俺、美少女になる(声だけ) 作:タルトタタン
「んんっ……んっ?あれ?」
起きた時、喉に違和感を感じた。最初は気のせいかとも思ったが、繰り返す度にそれは確信に繋がる。うーん、やっぱり。
「姿はそのまま。声だけが美少女になってるんだが」
例えるなら、洋画の吹き替えみたいになってる。いや巫山戯るなよ。何故?どうして?何の為に?おっさんのCVが美少女とか普通に考えておかしい。
「ってか会社。今日仕事じゃねえか!」
ド平日だし、ウチの会社には祝日や祭日なんて存在しないので基本的に出勤しなければならない。が、この声で出社するのか?
「いや、絶対ふざけてるって思われるよな」
かと言って、電話をしたとしても同じだ。なので同僚にメールをして体調不良で休む事を伝えて何とかその場を乗り切った。にしても……。
「今日はそれで良いけど、明日は?と言うかそもそもどうしてこうなった」
結局そこに戻るが、いくら考えたところで何も分かる筈も無い。心当たりなんて無いのだから、考えるだけ無駄だ。にしても話は変わるが。
「声は良いな。声は」
とても社会の波に揉まれてくたびれた中年の声帯から出てる物とは思えないぐらい明るい年端も無い若い女の子の声がする。異常過ぎるだろ。
「会社辞めて声優学校にでも通ってこの原石でも磨こうか」
そんな血迷った独り言を呟きながら、これから先の事をぼんやりと考えてみる。だが、もしこの声がこのまま戻らないのならそれを視野に入れる事もありなのかもしれない。最近流行りの……いや、最早異世界転生モノと同じぐらい定番になったVtuberになってみるのも良いかもしれない。もしデビューするとなると元おじさん系Vtuberになるのかな?
結局、その日はうだうだして時間を過ごし早めの晩酌兼夕飯を飲み込んで寝た。
★★★★★★★★★★★
「……ハロー二日目の俺」
色々な意味で二日目の俺は、明るい声に頭を痛めながらベッドから重い腰を持ち上げた。さぁ、どうしようか?
「配信でもやってみるかな」
今流行りのゲームをやれば誰か見てくれるだろ。それで俺の声について第三者からの意見を聞いて、これからどうするかを考えるのも悪く無い筈だ。なんか全部後回しにしてる気がするが気にしない。
と言う事で、流行りのゲームを調べたところ。今は、'さっさと忍べ"と言うゲームが流行っているらしい。簡単に言えば隠れん坊らしく、隠れる側と探す側の忍者に別れ。隠れる側は、忍者らしくステージのオブジェクトに擬態して身を隠し。鬼側は擬態を見抜いて全員見つける事でクリア。逆に見つからなかったら隠れる側がクリアとなる。
如何にも配信向けっぽいなと思いながら、俺は配信を開始した。
「あ、あーテステス」
始めたばっかりで、当然同時接続者は零のままだ。そりゃあ、そうだと思いながら、とりあえず適当に雑談をしながらゲームを購入しプレイする。
「誰も見てないのに喋り続けるって、世の中の配信者さん達は凄い事をしてるんだなぁ」
たった五分だけでも心が折れそうになりながら、俺はそう思う。かと言って、数万人とかに見られながら配信をするのも大変そうだし、どちらが良いんだろうなぁと思いながら、すぐにバレて鬼とチェイスを繰り広げる事になった。
「真っ直ぐ!行け行け〜」
あ、駄目か。結局捕まってしまったが、その後も何戦かやり一時間ぐらいの配信となった。肝心要なコメントはと言うと。
「うん、誹謗中傷とかは無いな」
兎に角、暫く配信を続けて様子をみようと思う。案外このゲームは楽しいし、続けられそうな気がする。