東方天命録~The Final Shape Begins~ 作:はならむ
話は、それだけでは終わらなかった。
子供達が次々と次の話をねだり、クロウもそれに応えるように故郷の伝承を語っていく。
リーフを渡る船乗り達の話。
星々の間に築かれた街の話。
アウォークン達に語り継がれてきた、古い言い伝え。
時には声を低くして不気味な雰囲気を作り、時には大袈裟に両腕を広げて子供達を驚かせる。
登場人物の台詞を話す時には声音まで変え、まるで実際にその場で物語が繰り広げられているように語ってみせた。
「そして船長は、とうとう我慢できなくなって――」
「どうなったの!?」
「逃げた!?」
「戦った!?」
「……お腹が空いたと言って、食料庫へ向かったんだ」
「「「あははははは!」」」
子供達が一斉に笑い出した。
クロウも楽しそうに笑う。
「そのせいで、副長にひどく怒られたそうだ」
「駄目な船長だー!」
「ねえ、続きは!?」
「ああ。続きは――」
クロウはそのまま話を続けた。子供達は完全に夢中になっていた。
最初は青白い肌や珍しい防具に興味を示していた彼らも、今ではそんなことをほとんど気にしていない。
ただ、クロウの口から語られる未知の世界の物語へ、真剣に耳を傾けていた。
「…………」
そんな光景を、霊夢は少し離れたところから眺めていた。
「……へえ」
思わず感心したように呟く。
「やるじゃない、クロウ」
隣の慧音も、驚きを隠せない様子だった。
「……これは凄いな」
「でしょ?」
「子供達の注意を引きつけるのが上手い。それに、ただ話を聞かせるだけではなく、途中で問いかけたり、相手の反応を見ながら間を取ったりしている。相当、語りに慣れている証拠だ」
慧音は腕を組んだ。
「難しい話も分かりやすく伝えているし……これは、今にも寺子屋の先生として雇いたいくらいだ」
霊夢が小さく笑った。
「確かに、ちょうどいいかもね」
「ん?」
慧音が顔を向ける。
霊夢は何でもないように続けた。
「慧音の授業って、難解ですごくつまらないって専らの噂だもの」
慧音の笑顔が止まった。
「……霊夢?」
「何よ?」
霊夢は平然としている。
「いや、だから。少しはクロウを見習ったらどうかって」
慧音はゆっくりと霊夢へ身体を向けた。
「……霊夢」
「何?」
「その噂は、誰から聞いた?」
「さあ?」
霊夢は肩を竦めた。
「色々なところで聞くわよ」
慧音の額に、僅かに青筋が浮かんだ。
「……後で少し話をしようか」
「えー、何よ。あたしが言い始めたわけじゃないんだから」
「だからこそ詳しく聞きたいんだ」
「はいはい」
霊夢は適当に返事をした。
その態度に、慧音は深いため息を吐く。
しかし、子供達の楽しそうな笑い声が聞こえてくると、自然と表情が和らいだ。
「……まあ、いい」
小さく呟く。
「子供達がこれだけ楽しんでいるのなら、今はそれで十分だ」
霊夢もクロウへ視線を戻した。
「……それにしても」
「ん?」
「クロウにあんな特技があったとはね」
「同感だ」
慧音は穏やかに頷いた。実際、クロウにとってこの光景は、決して初めてのものではなかった。
「ねえ、クロウ!」
「どうした?」
「そのお話、誰から聞いたの?」
一人の少女が尋ねた。
クロウは少し考える。
「……昔、故郷で聞いたんだ」
「お父さんから?」
「……いや」
クロウは僅かに言葉を詰まらせた。
そして、穏やかに笑った。
「色々な人から、かな」
「へえ」
「リーフには、昔からたくさんの物語があるんだ。誰かが話してくれたものを覚えて、また別の誰かに話して……そうやって伝わっていくんだよ」
「じゃあ、クロウも誰かに話したことあるの?」
「ああ」
