑した。

 

「チーム戦だと自分一人の失敗がそのままチーム全体の不利につながることも多いからな」

 

「じゃあさ!」

 

チルノが勢いよく手を挙げる。

 

「ずーっと遠くに隠れて、そこから相手を撃ってるだけでも勝てばいいの?」

 

ケイドはその質問ににやりと笑った。

 

「極端な話ならな。スカウトライフルやスナイパーライフルを持って安全な位置に引きこもり、試合中ずっと遠くから敵だけ撃ち続ける奴がいたとしても、そいつが死なずに大量に敵を倒してチームを勝たせたなら、結果だけ見れば立派な貢献だ」

 

「なんか卑怯臭いぜ」

 

魔理沙が顔をしかめる。

 

「まあ、実際そんなことしてたら『いい加減、前に出ろ』とか『臆病者』とか、敵味方両方から散々言われるだろうけどな」

 

「結局言われるんじゃない!」

 

霊夢が思わず突っ込むと、ケイドは楽しげに笑った。

 

「特にオシリスの試練でずっと後ろに籠もってりゃ、上手い相手ならそのうち詰められて終わりだ。だが、自分は一切危険に晒されずに敵だけを次々撃ち抜けるなら、それはそれで狙撃手として恐ろしく優秀なのも間違いない」

 

クロウも同意するように頷く。

 

「私達の世界では、戦場で生き残ること自体が重要だからな。安全に敵だけを倒せるなら、少なくとも戦術として間違ってはいない」

 

その会話を聞きながら、文は取材帳へ素早く文字を書き込んでいた。

 

『幻想郷――魅せるための戦い』

『ガーディアン――生き残るための戦い』

 

少し考え、その下にさらに一行を加える。

 

『美学ではなく、生存効率を突き詰める競技』

 

「……これは記事にすれば、かなり衝撃的な内容になりそうですねぇ」

 

文が独り言のように呟くと、霊夢がすぐに睨んだ。

 

「文。変な煽り見出し付けたらぶん殴るわよ」

 

「失礼ですね。私は事実をありのまま伝える清く正しい天狗の記者ですよ?」

 

「その台詞を自分で言う奴ほど信用できないのよ」

 

「でも今回に限っては、本当に真面目に書くつもりですよ」

 

そう言った文の表情から、珍しくいつもの悪戯っぽい笑みが薄れた。

 

「この話を単純に『外の世界の人達は野蛮でした』で片付けたら、本質を完全に間違えますから」

 

ケイドが意外そうに文を見る。

 

「ほう?」

 

「彼らが好き好んでこういう戦い方になったわけじゃないんでしょう?」

 

文は羽根ペンの先でガーディアンを示した。

 

「そうしなければ生き残れない世界で戦い続けてきた。その結果として、無駄を削り、敵を最も早く倒す戦い方が身についた。少なくとも私は、そう受け取りました」

 

ケイドはしばらく文を見た後、わずかに感心したような笑みを浮かべる。

 

「ブンヤにしちゃ、ちゃんと見てるじゃないか」

 

「だからこそ見るんですよ。見落として適当なことを書いたら記者失格です」

 

その言葉に霊夢と魔理沙が同時に文を見つめる。

 

「…………」

 

「何です?」

 

「いや」

 

魔理沙が何とも言えない顔で答えた。

 

「お前の口からその台詞が出るとは思ってなかっただけだ」

 

「どういう意味ですか!」

 

文が抗議する声を上げる中、クロウが静かに口を開いた。

 

「だが、彼女の言う通りだ」

 

その声には先ほどまでの軽いやり取りとは違う重さがあった。

 

「クルーシブルは競技だ。だが、その根本は私達の世界における実戦と繋がっている」

 

「あなた達の言っていた戦争と?」

 

レミリアが問い返す。

 

「ああ。敵は待ってくれない。こちらが格好良く技を見せるまで待ってくれるわけでもなければ、準備が整うまで攻撃を控えてくれるわけでもない。ハイヴも、ベックスも、カバルも、フォールンも……敵として向かい合えば、隙を見せた者から死ぬ。実際我々はそれを何度も見てきた」

