東方天命録~The Final Shape Begins~   作:はならむ

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第七話:幻想郷の住民達

ゴーストの説明が終わると、その場にはしばし静寂が訪れた。

幻想郷。

人間と妖怪が共に暮らす、外界から隔絶された世界。

一方で、ガーディアン達の故郷は、数百年にも及ぶ終わりなき戦争を生き抜いてきた世界。

あまりにも異なる二つの世界。

互いに言葉を失うのも無理はなかった。

やがて、その静寂を破ったのはケイドだった。

 

「幻想郷か、俺達の世界とは大間違いだ」

 

彼は辺りを見渡しながら、感嘆の息を漏らす。

風に揺れる木々。

澄み切った青空。

鳥のさえずりと、小川のせせらぎ。

そして、人間と妖怪が同じ空の下で暮らしているという、不思議な世界。

 

「まるで絵本の中にいるみたいだぜ」

 

その隣で、クロウも静かに頷いた。

 

「ああ……」

「誇張なしのおとぎ話の世界だ」

 

霊夢は首を傾げる。

 

「おとぎ話?」

「まあこの世界も人間には厳しい部分も多いけど」

「あなた達の世界には、こういう場所はないの?」

 

ケイドは少し寂しそうに空を見上げる。

 

「昔はあったのかもしれない」

「でも、俺達の知る時代には残っていない」

「あるのはどこもかしこも黄金時代の鉄屑と廃墟、そして敵の宇宙人だらけだ」

 

クロウも苦笑しながら肩を竦める。

 

「私達の世界は何世紀も前から戦争続きだった」

「こんな穏やかな景色を見るのは、本当に久しぶりだ。私の故郷、リーフの夢見る都市も似たような雰囲気だったが今では宿りに汚染されているからな」

 

霊夢も魔理沙も返す言葉が出なかった。

幻想郷では当たり前だった風景。

それが彼らにとっては、もう失われた夢のような景色なのだと知ったからだ。

 

 

――その時だった。

 

「霊夢~~!!」

 

神社奥の森の奥から女の子達の甲高い声が響く。

続いて、小さな三つの影が勢いよく飛び出してきた。

 

「無事だったぁ!」

 

「魔理沙さんもいる!」

 

真っ先に飛び込んできたのは、金髪の妖精――サニーミルク。

続いて栗みたいな口のルナチャイルド、腰まで伸ばしたさらさら黒髪のスターサファイアも駆け寄ってくる。

その後ろからは、狛犬の高麗野あうんと小柄な少女――少名針妙丸も姿を現した。

 

「サニー、スター、ルナ、あうん、それに針妙丸!」

 

霊夢が安堵したように声を上げる。

 

「皆、無事だったのね!」

 

「はい!」

 

あうんは深々と頭を下げる。

 

「急に空が割れたと思ったら、見たこともない怪物が現れて……」

 

「私達、みんなで隠れていたんです!」

 

サニーは涙目のまま霊夢に抱きついた

 

「怖かったよぉ~!」

 

「もう死ぬかと思った!」

 

ルナも胸を撫で下ろす

 

「でも霊夢さん達が戻ってきてよかった……」

 

スターだけは落ち着いた様子で、霊夢の後ろに立つ四人へ視線を向けた。

 

「ねえ……その人達は?」

 

針妙丸も不思議そうに首を傾げる。

 

「ずいぶん変わった格好だけど……幻想郷の人じゃないよね?」

 

全員の視線が、ガーディアン達へ集まる。

蛍光色の装甲に身を包んだウォーロック。

青い肌のアウォークン。

機械の身体を持つエクソ。

そして、宙に浮かぶ奇妙な機械。

幻想郷では見たこともない存在ばかりだった。

霊夢は苦笑う。

 

「ああ、この人達は外来人……というより、別世界から来た人達よ」

 

「別世界!?」

 

五人の声が綺麗に重なった。

 

「じゃあ、外の世界から来たんだ!」

 

一方のクロウ、ケイド、ゴーストは信じられないような顔で言葉を失っていた。

 

「…………」

 

しばしの沈黙。やがてケイドが、感心したように口を開く。

 