クロウは頷いた。その瞬間。
ふと、懐かしい光景が脳裏をよぎった。
神秘的な宇宙光に包まれた小惑星帯の中にあるリーフ。
星々の光が差し込む通路。
仕事の合間に腰を下ろした、小さな休憩場所。
そこへ集まってくるアウォークンの子供達。
『ねえ、またお話してよ!』
『昨日の続きがいい!』
『今度は怖くないのにして!』
『えー、怖いのがいいよ!』
そんな声が、記憶の中から聞こえてくる。
当時も、こうして子供達に話を聞かせていた。
……女尊男卑が一般的なリーフ社会。女王マラ・ソヴの実の兄でありながら常に手駒のように扱われてきた毎日、そんな中でもマラに認められたいがために周りから散々陰口を叩かれながらも汚れ仕事でも何でもこなしてきたその男の、ほんの少しだけ空いた時間。
最初は短い話を一つ聞かせるだけのつもりだった。
けれど、子供達が喜んでくれるものだから、つい次の話、そのまた次の話と続けてしまう。
気がつけば、予定していた時間を大幅に過ぎてしまうこともあった。
それでも、不思議と嫌ではなかった。
むしろ。
自分の話に目を輝かせ、笑ってくれる子供達の姿を見るのが、好きだった。
「…………」
クロウはほんの少しだけ目を細めた。
懐かしい。
そう思った。
故郷を離れてから、色々なことがあった。
決して楽しいことばかりではなかった。
失ったものも、悔やんだことも、数え切れないほどある。
それでも、こうして目の前の子供達が笑ってくれると、あの頃の穏やかな時間が思い出される。
「……クロウ?」
一人の少女が、彼の顔を覗き込んできた。
「……ん?」
「どうしたの?」
クロウは我に返った。
「……いや」
少しだけ首を振る。そして、優しく微笑んだ。
「昔のことを思い出していたんだ」
「昔?」
「ああ」
クロウは子供達を見回した。
「私も故郷にいた頃、こうして子供達に話を聞かせることがあったんだよ」
「へえ!」
「じゃあ、お話するの得意なんだ!」
「……そうかもしれないね」
クロウは少し照れくさそうに笑った。
「自分では、あまり意識していなかったけれど」
「じゃあ、もっと聞かせて!」
「次は冒険のお話!」
「私はお姫様の話がいい!」
「えー、怪物の話!」
「ははは……」
クロウは思わず声を上げて笑った。
「分かった、分かった。順番に話そう」
その笑顔には、先ほどまでとは少し違う、心からの安らぎが浮かんでいた。
霊夢はその様子を、少し離れたところから見つめていた。
「…………」
いつものクロウも、十分に穏やかだ。
礼儀正しく、誠実で、何かを頼めば嫌な顔一つせず手伝ってくれる。
けれど、今の彼は少し違って見えた。
肩の力が抜けている。
自然に笑っている。
そして何より、楽しそうだった。
「……ふーん」
霊夢は小さく呟いた。
「クロウって、あんな顔もするのね」
「ん?」
慧音が横を見る。霊夢は少しだけ笑った。
「いや、普段はもう少し落ち着いてるからさ」
「そうなのか?」
「ええ」
霊夢は頷いた。
「でも、ああいう顔してる方がいいんじゃない?」
慧音もクロウへ目を向けた。
「……そうだな」
子供達の笑い声が、縁側に響く。
慧音は穏やかに微笑んだ。
「いい青年じゃないか」
「でしょう?」
霊夢は少し得意げに答えた。
「他の連中と比べたら、ずっとまともよ」
「そういえば居候がまだいるっていってたな。他はどんな方達なんだ?」
霊夢は一瞬、黙った。
冷静沈着で一番頼れる黒人女性、イコラ。ここまでならまだ良かった。しかし、その後思い浮かぶのは。
機械人間、エクソで軽口ばかり叩くお調子者、ケイド。
そして、それすら遥かに上回る蛍光色の鎧を着て屋根から落ちる成人男性、ガーディアンの姿が浮かぶ。