 

その一言に、先ほどまで少し緩んでいた空気がまた重くなった。

咲夜は黙ったままガーディアンを見つめている。

先ほど自分が戦っていた相手。その彼が、自分へほとんど攻撃らしい攻撃をしなかったことを思い返す。

撃てる瞬間はいくらでもあったはずだ。

スライディングですれ違った瞬間。空中から自分を見下ろしていた瞬間。遮蔽物から顔を出した瞬間。自分が投擲のために腕を振り上げた瞬間。

もし、あの全てで引き金が引かれていたなら。

 

「……まさか」

 

咲夜の口から、無意識に言葉が漏れた。

ケイドが振り返る。

 

「ん?」

 

「先ほどあなた達は……もし彼がクルーシブルの戦い方をしていたなら、私は何度も倒されていたと仰いましたわね」

 

「ああ」

 

「それは、つまり……」

 

咲夜が最後まで言わなくとも、ケイドには意味が分かっていた。

 

「ああ。そういうことだ」

 

先ほどまでの軽い口調とは違い、ケイドは静かに答える。

 

「俺達ガーディアンはクルーシブルで頭を撃ち抜かれようが、爆発で吹き飛ばされようが、光があってゴーストが無事なら蘇生できる。だから一回死んでも、それで終わりじゃない。次がある」

 

そこで彼は咲夜を見る。

 

「だが咲夜ちゃん、あんたはガーディアンでもなければゴーストもいない」

 

咲夜の背筋に冷たいものが走った。

 

「もし相棒が咲夜ちゃんをクルーシブルの敵として扱っていたなら、一回目で終わりだ」

 

その瞬間、咲夜の脳裏へ先ほどまでの光景が次々と蘇る。

 

――試合始めの瞬間。

ラスト・ワードの銃口がこちらを向いた瞬間。

フュージョンライフルが光を帯びた瞬間。

空中から正確に狙いを定められた瞬間。

自分が僅かに動きを止めた瞬間。

 

その全てがもし、本当の攻撃へ繋がっていたなら――。

 

(私は……一体、何度死んでいたのかしら)

 

想像しただけで背筋が粟立つ。

近くにいた美鈴も咲夜の表情から察したらしく、いつもの穏やかな笑みを消した。

 

「咲夜さん……」

 

 

「ええ」

 

咲夜は目を伏せながら小さく答える。

 

「今になって分かりましたわ。彼が手加減していたという言葉だけでは、とても足りない」

 

パチュリーも同じことを考えていたらしい。

 

「彼にとっては、普段行っている戦闘そのものを大幅に制限していたということね」

 

「そういうことだ」

 

ケイドが頷く。

 

「相棒にとっちゃ、戦い方の半分どころか、それ以上を封印してたようなもんだ」

 

そこでケイドはふと顎に手を当て、何かを思いついたように口元を上げた。その表情を見た瞬間、イコラが露骨に嫌そうな顔をする。

 

「ケイド」

 

「どうした?」

 

「その顔をやめなさい」

 

「どの顔だ?」

 

「あなたがろくでもないことを思いついた時の顔よ」

 

「相変わらず酷いな」

 

そう言いながらも、ケイドは隠す気もなく笑っている。そして突然、ぱん、と両手を打ち鳴らした。

 

「――よし。いい機会だ」

 

「は?」

 

霊夢が眉を寄せる。

ケイドはそのままレミリアへ向き直った。

 

「なあ、レミリアお嬢様!」

 

「な、何よ急に」

 

「悪いんだが、ほんの少しだけこの場を俺に仕切らせてもらえないか?」

 

レミリアの眉がぴくりと動く。

 

「…………は?」

 

「ちょっと、みんなに見せたいものがある」

 

「何をする気なの?」

 

「決まってるだろ」

 

ケイドは親指でガーディアンを示すと、笑みを深めた。

 

 

「相棒がクルーシブルで戦う時の、本当の戦い方を見せてやるのさ」

 