「……おいおい」

「本物の妖精じゃねぇか……!」

 

その声には、驚きと感嘆が入り混じっていた。

クロウも目を見開いたまま、小さく呟く。

 

「私も伝承の中だけの存在だと思っていたが……」

「実際に見るのは初めてだ……」

 

ゴーストも頷く。

 

「ほ、本当におとぎ話の世界ですね…………っ」

 

彼らの視線は、今度は針妙丸へ向けられる。

あまりにも小さな少女。

掌に乗ってしまいそうなほどの体躯。

 

クロウは思わず霊夢へ尋ねた。

 

「……あの子は?」

 

魔理沙が笑って答える。

 

「針妙丸だ」

「小人の一族だぜ」

 

「…………小人?」

 

クロウは思わず聞き返した。

「つまり、本当に小人族がいるということか」

「そうよ」

 

霊夢は当然のように頷いた。

 

「何をそんなに驚いてるの?」

 

ケイドは苦笑しながら肩をすくめる。

 

「いや」

「俺達の世界にも色んな種族はいるさ」

「四本腕のフォールンもいれば、二メートルを超えるカバルもいる」

「だけどよ――」

 

彼はサニー達三人を見つめる。

風に乗って楽しそうに飛び回る、小さな妖精達。

まるで童話の一場面だった。

 

「こんな絵本に出てくるような妖精は初めて見たぞ」

 

クロウも静かに頷く。

 

「私達の世界にも、不思議な存在は数多くいるが――」

「こんなに穏やかな存在を見るのは初めてだ」

 

その時だった。

サニーがケイドの目の前まで飛んでくる。

 

「ねぇねぇ!」

「あなた、体が機械なの?」

 

ケイドは自分の腕を軽く叩き、得意げに笑った。

 

「そうとも。俺はケイド6だ」

「イケてるだろ?」

 

「すごーい!」

 

サニーは目を輝かせる。そしてルナも恐る恐る近付く。

 

「痛くないの……?」

「痛いさ」

「でも、もう慣れた」

 

ケイドは軽く笑って答えた。スターは今度はクロウをじっと見つめる。

 

「顔が青いし目が光ってる……」

「人間じゃないの?」

 

クロウは困ったように微笑んだ。

 

「私はアウォークン」

「人間とは少し違う種族だ」

「クロウだ。よろしく」

 

するとあうんはクロウに対して、

 

「あなた、凄く悲しい目をしてる」

 

「え……?」

 

クロウは思わず拍子抜けする。

 

「けど凄く優しそう」

 

と、彼女からそう言われて複雑な顔をする彼に、無言で見るケイド――。

 

ゴーストもふわりと前へ出た。

 

「私はゴースト。そしてこちらが私のパートナー、ガーディアンです」

 

その瞬間。サニーの目が輝いた。

 

「わぁーーっ!」

「目玉が飛んでる!!」

「わ、私は……目玉ではありません」

 

ゴーストは即座に否定した。

 

「私はゴーストです」

「しゃべったーー!」

 

サニーはさらに目を丸くする。ルナも驚いたように身を乗り出した。

 

「妖精なの?」

 

「違います」

 

「式神?」

 

「違います」

 

「使い魔?」

 

「それも違います。どう説明すればいいのやら……」

 

矢継ぎ早の質問に、ゴーストは律儀に答えていく中、ガーディアンも黙ったまま、三妖精達を見つめる。

 

「…………」

 

だが、その視線を受けたサニー達は、どこか落ち着かない様子だった。

 

サニーは霊夢の後ろへ半歩隠れる。

 

「……ねぇ霊夢」

「この人、本当に大丈夫?」

 

ルナも小さく頷く。

 

「なんか……怖い」

 

スターだけは冷静に観察していたが、それでも警戒を解く様子はない。

針妙丸もガーディアンを見上げ、小さく息を呑んだ。

 

「大きい……」

 

その様子を見たガーディアンは、静かに首を傾げる。

 

「?」

 

ゴーストは主人の視線を見て、小さくため息をついた。

 

「……またですか」

 

ガーディアンは小さく頷く。

 

そして、おもむろに一歩前へ出た。

霊夢が首を傾げる。

 

