東方天命録~The Final Shape Begins~   作:はならむ

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第五話:異邦人の証明

「…………」

 

霊夢の視線は神社へ向きら動きが止まった。本殿は半ば崩れ落ち、屋根は吹き飛び、柱は折れ曲がっている。

 

石畳は砕け、境内には無数の爆発跡が残されていた。

 

そして――。

「…………」

 

賽銭箱は、粉々になっていた。霊夢はゆっくりと歩き出す。

瓦礫を踏むたび、乾いた音が静かな境内へ響く。

崩れた本殿の前まで来ると、その場で立ち尽くした。

 

「……私の神社が」

 

その声は震えていた。

 

「異変は解決したのに……」

「帰る場所が……なくなっちゃった」

 

力なくその場へしゃがみ込み、砕けた賽銭箱の欠片を手に取る。

 

「これじゃ、お賽銭も入れてもらえないじゃない……」

 

乾いた笑みを浮かべる。だが、その笑みはすぐに消えた。

何も言えず、ただ瓦礫となった神社を見つめ続ける。

そんな霊夢の隣へ、魔理沙が静かに歩み寄った。

 

「……霊夢」

 

返事はない。魔理沙は帽子を軽く押さえながら神社を見渡す。

 

「ひでぇ有様だな……」

 

しばらく沈黙が流れる。やがて魔理沙は、霊夢の肩を軽く叩いた。

 

「でもさ」

 

霊夢は顔を上げない。

 

「神社はまた建て直せる」

「幻想郷のみんなだって手伝ってくれる」

「だから――」

 

霊夢は静かに首を横へ振る。

 

「そんな簡単な話じゃないわ」

「ここは……私の家なの」

「毎日ここで暮らして」

「お茶飲んで」

「昼寝して」

「退屈だって文句言って……」

「そんな場所だったのよ」

 

魔理沙はその言葉を静かに聞いていた。

 

そして、いつものように少しだけ笑う。

 

「けどあのままじゃあたし達、死んでたかもしれないし神社だけじゃ済まなかった」

「幻想郷そのものが危なかったかもな」

 

霊夢はゆっくりと魔理沙を見る。魔理沙は真っ直ぐ霊夢を見返した。

 

「家は壊れた」

「でも、お前は幻想郷を守った」

「それは胸張っていいことだぜ」

 

霊夢はしばらく黙っていた。

 

やがて、小さく息を吐く。

 

「……ありがと」

 

その時だった。少し離れた場所から聞き慣れない声が聞こえてきた。

 

「よう」

 

一方、ガーディアンが一人の男へ歩み寄っていた。

その男――ケイドは切り札をホルスターに納めると懐かしそうに笑う。

ガーディアンは歩みを止めると、小さく口を開いた。

 

「ケイド……何年ぶりだ?」

 

「元気か?」

 

ケイドはにやりと笑う。

 

「援軍が来ることはクロウから聞いた。バンガードが精兵を送るってな」

 

ガーディアンは静かに頷く。その短いやり取りだけで、互いが無事だったことを確かめ合っていた。

 

ケイドは腕を組み、いつもの調子で笑う。

 

「会えて嬉しいよ。これで誰かと、どこぞの坊っちゃんの間抜けな髪型について話せるからな」

 

その言葉に、後ろで聞いていたクロウが眉をひそめた。

 

「おい、どういう意味だ?」

 

ケイドは「あっ」という顔をすると、慌てて両手を上げる。

 

「あ、やべぇ。今のは聞かなかったことにしてくれ」

 

クロウは呆れたようにため息をついた。

 

「それにしても――」

「正直私も驚いたよ。まさかこんな場所でケイドとまた顔を会わせるとは思わなかった」

 

ケイドは悪びれる様子もなく笑う。

 

「今度はお前が俺に撃たれる番だったかもしれないぞ」

 

「おい、ジョークにすらなってないぞ」

 

「ああ、悪い悪い」

 

ケイドは笑いながら両手をひらひらと振る。

 

「でも安心しろ。確かに俺は根に持つタイプだがそんなことはしねえよ――おそらくな」

 

クロウは苦笑を浮かべる。

 

「最後の一言で台無しだ」

 

そのやり取りを見ていたガーディアンは、ヘルメットの奥で小さく肩を震わせる。ゴーストがくすりと笑った。

 

「……笑ってますよ、この人!」

 

ケイドはガーディアンの肩を軽く叩く。

 