 

その言葉に、妖精メイドを含めたその場にいた全員がざわめいた。

 

「え?」

 

レミリアは目を瞬かせ、ガーディアンと咲夜を交互に見る。

 

「ちょっと待ちなさい。さっきのあれで本気じゃなかったの?」

 

「だから言っただろ。咲夜ちゃん相手じゃ、相棒はまともに攻撃できなかったんだ。銃弾一発が当たれば死ぬかもしれない相手に、いつもの戦い方ができるわけない」

 

「それでも十分異常な動きだったじゃない……」

 

「だったら制限を全部外したらどうなるか、見たくならないか?」

 

レミリアは一瞬答えに詰まった。ケイドはさらに続ける。

 

「もっと速い。もっと容赦がない。そして、相手に何かをさせる前に終わらせる」

 

その言葉に、文の筆が止まった。

 

「……相手に何もさせない?」

 

「ああ。極端に言えば、それが相棒の得意な戦い方だ」

 

レミリアは警戒するように目を細める。

 

「つまり今から、本当に相手を殺すつもりで戦わせるってこと?」

 

「まあ、そうなる」

 

「駄目よ」

 

即答だった。

 

「相手はどうするのよ。咲夜をもう一度使う気なら承知しないわよ」

 

「もちろん咲夜ちゃんじゃない。ガーディアン同士なら問題ないだろ?」

 

「ガーディアン同士……?」

 

レミリアはそう言って周囲を見回し、やがてケイドが何を考えているのか察したらしい。

 

「まさか」

 

「ああ。一回だけでいい。ほんの一分――いや、三十秒でも十分かもしれないな」

 

「さ、三十秒?」

 

魔理沙が思わず聞き返し、レミリアも目を丸くした。

 

「そんな短い時間で何が分かるっていうのよ」

 

「クルーシブルの一対一なら、三十秒ありゃ充分殺し合える」

 

「さらっと恐ろしいことを言うわね……」

 

霊夢が頬を引きつらせる。

 

「念のため一分。それだけ貸してくれ」

 

レミリアはすぐには答えず、腕を組んで考え込んだ。

自分の屋敷の庭で本気の殺し合いをさせるなど、本来であれば即座に却下すべき提案だった。しかし、先ほどの模擬戦ですら本来の戦い方ではなかったと言われれば、彼女自身も興味を抑えられない。

あれほど異常な動きを見せた男が、攻撃という最大の要素をほとんど封じていた。

ならば、その制限を外した時に一体何が起こるのか。

 

「…………分かったわ」

 

「お?」

 

「ただし条件がある」

 

レミリアは指を立てた。

 

「本当に手短に済ませること。庭や紅魔館に余計な被害を出さないこと。それから、私達観客に攻撃を一発でも飛ばしたら即座に中止よ」

 

「もちろんだ」

 

「イコラ」

 

レミリアが確認するように彼女を見る。

 

「あなたも見ていて。危険だと思ったら止めてちょうだい」

 

「……………………っ」

 

イコラのケイドを見る表情はかなり険しかった。正直承諾していないのが丸分かりだ。

 

レミリアから許可を得たケイドは、今度はクロウへ身体を向ける。

 

「なあ坊や」

 

クロウが嫌そうな顔をした。

 

「……嫌な予感しかしないんだが」

 

「相棒の相手をしてくれないか?」

 

「…………私がか?」

 

クロウは目を細める。

 

「言い出したお前がやればいいだろう」

 

「できるならそうしてるさ。俺だって久々にあいつと撃ち合いたくて仕方ない。昔みたいにな」

 

その言葉には一瞬だけ懐かしさが滲んだが、すぐにケイドの表情が僅かに陰る。

 

「けどな……」

 

クロウもそこで気づいた。

 

「…………あ」

 

「長いことまともに戦ってなかった俺じゃ、今の相棒とやってもまず話にならん。それに何より、俺にはもうサンダンスがいない」

 

その名前を口にした時だけ、ケイドの声から冗談めいた色が完全に消えた。

 

