東方天命録~The Final Shape Begins~ 作:はならむ
紅魔館の庭園に漂っていた緊張は、長い会話を重ねるうちに少しずつ形を変え始めていた。
つい先ほどまで、そこではガーディアンとクロウが即席ではあるが彼らの競技、クルーシブルを行った。
クロウはガーディアンの速攻により、確かに一度命を落とした。それでもグリントの光によって蘇ると、直後には自分を殺したガーディアンへ戦い方の文句まで言っていたのだから、霊夢達にとっては未だ理解し難い光景だった。
霊夢はしばらくクロウとグリントを見比べていたが、やがて考え込むように顎へ指を添えた。
「……でもさ。あたしはガーディアンじゃないけど、そうやって何度も生き返れるっていうのは、ちょっとは羨ましいかも」
「羨ましい?」
隣にいた魔理沙が意外そうに眉を上げる。
「だってそうでしょう?」
霊夢はガーディアンの傍らに浮かぶゴーストへ視線を移した。
「要するに、妹紅や輝夜みたいなものなんでしょう?普通の人間みたいに歳を取って寿命で死ぬわけじゃない。それなら永遠亭の連中とか、月の民みたいにずっと長く生きられるってことじゃない」
「……その人達のことを知らないのでなんとも言えませんが」
ゴーストは続ける。
「少なくとも、ガーディアンとして蘇った後は、通常の人間と同じように老いていくわけではありませんね」
「ほら」
霊夢は納得したように頷く。
「だったら何百年経っても若いままでいられるんでしょう? 身体だって治るし、歳だって取らないし……それなら悪いことばかりでもないじゃない」
その言葉に、チルノがぱっと顔を上げた。
「じゃあ霊夢もガーディアンになったらいいじゃん!」
「なれるわけないでしょうが」
「なんで?」
「知らないわよ。そもそも死なないと始まらない時点で嫌よ」
「でも死んでも生き返るんでしょ?」
「最初の一回は普通に死ぬのよ!」
「そっか!」
「納得早いわね……」
大妖精が困ったように笑う一方で、霊夢は無意識に自分の頬へ指先を触れた。それを魔理沙は見逃さなかった。
「なんだ霊夢。お前、やっぱり若さ気にするんだな」
「……何よ、その顔」
「いやあ、普段のお前ってそういうの全然気にしてないように見えるからさ。婆さんになっても『別にどうでもいいわよ』とか言ってそうだと思ってたぜ」
「魔理沙、あんたねえ!」
霊夢が勢いよく振り返る。
「あたしだって女なんだから、歳取って皺だらけになるより若いままでいたいと思うくらい普通でしょうが!」
「へえ、ちゃんと乙女心あったんだな」
「今すぐその口閉じないとお祓い棒を突っ込むわよ」
「おー怖っ」
「逃げるな!」
美鈴が思わず吹き出し、小悪魔も口元を押さえて笑う。レミリアまで肩を小さく揺らしながら霊夢を見た。
「意外ね。博麗の巫女でもそういうところは普通の女の子なのね」
「レミリアまで何よ」
「別に悪く言ってないわよ。むしろ少し安心しただけ」
「何に安心するのよ」
「あなた、普段あまりにも色気がないもの」
「喧嘩売ってる?」
「お嬢様」
咲夜が静かに嗜める。
「その辺りで」
「咲夜まで止めるの!?」
「止めます。今のは完全にお嬢様が悪いです」
「なんでよ!」
庭園に小さな笑いが広がった。チルノも胸を張る。
「あたいは歳なんて気にしないけどね!」
「チルノちゃんはもう何百年経ってるけど今とあんまり変わらないよね」
大妖精が穏やかに言う。
「当然!あたいは最強だから!」
「若いことと最強なのって関係あるのかー?」
ルーミアが首を傾げる。
「ある!」
「そーなのかー」
「そこで納得しないでよ!」
そんなやり取りが続く中、イコラだけは笑っていなかった。霊夢がそれに気づいたのは、少ししてからだった。
「……私達、何か変なこと言った?」
イコラは静かに首を横へ振る。
「いいえ。あなた達の立場からすれば、そう思うのは自然よ」
「でも、その顔」
霊夢は少し眉を寄せた。
「どう見ても『そう単純じゃない』って顔してるわよ」
魔理沙もイコラを見る。
「……やっぱり、なんかあるのか?」