「ほら見ろ。久しぶりに笑ったじゃねぇか。これくらいの軽口がないと、俺たちらしくないだろ?」

 

クロウも思わず笑みをこぼす。

 

「まったく……」

 

ケイドは得意げにフードを上げた。

 

「それでこそ俺だからな」

 

ゴーストはふと思い出したようにクロウへ向き直った。

 

「そういえば、お二人に聞きたいことがあります」

 

クロウが首を傾げる。

 

「何だ?」

 

「あなた達は、この世界へ来てから今までどこにいたのですか?」

 

クロウは少し考え、静かに答えた。

 

「私がベイルの歪みを通った直後、気付けば薄気味悪い……まるで墓場のような場所へ降り立っていた」

 

ケイドが続ける。

 

「俺も目覚めた時にちょうどこいつと出くわして、そこで俺達は感動的な再会した」

「その後は近くを歩き回ってな」

「日が暮れたから、その辺で野宿した。で、坊やから色々話を聞いた。で、今日こいつのゴーストのグリントが敵を感知したから駆けつけたってことだ」

 

クロウは頷く――しかしゴーストは、

 

「え、それはいつの話ですか?」

 

「……つい昨日のことだ」

 

一瞬、その場が静まり返り、ゴーストは思わず声を上げた。

 

「き、昨日ですって!?」 

 

クロウが驚いた顔になる。

 

「……どうした、ゴースト?」 

 

ゴーストは信じられないというように二人を見つめた。

 

「クロウがベイルで生じたあの歪みへ入ってから――私たちは、およそ二週間ほど経ってからここへきたんですよ!」

 

クロウとケイドは顔を見合わせた。

 

「二週間……だと?」

 

ケイドが「いやいやいや!」と苦笑する。

 

「冗談だろ?俺たちは一日しか経ってねぇぞ」

 

ゴーストは小さく首を振る。

 

「間違いありません。私の内部時計でも、ガーディアンの装備ログでも、約二週間が経過しています」

 

クロウは腕を組み、考え込む。

 

「……どういうことだ。ここと地球では時間の流れが違うのか……?」

 

ガーディアンも腕を組み、黙って考え込む。ゴーストは小さく呟く。

 

「ベイルの歪みが、時間軸にまで影響を与えた可能性があります……」

 

ケイドたち三人が再会を喜び、言葉を交わしていると、不意に凛とした声が響いた。

 

「――ちょっと」

 

三人が振り向くとそこには腕を組んだ霊夢が立っていた。

隣には魔理沙も腕を組み、二人をじっと見つめている。

霊夢はゆっくりと一歩踏み出した。

 

「さて、あんた達」

 

その眼差しは鋭い。先ほどまで神社を失った悲しみに暮れていた少女ではない。

 

幻想郷を守る博麗の巫女、そのものだった。

 

「全部話してもらおうかしら」

 

ケイドは切り札をカチャっと掲げる。

 

「何をだ?俺の武勇伝でも聞きたいのか?」

 

「ふざけないで」

 

霊夢は睨み付けるような鋭い視線を向ける。

 

「あんた達は何者なのか」

「どうして幻想郷へ来たのか」

「さっき襲ってきたあの化け物は何なのか」

「それに、その目撃者って奴のこと」

「洗いざらい、詳しく聞かせてもらうわ」

 

お祓い棒を肩へ担ぎ、霊夢は低く告げる。

 

「返答次第ではあんた達、ただじゃ済まなくなるわよ」

 

一瞬、空気が張り詰めた。クロウが静かに息を吐く。

 

「……どうやら隠し通せる相手ではなさそうだな」

 

ケイドも苦笑した。

 

「だな」

 

そしてゴーストへ視線を向ける。

 

「頼んだゴースト、説明は任せた」

 

「了解しました」

 

ゴーストは二人の前へ飛び出す。

 

「まず、私たちはこの世界の住人ではありません」

「私たちの故郷は地球最後の都市――シティです」

 

 霊夢と魔理沙は顔を見合わせる。

 

「シティ?」

 

「地球?」

 

ゴーストは静かに頷いた。

 

「はい。私たちはガーディアンです」

「人類最後の都市を守るため、何百年もの間、光と暗黒の戦いを続けています」

 

それからゴーストは、順を追って説明を始めた。

 

黄金時代。

大崩壊。

暗黒時代

トラベラー。

ベイル

ゴースト。

ガーディアン。

地球、シティ

カバル。

フォールン。

ハイヴ。

ベックス。

宿られた兵。

スコーン。

影の軍団

そして――目撃者、など。

 

