東方天命録~The Final Shape Begins~ 作:はならむ
――妖怪の山へ向かう道中。
「…………」
霧雨魔理沙は、箒に跨りながら北の方角を見つめていた。
その眼下では、三台のスパローが青白い推進光を後方へ伸ばし、猛烈な速度で疾走している。
先頭にはクロウ。その後部座席には、出発前に妙な嫌な予感を覚え、ガーディアンから乗り換えた結果、見事にケイド。
少し後方にはイコラ。
そして最後尾には、先ほど巨大な岩へ正面衝突し、スパローごと爆散したばかりのガーディアンがいた。
もっとも、本人は既に蘇生されており、何事もなかったように新しいスパローを操縦している。
今度は、ちゃんと前を向いていた。
……少なくとも、今のところは。
しかし。
「…………!」
一行が妖怪の山へ近づくにつれ、魔理沙の顔から次第に余裕が消えていった。
山の中腹。
本来なら青々とした森林が広がっているはずの場所から、幾筋もの黒煙が立ち上っている。
しかも、一箇所や二箇所ではない。
麓から中腹、さらに山頂近くに至るまで、あちこちで赤々とした炎が燃え盛っていた。
――ドォォォォン!!
遠くの山肌で、再び巨大な爆発。
周囲の木々が吹き飛ばされ、炎が一気に広がっていく。
その光景に、魔理沙の顔が引きつった。
「……おいおい」
彼女は、思わず呟いた。
「……ほとんど焼け野原じゃねえか……!」
その声には、怒りと困惑が滲んでいた。
妖怪の山。
幻想郷でも屈指の強大な妖怪達が暮らす場所。
天狗や河童だけでなく、山頂付近には神奈子や諏訪子といった神々までいる。
そんな場所が、見知らぬ軍勢によってここまで荒らされている。
「……何なんだよ、あいつら……!」
魔理沙は箒の柄を強く握り締めた。
「……あいつら」
地上を走るクロウも、険しい表情を浮かべていた。
「やはり、別世界でもお構いなしか……!」
彼の視線の先には、巨大なカバルの航空機が浮かんでいた。
スレッシャー。
ハーベスター。
かつて何度となく交戦してきた、カバルの航空戦力。
それらが今、幻想郷の空を我が物顔で飛び回っている。
「……それがカバルさ」
後部座席のケイドが答えた。
普段の軽薄な調子は、今やすっかり影を潜めていた。
「連中は一度攻めると決めたら徹底的にやる。相手の事情なんざ知ったことじゃねえ」
遠くで、再び砲撃音が響く。
「何にしても、早く食い止めねえとな」
「ええ」
イコラも頷いた。
「しかも、今回の相手は影の軍団。目撃者の意図で動いている連中よ」
「……単なる侵略だけが目的じゃないかもしれない、ということか」
クロウが尋ねる。
「その可能性は高いわ」
イコラは表情を険しくした。
「何を企んでいるのかはまだ分からない。でも、あれほどの兵力を投入している以上、何らかの目的があるはずよ」
「……ったく」
ケイドが舌打ちした。
「死んでもなお、カバルとは腐れ縁か」
その時だった。
「……ん?」
魔理沙が顔を上げた。
北の空。
黒煙を背景に、二つの小さな影がこちらへ向かって飛んでくる。
赤と白の巫女装束。
そして、黒い翼。
「……おっ!」
魔理沙の表情が変わった。
「霊夢! 文!」
その声に、地上の一行も顔を上げた。
「二人とも!」
イコラが声を上げる。
「戻ってきたのね!」
――ヒュオオオオッ!!
霊夢と文が、猛烈な速度で接近してくる。
しかし。
二人の表情を確認した瞬間、魔理沙は笑顔を消した。
霊夢は険しい顔をしていた。
文に至っては、いつもの余裕がほとんど見られない。
「……おい」
魔理沙が声を掛ける。
「どうだった?」
「……話すことが多すぎるわ」
霊夢は、短く答えた。
「とにかく、一旦どこかに降りましょう」
◇
一行は、山の麓から少し離れた岩場へ移動した。
いくつもの巨大な岩が積み重なり、山側からの視線を遮っている。
霊夢と文が先に安全を確認し、残る一行も岩陰へ入った。
――シュンッ!