続いて、ダンス、ハート、ソファー、ゴミバケツ、菓子よこせ、駄々こね、双眼鏡、死亡、蘇生――そして、親指。
「…………」
霊夢はゆっくり首を振った。
「……聞かない方がいいわ」
「……そうか?」
慧音は不思議そうだった。
◇
それから、しばらく時間が経った。クロウは相変わらず子供達に囲まれ、故郷の話を続けている。
一方の霊夢は、縁側でその様子を眺めながら、ふと何かを思い出した。
「……あ」
隣に座る慧音へ顔を向ける。
「そういえば、慧音」
「何だ?」
「一つ、聞きたいことがあるんだけど」
「ほう」
慧音は少し意外そうに眉を上げた。
「お前から私に質問とは珍しいな」
「何よ、その言い方」
霊夢が眉を寄せる。
「いや、普段のお前は細かいことをあまり気にしないからな」
「失礼ね」
霊夢は軽く鼻を鳴らした。
「……まあいいわ」
そして、少しだけ姿勢を正す。
「実はね、今日ここに来る途中、変なものを見つけたのよ」
「変なもの?」
「ええ」
霊夢は、先ほど森の中で見つけた道について説明し始めた。
博麗神社から人里へ向かう途中。
いつも通っている場所の近くに、見覚えのない道があったこと。
その道には人間の里へ続くことを示す古びた看板が立っていたこと。
しかも、最近作られたようには見えなかったこと。
そして、里の八百屋で尋ねてみたところ、昔から存在している道だと言われたこと。
「……あたし、あんな道知らないのよね」
霊夢は腕を組んだ。
「慧音なら何か知ってるんじゃない?」
「…………」
慧音はしばらく黙っていた。
しかし。
「……はあ?」
突然、怪訝そうな声を漏らした。
「……何よ?」
霊夢が眉を寄せる。慧音は不思議そうに首を傾げた。
「お前、何を言っているんだ?」
「え?」
「その道なら、何百年も前からあるぞ」
「…………」
霊夢の動きが止まった。
「……え?」
「人間の里へ続く古い道の一つだ。里が今のように整備される以前から使われている」
慧音は何でもないことのように続けた。
「私の知る限り、相当に古い道だぞ」
「…………」
霊夢はじっと慧音を見つめた。
「……ちょっと待って」
「何だ?」
「何百年も前から?」
「ああ」
即答だった。
「少なくとも、私の知る歴史ではそうだ」
「…………」
霊夢の眉間へ、深い皺が寄った。
「……本当に?」
「嘘をついてどうする」
慧音は呆れたように答えた。
「それに霊夢、お前だってあの道を何度も見ているはずだぞ」
「……え?」
「博麗神社から人里へ向かう道筋なら、必ずあの辺りを通るだろう?」
「……まあ、そうだけど」
「なら、知らないはずがない。空を飛んでいたとしても、十分見える位置にあるんだからな」
「…………」
霊夢は何も言わなかった。
先ほど八百屋の店主から聞いた話と、ほとんど同じだった。
いや、慧音の方が、さらに具体的だった。
何百年も前から存在している。
しかも、博麗神社から人里へ向かう道筋にある。
自分が知らないはずなどない。
そう断言されたのである。
「……霊夢?」
慧音が少し眉を寄せる。
「どうした?」
「…………」
霊夢はゆっくりと視線を落とした。
(……ウソ)
心の中で、そんな言葉が漏れた。
(……どういうこと?)
あの道は、確かに見覚えがなかった。
今朝、クロウと一緒に人里へ向かう途中、初めて気づいたのだ。
だからこそ、思わず立ち止まってしまった。
しかし。
里の店主も。
そして、幻想郷の歴史に詳しい慧音も。
二人揃って、あの道は昔から存在していると言っている。
「…………………」
霊夢は唇を引き結んだ。
(……やっぱり、あたしが勘違いしてるだけ?)
そう考えるのが、一番自然だった。けれど。
(……本当に?)