「今ここで相棒に頭を吹き飛ばされたら、それで本当に終わりだ。ザヴァラと再会するまでは、さすがにまだ死ねない」

 

クロウは少し目を伏せた。

 

「……そうだな」

 

「イコラに頼もうにも――」

 

「絶対に嫌よ」

 

言い終える前にイコラが即答した。ケイドが肩をすくめる。

 

「ほらな」

 

「当然でしょう」

 

イコラは鋭い目を向ける。

 

「どうして私が、あなたの咄嗟の思いつきでクルーシブルをしなければならないの?」

 

「久々の運動になるぞ?」

 

「今すぐノヴァボムをあなたへぶつけてもいいのよ?」

 

「遠慮しとく」

 

そう言って再びクロウへ向き直る。

 

「だから、お前しかいないんだよ。最近まで相棒と一緒に戦ってきたし、癖も動きも多少は分かる。ガーディアンとしての実戦経験も十分。頼む、一生のお願いだ!」

 

クロウはしばらく無言でケイドを睨んでいたが、やがて肺の中の空気を全て吐き出すような長いため息をついた。

 

「…………今度、高い酒を奢れよな」

 

「善処する」

 

「今ここでやめてもいいんだぞ?」

 

「分かった分かった!奢る!ちゃんと奢るから!」

 

「最初からそう言え」

 

「細けぇ男だな」

 

「誰のせいだ」

 

そんな軽口を交わしながらも、クロウは既に腰のホルスターからホークムーンを抜いていた。

そして、その瞬間から空気が変わった。

クロウはシリンダーを開き、装填された弾を素早く確認する。機構に不具合がないことを確かめて銃を閉じると、手首を軽く回し、続いて肩と首をほぐした。それから足を前後に開き、身体を僅かに沈め、ハンター特有の軽やかなステップを数度踏む。

動作そのものは大きくない。

だが、それまでケイドに振り回されていた柔らかな青年の雰囲気は、そのわずかな時間で完全に消えていた。

 

「見て……クロウの顔」

 

霊夢が小さく呟く。

 

「変わったわね」

 

「ああ……」

 

魔理沙も目を細めた。

そこにいるのは、先ほどまでの陰のある穏やかな青年ではない。目の前の相手が僅かでも隙を見せれば、それを逃さず仕留めるための目。何度も本物の戦場を経験してきた者にしか宿らない、鋭い視線だった。

文もその変化を見逃さなかった。取材帳へすぐに羽根ペンを走らせる。

 

『開始前から表情が完全に変化。クロウ氏もまた、蘇生を前提とした戦場を生き抜いてきた熟練のガーディアン』

 

そこまで書いてから、文はふと呟いた。

 

「……考えてみれば当然ですね」

 

「何が?」

 

霊夢が尋ねる。

 

「さっきまでガーディアンさんの動きばかり注目していましたけど、クロウさんも同じ世界を生きてきたガーディアンなんですよ。普段が穏やかだから忘れそうになりますけど」

 

「………………」

 

クロウはホークムーンから目を離さず答える。

 

「私もガーディアンだがケイド達と比べてまだ日が浅い、あいつと対等にやりあえるか分からない」

 

「甘く見るなよ」

 

ケイドも笑う。

 

「坊やも相当やるぜ?」

 

「余計なことを言うな」

 

「褒めてるんだぞ?」

 

「ハードルの上がることを言うな」

 

二人のやり取りを横目に見ながら、イコラはケイドの近くへ歩み寄った。

 

「……ケイド」

 

「ん?」

 

「あなた、本気なの?」

 

「ああ、本気だ」

 

「彼女達の前で、クルーシブルの殺し合いを見世物にするつもり?」

 

その声にははっきりとした非難が含まれていた。

ケイドの表情から笑みが少し薄れる。

 

「見世物にするつもりじゃない」

 

「では、何のため?」

 

ケイドはすぐには答えず、一度霊夢と魔理沙へ視線を向けた。

 

「こいつらには知っておいてもらった方がいい」

 

「何を?」

 