三台のスパローが、トランスマットによって収納される。
「……霊夢! 文!」
イコラが駆け寄った。
「二人とも無事でよかったわ!」
「……ええ」
霊夢は頷いた。
しかし、その表情は晴れない。
「……正直、危なかったけどね」
「……何?」
クロウが眉を寄せた。
魔理沙も箒から降りる。
「どんな状況だったんだ?」
霊夢は、遠くの山を振り返った。
「……とんでもないことになってるわ」
低い声だった。
「麓に入った瞬間、山の中に潜んでる連中や、空を飛んでる船から一斉に攻撃されたのよ」
「……スレッシャーか」
クロウが呟いた。
「……スレッシャー?」
文が首を傾げる。
クロウは、山の上空を指差した。
「君達を攻撃してきた、船体の下に砲塔を備えた戦闘艇だ」
「ああ!」
文が頷く。
「何発も爆発する弾を撃ってきた、あの船ですね!」
「そうだ。誘導ミサイルで地上や空中の敵を攻撃する」
クロウは続けた。
「それより大きな輸送船がハーベスターだ。あれは兵士や装備を戦場へ送り込む」
「……だから」
文が山の方角へ視線を向けた。
「倒しても倒しても、次々と敵が増えていたんですね……」
「ええ」
イコラが頷いた。
「航空戦力を止めない限り、地上の部隊を撃退しても増援が続く可能性があるわ」
「……それだけじゃないのよ」
霊夢が口を開いた。
「……ん?」
ケイドが顔を向ける。
霊夢は、自分の胸元を指差した。
「実はあたし、狙撃されかけたの」
「…………!」
クロウの表情が変わった。
「……何?」
「山の様子を見ていたら、突然ここに赤い光の点が当たったのよ」
「…………」
「最初は何だか分からなかったんだけど、嫌な予感がして……」
霊夢は、あの時の動きを再現するように上半身を反らした。
「こうやって避けた瞬間、目の前を凄い速さで弾が飛んでいったの」
「…………」
クロウは息を呑んだ。
それは、流れ弾などではなかった。
最初から霊夢を狙い、急所を撃ち抜こうとした攻撃だったのだ。
「……サイオンだな」
ケイドが低く呟いた。
「サイオン……」
霊夢が繰り返す。
「一つ目の細身の奴がいただろ?」
文も何かを思い出したように頷いた。
「確かにいました!大きな兵士達に混じって、妙に細い奴が!」
「ああ、そいつだ」
ケイドは答えた。
「恐らく、霊夢を撃ったのはサイオンの狙撃手だ」
「……気をつけてください」
そこへ、ガーディアンのゴーストが割って入った。
「サイオンは、ただ銃を撃つだけの兵士ではありません」
「……どういうこと?」
霊夢が尋ねる。
「彼らはサイキック能力を持っています」
「……サイキック?」
魔理沙も首を傾げた。
「何だ、それ?」
「超能力の一種です。念動力を用いた攻撃だけでなく、精神へ干渉する能力を持つ者もいます」
「……精神に?」
霊夢が眉を寄せる。
「はい」
ゴーストはシェルを回転させた。
「突然、強い頭痛や圧迫感を与え、判断力や身体の動きを妨害することもあります。全てのサイオンが同じ能力を使うわけではありませんが、十分に警戒してください」
「…………」
「そして狙撃手は、『ヘッドハンター』と呼ばれるカバル製のスナイパーライフルを使います」
「……スナイパーライフル」
霊夢が、その名前を繰り返した。
その瞬間。
数日前の光景が脳裏をよぎった。
紅魔館の庭園。
十六夜咲夜とガーディアンの模擬戦。
そこでガーディアンが使用した、長大な銃。
遠く離れた石像を、一発で粉々に破壊した武器。
「…………!」
霊夢は、思わず自分の胸元を見下ろした。
(……あれと同じ種類の武器……?)