「目撃者はベイルを使い、トラベラーへ巨大な門を開きました」

「その後、私たちはリベンの願いを利用した『アハンカーラ作戦』によって、ベイルの扉へ突入しました」

「しかし、扉を通過した瞬間、空間が歪みました」

「気が付けば、私たちは目撃者ごと、ここへ飛ばされていたのです」

 

説明は延々と続いた。数十分後――。

 

「……以上が、私たちの世界と、ここへ至るまでの経緯です」

 

ゴーストは静かに話を締めくくった。

辺りは静まり返る。

 

「…………」

 

「…………」

 

霊夢と魔理沙は口を半開きにしたまま固まっており、頭からプスプスと煙が立ちのぼっているのが見える。

 

長い沈黙のあと。霊夢がようやく絞り出すように呟く。

 

「意味不明すぎて……これっぽっちも理解できなかった」

 

魔理沙も額を押さえ、大きくため息をつく。

 

「固有名詞と専門用語ばっかりで無理だこれ……っ」

「途中から頭に入ってこなかったぞ」

 

ゴーストは申し訳なさそうに俯いた。

 

「す、すみません……」

 

「できるだけ簡潔に説明したつもりだったのですが……」

 

「どこが簡潔なんだよ!」

 

魔理沙が思わず叫ぶ。霊夢も呆れたように肩を落とした。

 

「あれだけ説明して『簡潔』はないわよ……」

 

その場に微妙な沈黙が流れる。すると突然、魔理沙が前に指を指す。

 

 

「なあ、ところであいつ何やってんだ?」

 

 

一同が一斉に振り向く。

そこで全員の動きが止まった。

 

「…………」

 

いつの間に出したのか半透明のソファが一つ。

 

その上でガーディアンは身体を横たえ、膝を抱えて丸くなっていた。

 

すやぁ…………。

 

気持ち良さそうな寝息が聞こえてくる。

霊夢と魔理沙は再び固まった。

 

「…………は?」

 

ゴーストも目を丸くする。

 

「……ガーディアン?」

 

返事はない。どうやら本当に眠っているらしい。

 

魔理沙が信じられないという顔で指を差した。

 

「……なあ」

「あいつ……寝てるぞ」

 

霊夢は引きつった笑みを浮かべる。

 

「いや、あんたが当事者でしょうが!」

 

ゴーストは深くため息をついた。

 

「えっと……」

「説明が長かったので、待ち時間に寝てしまったようです」

 

数秒間、沈黙した後、

 

 

「「子供かおまえはっっ!!」」

 

 

霊夢と魔理沙のツッコミが、幻想郷の空に見事に響き渡った。

 

「この馬鹿…………!」

 

クロウは顔を見せないように反らして額に手を当てた。

 

そして、その様子を見たケイドは腹を抱えて大笑い。

 

「ワハハハハハハハ!」

「やっぱりお前は変わってねぇ!」

「それでこそ俺たちのガーディアンだ!」

 

クロウは盛大なため息をついた。

 

「……笑ってる場合じゃないだろ」

 

――その時だった。何もない空間が、まるで布を裂くようにゆっくりと歪み始めた。

 

紫色の裂け目が音もなく広がり、その奥から無数の瞳がこちらを見つめる。

 

「……!」

 

クロウは即座に腰のホルスターへ手を伸ばした。ケイドも警戒するように目を細める。

 

「なんだ……?」

 

やがて裂けた空間の中から、一人の女性が優雅な足取りで姿を現した。

 

金色の長い髪。紫色のドレス。桃色の卍傘を片手に持つ妖艶な女性。

 

――彼女は八雲紫。

 

「ご機嫌よう。霊夢、魔理沙、そして外来人さん」

 

霊夢は思わず眉をひそめる。

 

「うわ、紫……来るとは思ってたけど」

 

魔理沙も露骨に嫌そうな顔をする。

 

「くそ厄介な奴が来たぜ……」

 

対照的に、ケイドは首を傾げる。

 

「……誰だ、この女?」

 

クロウは紫から目を離さず、小さく呟く。

 

「気配をまったく感知できなかった……」

 

「どうやってそこに現れた?」

 

ゴーストも静かに周囲をスキャンする。

 

「空間そのものを繋げている……?こんな転移方法は記録にありません」

 

ちょうど起きたガーディアンは紫を見つめたまま、手を大きく振り挨拶する。

 