イコラは一度だけガーディアンとゴーストへ視線を移し、それからケイド、クロウへ目を向けた。
ケイドの顔からも、いつの間にか笑みが消えている。
「あなた達から見れば、私達は恵まれているように見えるでしょうね」
イコラは静かに話し始めた。
「老いない。死んでも条件さえ揃っていれば蘇る。身体がどれだけ傷ついても、ゴーストがいればまた立ち上がれる。普通の人間からすれば、確かに夢のような力に見えると思う」
「その通りじゃないの?」
霊夢が聞き返す。
「その通りではあるわ」
「あるの?」
「ええ。ただし、それが幸せだったかどうかは別の話」
霊夢の表情から笑みが消える。イコラは少し言葉を選ぶように目を伏せた。
「楽になりたくても、それすら許してもらえなかった」
……そう静かに告げた。
「そう言った方が近いのかもしれないわね」
「…………どういう意味?」
今度の霊夢の声は静かだった。ケイドが小さく息を吐く。
「そりゃあそうさ」
「え?」
「霊夢の羨ましがる気持ちは分かるぞ。年を取らない、死んでも生き返る、イコラの言う通り普通なら夢のような話だ。だが――」
一拍。
「それは平穏な世界である前提だ」
「あ……………!」
「だが、何百年も戦争している俺達の世界だとその考えは百八十度変わる」
ケイドは肩を竦める。
「不老でしかも条件下では何度でも生き返る、そして光を武器として使える。そんな奴らを兵士にしない理由がない」
パチュリーは指を顎に添えた。
「まるであなた達をガーディアンに仕立てた存在――」
「トラベラーよ」
「恩恵と呼ぶには妙ね。老いず、死してなお蘇り、強大な力まで与えられる。その力が必要になるほど過酷な世界なら――結果的に、あなた達は最も戦場から逃れにくい存在になる」
「……ええ。トラベラーがそこまで意図していたのかは、今でも分からない。でも、私達がそういう存在になったのは事実よ」
霊夢がぽつりと呟く。
「……つまり死なないから、ずっと戦わされるのね」
イコラはすぐには答えなかった。ケイドは話を続ける。
「で、いざ戦場では頭を撃ち抜かれる。爆発に巻き込まれて身体吹っ飛ぶ、先ほどのクロウみたい感電死する」
「ちょっと」
霊夢が顔をしかめる。
「いきなり物騒すぎない?」
「これでもかなりマシに言ってる」
「もっと酷い死に方あるの!?」
「ある」
「即答しないでよ!」
魔理沙も少し引いた顔をする。
「ガーディアンって、本当に毎回そんな死に方してるのか?」
「毎回じゃねえよ」
ケイドは苦笑する。
「銃で普通に撃ち抜かれて死ぬ日もある」
「そっちも十分嫌だぜ」
大妖精が不安そうに尋ねた。
「でも……生き返ったら、その時の痛みは消えるんですよね?」
クロウが静かに答える。
「まあ傷と痛み自体は消える」
「じゃあ……」
「だが、痛かったという経験まで消えるわけじゃない」
大妖精の表情が固まる。
「撃たれれば痛い。焼かれれば苦しい。身体を斬られれば、その感覚も残る。死ぬ直前には、ちゃんと恐怖もある」
「さっきも……?」
大妖精がクロウを見る。
「さっきの戦いも、痛かったんですか?」
「……まあ、正直に言えば」
クロウは小さく笑った。
「かなりな」
チルノが眉を吊り上げる。
「ガーディアン!大ちゃんの前でクロウをあんなに痛い目に遭わせるな!」
ガーディアンは少しだけ首を傾げる。ゴーストが横から訳す。
「『ガーディアン同士の闘いだから仕方ない』だそうです」
「仕方なくない!」
「あと『クロウもすでに覚悟を決めてた』と」
「それはそうだけど!」
クロウが苦笑する。
「まあ、そこは私にもあいつを抑え切れなかった責任がある」
「でも、クロウさん、復活した後すぐ普通に話してましたよね」
小悪魔がそう聞くと、
「あれは痛くなかったからじゃない」
クロウは静かに答える。
「もう終わったことだったからだ」
「終わったことって……」
「戦場では、一度死んだ時の痛みをいつまでも引きずっていられない。蘇った時点で敵がまだいるなら、また戦わなければならないからな」