もし、あの時避けていなかったら。
「……じゃあ」
文が、恐る恐る口を開いた。
「霊夢さんが、あの時咄嗟に避けていなかったら……」
「…………」
霊夢は、少しだけ唇を引き結んだ。
「……あたしの身体に、大穴が開いてたってこと?」
「……その可能性は十分あったな」
ケイドが答えた。
その声には、一切の冗談がなかった。
「…………」
霊夢は息を呑んだ。
数センチ。
本当に、それだけの差だった。
あの赤い点の正体を確かめようと、ほんの一瞬でも立ち止まっていたら。
「霊夢」
ケイドが声を掛けた。
「咲夜ちゃんと相棒の決闘、覚えてるよな?」
「……ええ」
霊夢は即答した。
「あれだけ散々、あんた達に説明されたんだもの。忘れるわけないでしょう」
「まあ、そうだったな」
ケイドが少しだけ笑った。
「じゃあ、相棒がどう戦っていたかも覚えてるな?」
「……当然よ」
霊夢は腕を組んだ。
「不用意に立ち止まらない。身を晒さない。遮蔽物を有効に使う」
「……それから?」
「一人で突っ込まない。仲間の位置を把握して、危なくなったら声を掛ける」
「よし!」
ケイドが頷いた。
「ちゃんと頭に入ってるじゃねえか!」
「……失礼ね」
霊夢は少しだけ眉を寄せた。
「それくらい覚えてるわよ」
魔理沙も頷いた。
「私だって覚えてるぜ」
そして、ガーディアンへ視線を向ける。
「あの時、咲夜のナイフを遮蔽物で避けたり、滑り込んで位置を変えたりしてただろ?」
「…………」
「お前らが言ってた、射線を切るってやつだ」
クロウが頷いた。
「そうだ」
魔理沙は続けた。
「それに、味方が撃ってる間に別の奴が移動するんだろ? 一人で全部やろうとしないでさ」
「……正解だ」
クロウは小さく笑った。
ケイドも満足そうに頷く。
「何だよ、ちゃんと聞いてたんじゃねえか!」
「当たり前だろ!」
魔理沙が笑った。
「あんな面白い決闘、忘れるわけないぜ!」
しかし、その笑顔はすぐに引き締まった。
「……たださ」
「ん?」
「あの時は、あくまで決闘だった」
彼女は山の方角を見た。
「今度は、本当に撃ち殺しにくる奴らが相手なんだよな」
「……そういうことだ」
ケイドが答えた。
霊夢も静かに頷いた。
(……確かに)
知識としては聞いていた。
咲夜とガーディアンの戦いを見ながら、ケイドやクロウから何度も説明された。
ファイアチーム。
互いの死角を補うこと。
攻撃する者と援護する者を分けること。
突出した仲間を放置しないこと。
そして、敵の攻撃を受けた時には、無理に踏みとどまらず、安全な位置へ退避すること。
頭では理解していた。
しかし、実際にカバルの集中砲火を受けて、ようやく分かった。
それらは単なる戦い方の工夫ではない。
――戦場で生き残るための方法なのだ。
「……あたし、あの時も思ったけど」
霊夢が小さく呟いた。
「咲夜との決闘で、あんた達があれだけ細かく説明してた理由が、ようやく身に染みたわ」
ケイドは軽く肩を竦めた。
「なら、あの時の解説も無駄じゃなかったってことだな」
「……ええ」
霊夢は頷いた。
「感謝してるわよ」
「おっ?」
ケイドが目を丸くした。
「今、霊夢が俺に感謝した?」
「……何よ」
「いやあ、こりゃ珍しい!」
「取り消すわよ?」
「ああ、悪い悪い」
ケイドが両手を上げた。
そのやり取りに、魔理沙とクロウが小さく笑った。
だが、イコラは表情を崩さなかった。
「……もう一つ、確認しておきましょう」
「……何?」
霊夢が顔を向ける。
「今回の戦場では、空中での行動は慎重にしてほしいの」
イコラは山の方角を指差した。
「地上のカバル兵、空中のスレッシャー、そしてハーベスター。複数方向から同時に狙われる可能性が高いわ」
