東方天命録~The Final Shape Begins~ 作:はならむ
その時、ガーディアンがふと動いた。
「?」
霊夢が彼を見る。
何かを思い出したらしい。
ガーディアンは無言のまま右手を動かし――次の瞬間、その手の中に巨大な銃器を出現させた。
黒を基調とした、異様に無骨な大型マシンガン。
その武器を見た瞬間。
「あっ!」
霊夢が指をさした。
「それ昨日あんたが使ってた武器じゃない!」
「ほんとだ!」
チルノもぱっと顔を明るくする。
「すっごい爆発するやつじゃん!!」
昨日、ハイヴの大群へ向けてガーディアンが撃ち込み、着弾するたびに凄まじい爆発を巻き起こしていた大型火器『ゼノファジ』。
霊夢達は単に見覚えのある武器が出てきたと思っただけだった。
「…………ガーディアン?」
しかしイコラ達の面々は違った。
「…………」
ケイドの笑みが止まった。
クロウが露骨に嫌そうな顔をする。
ゴーストは空中でぴたりと静止した。
そしてイコラは、ガーディアンの手にあるゼノファジと、本人を交互に見た後、顔を引きつらせた。
「あなた……」
嫌な予感が声だけで伝わってくる。
「まさか」
ガーディアンは何も言わない。
ゼノファジを少し持ち上げる。
そして側面の機構へ手を掛けた。
カチャリ。
金属音と共に一部が開かれる。
「?」
霊夢達が揃って首を傾げる。
「何見せる気だ?」
魔理沙が少し身を乗り出した。
ガーディアンは武器の内部を指さした。そこは本来ならば弾薬か何かが収まっていそうな場所に小さな生物のようなものが存在していた。
「…………」
最初に霊夢が眉を寄せる。
「なにこれ」
周りからぞろぞろ集まりさらに覗き込む。
「……蟲?」
「ほんとだ」
チルノも横から覗く。
「虫がいる!」
「何で銃の中に?」
魔理沙も怪訝そうに顔を近づける。美鈴も少し離れた位置から覗き込み。
「これ……生きてます?」
と、不安そうに尋ねた。
「くねくね動いてるね」
フランドールは興味深そうに目を輝かせる。
大妖精は一歩後ろへ下がった。
「わ、私はあんまり近くで見たくないです……」
「食べられるのかー?」
ルーミアが尋ねる。
「やめなさい」
霊夢が即座に止めた。
「絶対やめなさい」
一方、ゴーストはそんな幻想郷側の反応を見ながら。
とても……とても嫌そうに主人へ顔を向けた。
「えっ……ガーディアン」
ガーディアンが見る。
「……本気で言ってます?」
(●^ω^●)ニッコリ!
迷わず親指が立った。
「…………」
ゴーストの機体が力なく少しだけ下へ傾いた。
「……どうなっても知りませんからね、私は」
「何?」
霊夢がそちらを見る。
「どういうこと?」
「…………」
ゴーストはしばらく黙っていた。
「ゴースト?」
「はい」
「なんで黙るのよ」
「……説明すると、たぶん皆さんが非常に大きな声を出すと思いまして」
「余計気になるじゃない!」
「ですよね……」
ゴーストは、心底諦めたように小さく回転した。
そしてゼノファジ内部の小さな蟲へ視線を向ける。
「……この蟲は」
一度、言葉を止めた。
「いえ――」
訂正する。
「彼は……」
「……彼?」
霊夢の表情が僅かに変わるがゴーストは続けた。
「……イコラが先ほど話した、ハイヴの人体実験を受けたガーディアンです」
「…………」
一同が固まる。
「彼の名はオマール・アガー」
イコラがゆっくり目を閉じた。
「彼はハイヴに捕らえられ、身体から光を剥ぎ取る実験を受けました。ですが、その過程でハイヴは彼の光だけではなく――魂そのものまで肉体から引きずり出してしまったんです」
「…………」
ゴーストの声だけが庭園に響く。
「そして、その結果――」
全員の視線がゼノファジの内部へ向かう。
「このような姿になりました」
一秒。
二秒。
三秒。
霊夢の表情が徐々に固まる。
魔理沙の口が半開きになる。
美鈴が一歩後ずさる。
咲夜の目が見開かれる。
小悪魔は顔を引きつらせながら、パチュリーの裾を掴んだ。
レミリアの紅い瞳が僅かに揺れる。
チルノが蟲とゴーストを交互に見る。
そして大妖精が真っ青な顔になった。
「……え」
霊夢が震える声で口を開く。
「じゃあ……」
指先も震えながらゼノファジの中身を指さす。
「この蟲……」
ゴーストは非常に申し訳なさそうに答えた。
「元ガーディアンです」
――沈黙、そして。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!」
本日何度目か分からない絶叫が紅魔館の庭園を揺らした。
「それ人だったのぉぉぉぉぉぉっ!?」
霊夢が頭を抱える。
「蟲にされたって、そのまんまの意味なのかよぉぉぉぉぉっ!?」
魔理沙も完全に顔を引きつらせる。
「いやああああっ!」
大妖精は即座にチルノへしがみついた。
「大ちゃん落ち着いて!あたいも怖い!」
「チルノちゃんがそれ言ったら私どうしたらいいの!?」
二人揃って震える。妖精メイド達も、
「もうあの人達やだああああああっ!!」
「おうち帰りたい!!!」
「ここがおうちよ!」
「……あ、そうだった。けどいやあああああ!!」
美鈴も。