「おいバカやめろ!」

 

魔理沙は彼を制止する。そして紫はそのままガーディアンたちへ視線を向けた。

 

「初めまして、と言っておきましょうか」

「私は八雲紫」

「この幻想郷を管理している者の一人です」

「……そして、この世界の均衡を守る境界の妖怪ですわ」

 

ケイドが思わず口を挟む。

 

「管理者はともかく妖怪だと?なんじゃそりゃ?」

 

紫はきょとんと目を瞬かせる。

 

「……あら。妖怪をご存じない?」

 

ケイドは腕を組みながら首を傾げた。

 

「人間と何か違うのか?」

 

紫は迷いなく頷く。

 

「ええ。全くの別物ですわ」

 

ケイドは「ふーん」と小さく唸り、顎に手を当てて考え込む。

 

「じゃあハイヴやフォールン、ベックス、カバルみたいなもんか?」

 

その瞬間、場の空気がぴたりと止まった。霊夢と魔理沙は顔を見合わせる。

 

クロウは黙ったまま肩をすくめ、ゴーストも返答に困ったように静止している。

 

紫は数秒間、何も言わずケイドを見つめていた。

 

「……………………」

 

やがて、小さくため息をつく。

 

「私の知る外の世界でも、妖怪という言葉くらいは伝承として残っているはず…………」

 

扇子を閉じる音が静かに響いた。

 

「あなた達……」

「一体、どこからいらしたのです?」

 

ケイドは小さく息を吐き、苦笑いを浮かべた。

 

「まあ、あんたらが想像してるよりずっとろくでもない世界さ」

 

「あらそう……」

 

するとクロウは。

 

「この件はとりあえず置いておこう――まあつまり、あなたはこの世界で相応の権限を持つ人物ということか」

 

紫は静かに頷く。

 

「そう思っていただいて構いません」

「そして――」

 

扇子を静かに閉じ、ガーディアンたちへ鋭い視線を向ける。

 

「先ほどまでの出来事を一部始終拝見していましたけど……これはどういうことなのかしら」

 

扇子を静かに閉じる。

 

「説明してもらいましょうか」

 

その静かな一言だけで、その場の空気が張り詰めた。ゴーストは一歩前へ出る。

 

「分かりました。お答えします」

 

そして彼は、自分たちの世界のことを語り始めた。

人類最後の都市。

トラベラー。

ガーディアン。

目撃者。

ベイル。

そして目撃者を追ってベイルの扉へ飛び込んだ結果、この幻想郷へ迷い込んでしまったこと。

紫は一度も口を挟まず、最後まで静かに聞いていた。

やがてゴーストが説明を終える。

 

「――以上です」

 

紫は静かに目を閉じた。

しばらく沈黙が流れる。

やがてゆっくりと目を開いた。

 

「……なるほど」

 

「事情は、とりあえず理解したわ」

 

しかし、その表情は少しも和らがらない。むしろ話を聞く前より険しくなっていた。

 

「あなた方は『目撃者』という存在を追っていた結果、この幻想郷へ辿り着いた、ということね」

 

ゴーストは頷く。

 

「はい。その通りです」

 

紫は静かに頷き返す。

 

「ですが――」

 

その一言で空気が凍り付いた。

 

「あなた方は幻想郷の掟を破ってしまった。管理者として見過ごすことはできません。普段なら外来人が来てもそこまで気にしないし異変もそこにいる博麗の巫女、霊夢に任せてます。しかし今回は話は別……」

 

「『はい、どうぞ』と許すことも、無視することもできない。あなた方はどうやらとんでもなく厄介な存在を連れてきたようね」

 

霊夢は小さくため息をついた。

 

(悪い奴らじゃなさそうだけど、こんな状況ならそうなるか――)

 

するとケイドが一歩前へ出る。

 

「なら、俺たちをどうするつもりだ?」

 

紫は迷いなく答えた。

 

「あなた方には、即刻幻想郷から立ち去ってもらいます」

 

一瞬、場が静まり返る。

 

「もし拒むのであれば……」

 

紫の瞳が鋭く光る。

 

「管理者として実力をもって排除します」

「最悪の場合――あなた方を消すしかありません」

 

ケイドも珍しく笑みを消す。やがて彼は小さく息を吐いた。

 

「……俺たちを消す、か」

 

その口元には、いつもの軽薄な笑みはない。

 