「……さっき、嫌というほど思い知らされたわ」
霊夢がため息を吐いた。
文も苦笑する。
「私の速度でも、相手が何方向からも撃ってくると厄介でした」
「そうでしょうね」
イコラは頷いた。
「地上で遮蔽物を利用した方が安全な場面も多いはずよ」
すると、魔理沙が口を開いた。
「……でもさ」
「何?」
「あの船を、先に撃ち落としちゃ駄目なのか?」
魔理沙は箒を軽く持ち上げた。
「私の魔法なら、あんなもん一撃で――」
「……待って」
イコラが遮った。
「……何だよ?」
「撃ち落とした後のことを考えて」
「……後?」
「ええ」
イコラは、山の上空に浮かぶスレッシャーを指差した。
「仮にあれを撃墜できたとして、その船体はどこへ落ちるの?」
「…………」
魔理沙の言葉が止まった。
「炎上した巨大な船が森へ墜落したら?」
イコラは続けた。
「そこに、逃げ遅れた妖怪達がいたらどうするの?」
「…………」
「敵を倒せても、守ろうとしていた人達を巻き込んでしまっては意味がないでしょう?」
「……っ」
魔理沙は唇を引き結んだ。
確かに、その通りだった。
マスタースパークなら、スレッシャーを撃墜できるかもしれない。
しかし、その後のことまでは考えていなかった。
「……なるほどな」
小さく呟く。
「撃ち落としゃ終わりってわけじゃないのか……」
「ええ」
イコラは頷いた。
「あなた達の力なら、スレッシャーくらい十分対処できると思う」
そして。
「でも、二次被害も考えないと」
その声音が、少しだけ柔らかくなる。
「ここは、あなた達の世界なのよ」
「…………」
霊夢と文も、静かに耳を傾けていた。
「もし撃墜するなら、墜落地点を考えること。誰もいない場所へ誘導するか、船体を完全に破壊できる方法を選ぶか」
イコラは三人を見回した。
「ただし、何より優先するのはあなた達自身の安全よ」
「…………」
「無理だけは絶対にしないで。いいわね?」
霊夢は頷いた。
「……分かったわ」
魔理沙も箒を握り直す。
「ああ。気をつけるぜ」
文も真剣な顔だった。
「私も注意します」
「よし」
ケイドが頷いた。
「今回はなるべく俺達から離れるなよ」
彼はガーディアンとクロウへ視線を向けた。
「相棒、クロウ。三人の援護を頼むぜ」
「了解だ」
クロウが答える。
ガーディアンも無言で親指を立てた。
(`・ω・´)b
「俺も、できるだけカバーする」
ケイドは腰の切り札を軽く叩いた。
「まあ、今の俺はゴーストがいねえ。無茶はできないけどな」
「…………」
霊夢は、そんな彼らを見つめていた。
そして。
「……何だか、不思議な感じね」
「……ん?」
クロウが顔を向ける。
「何がだ?」
「いや……」
霊夢は少しだけ肩を竦めた。
「咲夜との決闘でファイアチームの話は散々聞いたけど、こうやって自分達もその一員として作戦に参加するってなると、何だか落ち着かないのよ」
「ああ……」
魔理沙も頷いた。
「分かるぜ」
彼女は笑った。
「咲夜の決闘を横で見てる時は、ああだこうだ言えてたけどさ」
そして、少しだけ真剣になる。
「実際に自分がその中に入ると、また違うもんだな」
「……なるほど」
クロウが穏やかに頷いた。
文も小さく苦笑した。
「私は、そこまで詳しく教わったわけではありませんけど……」
彼女は霊夢と魔理沙を見た。
「お二人がそこまで理解しているのなら、心強いですね」
「……まあね」
霊夢は小さく笑った。
「言っておくけど、あたし達だって相当修羅場を潜ってきてるんだから」
「そうだぜ!」
魔理沙も胸を張った。
「そこらの新米扱いするなよ!」
「ははっ!」
ケイドが笑った。
「分かってるって!」
そして、両手を広げる。
