東方天命録~The Final Shape Begins~   作:はならむ

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第六十八話:新たな脅威 ④

「……クソッ!」

 

道中、ガーディアン達は遠くの山を見つめていた。

黒煙は、先ほどよりも明らかに濃くなっている。

さらに、山の周囲を飛行するカバルの航空機も、次第にはっきりと見えるようになっていた。

 

「……思った以上に、まずいな」

 

後部座席のケイドも同じ方向を見ていた。

 

「そうだな--」

 

普段の軽い調子は、すっかり消えていた。

 

「あの規模の航空戦力を持ち込んでくるってことは……」

 

一拍置いて。

 

「……どうやら、本気で制圧しに来てるみたいだな」

 

クロウが眉を寄せる。

 

「目撃者の命令か?」

 

「さあな、そこまでは分からねえよ」

 

ケイドは肩を竦めた。

 

「奴の命令で動いてるのか、それとも連中が勝手に暴れてるのか……」

 

その視線が、山の上空へ向けられる。

 

「どっちにしろ、碌なもんじゃねえ」

 

「……ええ」

 

イコラが口を開いた。

 

「今は、とにかく妖怪の山へ向かいましょう」

 

彼女は冷静な声音で続けた。

 

「敵の目的を考えるのは後でもできるわ」

 

「…………」

 

「まずは、あそこにいる影の軍団を撃退することを優先する」

 

クロウが頷いた。

 

「了解」

 

「それから--」

 

イコラは、通信を通して全員へ呼びかけた。

 

「今回の戦闘について、幾つか確認しておきたいことがあるわ」

 

「どうした?」

 

「妖怪の山は、地形の起伏が激しい山岳地帯よ」

 

「…………」

 

「森林も多いし、視界が遮られる場所も相当あるでしょう」

 

彼女はスパローを操縦しながら、頭の中で戦場の地形を整理していた。

 

「山中では、敵の位置を把握するのが難しくなるはずよ」

 

「……確かにな」

 

クロウが頷く。

 

「遮蔽物は多そうだが、待ち伏せにも利用されるな」

 

「そういうこと」

 

イコラは続けた。

 

「各人、レーダーを最大限に活用して。特に死角からの攻撃には注意すること」

 

「了解だ」

 

「それと」

 

イコラの声が、少しだけ強くなった。

 

「ガーディアン!」

 

一人でスパローに乗っていたガーディアンが、僅かに顔を向ける。

 

「あなたに言っておくことがあるわ」

 

「…………?」

 

「今回、ソーラーは厳禁よ」

 

ガーディアンは少しだけ首を傾げた。

 

(・ω・)?

 

イコラは呆れたように息を吐いた。

 

「……分かるでしょう?」

 

彼女は遠くの山を指差した。

 

「森林に炎を使うつもり?」

 

「…………」

 

「これ以上、無駄な被害を増やすわけにはいかないわ」

 

イコラの脳裏には、彼が普段使用している能力が浮かんでいた。

 

焼却の指鳴らし。

炎を纏うグレネード。

広範囲を焼き払うソーラーの力。

いずれも強力だが、燃えやすい木々が密集する山中では、周囲への被害も考慮しなければならない。

 

「あなたがソーラーを使えば、敵だけでなく無事な森林まで焼いてしまう可能性がある」

 

「…………」

 

「……分かった」

 

珍しく、素直に言葉で答えた。

イコラは頷く。

 

「それならいいわ」

 

そして、少しだけ声を和らげる。

 

「影の軍団が相手なら何が有効なのか、あなたがよく知っているでしょう?」

 

ガーディアンは前方を見つめた。

 

影の軍団……海王星にある黄金時代以降、忘れられた電脳都市、ネオムナを襲撃したカバルの前皇帝、カルスの率いる暗黒を操る部隊。

 

薄紫と黒を基調とした重厚な装甲に身を包んだ兵士達。

巨大な体格。

強力な火器。

その戦い方も、装備も、彼にとっては決して未知のものではなかった。

これまで幾度となく交戦してきた相手である。

そして。

彼らに対抗するための力も、すでに手にしている。

 

「…………」

 

ガーディアンは短く答えた。

 

「……ストランド」

 

「そう」

 

 

--ストランド。

 

咲夜との決闘にて最後に披露した、見えない繋がりを糸として引き出し、敵を拘束し、切り裂く暗黒の力。

周囲を焼き払うことなく敵の行動を制限できるため、今回のような戦場では有効な選択肢となる。

 