「何する気?」

 

次の瞬間だった。

どこからともなく陽気な音楽が流れ始める。

 

「え?」

 

魔理沙が目を丸くする。いきなりガーディアンは軽快なリズムに合わせ、突然踊り始めた。

 

腰を左右に振り、

軽やかなステップを踏み、

くるりと一回転。

両手を大きく広げると、そのままテンポよく体を揺らしていく。

最後は片手を高く掲げ、 ぴたり、と動きが止まる。

 

 

 

 

神社に静寂が流れた。

 

 

 「…………」

 

 「…………」

 

ケイドが耐えきれず吹き出した。

 

「ぶっ……!」

「ははははは!」

「やっぱり始めやがった!」

 

クロウは額に手を当て、苦笑する。

 

「……まあ、やるだろうなとは思った」

 

その静寂を破ったのは、サニーだった。

 

「ぷっ……!」

「なにそれぇ!」

「変なのー!」

 

ルナも思わず笑い出す。

 

「ふふっ……」

「面白い……」

 

スターも口元を押さえながら微笑んだ。

 

「あんな踊り、初めて見た」

 

あうんは楽しそうに拍手を送り、針妙丸も小さな手をぱちぱちと叩く。

 

「すごーい!」

 

ガーディアンは満足そうに頷く。

  

サニーは目を輝かせながら近付いてきた。

 

「ねぇ!」

「もう一回やって!」

 

ガーディアンは一瞬だけケイドを見る。ケイドは笑いながら親指を立てた。

 

「いいぞ!」

「アンコールだ!」

 

ガーディアンは再び軽快なリズムに合わせて踊り始める。

今度は少し激しく。

腕を振り回し、

大きく一回転し、

最後は勢いよくジャンプ。

着地と同時に、ビシッとポーズを決める。

 

「きゃははははは!」

 

彼女達の笑い声が、博麗神社いっぱいに響き渡る。

先ほどまでの警戒心は、もうどこにもなかった。

霊夢はその様子を見て、小さく肩をすくめる。

 

「……まあ」

「仲良くなれたならそれでいいか」

 

ゴーストも頷く。

 

「彼は昔から、子供と打ち解けるのだけは得意なんです」

 

ケイドは腕組みしてガーディアンに視線を向ける。

 

「だろ?」

「戦場じゃ無茶苦茶強ぇのに、それ以外じゃ子供と遊んでる方が似合うんだよ。しかもこんなバカみたいな見た目でな」

 

ガーディアンは何も言わない。

ただ照れ隠しのように、もう一度だけ静かに親指を立てた。

 

霊夢と魔理沙も苦笑いしつつも、

 

「ホント、こんな奇抜な見た目からは想像できないくらい陽気な人ね……」

 

「しかも全然喋らずに全て身体で表現するのは本当に珍しいタイプだな……まあ悪い奴ではないのは確かだぜ」

 

「そうね……」

 

そんな中、ゴーストが静かに口を開いた。

 

「……さて」

「これからどうしましょうか」

 

ガーディアンは腕を組み、小さく頷く。

ゴーストは続けた。

 

「私達はこの幻想郷について何も知りません」

「地理も、人々のことも、この世界の常識も」

「早く二人を探さなければなりませんが下手に目立つ行動を取れば彼女、八雲紫にすかさず目をつけられるでしょう」

 

ケイドは肩を竦める。

 

「まあ、現状は霊夢、魔理沙を頼って情報集めってとこか」

 

クロウも辺りを見回した。

 

「そうだな。一刻も早く司令官とイコラの行方も探さなければならないが」

「この世界を知らない以上、慎重に動くべきだ」

 

そう話し合っているその時だった。

 

「霊夢ーっ!」

「魔理沙ー!」

 

神社へ続く石段の方から、聞き慣れた声が響く。

霊夢と魔理沙が同時に振り向く。

 

「二人とも大丈夫か!?」

 

石段を駆け上がってきたのは、一人の銀髪の長身の青年と一人の金髪の少女だった。

 

青年は森近霖之助。

 

少女はアリス・マーガトロイド。

 