「俺達が、どういう連中と戦ってきたのかをだ」

 

霊夢達の表情が僅かに引き締まる。

 

「目撃者の配下とハイヴがすでに幻想郷に押し入って来やがった。なら他の奴らもやって来る可能性は極めて高い。なら、この先霊夢達はずっと弾幕ごっこの感覚だけで通すわけにはいかない」

 

ケイドは先ほどまでよりずっと真剣な声で続けた。

 

「俺達と手を組んで戦う気ならなおさらだ。実際の戦場へ出てから初めて『こんな戦い方だとは思わなかった』じゃ遅い。だったら、安全を確保できる今のうちに見せておくべきだと思った」

 

イコラはすぐには答えなかった。ケイドは彼女を真っ直ぐ見る。

 

「責任は俺が持つ」

 

「……あなたがその台詞を言うと、逆に不安になるのだけれど」

 

「そこは信用してくれよ」

 

「普段の行いを振り返りなさい」

 

「ごもっともで」

 

ケイドは苦笑したものの、イコラの表情はまだ険しい。しばらく彼を見つめた後、ようやく小さく息を吐く。

 

「…………一度きりよ」

 

ケイドの顔が明るくなった。

 

「本当か?」

 

「ただし、レミリア嬢の条件は絶対に守ること。そして私が危険だと判断した瞬間に中止する。異論は認めないわ」

 

「ああ、それで構わない」

 

「それから、これは娯楽ではない」

 

イコラの声が少し強くなる。

 

「彼女達に私達の世界の戦い方を理解してもらうために行うの。その目的だけは履き違えないで」

 

ケイドも今度は冗談を挟まず頷いた。

 

「分かってる。ありがとな、イコラ」

 

そして彼は霊夢と魔理沙の方へ歩み寄った。

 

「二人とも」

 

霊夢が腕を組んだまま見る。

 

「ケイド」

 

「あの管理者さんから俺達と一緒に異変を解決してくれと言われたろ?」

 

その一言で、二人の表情が変わった。

 

「もしお前達がこれから俺達と手を組んで、目撃者達と戦うつもりが少しでもあるなら――今からの戦いをちゃんと見ておけ」

 

「…………」

 

「今すぐ答えを出せとは言わない。この戦いを見て、それから考えても遅くない。だが、これが俺達の世界で戦うってことの一部だ。目を逸らさず見た上で、自分達がどうするのか考えてくれ」

 

霊夢も魔理沙も答えなかった。だが、その表情から軽い気持ちで受け流してはいないことだけは分かる。

 

ケイドもそれ以上は何も言わず、今度はガーディアンへ顔を向けた。

 

「相棒」

 

呼ばれたガーディアンが振り返る。

ケイドはほんの少しだけ、昔を懐かしむような目をした。

 

「オシリスで戦う時の本気――見せてやれ」

 

ガーディアンは数秒ケイドを見つめた後、いつものように無言で親指を立てた。

 

「それで返事するのね……」

 

レミリアが思わず呟いた直後、ガーディアンの全身を包んでいたソーラーの橙色の輝きが静かに消えた。

代わりに、空気を裂くような青白い光が身体の表面へ走る。

 

――バチバチッ!

 

鋭い放電音と共に稲妻が腕から肩へ、肩から胸へ、さらに脚へと駆け抜け、足元で小さな電弧が弾けた。

 

「!?」

 

魔理沙が思わず身を乗り出す。

 

「また属性が変わったぞ!」

 

霊夢も驚いたように目を見開いた。

 

「これ……昨日のハイヴのあのデカブツが使ってた力に似てるわ」

 

「アークよ」

 

イコラが説明する。

 

「光の属性の一つ。電気や運動の性質と深く結びついていて、特に速度と連続した攻撃に向いている」

 

「速度?」

 

美鈴が反応すると、イコラはガーディアンを見たまま頷いた。

 

「ええ。今から見れば分かるわ」

 

文はすぐに取材帳へ書き込む。

 

『属性変更――ソーラーからアーク。目的は速度と連続攻撃』

 