「それでいきましょう」

 

そして、クロウへ呼びかけた。

 

「クロウ」

 

「何だ?」

 

「あなたもストランドは使える?」

 

「……ああ」

 

クロウは一瞬だけ考えた。

 

「まだ慣れているとは言えないが、使えないわけじゃない」

 

「分かったわ」

 

イコラは頷いた。

 

「無理に使う必要はない。ただし、ソーラー以外の属性を優先して」

 

「了解」

 

クロウが答える。

 

「必要なら、ストランドも使う」

 

「ええ」

 

「で、俺は?」

 

するとクロウの後ろにいるケイドが肩を竦めてこう言った。

 

「お姫様みたいにお前らから守られながら、ただ眺めてりゃいいのか?」

 

「……………」

 

「それとも、後ろからふんぞり返りながら司令官をやればいいのか?」

 

イコラはフッと軽く笑みを見せた。

 

「あなたが司令官をしている姿は一度は見てみたいけど、またの機会に頼もうかしら」

 

「そんな時が来ないことを祈りたいな」

 

「ケイドは私達から離れずに援護射撃に徹してほしい。あと霊夢と魔理沙のサポートも出来ればお願いするわ」

 

「オーケー」

 

イコラは最後に、ガーディアンへ声を掛けた。

 

「あなたもいいわね?」

 

ガーディアンは、スパローを操縦しながら顔をイコラへ向けた。

 

(`・ω・´)bマカセトケ!

 

堂々と親指を立てる。

 

「…………」

 

イコラは少しだけ眉を寄せた。

 

「……だから、前を――」

 

「が、ガーディアン!!」

 

ゴーストの悲鳴が響いた。

 

「前を見てください!!」

 

ガーディアンが首を傾げる。

そして、ようやく前方へ顔を戻した。

そこには。

巨大な岩。

それも、進行方向を完全に塞ぐほど大きな岩があった。

 

距離、数メートル。

速度。

ほぼ全開。

 

ガーディアンは、ほんの一瞬だけ固まった。

 

(・ω・)ア

 

そして。

 

――グシャ!!!

 

スパローが岩へ正面衝突した。

 

 

 

【ガーディアンが倒された】【不運に襲われた】

 

 

凄まじい衝撃。

 

車体が一瞬でひしゃげ、その直後、内部のエネルギーが爆発した。赤い爆炎が岩の表面を包み込み、金属片が周囲へ飛び散る。

 

「…………!」

 

少し前を走っていたクロウが、思わず振り返った。

 

「…………は?」

 

その後ろに乗っていたケイドも、爆発音に反応して顔を向けた。

そして。

 

「…………」

 

目の前の光景を見た瞬間。

数秒間、固まった。

巨大な岩。

黒煙を上げるスパローの残骸。

そして。

そのすぐ近くに、無惨に倒れ込んだガーディアン。

 

「……………………」

 

クロウは無言でスパローを減速させた。

イコラも慌てて反転する。

魔理沙が空中で急停止した。

 

「……え?」

 

彼女は、目の前の光景を見つめる。

巨大な岩。

黒煙。

そして、倒れているガーディアン。

 

「…………」

 

クロウは、しばらく何も言わなかった。

イコラも無言だった。そして。

 

「……ほらな」

 

クロウの後部座席から、ケイドの声が聞こえた。

 

「……俺の嫌な勘、当たったろ」

 

その声には、妙な納得感が込められていた。

 

「…………」

 

クロウがゆっくり振り返る。

 

「……まさか」

 

小さく呟く。

 

「……本当に、これを予感していたのか?」

 

「まあ、ここまで具体的には予想してなかったけどな」

 

ケイドは肩を竦めた。

 

「何となく、今日はあいつの後ろに乗っちゃいけない気がしたんだよ」

 

クロウは、倒れているガーディアンを見た。

そして。

 

「……正解だったな」

 

静かに呟いた。

 

「だろ?」

 

ケイドは得意げに頷いた。

 

「危うく相棒の枕元に立ってしまうとこだったな」

 

その横で、イコラがゆっくり目を閉じた。

 

「はあ…………」

 

深いため息。そして。

 

「……ゴースト」

 

「……はい」

 

「早くガーディアンを起こして」

 

「……分かりました」

 

ゴーストは、のそのそと主人の傍へ近づいた。

そして、倒れているガーディアンを見下ろした。

 

「…………」

 

一瞬の沈黙。彼も深いため息。

 

「……少しは緊張感持ってください、ガーディアン」

 

ゴーストは小さくシェルを回転させた。

 

「イコラの話を聞くのはいいですけど、操縦中なんですから前方も確認してくださいよ……」

 

返事はない。

当然である。

死んでいるのだから。

 

「……まったく」

 

ゴーストは諦めたように呟いた。

そして淡く白い光がガーディアンの身体を包み込み数秒後、光が収束し、倒れていた身体が消える。

 

――シュンッ!