「ちょ、ちょっと待ってください!昨日私達、これの中に元人間が入ってるとも知らずに普通に見てたんですか!?」
と、目を剥いた。
「そ、そうなりますね……」
ゴーストが答える。
「知りたくなかったです!」
文に至っては数秒間、完全に筆が止まっていた。
そして静かに手帳を閉じる。
「…………」
霊夢がその様子に気づく。
「文?」
「今日はもう駄目です」
「え?」
「情報量の許容量を超えました」
「文が取材を諦めた!?」
「私にだって限界くらいありますよ!」
レミリアも椅子から立ち上がり、ゼノファジを指さしていた。
「待ちなさい!」
「はい?」
ゴーストがそちらを見る。
「そのオマールとかいうガーディアンは……生きているの?」
「はい」
「意識も?」
「あります」
「その状態で?」
「はい」
「銃の中に?」
「はい」
「…………」
レミリアはゆっくり額へ手を当てた。
「頭が痛くなってきたわ」
「お姉様」
フランドールが無邪気に言う。
「見ていい?」
「もう見てるでしょう!」
「触っていい?」
「駄目!」
「なんで?」
「なんでも何もないわよ!」
「元人間なんでしょ?」
「だから余計に駄目よ!」
「ちぇー」
フランドールが頬を膨らませる。
その騒ぎの中、イコラだけは一言も喋らず額に手を押さえている。
「…………」
やがて非常に低い声で。
「あなた」
ガーディアンがイコラを見る。
「……なんでよりにもよって」
一拍。
「こんなタイミングでゼノファジなんか出したの?」
本人は相変わらず無言を貫き通している。
ただゴーストを見て、ゴーストも主人を見る。
「…………」
しばらくの沈黙。
「たまには自分から言えばどうですか?」
ガーディアンは性懲りもなく右手でサムズアップ。
「たくう……分かりました」
ゴーストが観念する。霊夢が怪訝そうに眉を寄せた。
「何なの?」
「…………」
ゴーストは一度イコラを見るがその目が怖い。
「言いなさい」
「はい」
ゴーストは覚悟を決めた。
「ガーディアン曰く――」
一拍。
「『いや、だってイコラがちょうどいい具合にその話をしたから、実物を教材として見せた方が分かりやすいかなって――』」
「…………」
完全な沈黙。
風が庭園を吹き抜けた。
霊夢。
魔理沙。
レミリア。
咲夜。
美鈴。
パチュリー。
チルノ。
大妖精。
ルーミア。
フランドール。
文。
妖精メイド達
ケイド。
クロウ。
そしてイコラ。
全員がゆっくり。
ガーディアンへ視線を向ける。
(●^ω^●)エッヘン!
満面の笑顔を思わせる勢いで親指を立てていた。
「…………」
イコラの眉間に深い皺が刻まれる。
「……ガーディアン」
親指が少し下がった。
「あなたは……」
一歩、イコラが近づく。
「どうして……」
さらに一歩、ガーディアンが僅かに後退する。
「こういう時だけ!」
もう一歩。
「無駄に教育熱心なのよ!」
「そこ!?」
霊夢が思わず突っ込んだ。
「怒る場所そこなの!?」
「全部よ!」
イコラが叫ぶ。
「全部怒ってるわ!」
「いやぁ……」
ケイドが必死に笑いを堪えている。
「教材って……」
肩が震える。
「確かに現物以上に分かりやすいもんは――」
「ケイド」
笑いが止まった。
「笑ったわね?」
「笑ってない」
「今笑ったわ」
「気のせいだ」
「あとで話があるから」
「…………………………」
クロウはそんな二人を横目に、何とも言えない顔でゼノファジを見る。するとゴーストはフォローするかのように、
「けどオマール本人は案外、これで満足してますよ」
「え、こんな姿にされたのに?」
「これは元々彼の愛用していたマシンガンなんです」
「そうなんだ………」
魔理沙は口角を引きつらせる。
「それで、その愛用武器と一体化して、さらにガーディアンに使ってもらえて――」
――そして。
「『これで……ハイヴどもを八つ裂きにできる』と」
「怨念の塊じゃないか!!」
魔理沙が頭を抱える。
「お前ら何百年も戦ってる間に、絶対どっかに大事な感覚置いてきただろ」
「それは」
クロウが少し考え。
「否定し切れないな」
「否定しろよ!」
魔理沙の怒声が庭園へ響いた。
その騒ぎの中、咲夜は改めてガーディアンを見る。
つい先ほど、十数秒でクロウを殺した男。
クルーシブルで何万戦も繰り返し。
ガーディアンとなってから十数年間。
死んで、蘇って、また戦い、その手に持つ武器の中には、敵による凄惨な実験の末に姿を変えられた同胞までいる。
そして本人はそんなものを「教材になるから」という理由で、何の悪気もなく満面の笑みで皆の前へ持ち出した。
「…………」
咲夜はしばらく彼を見つめた後、深く息を吐いた。
「……本当に」
小さく、心底疲れたように呟く。
「あなた達の世界って……一体どうなっているんですか?」
その問いにケイドはまるで遠い昔を思い出すように空を見上げた。
「それを全部説明しようとすると一日どころか」
一拍。
「おそらく何年もかかるどころじゃ済まないぞ」
「もう十分よ!」
霊夢が即座に叫んだ。
「お腹いっぱい!」
「まだほんの一部なんだけどな」
「聞きたくない!!」
再び、霊夢の叫びが紅魔館の庭園いっぱいに響き渡った。