胸の奥に、小さな不信感が生まれる。
誰かが嘘をついているとは思えない。
それでも、自分の記憶と周囲の認識が一致しない。
それが、妙に気持ち悪かった。
「……霊夢」
慧音が静かに声を掛ける。
「何か気になることでもあるのか?」
霊夢は少し考えた。そして。
「あ……いや」
小さく首を振る。
「何でもないわ」
「……そうか?」
「ええ。ちょっと気になっただけ」
慧音はしばらく彼女を見つめていたが、それ以上は追及しなかった。
一方の霊夢は、すぐには顔を上げられなかった。
頭の中で、今日起きた出来事を一つずつ思い返していた。
財布の中に、いつの間にか増えていたお金。
数日前まで空っぽだったはずの賽銭箱。
そして――何百年も前から存在しているという、見覚えのない道。
「…………」
どれも、些細なことだ。
普通なら、気にするほどのことではない。
しかし。
(……何か、変ね)
霊夢は小さく息を吐いた。
その時だった。
ふと、別の記憶が、脳裏をよぎった。
「…………」
霊夢が顔を上げる。
(……あれ?)
思い出したのは、数日前のことだった。
◇
――それはガーディアン達が幻想郷にやってきて次の日の朝。香霖堂にて。
ドレッドによって破壊された神社を建て直すために霊夢、魔理沙、イコラは香霖堂に泊まったガーディアン達を起こしに来た際、魔理沙と霖之助の会話を聞いていた。
「……やっぱりさ」
魔理沙が楽しそうに口を開く。
「霖之助の外の世界の話、好きだぜ」
「……そうかい」
霖之助は少しだけ笑った。
「商売柄、当然だろう」
「いやいや」
魔理沙が肩を竦める。
「商売っていうより、趣味だろ?」
その言葉に、霊夢も思わず口を挟んだ。
「確かに。どう考えても趣味でしょうが」
「……君達は相変わらずだね」
霖之助が小さくため息を吐く。
そんな、ごく普通のやり取りだった。
いつもの香霖堂。
いつもの魔理沙。
いつもの霖之助。
何一つおかしなところなどない……はずだった。
「…………」
霊夢はふと眉を寄せた。
「……あれ?」
魔理沙が振り返る。
「ん? どうした、霊夢?」
「……いや」
霊夢は首を傾げた。
「さっきから、何か違和感があるのよね」
「違和感?」
「ああ」
霊夢は魔理沙と霖之助を交互に見た。
「……何だろう。二人の会話が、何か引っかかるのよ」
「……?」
魔理沙が首を傾げる。
霖之助も不思議そうな顔をした。
「何か変なことを言ったかな?」
「……いや」
霊夢は少し考えた。
けれど、その場では何がおかしいのか分からなかった。
「……まあ、いいわ」
そう言って、話を流した。
魔理沙と霖之助は顔を見合わせる。
「「……?」」
二人とも、何を気にしているのか分からない様子だった。
そして霊夢自身も、それ以上は深く考えなかった。
◇
「…………」
寺子屋の縁側。霊夢はゆっくりと目を見開いた。
(……あれ?)
今になって、ようやく引っかかっていたものの正体が分かった気がした。
(……そういえば)
霊夢は記憶を辿る。
香霖堂での会話。
魔理沙の声。
霖之助の返答。
その全てを、頭の中でもう一度繰り返す。
『霖之助の外の世界の話、好きだぜ』
霊夢の表情が変わった。
――魔理沙は、霖之助のことを何と呼んでいた?
『霖之助』
確かに、そう言った。
けれど。
(……魔理沙って、今まで霖之助さんのこと……)
霊夢は眉を寄せた。
(……『香霖』って呼んでなかったかしら?)
そうだ。
少なくとも、霊夢の記憶ではそうだった。
魔理沙は昔から、霖之助を『香霖』と呼んでいた。
それがあまりにも当たり前だったから、普段は気にも留めなかった。
しかし、数日前の香霖堂では違った。
魔理沙は、何の違和感もない様子で『霖之助』と呼んでいた。
しかも、霖之助本人も、その呼び方を気にする素振りすら見せなかった。
「…………」
霊夢は無意識に唇を引き結んだ。
(……どういうこと?)