 

ガーディアンが、何事もなかったように蘇生した。

 

彼はまず、自分の両手を確認した。

続いて、身体を軽く動かす。

そして。

周囲を見回した。

目の前には。

怒りを押し殺した表情のイコラ。

呆れ果てたクロウ。

その隣で腕を組んでいるケイド。

そして、笑いを堪えている魔理沙。

 

「…………」

 

ガーディアンは、しばらく全員を眺めていた。

そして。

 

d(●^ω^●)シッケイシッケイ!

 

満面の笑顔で親指を立てた。

 

「……………………」

 

一同は無言だった。

数秒後。

 

「……くっ」

 

魔理沙の肩が震えた。

 

「……くくくっ」

 

口元を押さえる。そして。

 

「ワハハハハハハハ!!」

 

とうとう腹を抱えて笑い出した。

 

「お、お前……っ!」

 

箒の上で身体を折り曲げる。

 

「ほんっとに期待を裏切らねえな、この成人男性(笑)!!」

 

<(●^ω^●)>エッヘン!

 

ガーディアンは、嬉しそうに胸を張った。

 

「褒めてねえよ!!」

 

魔理沙の突っ込みが響く。しかし、それがさらに可笑しかったのか、彼女は再び笑い出した。

 

「ははははは!!もう駄目だ、腹痛え!!」

 

ケイドも、ようやく笑い出した。

 

「はははっ!お前なあ!」

 

ガーディアンを指差す。

 

「だから今日はお前の後ろに乗らなかったんだよ!」

 

ガーディアンは一瞬だけ、クロウのスパローへ視線を向けた。

そこには、無傷のケイドがいる。

続いて、自分のスパローが爆散した場所を見る。

 

そして--。

 

(´・ω・`)

 

しょんぼりと肩を落とした。

 

「……おいおい」

 

ケイドが笑う。

 

「そんな顔するなって! 俺だって、毎回お前に巻き込まれるわけにはいかねえんだよ!」

 

クロウも小さく息を吐いた。

 

「……まったく」

 

そして、苦笑する。

 

「昨日言ったことを本当にやるとはな……」

 

その時。

 

「……ガーディアン」

 

低い声が響いた。

 

「…………!」

 

ガーディアンの動きが止まった。

イコラだった。彼女は腕を組み、静かにこちらを見つめていた。

 

「……何か、言うことは?」

 

ガーディアンは少し考えた。そして再びゴミバケツを出してのそのそと入ると深く項垂れるように座り込む。

 

(´・ω・`)フガイナイ……

 

イコラは深く息を吐いた。

 

「……始末書」

 

「…………!」

 

ガーディアンの身体が、びくりと震えた。

 

イコラは、淡々と続ける。

 

「今度は十万枚、書かせるわよ」

 

――シュバッ!!

 

ガーディアンが、バケツから飛び出して凄まじい速度で地面へ伏せた。

両膝。

両手。

そして、額。

それらを一瞬で地面へつける。

完璧な土下座。

しかも、あまりにも速い。

 

魔理沙が固まった。

ケイドも一瞬、目を丸くした。

そして。

 

「……ブフォッ!!」

 

再び吹き出す。

 

「はははははは!!お前、どんだけ始末書が嫌なんだよ!!」

 

魔理沙も笑い転げていた。

 

「ワハハハハ!!何だよその速さ!!」

 

ガーディアンは土下座したまま動かない。

 

(´・ω・`)ユルシテチョ……

 

クロウは、その姿をしばらく見つめていた。

そして。

 

「……なるほど」

 

小さく頷いた。

 

「こいつの唯一の弱点は、イコラと始末書か」

 

「ぶははははは!!」

 

ケイドが腹を抱えた。

 

「違いねえ!!」

 

魔理沙も涙目になっていた。

 

「お前ら、ほんっとに面白いな!!」

 

イコラは、ゆっくり額へ手を当てた。

 

「……もう」

 

深いため息。

 

「……あなた達ねえ」

 

その時だった。

 

――ドォォォォォン!!