その間にもガーディアンは装備を変更していた。これまで使っていたフュージョンライフルを収納し、代わりに銃身が短く太い武器を取り出す。

魔理沙がそれを見て首を傾げる。

 

「あれ、昨日イコラが使ってた銃に似てないか?」

 

「ショットガンよ。近距離用の散弾銃」

 

「近距離……ということは」

 

美鈴がガーディアンの全身に走るアークの光を見て、すぐに意図を察した。

 

「速さで一気に距離を詰めて、至近距離から撃つつもりですか?」

 

「おそらくね」

 

パチュリーが答える。

 

「速度に特化した能力へ変更した直後に近距離武器へ持ち替えた。偶然とは考えにくいわ」

 

「正解」

 

ケイドが笑う。

 

「相棒はああ見えて接近戦も大好きなんだ」

 

その言葉を聞いたクロウが、露骨に嫌そうな顔をする。

 

「だから嫌なんだ……」

 

「お前なら何とかなるって」

 

「他人事だと思って」

 

「他人事だからな」

 

「こいつ……」

 

クロウが低く唸るのを無視して、ケイドは最後に咲夜へ向いた。

 

「なあ咲夜ちゃん」

 

「何でしょう?」

 

「悪いが、いったん捌けて休んでいてくれ」

 

咲夜の眉が僅かに動く。

 

「…………今、私と彼が戦っている最中なのですが?」

 

「分かってる分かってる。あとでちゃんと続きをやるから」

 

「当然です」

 

「――咲夜」

 

レミリアが声をかける。

 

「ひとまず下がりなさい」

 

「お嬢様……」

 

「私も見たいのよ。あれだけの戦いをしていたのに本気ではなかったというなら、その本気とやらをね」

 

咲夜は少しだけ不満そうな顔をしたものの、主人の命令を無視するつもりはない。それに何より、自分自身も興味を持ってしまっていた。

 

「分かりました」

 

そう答えて庭園の端へ移動しながら、咲夜は一度だけガーディアンを振り返る。

 

(では、見させてもらうわ)

 

先ほどまで自分を相手にしていた男。

自分を殺さないために、本来の攻撃手段を封じ続けていた戦士。

 

(あなたが何も制限されていない時、一体どう戦うのかを)

 

やがてクロウも庭園中央へ歩み出た。

ガーディアンと向かい合い、お互いに数十歩ほどの距離を取る。

二人とも、まだ武器は完全には構えていない。

しかし、それだけで周囲の空気が変わった。

先ほどの咲夜との模擬戦にも緊張感はあった。だが、今のそれとは種類が違う。目の前にいる二人は互いに、本当に相手を撃つつもりで立っている。

それが、何も始まっていない段階から伝わってくる。

文は取材帳を持ったまま、思わず呟いた。

 

「……まだ何もしていないのに、さっきより怖いですね」

 

「……同感だぜ」

 

魔理沙も笑っていなかった。

クロウはホークムーンを完全には構えず、銃口をやや下へ向けたまま立っている。しかし人差し指はいつでも引き金へ届く位置にあり、両足はすぐにどの方向へでも飛び出せるよう僅かに開かれていた。

対するガーディアンもショットガンを低い位置に持ったまま、身体をほんの少し前へ傾けている。その足元ではアークの稲妻が絶えず小さく弾け、今にも地面を蹴って飛び出しそうだった。

美鈴は二人の姿勢を見比べながら目を細める。

 

「……二人とも、もう相手を見ていますね」

 

「見ている?」

 

大妖精が尋ねる。

 

「ただ睨み合ってるだけじゃないんですか?」

 

「違うと思う」

 

美鈴は首を横に振った。

 

「相手が最初にどちらへ動くのか、自分との距離はどれくらいか、近くに使えそうな遮蔽物はあるか。たぶん、もう確認してる」

 

「開始前から?」

 

「開始してから考えていたら遅いのでしょうね」

 

パチュリーが静かに答えた。

 

「彼らの戦いでは、一瞬の判断がそのまま死に繋がる。なら、開始前に得られる情報を使わない理由がない」

 