どちらも魔法の森に住み、魔理沙とは古くから親交のある二人である。

 

霖之助は外の世界の道具を扱う古道具店「香霖堂」の店主であり、アリスは七色の人形を自在に操る魔法使いだ。

 

「アリス!」

「霖之助さん!」

 

二人は霊夢達のもとへ駆け寄る。

しかし、境内へ足を踏み入れた瞬間、その足を止めた。

爆発で抉れた地面。

半壊した拝殿。

辺りに散乱する瓦礫。

博麗神社は、見るも無惨な姿へ変わり果てていた。

霖之助は眼鏡を押し上げながら、呆然と呟く。

 

「霊夢……魔理沙……」

「これは、一体……」

 

アリスも辺りを見回し、困惑した表情を浮かべた。

 

「……神社が酷いことになってるけど」

「何があったの?」

 

霊夢は苦笑いを浮かべながら頭を掻く。

 

「まあ……色々あってね」

「それより、二人はどうしたの?」

 

霖之助は我に返ったように頷いた。

 

「ああ。実は君達に伝えたいことがあって来たんだ!」

 

そう言って視線を上げた彼は、初めて霊夢達の後ろに立つ三人の外来人へ目を向ける。

 

「ところで……彼らは一体誰だい?」

 

魔理沙は笑いながら親指で三人を示した。

 

「こいつらは外来人でさ、ついさっき出会ったばかりなんだ」

「でも悪い奴らじゃないから安心していいぜ」

 

アリスは黙ったまま、ガーディアン達へ視線を向ける。

蛍光色の装甲を身に纏った謎の男。

そして青い肌の男性。

そして、その隣に立つ機械の身体を持つ男。

アリスは思わず目を細める。

 

「……」

 

その視線は、自然とケイドへ吸い寄せられていた。

金属でできた顔。

露出した機械の関節。

しかし、その仕草も立ち姿も、人間と何ら変わらない。

不思議そうに首を傾げる。

 

「あなた……」

「人形、じゃないわよね?」

 

ケイドはにやりと笑った。

 

「残念、人形じゃない。ちゃんと生きてる」

「俺はエクソだ」

 

「エクソ……?」

 

聞き慣れない言葉に、アリスは小さく呟く。

 

「どうしたお嬢ちゃん、俺が怖いのか?」

 

「………………」

 

「なあに心配するな、俺は何もしないよ。もっとも、危害を与えない限りはな――」

 

「ケイド、もうやめておけ」

 

クロウが割って入り、彼は「はいはい」と踵を返す。

 

一方、その隣では霖之助が眼鏡の奥の瞳を輝かせていた。

 

「これは驚いた……」

 

思わず一歩、また一歩とケイドへ近づく。

 

まるで珍しい外来品を鑑定するかのように、その身体をじっと見つめる。

 

「全身が金属でできている……」

「それなのに、動きは人間そのもの」

「いや……」

「それ以上に滑らかだ」

 

霖之助は感嘆の息を漏らす。

 

「素晴らしい」

「こんな技術が存在するなんて……」

 

ケイドは苦笑しながら肩をすくめた。

 

「おいおい」

「そんなに見つめられると照れるじゃねぇか」

 

霖之助は我に返ったように咳払いをした。

 

「す、すみません!」

「つい興味が勝ってしまって」

 

「気にするな、興味を持つことはいいことだ」

 

するとゴーストが静かに説明を加える。

 

「エクソは人類が生み出した機械の身体です」

「彼らにも心があり、私達と同じように生きています」

 

アリスはなおもケイドを見つめていた。

 

「人形でも、自動人形でもない……」

「本当に、生きているのね」

 

「ああ」

「しかも結構いい男だろ?」

 

クロウは間髪入れずにため息をつく。

 

「またか……」

 

魔理沙は吹き出した。

 

「ははっ! 自分で言うか普通!」

 

霊夢も呆れたように肩を落とす。

 

「この人、本当に調子いいわね……」

 

「ああ、自信ってのは大事だからな」

   

「…………」 

 

アリスは小さく目を細める。敵意は感じない。

しかし、だからといってすぐ信用できるほど甘くもない。

 