 

遠くから、再び巨大な爆発音が響いた。

 

「…………!」

 

一同の表情が変わった。妖怪の山から、さらに大きな黒煙が立ち上っている。

 

「……っ!」

 

イコラが顔を上げた。

 

「……呑気なことしている場合じゃないわ!」

 

その声に、全員が振り返る。

 

「早く行かないと、妖怪の山が焼け野原にされてしまう!」

 

「……っと!」

 

魔理沙が慌てて身体を起こした。

 

「そうだった!」

 

ケイドも表情を引き締めた。

 

「……ああ」

 

クロウはスパローへ跨り直す。

ケイドも、その後部座席へ戻った。

ガーディアンも、ようやく土下座をやめた。

ゴーストが小さく息を吐く。

 

「……スパローを再転送します」

 

――シュンッ!

 

淡い光が集まり、新たなスパローが出現した。

ガーディアンは何事もなかったように跨る。

そして、ちらりと、ケイドの方を見る。

 

「…………」

 

ケイドは首を横に振った。

 

「……いや、今日は流石に乗らねえぞ」

 

即答し、ガーディアンは少しだけ肩を落とした。

 

(´・ω・`)ショボン……

 

「……そんな顔しても駄目だ!」

 

ケイドが言い切る。

 

「今日の俺はクロウの後ろに乗る!」

 

クロウが小さく苦笑した。

 

「……まあ、私もその方が安心だ」

 

「だろ?」

 

ケイドが頷く。イコラは、そんなやり取りを見ながら深いため息を吐いた。

 

「馬鹿なことをやっていないで急いで行きましょう」

 

「了解!」

 

クロウが答える。イコラが全員へ呼びかけた。

 

「全機、発進!」

 

――ギュオオオッッ!!

 

 

再び、三台のスパローが加速し魔理沙も箒を前へ傾ける。

 

「よし、ついてこい!」

 

――ヒュンッ!

 

四つの影が、妖怪の山へ向かって駆け抜けていく。

その背後には、先ほど衝突した巨大な岩だけが残されていた。

 

……もっとも。

 

その表面には、スパローが正面衝突した際の黒い焦げ跡が、くっきりと刻まれていたが。

 

◇

 

――一方、その頃、後方で珍事が起きていることなど知る由もない二人がいた。

 

博麗霊夢。

そして、射命丸文。

 

二人は、凄まじい速度で妖怪の山へ向かっていた。

 

――ヒュオオオオオッ!!

 

風が耳元を激しく通り過ぎる。

霊夢の赤いリボンが後方へ大きくなびき、巫女装束の袖が風圧を受けて揺れる。

その隣では、文が黒い翼を広げ、猛烈な速度で空を駆けていた。

普段なら、幻想郷最速を自称する彼女の飛行速度についていくのは容易ではない。

しかし。

今の霊夢も、決して遅くはなかった。

 

「文!」

 

風の音に負けないよう、声を張る。

 

「はい!」

 

文が振り返った。

 

「さっきの話、もう少し詳しく聞かせて!」

 

「……分かりました!」

 

「奴らの特徴、何か覚えてる?」

 

文は、記憶を辿るように眉を寄せた。

 

「まず、あの巨大な兵士達なんですが……」

 

「ええ」

 

「背中に、何か機械のようなものを背負っていたんです!」

 

「……機械?」

 

「はい!」

 

文は両手を動かしながら説明する。

 

「それが突然、炎を噴き出して……!」

 

彼女は上空を指差した。

 

「ガーディアンさんみたいに、空中を浮遊するんです!」

 

霊夢が目を見開いた。

 

「……空まで飛ぶの?」

 

「私みたいに高くは飛べないようですが」

 

文は頷いた。

 

「大きな身体なのに、突然地面から跳び上がって、空から攻撃してくるんです!」

 

霊夢は小さく眉を寄せた。

 

(……厄介ね)

 

地上戦力だけでも相当な数がいるというのに、さらに空中まで移動できる。

しかも、空には巨大な鉄の船まで飛んでいる。

これでは、天狗達も簡単には制空権を確保できないだろう。

 

「……他には?」

 

「犬のような猛獣も、沢山いました!」

 

「……犬?」

 

「はい!」

 

文の表情が険しくなる。

 