「何しろ、俺達新生ファイアチームの初出動だからな!」
「……ええ」
霊夢は頷いた。
今度は、その言葉に疑問を挟まなかった。
「しっかり連携していきましょう」
「おっ?」
ケイドが少し意外そうな顔をする。
「いいねえ、その調子!」
魔理沙もにやりと笑った。
「お互いの背中を守れ、だったな?」
「ああ」
クロウが答えた。
「それだけは忘れないでほしい」
そして、全員を見回す。
「私達は、必ず生きて帰るつもりで行くぞ」
「…………」
一同は静かに頷いた。
その時。
「……あと、一つ」
ケイドが声を低くした。
「最後に、お前らへ言っておきたいことがある」
霊夢達が顔を向ける。
「あの時、レッド・リージョンについての話もしただろ?」
「……ああ」
魔理沙が頷いた。
「お前らの世界の太陽を破壊しようとしたカバルの軍隊のことだろ?」
「そうだ」
ケイドは腕を組んだ。
「カバルには、敗北って文字がない」
魔理沙は目を細めた。
「…………つまり」
「奴らにとっては、勝つか死ぬか」
一拍置いて。
「その二択しかねえんだ」
霊夢達は黙った。
「ましてや今の相手は、目撃者に従う影の軍団だ」
ケイドの声音が、さらに低くなる。
「連中が何を命じられているのかは知らないが、死に物狂いで襲いかかってくることだけは間違いねえ」
そして。
「……だから」
三人を見回した。
「何があっても絶対にためらうな」
「…………」
「全力で殺れ。いいな」
重苦しい沈黙が流れた。
霊夢は唇を引き結んだ。
魔理沙も表情を険しくする。
文は、遠くの山を見つめていた。
そこでは今も、仲間達が命を懸けて戦っている。
「…………」
やがて。
「……分かったわ」
霊夢が答えた。
魔理沙も頷く。
「ああ」
文も静かに続けた。
「……私も、覚悟はできています」
ケイドは三人を見た。
そして。
「……よし」
小さく頷いた。
「それなら行こうぜ」
◇
一行は岩場を離れ、妖怪の山の麓へ向かった。
そこから先は、明らかに空気が違っていた。
焦げ臭い匂い。
遠くから響く爆発音。
時折、風に乗って流れてくる黒い煤。
山の斜面には、折れた木々や地面を深く抉った巨大な着弾跡が幾つも残されていた。
さらに上空では、カバルの戦闘艇が重苦しい機械音を響かせながら飛行している。
――ドォォォォン!!
中腹で、再び大きな爆発が起きた。
「……くそっ」
魔理沙が唇を噛む。
「本当に、酷い有様だな……」
霊夢も、山を見上げた。
(……早く何とかしないと)
天狗。
河童。
守矢神社の面々。
そこには、決して無関係ではない者達が大勢暮らしている。
いくら彼女達が強力な妖怪や神々であっても、あれほどの兵器を持ち込んだ軍隊を相手に、いつまでも耐えられるとは限らない。
「……行きましょう」
霊夢が声を掛けた。
しかし、その時だった。
――ガサッ。
「…………!」
クロウが足を止めた。
「……待て」
その声に、他の者達も動きを止める。
近くの木々。
その枝が、不自然に揺れていた。
――ガサガサッ!
何者かが、枝から枝へ飛び移っている。
非常に素早い。
だが、ガーディアン達が反応できないほどではなかった。
クロウが腰のホークムーンへ手を伸ばしかける。
その時。
「……待ってください!」
文が声を上げた。
「……あれは!」
次の瞬間。
――ヒュンッ!
木々の間から、一人の少女が飛び出した。
白い髪。
頭には犬を思わせる耳。
黒と白を基調とした服装に、赤い模様の入ったスカート、しかし火災の影響かあちこちが煤で汚れている。
右手には剣。
左手には、頑丈そうな盾。
――犬走椛。
妖怪の山を警備する、白狼天狗だった。
少女は軽やかに地面へ着地すると、一行の前へ立ちはだかった。