その言葉に、咲夜は僅かに俯いた。つい先ほど、自分がガーディアンへ無数のナイフを突き立てた光景が蘇る。
「……では」
咲夜が静かに口を開いた。
「先ほど私があなたを殺した時も」
ガーディアンが咲夜を見る。
「やっぱり、痛かったのですか?」
ガーディアンは少し考えた後、普通に頷くと咲夜の顔が青くなる。
「やはり……」
「『けどまあ、あれは完全にこっちが油断してたから気にするな』と言ってます」
ゴーストからの咲夜は何とも言えない表情になった。
「……そう簡単に言われましても」
「そういう奴なんだよ」
ケイドが横から苦笑する。霊夢は再びクロウを見る。
「それを何回も繰り返すの?」
ケイドが肩を竦める。
「多すぎて途中から数えなくなる」
「数えなさいよ!」
「何のために?」
「知らないけど、普通は自分が何回死んだかくらい覚えてるものでしょ!」
「普通は何回も死なねえからな」
「それ言われたら終わりじゃない!」
魔理沙が笑いながら口を挟む。
「霊夢、そこはガーディアン相手に普通を求めるのが間違いなんじゃないか?」
「それが一番腹立つのよ!」
イコラは少しだけ口元を緩めたが、すぐにまた静かな表情へ戻った。
「本当に厄介なのは、蘇った後なの」
霊夢がそちらを見る。
「私達は蘇れば、また戦場へ戻る。もちろん、何百年間一日も休まず戦っていたという意味ではないわ」
「そりゃそうよね」
霊夢が言う。
「さすがにそんな生活してたら頭おかしくなるわ」
ケイドが手を挙げる。
「俺は結構サボってたぞ」
イコラが即座に返す。
「報告書からも逃げていたでしょう」
「今それ言う?」
「言うわ」
「ヒデぇなあ」
魔理沙が笑う。
「ちゃんと遊んだりもしてたんだな」
「もちろんだ」
ケイドは頷く。
「酒飲んだり、ラーメン食ったり、ギャンブルやったり、仲間と馬鹿やったりな」
「それ聞いてちょっと安心したぜ」
「でも」
イコラが続けると、自然と皆が静かになる。
「心の底から『もう戦わなくていい』と思えた日は、ほとんどなかった」
パチュリーが僅かに目を細める。
「一つの戦争が終わっても、次が来るから?」
「そうよ。ハイヴを退けてもベックスが動く。フォールン、カバルとの問題が起きる。宿られた兵やスコーンも現れる。そして、最後には目撃者まで出てきた」
「……休暇というより」
パチュリーが静かに言う。
「次の作戦が来るまでの待機時間ね」
「で、相棒はその待機時間すらクルーシブルに費やしたと」
「……やっぱりあいつの頭のネジが一本なくなってるのかもね」
イコラは苦笑した。
「言い方はかなり辛辣だけど、否定できないわ」
魔理沙が腕を組む。
「だったら、もう嫌になってやめた奴もいたんだろ?」
「いたわ」
「本当に?」
「戦うことに疲れて前線を離れた者もいるし、武器を捨てた者もいる」
霊夢は少しだけ安心したような顔をする。
「じゃあ、絶対に戦わなきゃいけないわけじゃなかったのね」
クロウが頷く。
「誰かが鎖で繋いで戦場へ連れていくわけではない」
「なら……」
「だが、それが何を意味するか分かるか?」
クロウの声音が少しだけ重くなる。
「一人が戦場から離れれば当然、その分だけ残った者の負担は増える」
霊夢が黙る。
「百人で守っていた場所を九十九人で守ることになる。さらに一人減れば九十八人だ。それが積み重なれば、いずれ守れなくなる場所が出てくる」
美鈴が静かに尋ねる。
「守れなくなったら……どうなるんですか?」
「敵が次に牙を向ける先は――」
クロウは一度、美鈴を見る。
「なんの罪もない、力を持たない民間人だ」
その場全員の表情が曇る。クロウは声を少し柔らかくした。
「子供もいる。老人もいる。武器を持ったことすらない人達もいる。我々がいなくなれば、敵にとっては邪魔者がいなくなっただけだ」
「あの目撃者も?」
霊夢が尋ねる。
イコラが頷く。
「同じよ。私達がいなくなったからといって、あれが人類を見逃してくれるわけではない」
「……そりゃそうよね」
霊夢は静かに呟いた。
「敵からしたら、厄介な邪魔者が消えただけだもの」
「そういうこと」
イコラは頷く。