単なる気まぐれだろうか。
呼び方を変えただけ?
それなら、別に不思議なことではない――だが。
(……本当に、それだけ?)
朝、財布を開いた時のことを思い出す。
入っているはずのないお金。
いつの間にか増えていた賽銭。
そして見覚えのない道。
何十年も前からあるという、古びた看板。
「…………」
霊夢は胸の奥が冷たくなるような感覚を覚えた。
どれも、本当に些細なことだった。
財布のお金が増えている。
道が一本ある。
誰かの呼び方が変わっている。
普通なら、異変などと呼ぶほどのことではない。
むしろ、気にする方がおかしいとさえ思える。
しかし。
(……違う)
霊夢は静かに息を吐いた。
(……何かが、おかしい)
大きな爆発が起きたわけではない。
妖怪が暴れ始めたわけでもない。
幻想郷の空が突然赤く染まったわけでもなければ、太陽が消えたわけでもない。
それなのに、普段と変わらないはずの日常の中で、ほんの少しずつ、何かが食い違い始めている。
しかも、それをおかしいと思っているのは、どうやら自分だけらしい。
「……霊夢?」
慧音の声が聞こえ、霊夢は顔を上げる。
「……え?」
「どうしたんだ? 急に黙り込んで」
「…………」
霊夢は少しだけ口を開いた。
何かを言おうとした。
しかし、言葉が出てこなかった。
何を説明すればいい?
財布の中身が増えていたこと?
昔からあるはずの道を知らなかったこと?
魔理沙が霖之助の呼び方を変えたこと?
どれも、それだけなら笑い話で済んでしまう。
「……いや」
霊夢は小さく首を振った。
「何でもないわ」
慧音は少し不思議そうだった。
「……そうか?」
「ええ」
霊夢は曖昧に頷いた。
「ちょっと考え事してただけ」
「……ならいいが」
慧音はそれ以上追及しなかった。
その時。
「ねえ、クロウ!」
子供達の元気な声が響いた。
「次はもっとすごい冒険のお話して!」
「宇宙の怪物が出てくるのがいい!」
「怖くないやつがいいってば!」
「ははは……分かった、分かった」
クロウの穏やかな笑い声が聞こえてくる。
子供達も楽しそうだった。
寺子屋には、いつもと変わらない平和な時間が流れている。
「…………」
霊夢はその光景を見つめた。
何も変わっていない。
子供達は笑っている。
慧音は教師として彼らを見守っている。
クロウも、久しぶりに故郷を思い出しながら、穏やかな時間を過ごしている。
誰も、何かがおかしいとは思っていない。
それなのに。
「…………」
霊夢はゆっくりと視線を落とした。
(……まさか)
博麗の巫女として、これまで数多くの異変を解決してきた。
季節がおかしくなる異変。
月に関わる異変。
幻想郷の常識そのものが揺らぐような異変。
そのどれもが、最初は何らかの違和感から始まっていた。
だが、今回のものは少し違う。
何が変わったのか分からない。
いつ変わったのかも分からない。
しかも、周囲の誰もそれを不思議だと思っていない。
「…………」
霊夢は小さく息を呑んだ。
(……もしかして)
再び、子供達の笑い声が聞こえてくる。
クロウが何か面白いことを言ったらしく、縁側では小さな歓声が上がっていた。
その穏やかな光景を眺めながら、霊夢は心の中で呟いた。
(……別の異変が、始まってる?)
風が吹いた。
寺子屋の庭木がさらさらと揺れ、軒先の風鈴が涼しげな音を立てる。
何も変わらない、幻想郷の昼下がり。
少なくとも、見た目には。
霊夢はしばらくその場に座ったまま、何とも言えない不安を胸に抱えていた。
自分の記憶が間違っているのか。
それとも。
自分の知らないところで、何かが少しずつ変わり始めているのか。
今の霊夢には、まだその答えが分からなかった。