一方、その隣に立つ霖之助は違った。

 

「凄い、本当に興味深い……!」

 

その一言を聞いた瞬間、彼の目は子供のように輝き始める。

珍しい外来品を見つけた時と全く同じ表情だった。

ガーディアンの装甲。

ケイドの機械の身体。

宙に浮かぶゴースト。

そのすべてが、霖之助の知的好奇心を強く刺激していた。

 

一方、ケイドは霖之助の姿を上から下まで眺めると、感心したように口笛を吹いた。

 

「ほぉ……あんた、なかなかの色男じゃねぇか」

 

霖之助は思わず目を瞬かせる。

 

「……え?」

 

ケイドは不敵に笑う。

 

「まあ、俺には負けるがな」

 

その場に一瞬、沈黙が流れる。クロウは深々とため息をついた。

 

「ケイド……お前」

「初対面で何を言っているんだ?」

 

魔理沙は腹を抱えて笑い出した。

 

「アハハ、なんだこいつ!」

 

霊夢も呆れたように額へ手を当てる。

 

「会って間もないのに自分の方が格好いいって言う人、初めて見たわ……」

 

ケイドは悪びれる様子もなく肩を竦める。

 

「だが事実だろ?」

 

ゴーストは小さくため息をつく。

 

「なお、本人の自己評価です」

「……」

 

霖之助は苦笑しながら眼鏡を押し上げた。

 

「君は随分と自信家なんだね」

 

「そりゃあハンターは自信がなきゃ務まらないんだ」

 

クロウは再びため息をつく。

 

「ケイド、少しは謙虚で接しろ。お前、いつか悪い意味で勘違いされかねんぞ」

 

「おいおい、俺から自信と軽口を取ったら何が残るんだ?そんなのただのエクソじゃねえか」

 

そんな二人のやり取りを見ながら、霖之助はふとガーディアンへ視線を移した。

蛍光色の装甲。

見たこともない銃器。

そして宙に浮かぶ奇妙な機械。

彼の瞳は、先ほどまでとは違う意味で輝いていた。

 

「いやあ……本当に興味深い」

「その装備も武器も、この機械も……」

「外の世界の品ですらない」

「君達は何者なんだい?」

 

宙に浮かぶ機械――ゴーストが一歩前へ出る。

 

「失礼しました」

「まだ自己紹介が済んでいませんでしたね」

 

ゴーストは穏やかな口調で続けた。

 

「私はゴースト。そして、こちらが私のパートナー、ガーディアンです」

 

ガーディアンは静かに片手を上げる。

 

「彼は少々無口なので、私が代わりに話します」

 

続いて、ゴーストは隣の二人へ視線を向けた。

 

「こちらはケイド6。ケイドと呼ばれています」

「そしてクロウです」

 

「クロウだ、よろしく頼む」

 

ケイドは腕組みをして不敵な笑みを浮かべる。

 

「困ったことがあれば遠慮なく頼ってくれ」

 

霖之助は少し驚いたように目を丸くする。

 

「ありがとうございます」

「その言葉だけでも心強いですよ」

 

ケイドは満足そうに頷いた。

 

「ま、俺は逃げるけどな」

 

一瞬、場が静まり返る。

 

「…………」

 

クロウは額に手を当て、大きくため息をついた。

 

「ケイド……だからそういうのはやめてくれ」

 

魔理沙は思わず吹き出す。

 

「なんだそりゃ!」

 

霊夢も呆れたように肩を落とした。

 

「助ける気あるの?」

 

ケイドは悪びれる様子もなく笑う。

 

「冗談だ、冗談」

 

「逃げるのは一番危険な役目を引き受ける時だけさ」

 

するとゴーストは。

 

「……結局、最後は誰より前に飛び出すんですよ」

 

ケイドは照れ隠しのように肩をすくめた。

 

「おいおい、余計なこと言うな」

 

すると魔理沙が一歩前へ出た。

 

「あたしが三人に紹介するよ。二人はアリスと霖之助」

「二人とも私と同じ魔法の森に住んでるんだ」

 

アリスは静かに会釈する。

 

「……アリス・マーガトロイドよ」

 