「だから、戦うことをやめる自由はあっても、その後に誰が代わりに立つのかを考えてしまう。楽になりたいと思っても、簡単には武器を置けなかった」
咲夜が小さく息を吐く。
「……それは、確かに辛いですね」
「ええ」
イコラは静かに答えた。するとケイドが、少し考えるようにガーディアンの横に浮かぶゴーストへ目を向けた。
「それに、もう一つある」
霊夢が顔をしかめる。
「まだ重くなるの?」
「少しな」
「聞きたくないわ……」
「でも聞いとけ」
ケイドは苦笑する。
「全部嫌になったなら、ゴーストを壊すなり、蘇生できない場所へ行って本当に死ねばいい。そう考える奴もいるだろうな」
大妖精が目を見開く。
「そんな……自分のゴーストを?」
「実際、追い詰められりゃそこまで考える奴もいる」
「でも」
霊夢がゴーストを見る。
「できない?」
「ああ」
ケイドは静かに頷いた。
「長く一緒にいるとな」
ゴーストが少しだけケイドを見る。
「こいつらはただの蘇生装置じゃない、れっきとした生き物だ。何十年、何百年って一緒に戦って、喋って、喧嘩して、助けられて、こっちも守る」
ゴーストが小さく言う。
「珍しくまともなことを言いますね」
「珍しくは余計だ」
「でも事実です」
「お前、本当に相棒に似てきたな」
ガーディアンが親指を立てる。ケイドが即座に指差す。
「お前も褒めてねえからな!」
霊夢達から小さな笑いが起きる。ケイドはその笑いが収まるのを待ってから、少しだけ表情を和らげた。
「要するに、家族みたいになるんだよ」
ケイドの表情がほんの一瞬だけ止まる。
「……そんなヤツを、自分が楽になりたいからって簡単に殺せると思うか?」
少し離れたところで、ガーディアンが無言のまま手を伸ばし、ゴーストの外殻へそっと触れる。
「……あたしなら無理ね」
霊夢はそれを眺めながら小さく息を吐いた。
「自分が嫌になったからって、あんな相棒壊すの」
ゴーストが少しだけ嬉しそうに浮かび上がる。
「ありがとうございます」
「別にあんたに言ったわけじゃないわよ」
「でも嬉しいです」
霊夢が少しだけ照れたように顔を逸らした。
その後しばらく沈黙が続いたが、ケイドがふと思い出したように霊夢へ向き直った。
「そういやあ霊夢」
「何よ」
「さっき相棒の戦い方見て、『こんなに早くケリつける戦いの何が楽しいの』って言ってただろ」
霊夢は少し考えてから頷く。
「……確かに言ったわね」
「ちょうどいい一例があるんだ」
霊夢の顔が引きつる。
「ちょ、まだあるの?」
「これで最後」
「それ何回目よ」
魔理沙が笑う。
「もう信用されてないな、ケイド」
「俺、泣いちゃうぞ!」
「自業自得よ」
ケイドは肩を竦めると、少し真面目な表情へ戻った。
「お前らの弾幕ごっこは勝敗後はどうするか分からないが俺達の世界の敵は、負けそうになったら大人しく帰ってくれるような奴ばかりじゃない」
霊夢が腕を組む。
「例えば?」
「昔、カバルの一派ととんでもない戦争をやった時があってな」
魔理沙がすぐに反応する。
「どんな奴らだ?」
「『レッドリージョン』っていう軍団さ。率いてたのはドミヌス・ガウル。俺達はその戦いを『カバル大戦』、または『レッド・ウォー』って呼んでる」
「カバル大戦……レッド・ウォー……」
レミリアが興味深そうに目を細める。
「どんな戦争だったの?」
ケイドの表情から笑みが消える。
「奴らはシティを真正面から襲撃した」
「あなた達の本拠地を?」
「ああ」
「大胆ね」
「大胆どころじゃない」
イコラが続ける。
「ガウルの目的はトラベラーの光だった。そのために巨大な装置でトラベラーを拘束し、私達と光との繋がりを切断した」
すると美鈴はこう尋ねる。
「イコラさん。その、トラベラーとはどんな存在なんですか?」
「そういえば説明してなかったわね。簡単に言えば遥か昔、宇宙の彼方からどことなく現れて人類に繁栄と栄光をもたらし、私達ガーディアンとゴーストを生み出し、その力の根源である光を与え続ける存在よ」
「……神様みたいな存在?」