「ただし、普通の犬なんかじゃありません!」

 

彼女は両腕を広げた。

 

「身体が大きくて、凶暴で……!」

 

つい先ほどまで見ていた光景を思い出す。

地上を疾走する、異様な猛獣達。

鋭い牙。

分厚い筋肉。

そして、獲物を見つけるや否や、一斉に襲いかかるその獰猛さ。

 

「……あいつら、群れになって襲ってくるんです!」

 

「…………」

 

「天狗が空へ逃げても、地上にいる仲間達が狙われて……!」

 

文は唇を噛んだ。

 

「とにかく、数が多いんです」

 

霊夢は頷いた。

 

「……なるほどね」

 

そういえば数日前、紅魔館でケイドがカバルについて説明していた時にもそんな話を聞いた気がする。

獰猛な軍用獣。

巨大な兵士。

そして、異様な装備を持つ部隊。

 

(……本当に、軍隊なのね)

 

霊夢は小さく息を吐いた。

 

「……それで、他には?」

 

「えっと……そういえば!」

 

文は続けた。

 

「巨大な兵士達に混じって、妙に細い奴らもいました!」

 

「……細い?」

 

「ええ!」

 

文は身振りを交えて説明する。

 

「周りの大きな兵士達と比べると、場違いなくらい細くて小さいです!」

 

「…………」

 

「それに、顔には大きな目のようなのが、一つだけあって……!」

 

霊夢が眉を寄せた。

 

「……一つ目?」

 

「そうです!」

 

文は頷いた。

 

「しかも、そいつらは地上を凄い速度で移動するんです!」

 

彼女は腕を横へ払うように動かした。

 

「右へ左へ素早く動きながら長い銃で撃ってきました」

 

「……なるほど」

 

霊夢は小さく頷いた。

巨大な兵士。

空中を浮遊する者。

獰猛な軍用獣。

そして、高速移動する一つ目の細身の兵士。

これだけでも、敵が多様な戦力を投入していることが分かる。

 

「他には?」

 

「……すみません」

 

文は少しだけ表情を曇らせた。

 

「今分かるのは、そのくらいです」

 

「…………」

 

「なりふり構わず駆けつけてきたものですから、詳しく観察する余裕がなくて……」

 

霊夢は小さく首を振った。

 

「いや、それで十分よ」

 

「……え?」

 

「ありがとう、文」

 

霊夢は、まっすぐ前を見つめながら答えた。

 

「それだけ分かれば助かるわ」

 

「…………」

 

文は少しだけ目を瞬かせた。

 

「……はい!」

 

小さく頷いた。だが一瞬、霊夢は言葉を選ぶ。

 

「はたて達は大丈夫なの?」

 

「…………」

 

文の表情が、僅かに曇った。

 

「……分かりません」

 

小さな声だった。

霊夢が顔を向ける。

文は、遠くの山を見つめた。

 

「……私が山を離れた時には、まだあちこちで戦闘が続いていました」

 

「…………」

 

「はたてさん達が、今どこにいるのかも……」

 

そこで、言葉を止める。

 

「……無事だと、願いたいです」

 

……霊夢は何も言わなかった。

 

 

文の横顔を見つめる。

普段の彼女なら、もっと軽口を叩いているだろう。

新聞のネタが増えたと喜び、騒ぎの中心へ嬉々として飛び込んでいく。

しかし今は、そんな余裕など微塵もない。

故郷が攻撃されている。

仲間達の安否も分からない。

それでも助けを求めるため、一人で山を飛び出してきた。

 

(……まったく)

 

霊夢は小さく拳を握った。

 

(……本当に、なんてことしてくれたのよ)

 

脳裏に浮かぶのは、目撃者。

自分達の世界を『救済』するなどと宣いながら、異形の軍勢を送り込んでくる存在。

その目的が何なのか、今もよく分からない。

だが少なくとも、今この瞬間。

その配下によって、幻想郷の住人達が傷つけられている。

それだけは確かだった。

 

(……ふざけんじゃないわよ)

 

霊夢は唇を引き結んだ。

 

(……あたし達の幻想郷で、好き勝手やってくれちゃって……!)

 

その目に、鋭い光が宿る。

 

「……文、急ぐわよ」

 

「……はい!」

 

二人は、さらに速度を上げた。

 

――ヒュオオオオオッ!!

 

風を切り裂きながら、妖怪の山へと迫っていった。

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