短く名乗ると、警戒を解かないままガーディアン達を見つめた。

続いて霖之助も穏やかな笑みを浮かべる。

 

「僕は森近霖之助です」

「魔法の森の入口で『香霖堂』という道具店を営んでいます」

「魔理沙とは、彼女が幼い頃からの馴染みなんですよ」

 

そう言って霖之助はガーディアン達の装備へ何度も目を向ける。

見たこともない銃器。

機械の身体。

そして、宙へ浮かぶゴースト。

眼鏡の奥の瞳が、みるみる輝いていく。

 

「実は僕、外の世界には昔から興味がありましてね」

「もしよろしければ、皆さんの世界の話を聞かせてもらえませんか?」

 

ケイドは思わず口元を緩める。

 

「酒を出してくれるなら、いくらでも付き合うぜ。あと……ラーメンもあれば尚更いいがな」

 

「本当かい!」

 

霖之助の表情がぱっと明るくなる。

 

「ぜひお願いしたい!ラーメン……は良くわからないけど酒なら出せるよ」

 

「なら、付き合うよ」

 

その様子を見たクロウは少し渋い顔をする。

 

「ケイド、私達の世界のことを教えても彼は混乱するだけだろ。それに一刻も早く司令官達を探すことが先決じゃないのか?」

 

ケイドは肩をすくめる。

 

「いいじゃないか」

「話をするくらい減るもんじゃない。お前は固すぎだぞ」

 

そう言って霖之助を見やる。

 

「それに、この色男が話を聞きたいって言うなら、いくらでも付き合うさ。酒も出してくれるなら喜んで応えるさ」

 

霖之助は苦笑しながら眼鏡を押し上げた。

 

「はは……ありがとうございます」

 

ガーディアンはその様子を見ながら、親指を立てる。

 

「彼も賛成だそうです」

 

「なら決まりだな」

 

クロウはため息をつく。

 

「ところでさ」

 

霊夢はふと思い出したように二人へ視線を向けた。

 

「そういえば二人とも、どうしてここに来たの?」

 

魔理沙も首を傾げる。

 

「何か伝えたいことがあるって言ってたよな」

 

その一言に、アリスは「あっ」というように目を見開いた。

 

「……そうだった」

「そのことを伝えに来たの」

 

その場の空気が少しだけ引き締まる。

アリスは静かに口を開いた。

 

「魔法の森の奥で、大きな音がしたわ」

「……爆発みたいな」

 

短く、それだけ告げる。

 

「爆発?」

 

魔理沙が眉をひそめる。アリスは小さく頷き、それ以上は語らなかった。

 

代わりに霖之助が口を開く。

 

「正確には、何かが墜落したような音だった」

「地面まで揺れるほどの凄まじい轟音だったよ」

「ただ事じゃないと思ってね」

「異変かもしれないと考えて霊夢へ知らせに向かう途中、ちょうどアリスと合流したんだ。そしたら神社から凄い音がするものだから――」

 

その話を聞いた瞬間だった。ゴーストが息を呑む。

 

「……何かが墜落したような音?」

「まさか……」

 

ケイドの表情から笑みが消える。

 

「イコラかザヴァラじゃないか?」

 

クロウも真剣な表情で頷く。

 

「あの二人が私達とは別の場所へ飛ばされても不思議ではない」

「なら、急がなければ」

 

ゴーストは霊夢へ向き直る。

 

「可能性は非常に高いですね。」

「その場所まで案内していただけますか?」

 

霊夢は腕を組み、小さく息を吐いた。

 

「……仕方ないわね。もし異変なら放っておくわけにもいかないし」

 

お祓い棒を肩へ担ぐ。

 

「私が案内するわ」

 

魔理沙も箒を肩に担ぎ、にやりと笑う。

 

「ならあたしも行くぜ」

「そのあんた達って奴らにも会ってみたいしな」

 

ケイドは帽子のつばを軽く押さえ、不敵な笑みを浮かべた。

 

「よし。仲間探し、再開だ」

 

「では、出発しましょう。霊夢、魔理沙、お願いします」

 

ガーディアンは静かに頷く。ゴーストも静かに応える。

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