「似てるようで違うけど、それに近い部分もある超常的存在よ――それがガウル達レッドリージョンによって拘束されてガーディアンとゴーストの力が使えなくなった」
咲夜の目が僅かに見開かれる。
「つまりそれは、蘇生も……」
「できなくなった」
「…………」
大妖精が小さく息を呑む。
「じゃあ、その時死んでしまうと……」
クロウが答える。
「本当に死ぬ」
「戻らない?」
「ああ」
チルノが珍しく真剣な顔でイコラを見る。
「怖かった?」
イコラは少し黙った後、素直に頷いた。
「怖かったわ」
その答えに、チルノが少し驚いたような顔をする。
「イコラでも?」
「当然よ」
イコラは苦笑した。
「恐怖を感じないわけじゃない」
ケイドも頷く。
「で、シティは壊滅寸前になり多くのガーディアンと民間人は犠牲になり、俺達も散り散りになり、本当に最悪だった」
ケイドはため息をついた。
「しかも奴らは追い詰められた時の保険として『オールマイティ』って最終兵器まで持ち込んでた」
パチュリーが眉を上げる。
「名前からしてとんでもなさそうな兵器ね」
イコラが答える。
「その通り。恒星を利用する超巨大兵器よ」
パチュリーの表情が変わる。
「恒星を利用する……何のために?」
「太陽を破壊するため」
「…………」
数秒、誰も言葉を発しなかったが魔理沙がゆっくり口を開く。
「太陽……?お日さまか?」
「そう」
「壊したらどうなる?」
「余波で俺達の太陽系が消し飛ぶ」
「…………は?」
霊夢がケイドを見る。
「ちょっと待ちなさい」
「なんだ?」
「つまり自分達が負けそうになったら太陽をぶっ壊して、敵も味方も自分達も全部道連れ?」
「ああ」
「そいつら馬鹿なの!?」
霊夢の怒声が庭園に響く。
「自分達も死ぬでしょうが!」
「敗北を一切認めねえんだよ、あいつら」
「だからって太陽壊す奴がある!?」
魔理沙も頭を抱える。
「城吹っ飛ばすとかならまだ分かるけど、なんで太陽系丸ごとになるんだよ!」
ケイドが肩を竦める。
「だってカバルだしな」
「そういう問題じゃないぞ!」
「あいつら、息をするように惑星を破壊してるぞ」
「なんで!?」
「侵略が大好きな戦闘種族だからな。それで銀河規模で展開できるレベルの文明を持った奴らだ」
美鈴が苦笑しながらも呟く。
「それはさすがに……敵に回したくないですね」
レミリアも額へ手を当てる。
「負けそうになったら世界ごと壊す相手なんて、いくらなんでも付き合ってられないわ」
「でも実際に俺達はそうやって八方塞がりにされた」
ケイドが答える。
「だからさ」
霊夢が見る。
「こういう連中と何百年も戦ってりゃ、嫌でも考え方が変わるんだよ」
「どんな風に?」
「相手がまだ動けるなら、安心しない」
クロウも静かに続ける。
「追い詰めたからといって降参するとは限らない。むしろ追い詰められた時ほど、何をするか分からない敵もいる」
霊夢の頭に、先ほどの模擬戦が蘇る。
「だから、ガーディアンはあたし達みたいに相手の出方を待たない」
「必要がなければな」
ケイドが答える。
「倒せる時に倒す。撃てる時に撃つ。逃げ道があるなら塞ぐ。一秒でも立て直す時間を与えない」
霊夢は少し考える。
「……さっきのクロウが電撃で苦しんでた時も?」
「ああ」
クロウ自身が頷く。
「私はまだ戦えた」
「苦しんでても?」
「私だってすぐにでもゴールデンガンを出してガーディアンを焼き殺すつもりだった」
霊夢が黙る。クロウは続けた。
「だからガーディアンからすれば、私はまだ脅威だった」
「……なるほどね」
霊夢は静かにガーディアンを見る。
「冷たいんじゃなくて、そういう癖が染み付いてるのね」
ケイドが苦い笑みを浮かべる。
「『殺られる前に殺る』なんて、格好いい言葉じゃねえけどな」
魔理沙が腕を組む。
「でも実際、それで生き残ってきた」
「ああ」
「それがクルーシブルにも出る?」
「そうだ」
ケイドは頷く。
「それにクルーシブルは単なる殺し合いの競争じゃない。チーム戦なら、ファイアチームの連携を磨く場所にもなる」
霊夢が嫌な予感のする顔をする。