その言葉に咲夜が小さく頷いた。

 

「おそらく最初の一手を間違えた方が、そのまま流れを奪われるわ」

 

「そんなに早いの?」

 

チルノが驚く。

 

「私にも断言はできないわ」

 

咲夜はそう言いながらも、視線はガーディアンから外さない。

 

「でも先ほど彼と戦ったから分かる。あの人は一度有利な位置を取ると、こちらが立て直す前に次の手を重ねてくる。あれに本当の攻撃が加わるのなら――」

 

最後までは言わなかった。

それでも、周囲の者達には十分意味が伝わった。

ケイドは二人から少し離れた場所へ移動し、声を張る。

 

「よし、二人とも!」

 

クロウが視線だけを向け、ガーディアンも僅かに顔を動かす。

 

「制限時間は一分。掛け値なしの一本勝負だ。武器、能力、何でも使用可。二人とも全力でやれ」

 

「分かった」

 

クロウが短く答える。ガーディアンは例によって片手を上げてグッと親指を突き立てる。

 

「だからなんでそれで全部済ませるのよ……」

 

霊夢が呟く。ケイドは苦笑しながらも続けた。

 

「ただし絶対に条件は守れよ。庭の外へ攻撃を飛ばすな。観客を巻き込むな。紅魔館を壊すな。あくまでこの範囲だけでやれ」

 

「言われなくても分かってるさ」

 

クロウが頷き、ガーディアンも今度は普通に頭を縦へ振る。

 

「ゴースト!グリント!」

 

呼ばれた二体のゴーストが、それぞれ主人の近くへ浮かび上がった。

 

「すぐ蘇生できるように準備しとけ」

 

「分かりました」

 

ガーディアンのゴーストが答え、グリントも元気よく続く。

 

「任せてください!」

 

その会話を聞いた大妖精が青ざめる。

 

「……本当に、死ぬことを前提に準備するんですね」

 

ケイドは彼女の方を見て、先ほどまでより穏やかな声で答えた。

 

「さっきもいたがそれがクルーシブルだ。どっちかが死んだら終わりじゃない。死んで、蘇って、また戦う。それを何度も繰り返して勝敗を決める」

 

文はその説明を聞きながら、羽根ペンを取材帳へ走らせる。

 

『試合開始前から蘇生役が待機』

 

そこまで書いたところで一度筆が止まり、少し考えてから新しい一文を加えた。

 

『彼らにとって死は、戦いの終わりではなく過程の一つ』

 

その文字を自分で書き終えた瞬間、文自身が僅かに寒気を覚える。

幻想郷にも妖精、蓬莱人という不死の存在はいる。死を恐れない妖怪もいれば、常識では測れない生命力を持つ者もいる。

だが、目の前にいるガーディアン達は少し違う。

彼らは死を恐れないから無謀なのではない。

死んでも戻れるという事実そのものを、戦い方の一部として利用している。

 

「……やっぱり、根本が違いますね」

 

文が小さく呟くと、霊夢が横目で見る。

 

「何が?」

 

「幻想郷の戦いと、彼らの戦いですよ。最初は武器や能力が違うだけだと思っていましたけど、それよりずっと深いところが違う。生きることと死ぬことの距離そのものが違うんです」

 

「ええ」

 

咲夜も静かに同意する。

 

「私達が一度の失敗で命を失う場面でも、彼らは死を一度の失点として扱える。ならば、同じ戦い方になるはずがありませんわ」

 

パチュリーもゆっくり頷いた。

 

「魔法と科学の差ではない。文化の差ですらないかもしれない。生存そのものに対する前提が違うのね」

 

レミリアは何も言わず、庭園中央の二人をじっと見つめていた。フランドールもいつの間にか足を揺らすのを止め、チルノやルーミアも先ほどまでの気楽な雰囲気を失っている。

霊夢も腕を組んだままガーディアンを見る。

魔理沙も帽子のつばを少し持ち上げ、表情を引き締めた。

庭園中央では、一人のウォーロックと一人のハンターが向かい合っている。

ガーディアンの全身では青白いアークの稲妻が絶え間なく走り、手には近距離用のショットガン。対するクロウはホークムーンを握り、身体を僅かに斜めへ向けて相手の出方を窺っている。