「なるほど――」

「別にそれでも構わねえよ。だがな」

「俺達をどうしようと、目撃者はすでにこの世界に目をつけていることに変わりはない」

 

霊夢も魔理沙も思わずケイドを見る。だが、彼は落ち着いた声で続けた。

 

「ということは、そっちで目撃者とそのお仲間を何とかしてくれるってことでいいんだな?」

「そりゃあ、あんた達だけで目撃者を倒せるって言うんなら俺たちは喜んでここから立ち去るさ」

 

一拍置く。

 

「……だが」

「俺たちは、自分たちの事情を他人に押し付けるほど無責任な連中じゃねえ」

「……特に今回みたいな話なら、なおさらだ」

「ここを戦場にしたいなんて、これっぽっちも思っちゃいねぇよ」

 

その一言だけで、場の空気がさらに重くなる。

 

「目撃者は何億、いや何十億年も前から数え切れない文明を滅ぼしてきた化け物だ」

「俺たちの世界は、奴の軍勢と交戦してから何百年も戦い続けてきた、1日も休まずだ」

「それでもなお決着はついていない。寧ろ状況は悪化している」

 

ケイドはゆっくりと拳を握る。

 

「少なくとも、俺たちはあんた達より奴の手札を知っている」

「奴が何を考え、どんな兵を使い、どんなやり方で世界を滅ぼしてきたのか、それを知っている」

 

静かに、しかし力強く問いかける。

 

「……それでも」

「俺達抜きで、目撃者と戦うつもりか?」

 

「…………………」

 

紫は何も答えない。

ただ、ケイドを見つめるその瞳には、先ほどまでとは違う色が宿り始めていた。

 

「……なあ、あんた」

「別に俺たちは、この世界を手に入れたいわけでも壊したいわけでもない」

「そんな疚しいことをするつもりはない」

 

一呼吸置き、続ける。

 

「それよりも、俺たちの仲間二人の安否が気になる。おそらくこの世界にいると思う」

「ザヴァラとイコラ」

「あの二人が無事かどうかで、俺たちの世界の命運が決まると言っても過言じゃない。」

 

 ケイドは紫にその曇りのない光るレンズの眼で紫に訴える。

 

「頼む」

「せめて二人を探すことだけは許してくれ」

「あんたは……そんなことすら許さねぇ薄情者じゃない」

「俺には分かる」

 

クロウとガーディアン、ゴーストは驚く。

いつもの軽口ばかり叩くケイドとは別人のようだった。

 

「……………」

 

その時だった。今まで黙っていたガーディアンが一歩前へ出る。

ゴーストが驚いたように振り向く。

 

「ガーディアン……?」

 

ガーディアンは紫を真っ直ぐ見つめた。

 

「……俺からも頼む」

 

その場の全員が息を呑む。彼が自分から言葉を発するのは珍しい。

 

「ザヴァラとイコラは、我々に必要な人物だ」

「この世界の人々に危害は絶対に加えない」

「だから……」

 

短く息を吸う。

 

「どうか、せめて二人を探す時間だけでも与えてほしい」

 

静寂が訪れる。紫は何も言わない。ただ六人を見つめていた。

 

 

 

…………長い沈黙。

 

 

やがて紫は、小さくため息をつく。

 

「……分かりました」

 

霊夢が顔を上げる。

 

「紫……!」

 

「あなた方は、そこまで仲間を大切に思っているのでしょう」

「そこまで言うのなら」

 

紫は静かに頷いた。

 

「特例として認めます」

 

ケイドとクロウは安堵の表情を浮かべる。

しかし紫は扇子を閉じ、釘を刺した。

 

「ですが、あなた方はこれより私の監視対象です」

「幻想郷で目立つ行動、住民への危害、この世界の均衡を乱す行為は一切認めません」

「約束を破った場合は……」

 

その瞳が鋭く細められる。

 

「即刻、この世界から追放します」

 

クロウは深く頷いた。

 

「承知した。その時は我々も抵抗はしない」

 

紫はふっと微笑む。

 

「まったく。あなた方は本当に迷惑な方々ね」

「ですが同時に、あなた方には何かしらの可能性を感じました」

「その可能性に免じたのです」

「感謝なさい」

 

そう言うと紫は背後にスキマを開き、優雅な足取りでその中へと消えていく。

 

スキマは静かに閉じ、跡形もなく消え去った。

その場に残ったのは、ようやく許可を得たガーディアンたちと、まだ少し複雑そうな表情を浮かべる霊夢たちだけだった。

 

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