「誰が前へ出る。誰が後ろを見る。誰が敵の注意を引く。誰が援護する」
クロウが続ける。
「一人だけ上手くても、全員が好き勝手に動けば負ける」
魔理沙が頭を掻く。
「今日は本当に耳が痛い話ばっかりだぜ」
霊夢も頬を膨らませる。
「もう分かったって言ってるでしょう」
ケイドがにやりと笑う。
「ならいい」
少しだけ笑いが起きた。それが落ち着くと、ケイドは今度は少し考え込むように腕を組んだ。
「あと、これは俺個人の考えなんだけどな」
イコラが眉を上げる。
「珍しいわね」
「お前毎回それ言うな!」
「だって珍しいもの」
「酷ぇなぁ」
魔理沙が笑う。ケイドは肩を竦めた後、少し真面目な顔へ戻った。
「クルーシブルは、ある意味では恐怖に慣れるための場所でもあったんじゃねえかな」
大妖精が聞き返す。
「怖くなくなるってことですか?」
「違う」
ケイドは首を横へ振る。
「怖くなくなる必要はない」
チルノが不思議そうに首を傾げる。
「じゃあ何に慣れるの?」
「怖くても動くことだ」
「怖いまま?」
「ああ」
ケイドは頷いた。
「オリックスみたいな化け物を前にして、怖くないわけねえだろ。アハンカーラだってそうだし、目撃者なんか何考えてるか分からねえ」
大妖精が小さく尋ねる。
「ケイドさんも怖いんですか?」
「そりゃあ怖いさ」
クロウも続ける。
「私もだ」
イコラも穏やかに頷く。
「恐怖そのものは悪いものではないわ。危険を危険だと認識している証拠でもある」
霊夢が少し考える。
「じゃあ、恐怖を感じたまま動けるようにする?」
「そういうこと」
ケイドは少し笑った。
「怖くても銃を構える。怖くても仲間を見る。逃げるか、戦うか、助けるかを考える」
魔理沙が感心したように言う。
「恐怖を消すんじゃなくて、恐怖に止められないようにするのか」
「そう」
クロウが頷く。
「何度も失敗し、何度も死に、その度に次はどうするかを考える」
霊夢が呆れたように言う。
「やっぱり異常だわ」
クロウが少し笑う。
「否定はしない」
ケイドも肩を竦めた。
「だから俺にとっちゃ、クルーシブルってのは恐怖に効く薬みたいなもんだったのかもしれねえ」
魔理沙が顔をしかめる。
「何度も死ぬ薬なんて絶対飲みたくないぜ」
「俺も普通の奴には勧めねえよ」
「お前らは普通じゃないんだな」
「今更すぎだろ」
小さな笑いが庭園に広がった。
しかし、その笑いが静まったところで、パチュリーがゆっくり口を開いた。
「……でも」
一同が彼女を見る。パチュリーはイコラ達をまっすぐ見つめていた。
「やっぱり、狂っているわ」
誰もすぐには答えなかった。
「仲間同士で実弾を撃ち合って、本当に相手を殺して、それを訓練や競技として成立させている。理由があるのは嫌というほど分かったけれど、それでも普通じゃない」
小悪魔が少し気まずそうにパチュリーを見る。
「パチュリー様……」
「いいのよ」
イコラが静かに答えた。パチュリーが彼女を見る。だが、イコラは怒っていなかった。むしろ、ほんの少しだけ寂しそうに笑っていた。
「あなたの言う通り」
「……認めるの?」
「ええ」
イコラは頷く。
「あなたがさっきケイドに言った『ガーディアンは狂っている。異常よ』、これは間違いなく正しいと思う」
霊夢が驚いたように言う。
「自分でそこまで言う?」
「言うわ」
イコラの声音に迷いはなかった。
「私達自身が一番よく分かっている」
パチュリーは黙っている。イコラは静かに続けた。
「仲間同士で実弾を使い、能力を使い、本当に相手が死ぬところまで戦う。それを競技として成立させるなんて、普通の世界なら必要ないでしょうね」
レミリアが腕を組む。
「じゃあ、どうしてそこまでしたの?」
「至極単純よ」
イコラはレミリアを見る。
「そこまでして徹底的に戦闘技術を磨かなければ、人類は滅びる道しかなかったから――」
庭園が静まり返り、パチュリーが僅かに眉を寄せる。
「……ここまで長々と話を聞いても冗談かと思えるでしょうけど、これが――」
一拍し、イコラは静かに告げた。
「私達の生きてきた世界なの」
――と。