二人とも動かない。

それでも、全員が分かっていた。

これは静止しているのではない。

既に互いを観察し、最初の一秒へ向けて準備しているのだ。

 

ケイドが二人の間から十分離れた位置へ移動すると、片手を高く上げた。

 

「よし」

 

その声を合図に、庭園にいた者達が一斉に黙る。

 

「これより一分間。ガーディアン対ガーディアン――幻想郷特別、即席クルーシブル一本勝負を行う」

 

チルノが思わずごくりと唾を飲み、大妖精は胸の前で手を組む。美鈴は二人の足元へ目を向け、最初の踏み込みを見逃すまいと集中し、パチュリーも僅かに前のめりになった。

咲夜は腕を組み、ただ一人、ガーディアンだけを見ている。

射命丸文は取材帳の白い頁へ羽根ペンの先端を触れさせ、何が起きても即座に記録できるよう身構えた。

 

ケイドはまずクロウを見る。

 

「準備は?」

 

「いつでも」

 

短く答えたクロウの声には、もう先ほどまでの柔らかさはない。次にガーディアンを見る。

 

「相棒?」

 

ガーディアンはショットガンを握り直しながら、またしても静かに親指を立てた。

 

「…………………」

 

その仕草を見た霊夢が、こんな時ですら呆れたように小声を漏らす。

 

「……緊張感ないわね、あいつ」

 

「いつものことなんじゃないか?」

 

魔理沙も苦笑しかけた。しかし、その僅かな空気の緩みは一瞬で消え去った。

 

ガーディアンが親指を戻した、その瞬間。

 

バチィッ――!

 

それまでより一際強いアークの稲妻が全身から迸り、地面を走った電弧が芝生を青白く照らした。

同時に、クロウの目つきがさらに鋭くなる。

ほんの数秒前まで会話をしていた青年の姿はもうない。

今そこにいるのは、幾度となく敵の銃口と向かい合い、その度に生き残ってきたハンターだった。

ガーディアンもまた同じだった。

無口で、奇妙なエモートばかり繰り返していた男の雰囲気が消え、全身から流れるアークの光と共に、その場にいる誰もが理解できるほど露骨な戦意を放っている。

二人の間にあるのは、馴れ合いでも友情でもない。

開始の合図が出れば、互いに躊躇なく殺しに行く。

ただそれだけだった。

咲夜はその光景を見ながら、無意識に息を止める。

 

(これが……)

 

先ほどまで自分と戦っていた男の、本来の姿。

 

(ガーディアン同士の戦い……)

 

文も羽根ペンを持つ手に僅かに力を込めた。

記事を書くために何度も戦いを見てきた。妖怪同士の喧嘩も、異変の現場も、命の危険がある戦いだって取材したことは一度や二度ではない。

それでも、今目の前にある緊張感はどれとも違った。

二人が殺気を剥き出しにしているからではない。

 

――むしろ逆だった。

 

怒りも憎しみもない。

 

それなのに、開始すれば互いを殺すことに一切の躊躇がない。

そこにあるのは感情ではなく、習慣。

それが文には何より恐ろしく感じられた。

ケイドが上げていた手をそのまま高く掲げる。

庭園から音が消えたかのように、誰もが息を潜める。

 

霊夢も、魔理沙も、レミリアも、咲夜も、パチュリーも、美鈴も、チルノも、大妖精も、ルーミアも、フランドールも、そして文も。

そして妖精メイド達。

 

誰一人として視線を逸らさない。

ガーディアンの足元でアークが弾ける。

クロウの指がホークムーンの引き金へ添えられる。

互いの視線が交差する。

次の一瞬で、何かが起こる。

その予感だけで庭園全体が張り詰めた時――ケイドは高く上げていた手を、勢いよく振り下ろした。

 

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